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2026年7月厚生労働省は、これまで「新たな地域医療構想」として議論されてきた内容を「地域医療構想ガイドライン」として公表しました。今回のガイドラインでは、従来の地域医療構想が「医療計画の一部」という位置づけから医療提供体制の方向性を示す上位概念へと見直され、その実現に向けた実行計画として医療計画を策定する考え方が示されています。
今後、日本では少子高齢化や生産年齢人口の減少がさらに進み、2040年にかけて医療需要の変化や人材不足への対応が大きな課題となります。そのため、今後策定される地域医療構想には、2040年の医療提供体制を支える具体的かつ実行可能なマスタープランとしての役割が求められます。
本稿では、新たな地域医療構想の概要を整理した上で、構想の策定・実行に向けて各関係者に求められる役割や、今後備えておくべきポイントについて考察します。
2025年以降、団塊の世代が後期高齢者となり、さらに2040年に向けて高齢化が一層進展することが見込まれています。一方で、生産年齢人口は減少を続け、医療従事者の確保はこれまで以上に困難になります。
また、地域ごとに医療需要の構造も変化します。人口減少が進む地域では急性期医療の需要が縮小する一方で、高齢者救急や在宅医療、慢性期・回復期医療などの需要は増加すると予想されています。そのため限られた医療資源で地域の医療ニーズに対応するためには、従来以上に地域全体を俯瞰した医療提供体制の構築が求められています。
※ 将来人口推計や医療需要の変化については、過去コラム(これからの病院経営を考える 第25回)をご参照ください。
がんをはじめとする外科手術や脳卒中、急性心疾患、多発性外傷等の高度救急、高リスク分娩や新生児医療などは、高度な専門人材や設備を要する医療であり、各医療機関が個別に提供し続けることには限界があります。人口減少や医療人材不足が進む中、こうした質の高い医療を維持するためには、症例数や医療資源を一定の拠点に集約し、診療機能の高度化・効率化を図ることが不可欠となります。
一方で、高齢化に伴い、転倒外傷や誤嚥性肺炎、尿路感染症といった高齢者に多い疾患は今後さらに増加することが見込まれます。こうした患者に対しては、地域包括ケアシステムとして地域を面で支え、急性期医療から回復期医療、在宅医療までを切れ間なく包括的に提供できる体制の構築が重要となります。
このような背景から、従来の地域医療構想が「病床機能」に着目し、急性期病床から回復期病床への転換を主なテーマとしていたのに対し、新たな地域医療構想では「医療機関機能」を議論の中心に据えています。地域の中で各病院が担うべき役割を明確化し、その役割分担について関係者間で合意形成を図りながら、持続可能な地域医療提供体制の実現に向けた道筋を示すことが、新たな地域医療構想の目的とされています。
地域医療構想の検討は、まずその単位となる「構想区域」の設定から始まります。これまで急性医療を担う拠点病院の成立に必要な症例数を確保できる人口規模を20万人以上と考え、その規模を下回る地域では構想区域の統合が進められてきました。現在、人口減少に伴ってすでに構想区域の半数近くが20万人以下となっており、新たな地域医療構想においても、2040年の人口推計を踏まえた構想区域の見直しが求められています。
地域医療構想調整会議は、都道府県単位と構想区域単位の2つの単位で設定されます。今回のガイドラインの特徴は、個々の医療機関や市町村等の利害関係を踏まえた困難な議論を着実に進行するため、地域医療構想調整会議において関係者に期待される役割が明確化された点です。
特に都道府県については、従来のように客観的な情報提供や議論の場を整える役割にとどまらず、関係者間の調整や説得を主体的に行い、議論を着地させるリーダーシップが求められることとなりました。また、踏み込んだ記載の一つとして、場合によっては従来医局や講座単位で行われていた大学医局の医師派遣機能を、より全体最適に資する観点から大学病院本院に集約する方向性も示されています。各関係者に求められる役割と備えについては第3章で詳しく見ていきます。
新たな地域医療構想では、従来の「病床機能」に加え、前述のとおり医療機関ごとの機能を「医療機関機能」として明確化することが求められています。
医療機関機能は「高齢者救急・地域急性期機能」「急性期拠点機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」「医育および広域診療機能」の5分類が示されています。これにより、地域ごとに必要な医療機能を見極めた上で、各病院が担う役割を明確にし、連携・再編・集約化に向けた議論を進めることが想定されています。
地域において一定以上の規模を持つ急性期病院にとって関心事となるのは「急性期拠点機能」に指定されるかどうか、という点ではないでしょうか。2026年度の診療報酬改定において急性期病院A・B一般入院料が新設されました。現時点では全身麻酔手術件数や救急車の受入件数などの要件を満たしていれば届け出が可能ですが、本来的には今回のガイドラインにおける「急性期拠点機能」を意図した入院料となっているため、今後の当該入院料を維持するためには名実ともに「急性期拠点機能」であることが求められる可能性があります。その上で、今回のガイドラインにおいては「急性期拠点機能」について、人口が多い地域では、今後単に全身麻酔手術件数や救急件数が多いからと言って急性期拠点機能とはならず、一定の総合性が求められることや、人口が少ない地域では一定の実績を備えていたとしても、地域で相対的により大きい急性期拠点機能がある場合には集約を検討するなど、厳格に選別が進むことが記載されています。
また病床機能に関する特筆すべき点として、従来の「回復期機能」については、従来の機能に「高齢者等の急性期患者について、治療と入院早期からのリハビリテーション等を行い、早期の在宅復帰を目的とした治し支える医療を提供する機能」を加え「包括期機能」として再整理されました。2024年度に新設された地域包括医療病棟や一部の地域包括ケア病棟では、これまでも実質的に急性期機能と重なる医療が行われてきましたが、今回のガイドラインにおいて、「包括期機能」には急性期患者への治療を含むことが明記されました(図表1)。
図表1:医療機関機能分類概要
2040年の医療需要を推計するにあたり、人口推計だけで将来需要を見込むのではなく、入院受療率の変化や医療DXの推進など施策ごとの効果をロジックモデルとして組み込み、それらの影響も踏まえて将来の医療需要や必要病床数を算出する考え方が示されています(図表2)。
また、受療行動の変化を踏まえた具体的な推計手法として以下が盛り込まれています。
こうした見直しにより、地域に必要な医療機能や病床機能をより実態に即して検討することが可能となります。
図表2:2040年に向けた地域医療構想ガイドライン
今回のガイドラインでは、都道府県、大学病院、公立・公的病院、民間病院などそれぞれの関係者に対して、従来以上に明確な役割が求められています(図表3)。特に2040年に向けて限られた医療資源を有効に活用するためには、各主体が自らの機能を見直すだけではなく、地域全体の医療提供体制を見直す上でどのような役割を担うべきかを確認し、必要な準備を進めることが重要となります。
都道府県は、新たな地域医療構想の策定・推進主体として、地域医療構想調整会議の運営や各医療機関の取り組み支援を担う中核的な存在です。医療機関や市町村、介護関係者など多様な関係者を巻き込みながら、地域全体として目指すべき医療提供体制の姿を描き、議論を前進させる役割が求められます。今回のガイドラインでは、急性期拠点病院の選定にあたる協議の場を設定するだけでなく、仮に関係者間の協議が調わない場合には最終的な決定を行う主体とされており、最終的な決定・説得までが求められています。また、介護保険事業計画との整合を図るための庁内連携や、市町村への支援、さらには都道府県境を越えた広域連携なども重要な役割となります。加えて、都道府県立病院についても、地域内で競合するのではなく、不足する機能を補完する視点からその役割を検討していくことが求められます。
こうした役割を果たすためには、医療機関や自治体との高度な調整を担うことができる専門人材や推進組織の整備が不可欠です。また、将来推計や現状分析だけでなく、合意形成や実行支援まで担うことのできる外部専門家の活用も有効な選択肢となるでしょう。
大学病院には、医師養成・人材育成の中核として地域医療提供体制を支える役割が求められます。加えて今回のガイドラインでは、医師派遣機能を医局や講座単位ではなく大学病院本院に集約することが盛り込まれています。また医療機関機能としては、基本的には地域の実情に応じた医育および広域診療機能が求められることとなりますが、地域によっては急性期拠点機能も併せて備え、地域医療を担う必要があることが明記されています。
これらの役割に備えて、医師派遣情報の一元管理や組織的な人材マネジメント体制の構築に加え、近隣大学病院との役割分担や、都道府県と連携した機能分担方針の共有・調整を進めることが重要です。
公立・公的病院は、救急医療、へき地医療、周産期医療、小児医療、感染症医療など、地域に不可欠な政策医療・不採算医療を支える役割を担っています。新たな地域医療構想においても、こうした役割を維持しながら、地域全体の医療提供体制の構築・維持に向けて、連携・再編・集約化の取り組みに主体的に参画することが求められています。特に人口減少や医療人材不足が進む地域では、病床数の適正化や地域の需要に合わせた機能の見直しを含め、地域全体の最適化に向けた判断が重要となります。
そのためには、自院の現状と将来見通しを客観的に分析し、地域において求められながらも不足する機能は何か、持続可能な機能や経営形態がどのようなものかを見極め、機能転換等に早期に着手することが重要です。また、再編や機能転換に伴う不安を軽減するため、地域住民や職員に対する丁寧な情報発信と、中長期的な視点に立った計画策定も求められます。
民間病院には、地域の医療提供体制の中で不足する機能を柔軟に補完する役割が期待されます。特に2040年に向けて需要の増加が見込まれる高齢者救急については、医療機関機能にかかわらず地域医療を支える重要な担い手となります。地域によっては、公立・公的病院を補完する役割も期待されます。
そのため、自院の診療実績や経営状況、地域における役割を客観的に把握し、従来の機能を維持することにこだわるのではなく、持続可能な機能を見極め、必要な機能転換に早期に着手することが重要です。また、高齢者救急への対応力向上に加え、在宅医療や介護との連携機能を強化し、地域包括ケアシステムの中での役割を明確にしていく必要があります。
さらに、建て替えや設備投資を見据えた資金計画の策定の他、必要に応じて連携・統合・グループ化も選択肢として検討することが求められます。公立・公的病院を補完する役割が期待される地域では、自治体との一層の連携強化や不採算医療の負担のあり方についても協議していくことが重要となるでしょう。
図表3:各関係者に求められる役割と備え
このように、今回のガイドラインではこれまで以上に踏み込んだ記述が多く、地域医療構想の策定主体となり、調整会議をリードする役割を担う都道府県の実務は非常に難易度が高いものとなります。円滑な進行にあたって特に重要と考えられる実務上の論点として以下3点を挙げます。
検討にあたっては、客観的なデータに基づく現状把握を協議の土台とすることが不可欠です。ガイドラインで示された手法を踏まえて、専門家やアカデミアの支援を受けながら、可能な限り蓋然性の高い医療需要を推計する基盤を早期に構築することが求められます。
連携・再編・集約化を進めるためには、関係者や地域住民の理解醸成が重要となります。急性期から包括期への転換は、「急性期医療の縮小」や「医療水準の低下」と受け取られやすいため、それぞれの機能が実際にどのような医療を提供するのかを分かりやすく伝えることが求められます。また、再編・統合に伴うアクセスの変化や職員への影響が生じる場合には、その施策が地域医療を維持するために必要かつ合理的な選択であることを、客観的な根拠や透明性の高い意思決定プロセスを通じて示していく必要があります。
地域医療構想の実現にあたっては、地域特性を踏まえた柔軟な対応も欠かせません。特に人口減少地域では、さらなる集約化によって救命救急医療へのアクセスが困難になるなど、地域住民にとって許容しがたい影響が生じる可能性があります。このような地域では一律の基準を適用するのではなく、地域の実情を踏まえた検討が必要となります。また、こうした課題は医療提供体制だけでは解決が難しいため、自治体には交通政策やまちづくりも含めた政策横断的な調整が求められます。
新たな地域医療構想ガイドラインにより、今後の議論の枠組みや進行の手法が示されました。一方で、その実現は今後の議論と合意形成にかかっていると言えます。
都道府県による粘り強い調整と合意形成、大学病院による人材供給と広域的視点での役割発揮、公立・公的病院による再編・集約化への主体的な参画、民間病院の柔軟な機能転換や連携、さらには在宅医療や介護の受け皿整備など、それぞれの関係者が期待される役割を果たすことが不可欠です。また、その前提として、個々の医療機関や自治体の利害を超え、地域全体の持続可能性を見据えた議論が求められます。近年の診療報酬改定を踏まえると、高齢者救急など地域の需要に柔軟に対応することへのインセンティブが強く働いており、個々の医療機関にとっても、今後の安定的な経営には、従来の機能を維持することにこだわらず、地域医療にいかに貢献するかという視点を持つことが重要となります。
新たな地域医療構想は、単なる病院再編の議論ではなく、2040年の地域医療をどのように守り、支えていくかを示す将来像であり、その実現に向けた道筋を定めるものでもあります。本稿が、それぞれの立場で今後の議論や準備を進める際の一助となれば幸いです。
厚生労働省『地域医療構想策定ガイドライン』(2026年7月)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001718620.pdf
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