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2025年12月、金融庁より公表された「地域金融力強化プラン」では、人口減少・少子高齢化が進行する中、地域金融機関は幅広い金融仲介機能を発揮しながら地域経済に貢献する力、いわば「地域金融力」の担い手としての役割が明文化されました。併せて地域金融におけるDXは業務効率化にとどまらず、地域金融力を最大化するためのエンジンとして位置づけられています。
今後、地域に根差す金融機関をはじめさまざまなプレイヤーはいかに連携を進め、DXを推進し、地域活性化に貢献していくべきか。「地域金融力×DX」をテーマに、日下企業経営相談所 日下 智晴氏、ちゅうぎんフィナンシャルグループ 白神 賢治氏、Cキューブ・コンサルティング 西原 立氏、PwCコンサルティング 青柳 雄一の4名が語り合いました。
登場者
日下企業経営相談所
代表 日下 智晴氏
ちゅうぎんフィナンシャルグループ
中国銀行 執行役員人事部長
白神 賢治氏
株式会社Cキューブ・コンサルティング
代表取締役 西原 立氏
PwCコンサルティング合同会社
金融サービス事業部 執行役員 パートナー
青柳 雄一
(左から)日下智晴氏、白神賢治氏、西原立氏、青柳雄一
青柳:
今回は「地域金融力×DX」をテーマに意見を交換できればと思います。PwCコンサルティングでは、大企業などにおける成功事例をもとに、近年、地方銀行のDX支援をはじめとするコンサルティングサービスの提供に加え、複雑な地域の課題解決もターゲットにエコシステムの形成などをリードしています。
私自身も「地域×金融」の活動に注力する中、2025年12月には金融庁より「地域金融力強化プラン」が発表され、地域金融機関に対して地域の課題解決と価値創造の中核を担う存在への変革が求められるようになっていることを実感しています。
地方創生や地域金融におけるDXに精通されている立場として、「地域金融力強化プラン」に対する受け止め方、お考え、現在進行形の取り組みなどについてお聞かせください。
PwCコンサルティング 金融サービス事業部 執行役員 パートナー 青柳 雄一
日下:
私は地方銀行で31年間、勤務した後、2015年11月に金融庁に転職しました。その際の理由の一つが、地方において人口減少が深刻化する中、地方こそが日本における「課題解決のフロンティア」になるという認識でした。
金融庁では初代地域金融企画室長として、47都道府県をめぐり、地域金融のみならず産官学関係者とも交流しながら、地域課題解決と地域金融の変革を後押しすることに従事し、金融庁退官後も地域活性と全国各地でのネットワークづくりを推進しています。
地方が消滅するという概念が提唱されてから10年以上が経過しましたが、「地域金融力強化プラン」についてはもっと早く着手すべき事案であったと思います。
ようやく地方こそが「日本の将来を左右するところ」として認識され、地域金融機関がその中心的な役割を担っていく時代が到来したと捉えています。
地方創生は抱える課題をいかに内外の資産・資源で解決するかが重要なポイントであり、各地域ならではの知恵や工夫が求められます。地域金融機関には地域のステークホルダーと共にエコシステムを形成し、地域金融にしかなしえない役割を発揮していただきたいと期待しています。
日下企業経営相談所 代表 日下 智晴氏
白神:
ちゅうぎんフィナンシャルグループ(以下、ちゅうぎんFG)は、岡山に本店を置く広域経済圏を営業基盤とする地銀グループであり、「地域社会・お客さま・従業員と分かち合える豊かな未来を共創する」を経営ビジョンとし、地域の課題解決をより促進するために、2022年10月、持株会社体制へ移行しました。
その狙いは、「業務軸の拡大」「経営資源の適正配分」「グループガバナンスの進化」の3つにあります。私自身は、事業領域の拡大を担う新規事業開発センターのセンター長、その後、DXを推進するイノベーション推進センター長に就任し、コンサルティング業務を担うCキューブ・コンサルティング(以下、Cキューブ)をはじめ、数社の立ち上げやDX戦略の立案、実行に関与してきました。
その後はイノベーション推進部長として、「地域金融力」の最大化、地域への新たな価値創出に向けて、新規事業やDX推進に取り組んできました。
ちゅうぎんフィナンシャルグループ 中国銀行 執行役員人事部長 白神 賢治氏
西原:
私は前職のPwCコンサルティングにて、主に金融機関のコンサルティング活動に従事する中、2015年に農林水産省がスタートしたAIなどを使ったスマート農業のプロジェクトに参画したのを契機にデジタルと地域の課題に取り組むようになりました。
2019年に白神さんとの出会いを経て、自身の出身地である岡山に縁をいただき、「地域×デジタル」を軸足にDX支援を中心に据えて、地域共創のための活動に注力しています。
「地域金融力」の定義を今一度深掘りすると、日下さんがおっしゃる通り、地域にはさまざまな課題がある一方で、自然資本を含む独自の資産・資本を活用することで大きな希望が見いだせると感じます。「地域には希望がある」というのが根底にある基本的な信念であり、その実現に向けて欠かせないドライバーが「地域金融力」だと捉えています。
地域資本は自然資本や財務資本など大きく7つに分けられますが、その中でも地域をつなぐエコシステムを形成していくうえで、共通する重要な資本が「デジタル資本」でしょう。その観点でも、自治体や金融機関ごとに閉じたアプリをつくるのではなく、すべてがつながっていくようなデジタル基盤上の「社会関係資本」をどう作っていくかが問われていくのではないでしょうか。
また、一般的なROE(自己資本利益率)のような財務資本だけのリターンを目的とするのではなく、すべての地域資本に基づく経済活動としての結果のROEを地域全体に還元していくことが、これから求められる地域金融力の本質でしょう。
そこで地域金融機関に求められるのが、つながりの根底にある社会関係資本のような役割であり、その実現に向けて課題はまだまだ多いと捉えています。
株式会社Cキューブ・コンサルティング 代表取締役 西原 立氏
青柳:
全国の地域金融においても、ちゅうぎんFGのような事業軸拡大に向けた取り組みが加速しているのでしょうか。
日下:
間違いなく、ここ10年で多くの地銀が地域の課題と自らの使命を自覚し、非金融分野での取り組みの重要性についても認識が高まっている印象を持っています。
そのためのデジタル化についても積極的な取り組みが見られるものの、1997年以降の金融危機の際に統合をくり返したメガバンクと比較すると、リソースを含めて大きな溝があります。日本における金融業界の問題として、都市部と地方という軸に加え、メガバンクと地域金融とのギャップも解決すべき大きな課題と捉えています。
青柳:
ちゅうぎんFGとして、より深く非金融分野に踏み出した具体的な経緯と取り組み、ロードマップについてさらに深掘りさせてください。
白神:
事業軸の拡大に向け、持株会社体制への移行に併せてCキューブを設立したのは2022年9月のことでした。これは、今までにない地域コンサルティング会社の実現に向けたチャレンジだったと捉えています。
同社には、現在、大手コンサルティングファーム出身者を中心に専門人材が在籍していますが、メンバーの大半は地方出身者であり、地域に対して大きくコミットしているのが特長です。
専門人材の獲得に向けては、首都圏に集中しがちな専門人材を呼び寄せるため、従来の地銀では実現できなかったテレワーク前提での業務やコンサルティング会社に近い人事制度の導入などに踏み込みました。今後も、幅広い分野で専門人材の獲得に向け、取り組みを強化していく予定です。
また、CキューブはクライアントのDX実現に向けて伴走型でサポートを実践すると共に、ちゅうぎんFGのDX支援を行っています。つまり外部へのコンサルティング活動を通じ、その知見を銀行に輸入する「出島」のような役割も担っています。
スピード感を持ったDX実現に向け、①DXのコンサルティングはCキューブに任せる、②AIを含むデジタル人材育成や新たなテクノロジーの研究開発は、ちゅうぎんFGで行うなど、グループ全体で最適化を図りつつ、最終的には、ちゅうぎんFG最大の資産である「人財」がより輝ける存在になることを目標に取り組みを進めています。
青柳:
実際にCキューブを率いて約4年を経て、西原さんの実感として、DX支援の成果はどの程度広がりを見せているとお考えですか。
西原:
DX支援においては確実に成果が出始めている一方、先端的なAI活用などについては啓蒙活動の余地はまだまだあると考えています。
その観点から、地方ならではのデジタル活用を考えてみると、実は自然資本はデジタルと相性が良いです。例えば、生物多様性のような測定が難しい領域も、スマートフォンで生物を撮影すると、その画像でAIが種を特定し、位置情報と紐づけることで自然資本のデータを蓄積、インデックス化できるようなテクノロジーも実用化されています。つまり、自然資本にデジタルを加えることにより流動性の高い経済価値化の芽が生まれます。
地域独自の資本の価値を経済価値に転換できるようなAIの実装については、地銀としてもさらに踏み込み、全方位で戦略的にAIの活用を進めていくことがますます重要になってくるものと考えています。
先行事例では、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)もデジタルとの親和性が非常に高く、人手不足が進む地域では導入も進んでいます。あるいは、都心部に拠点を置く企業のシステム開発の一部を、リスキリングを通じて高度なデジタルスキルを身に付けた地方人材に委託するようなアプローチは、地域間・男女間の賃金格差を埋めるという観点でも重要になってくるでしょう。
白神:
AIの先端的な活用も含め、ちゅうぎんFGでは大手企業とも連携し、経済的インパクトの最大化に向けたスキーム構築を進めています。地域と首都圏との違いを埋めながら、うまく連携し、一つのプラットフォームのような形にできるかがポイントだと考えています。
西原:
地域DXを推進するうえで最も重視すべきは、業務オペレーションの改善そのものではなく、最終的なトップライン、すなわち売上の向上であることを見誤ってはなりません。トップラインを伸ばすうえで、デジタルの力でいかに地域の成長を実現するかが「地域金融力」を進化させるうえの一丁目一番地だと思います。
青柳:
ちゅうぎんFGのように、デジタルを活用した首都圏と地域の連携も全国的に進んでいるのでしょうか。
日下:
少しずつ広がってきています。デジタルのメリットは、時と空間を超える力があること。だからこそ、地域ごとの特性や資本にデジタルやテクノロジーを掛け合わせることで、地方でも十分に活躍できる可能性があると私は確信しています。実際、PwCコンサルティングのような、グローバルネットワークを持つ企業が「地方×金融」に注力し、Cキューブのような最前線での取り組みも進んでおり、地方が注目される時代が徐々に到来しつつあることを実感しています。
さらに、地域のエコシステムを形成する産学官金(地域企業、アカデミア、行政、金融)においては、地方行政をはじめ、いかにトランスフォームできるかもポイントでしょう。それに対して地銀が役割を果たすことができれば大きな力となり、スピード感も変わってくると思います。
青柳:
課題が多い地域にも必ず希望はあるという力強い示唆をいただきました。最後に、今後の展望と地域金融力強化および地域活性に向けた課題について、お聞かせください。
日下:
地方創生に向けては、地域独自のさまざまな切り口があると思いますが、共通して言えるのは「自然資本」をいかに大事に保全し、活用していくかです。今後、人間自体がデバイス化していくような時代にあって、自然に触れ合える地方が、その利点を生かし、人と自然の調和にどのようにアプローチしていくのかが問われていくのではないかと考えています。
白神:
地域の課題解決を、連携や協業を前提とした取り組みとして着実に形にし、そうした実践が全国展開できるようになれば、地域発で日本を変えられるのではないでしょうか。私たちも、さまざまなプレイヤーと協業しながら新しい価値創出に挑戦していきたいというのが今の目標です。
西原:
今後の展望としては、まずは仲間を増やしていきたいと考えています。私たちが掲げる「岡山モデル」のような壮大な社会実証に参加してくださる方々と全国規模で連携を進め、地域による・地域のための・地域のノウハウを共有したい。地域の課題を地域で解決し、それを地域で共有し発展していくような成果が生まれてくれば、都市部にも日本経済にも、さらには世界のサステナビリティにも還元されるものと捉えています。
その観点からも、私が白神さんに出会って岡山に拠点を移したように、すべての起点は出会いにあるというのが私の持論です。ひなが卵の殻を破る時、内外からの力が必要なように(啐啄同時)、変革も内部の渇望と外部での刺激的な出会いが大事であり、常に求め続けることでチャンスは必ず生まれると思います。
青柳:
私自身、約10年前に日下さんのお話をうかがい、「地域×金融」というテーマに触れる機会を得ました。当時得たさまざまな示唆や気付きが現在の取り組みにつながっていると感じます。「地域金融力」が、今後、日本でホットトピックとなり、各地でエコシステムが形成され、地域と日本全体の活性化につながっていくことに期待し、PwCコンサルティングとしても広くサポートを実践できればと考えています。ありがとうございました。
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