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2022-09-27
前編では、既存のメタバース空間へのビジネス参入・活用(メタバースビジネス)にあたって押さえておくべき規制の動向を紹介しました。後編では、メタバース空間を活用するにあたって考えられる規制以外の身近なリスクと、企業内で整備しておくべきルールを考えます。
メタバースへの参入は、自社サービスのファンによるコミュニティを形成する機会になります。無人で運用されるようなものなら別ですが、顧客との重要な接点と考える企業は少なくないでしょう。これまでSNSで自社のアカウントを開設してフォロワーとコミュニケーションを行ってきたように、専任の担当者を設け、空間を訪れるユーザーとの双方向のコミュニケーションを実現することで、生の声を吸い上げる貴重な機会として活用できる可能性があるからです。
コミュニティ運営で注意しなければいけないのは、デジタル空間における炎上の社会的影響力や破壊力が年々、拡大してきている点です。自社製品やサービスのユーザーによるSNSへの投稿がきっかけで閉店せざるを得なくなったり、関係者が辞任に追い込まれたりといったケースが多々見受けられる昨今です。アバターによる双方向のコミュニケーションが可能なメタバースであれば、SNSでハッシュタグで行ってきたデモの代わりに、多数の仲間と一緒にメタバース空間内でデモ行進することが可能です。参加者のモチベーションが高まりやすく、かつメディアからの注目もより集まりやすくなります。
留意すべき点は、上記のような行動を起こすのは、自社製品やサービスのユーザーに限らないということです。企業のレピュテーション低下のみならず、自らの知名度向上のためにあえて炎上を引き起こすユーザーがいることも十分に考えられます。
ソリューションの一つとして、複数のメタバース間でユーザーのIDとクレジットスコアを共有することが構想されています。クレジットスコアとは「信用」を定量化したもので、メタバース空間の規約に違反したらスコアは悪くなり、規約に則ってメタバース空間を正しく活用していればスコアはよくなります。炎上を引き起こすユーザーをあらかじめ複数のメタバース間で共有することで、リスクを抑制し、発生した場合もユーザーを速やかに退出させるといった方法で、さらなる悪化を食い止めることができるのです。
こうした情報がメタバースプラットフォームを活用してビジネスを展開する企業に共有されるようになれば、各企業が予防と早期対処を行うことができるようになりますが、言動の監視につながりかねないため、まずはプラットフォーマーによる慎重な対応・運用が求められるところです。各企業においては、メタバース空間における望ましい立ち居振る舞いや炎上時の対応法などをまとめた従業員向けガイドラインを整備しておくことが、現時点では、リスクを最小化する上で効果的なアクションと考えられます。
図1:リスク管理のためのアクションの例
メタバースの運用にあたっては、従業員管理の面でも留意すべき点があります。それは、「メタバース空間ではデザインや容姿に責任が生じる」ということです。
メタバース空間では建物やオフィスを自由にデザインすることができますし、ユーザーは誰でも好きな容姿のアバターになることができます。ただし、メタバースをビジネスで活用する以上、サービス提供者でもどんな姿・ファッションも可能であるという自由は、容姿を選択した瞬間に責任が生じることをも意味します。例えばアパレルショップや自動車のショールームを運営する場合、そこで働く従業員全てが同じ見た目の男性だったらどう感じるでしょうか。中には「この企業は、この肌の色や年代の男性を特別視している」と差別意識を感じるユーザーもいるかもしれません。人種や年齢、性別すら自由に選べるからこそ、その選択が批判の材料にされないよう、企業はあらかじめポリシーをまとめておく必要があります。
建物やオフィスの形状も同様です。物理的な制限から開放される代わりに、そのデザインがユーザーからどう見られる可能性があるのか、あらかじめ責任を負わなければならないのです。
メタバースは新しい事業であるため、新しく想像力を発揮しやすい組織形態が向いていると主張する声が聞かれます。その際に引き合いに出されるのがホラクラシー組織です。ホラクラシー組織はサークル型組織とも言うことができ、スタッフ全員が意思決定権を持って、与えられた役割を果たす、ヒエラルキー型とは一線を画した体系です。個々が権限を持っているので意思決定を迅速に行うことができ、事業の展開をスピーディーに進められる点は、変化が激しいテクノロジー活用の分野において大いに効果を発揮するかもしれません。
ただ、業種や企業規模、現行の管理体制、競合の動向など、各企業が置かれている環境によって、最適な意思決定の在り方は異なります。もちろんメタバースビジネスに乗り遅れるべきではありません。しかしながら、参入・活用を本格的に検討するにあたっては、ビジネストレンドをもとにした組織体系をむやみに取り入れるのではなく、既存の組織体系で進めるメリットとデメリットを吟味した上で、変化に迅速かつ柔軟に対応できる体制を整えることが何より大切です。