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2022-09-21
メタバースは企業にとって大きなビジネスチャンスであり、さまざまな事業形態での参入が可能です。自社の資源を有効に活用すれば、大きな成果を挙げられるかもしれません。しかし、最善に期待すると同時に、最悪に備えておくことは全ての基本です。今回は、既存のメタバース空間へのビジネス参入・活用(メタバースビジネス)にあたって押さえておくべき規制や、考えておくべきガバナンス体制の在り方を取り上げます。
まず、最初に認識しておかなければならないのは、メタバースはまだ黎明期であるということです。「メタバース」という言葉が連日のように報道され、あたかもあらゆる企業が参入しているような錯覚を抱くかもしれませんが、その言葉の広まりに比べるとユーザーもビジネスもまだそれほどの規模には達していないのが実情です。メタバースのプラットフォーム事業者(プラットフォーマー)ですら事業全体で見た時のメタバースビジネスの売上はまだわずかです。メタバースビジネスを検討・推進する側の企業であればなおさらでしょう。メタバースはまだ黎明期にあり、実験的なPRやビジネス機会の模索、先行者利益の確保、投資など限られた目的である場合がほとんどです。これまでのインサイトでも述べてきた通り、自社が参入する目的や撤退基準を常に明確にしておきましょう。
また黎明期ゆえ、整備されきっていない規制や法律といったリスクや管理上の課題も想定されます。順に見ていきましょう。
メタバースに関する規制には国際標準や政府などによる法規制、メタバースのプラットフォーマーによる規約など、いくつかのレベルがあります。
メタバースの相互運用性を高めるため、2022年6月にMetaverse Standards Forumが設立され、プラットフォーマーを中心にメタバースの主要プレイヤーが結集しました。メタバースの構築と運用には通信やデータ形式など、さまざまな規格が関係してきます。異なるメタバース空間でも同じアセットを利用可能にするといった、メタバースの国際標準化を推進するために発足しました。
さまざまな規格が共通化され、多くのメタバースで採用されるようになれば、メタバースに参入する企業にとっては複数のメタバース空間を活用したビジネスが一層しやすくなり、オペレーションも効率化できます。標準化の動向は、メタバース参入にあたって企業がことさら意識しておくべきことの一つと言えます。
各国政府が整備するメタバースや暗号通貨、非代替性トークン(NFT)に関する法規制にも着目する必要があります。
NFTなどブロックチェーンベースの資産の開発・販売は、証券法や銀行法などの従来の金融規制の対象となる可能性があります。取り扱う企業も認可や登録が求められ、必要に応じてあるいは定期的な報告を行うことが必要になるかもしれません。ほとんどのメタバース空間はユーザーを特定の国に限定していないので、海外との金融取引として扱われます。事業を行う企業の管理コストや体制は法規制によって大きく変わりますので、その動向からは目が離せません。また、メタバースで利用されるデジタルアセットはマネーローンダリングに使われるリスクがあるとの指摘があり、これを予防するための法律が制定される可能性もあるでしょう。
メタバースではすでに、知的財産権に関する紛争が多く発生しています。音楽アルバムや映画の脚本、ブランドバッグなどをNFT付きでデジタルアートとして販売した企業や個人が、商標権侵害で提訴されるといった内容が主なケースです。
メタバース空間での知的財産権の保証範囲の解釈は定まっておらず、各国の対応もまちまちです。自社でデジタルアセットを取り扱う場合には、それが無断で複製されたり、または期せずして他社の権利を侵害してしまったりすることが十分に考えられます。少なくとも自国の最新の規制や過去の訴訟事例などを頭に入れ、利用規約の整備をはじめ安心してサービスを提供できる体制を整えていく必要があります。
例えばメタバース空間でウェアラブルデバイスを利用したサービスを提供する場合、そこには個々のユーザーの莫大な量の情報が蓄積されることになります。既存のSNSがデータ保護規制の対象になっていますので、メタバースについても個人情報の扱いは厳格になる可能性が高いと考えられます。
メタバース空間ではアバターという「肉体」があるため、現実世界と同様の犯罪行為が起こる可能性があります。実際にメタバース空間内での痴漢行為やいじめが発生しており、メタバースプラットフォーマーは誰もが安心して利用できる空間作りに向けて、対策を迫られています(現状、ユーザーやアバターのデータがどの国の司法権に属することになるのかはまだ不透明)。
また、メタバース空間でギャンブルをはじめ、多額の賞金や商品を得られるゲームを提供する場合、各国の既存の法律の規制対象になる可能性があります。仮にそうしたサービスを、意図的ではないにせよ青少年に提供したらどうなるでしょうか。メタバースのユーザーが少ないうちは、ジャーナリストや法執行機関の関係者などがメタバースを実際に利用する機会も多くないと考えられ、そのためプラットフォーマーもサービス提供企業も第三者も気付かないうちに、深刻な法令違反が進むリスクがあるのです。こうした事態が露見することで、プラットフォーマーやサービス提供企業のブランドは毀損し、社会的責任を問われる可能性すらあります。
メタバース空間でビジネスを展開する企業に最も直接的な影響を与えかねないのが、メタバースプラットフォーマーが用意している規約です。
例えば、メタバース空間上でのデジタルアセットの扱いは利用規約に記載されている場合がほとんどです。中には、必要に応じて土地などのデジタルアセットを没収することが可能とする利用規約もあります。不正への加担といった理由で土地を没収された場合、メタバースビジネスは存続することができなくなってしまいます。
上記はメタバースビジネスを展開する企業に過失があった場合の例ですが、中には収益の減少といったプラットフォーマー側の事情で利用料金体系や運用方針が変わる場合もあるでしょう。当然ながら、プラットフォームを利用する企業の収益をも左右し、時には致命的な損失を被ることも十分に考えられます。大きなリスクを背負わず、変化にすぐに対応できるようフットワークの軽い社内体制を今から構築しておくべきでしょう。