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健診センターには、他の医療サービスと比べて収支構造・業務プロセス・顧客(受診者および健保・企業など)との関係性などに特徴的な事業特性が存在します。たとえば固定費比率が高く、稼働率が収支を大きく左右する一方で、繁閑の季節変動、当日キャンセルのリスクへの対処が必要です。また健保や企業などの所属事業者(以下「所属事業者」)ごとに異なる受診資格の確認など予約・受付にまつわる条件分岐や健診結果の授受など、契約条件のバリエーションも多く、受診前後の事務作業が複雑になりやすい構造があります。
本稿では、健診センターにおいて受診者の利便性向上とスタッフの省力化を同時に実現し、受診者やスタッフから「選ばれる健診センター」となるためのDXの方向性と具体的なアプローチを整理したうえで、早期に手応えを得る実装の勘所をご紹介します。
健診センターのDXを考えるうえで、まずは健診センターの事業特性を正しく理解する必要があります。
健診センターでは病院と比較して材料費・薬剤費などの変動費が低い一方、人件費や減価償却費などの固定費が大きく、売上が収支に直結するため、健康診断(以下「健診」)の稼働率が重要なKPIとなります。また、自由診療であることから、高単価な人間ドックを一定規模で高稼働させることができれば、医療のサービスの中では利益を確保しやすく、投資余力を生みやすい事業であると言えます。
雇用者による従業員への健診実施が義務付けられており、所属事業者と健診センターとの契約に基づいた受診が大半を占めます。生産年齢人口が主に市場を構成するため、少子高齢化の影響を受けますが、従業員の健康管理に関する所属事業者の意識の高まりから健診受診率が経年的に向上しており、結果として市場規模は維持される見通しです。また、対象となる健診センターは限られるものの、海外からの医療ツーリズム需要も存在し、厚生労働省にて地域の医療・観光資源を活用した外国人受入れ推進のための調査・実証事業が行われています。*1
図表1:生産年齢人口の推移と健診受診率*2
予約方法・資格確認・結果授受の手段は所属事業者ごとに異なり、小規模な所属事業者などでは紙媒体によるやりとりも多く残っています。また近年では福利厚生代行サービスなど代行機関経由の予約も増え、代行機関のシステムへの対応なども必要となります。
またこれらの顧客は、その特性から繁閑の季節変動を生みます。具体的には、予約解禁後に申し込みが集中する、人事異動などを踏まえてスケジュールが確定しづらい春季の稼働が低下する、12月までの受診を義務付ける所属事業者が多く夏から年末にかけてピークが発生するなど、繁忙期と閑散期が明確に分かれることも特徴といえます。
病院と異なり、特定の医師などとの既往を踏まえた関係性構築の機会が乏しい、基本的には年1回の受診となるため、「通いやすさ」はあまり重視されないなどの理由から、囲い込みが難しく流動性が高い点も留意すべき点です。
過疎地域においては専門の健診センターが存在せず、病院の統廃合などで法定健診の受け皿が不足する事態も起こっていますが、都市部では規模の多寡を問わず多数の健診センターや、健診サービスを併設で行っている病院・クリニックが存在し、競争環境は激しいといえます。
代行機関を利用する場合を含め、施設健診においては所属事業者が契約する多数の健診センターから、受診者自身が自由に受診機関を選ぶことができることが多いため、所属事業者または代行機関に選ばれて契約施設となることに加えて、受診者に選ばれる施設となる必要があります。
図表2:所属事業者および受診者に選ばれるための要素
所属事業者に選ばれるための要素 |
受診者に選ばれるための要素 |
など |
など |
前述のとおり健診センターは固定費率の高い労働集約型のビジネスであり、人材確保は重要な経営課題となります。病院と比較して夜勤や休日勤務がないなどの労働条件から有利な要素もありますが、少子高齢化や人口減少を背景とした人材不足に向き合う必要があり、業務の省力化と、安全かつ無駄の少ない、スタッフから「選ばれる健診センター」になることが求められます。
これらの事業特性を踏まえた健診センターの経営課題は以下のようにまとめられます。
上述した健診センターの経営課題を解決する1つの方法がDXの推進です。健診センターのDXでまず重要なのは、受診者マイページを中核とした接点基盤の構築です。受診者マイページとは、自身の健診結果の閲覧や健診センターとのコミュニケーションをとる際の窓口となるウェブサイトやアプリのことを指します。ここに予約・事前問診・受診案内・結果閲覧・フォローアップなどのサービスを段階的に統合します。同時に、健診の機関システムとの親和性を最優先に、紙や個別ツールなどで分断されてきた情報をシステム上で集約させることが肝要です。その際のポイントは次の3つです。
健診センターは一般的に以下の業務フローで進行します。このフローに合わせて全体に一貫性のある、受診者マイページの設計・実装を行うことが必要となります。業務フローにあわせたソリューションの実装例をご紹介します。
図表3:業務フローにあわせたソリューションの実装例
健診センターのDXと病院のDXには共通点もありますが、その事業特性の違いから、相違点も存在します。
スタッフ負荷軽減と患者・受診者の利便性向上を両輪に、予約・問診・受付のデジタル化と自動化を進めるアプローチが共通点です。一方病院のDXでは、その業務の複雑さや専門性から、業務ごとに個別に特化したシステムが開発・製品化される傾向にある一方、健診センターのDXでは所属事業者などとの契約条件と受診者の所属や健保組合などの資格確認の複雑さにいかに対応するかが重要な課題となります。したがって、個別機能の専門性追求よりも、基幹健診システムと顧客管理基盤の統合、および所属事業者ごとに異なる運用の多様性を吸収する設計や、全体を通してスムーズな受診者体験を実現する設計が成果を左右します。
健診に関わらずDX施策にはどのように投資効果(ROI)を生むかという観点が重要となります。健診センターのDXは稼働率が収支に直結するため、短期的にはアクセスの向上や情報の集約化、業務の効率化による受診者増によって収益増に寄与することを第一に、中長期的にコスト削減を目指すことが望ましいと考えられます。
図表4:ROIの設計例
短期(3~12か月) |
中期(6~18か月) |
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上記を測るKPI例:
チャネル別予約数、当日キャンセル率、ウェブ問診回答率、受付処理時間、紙使用枚数削減率、オプション追加率、新規顧客獲得数、既存顧客離反率
健診センターでは、従来年1回の健診受診やその二次検査、生活指導が主たる受診者接点でしたが、今後、健診結果に基づいた継続的な生活改善支援や、オンライン診療・健康増進サービスなどを提供する「ヘルスケアパートナー」となるポテンシャルを秘めています。健診センターでDXを推進するにあたって、これを実現する基盤である受診者マイページを構築し、受診者と継続的な関係性を構築することは、その第一歩であり、健診センターでDXを推進する際の重要なポイントといえます。
少子高齢化が進む中、健診センターの業務も変革の必要に直面しています。健診センターのDXはそれにより受診者やスタッフから選ばれる健診センターとなるだけでなく、健診センターの役割を拡張する可能性を持っています。健診センターでのDXに取り組まれるにあたり、本稿が参考となれば幸いです。
*1:総務省「令和4年版 労働経済の分析 ―労働者の主体的なキャリア形成への支援を通じた労働移動の促進―」、厚生労働省「国民生活基盤調査(各年度)」よりPwC作成
*2:厚生労働省「地域の医療・観光資源を活用した外国人受入れ推進のための調査・実証事業 令和6年度事業結果の概要」
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