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企業価値向上のための成長投資やポートフォリオシフトの実現、不確実な環境下での機動的なかじ取りといった「攻め」の機能の拡張から、統制・コンプライアンスの徹底や、財務データの整合性を担保するトランザクション処理の高度化といった「守り」の機能の強化まで、CFOを筆頭とするファイナンス機能への役割期待は、かつてないほど多面化・高度化しています(図表1)。
図表1:ファイナンス機能に求められる役割
Q.今後CFOに求められる役割について、重要度の高い順に順位をつけてください。
同時に、AIの急速な進展が、ファイナンス人材の役割そのものを大きく変革しつつあります。仕訳処理やデータ集計、定型的なレポーティングといった標準業務にとどまらず、分析や予測を通じた意思決定支援こそがAI活用の本命領域として現実味を帯びてきました(図表2)。
図表2:AI活用の適用業務
Q.業務最適化に向けてAIの活用に取り組んでいる場合、どのような業務に適用していますか(いくつでも)。
こうしたなかで、ファイナンス人材にこれまで以上に強く求められるのは、目的を定義して正しい問いを立てること、AIの出力を検証して最終判断の妥当性を見極めること、そして、経営層や事業サイドへの提言、複雑なステークホルダーとの調整といった「人と組織を動かし、意思決定を実装する役割」を果たすことです。変化し続けるAIと人の役割分担を見極めながら、ファイナンス機能全体を高付加価値業務へとシフトさせていく流れは、もはや不可逆なものとなっています。
AI活用がこれまでのシステム導入やDXと決定的に異なるのは、「人」こそが変革の成否を左右するという点です。これからは若手であっても、目的に沿って適切な問いを設定したうえでAIにタスクを指示し、その出力の妥当性を判断して最終アウトプットの品質に責任を持つ場面が増えていきます。これは、従来は管理職が担ってきた「マネジメントする側」の役割に近いものといえます。つまり、かつては長い経験を通じて培われてきた「仕事を設計し、成果物をレビューする力」を、これからの若手には、従来よりも短期間で身に付けさせていく必要があるのです。AI活用の浸透により、求められる人材像も、その育成のあり方も、根本的な見直しを迫られています。
AI時代のファイナンス人材には、①基盤となるAI活用スキル、②従来よりも高度な判断力を支える実践的なスキルや人間ならではのソフトスキル、そして③変化に適応し続けるマインドセットが求められます。
AIの活用が業務の前提となるなかで、AIリテラシーやプロンプト設計力、AIの出力を評価・活用する力は、ファイナンス人材にとって、もはや付加的なスキルではなく、業務を遂行するうえでの基盤的なスキルとなりつつあります。AIの仕組みや限界を理解したうえで適切な指示を与え、生成された結果の信頼性や妥当性を評価できる力が重要になります。
また、AIを過信せず、その精度やリスクを見極めながら活用する姿勢も欠かせません。AIの能力を理解し、適切に監督しながら活用することが、これからのファイナンス人材の基本姿勢となるでしょう。
会計・税務・財務に関する知識や社内外の制度・ルールの情報は、AIを通じて短時間で参照できるようになりつつあります。その結果、ファイナンス人材に期待される価値は、知識を保有していること自体から、複数の知識を組み合わせ、自社の戦略、事業モデル、リスク許容度、ステークホルダーへの説明責任を踏まえて正しい問いを設定し、判断する力へと移行しています。
加えて、人間ならではのソフトスキルもこれまで以上に重要性を増しています。経営層や事業部門との対話を通じて、仮説を立てながら曖昧な課題を具体化・構造化していく力、組織を巻き込みながら変革を推進する力、複雑な状況のなかで関係者の納得感を醸成する力などは、AIには代替されにくい領域であり、ファイナンス人材にとって、今後の価値発揮の源泉となり得ます。
AIをはじめとするテクノロジーの進化は今後も続き、求められるスキルセットも更新され続けていくことが想定されます。こうした環境においては、一度身に付けたスキルに安住するのではなく、常に新しい知識や手法を取り込み、自らをアップデートし続ける姿勢が求められます。
もっとも、「アップデートし続ける」とは、闇雲に新しい知識を追いかけることではありません。日常的に自身のスキルやキャリアを棚卸しし、現在地を客観的に捉え直すこと、信頼できる他者との対話を通じて自分に必要な学びや進むべき方向性を見定めることを、習慣として組み込んでいくことが重要です。変化に応じたスキル習得は、こうしたルーティンに支えられたマインドが土台にあって初めて実現可能になります。
今後のファイナンス機能では、定型処理や情報収集・分析の多くがAIによって実行されるようになり、人間の役割は意思決定支援、経営変革の推進、ステークホルダーマネジメントといった領域へシフトしていくと考えられます。従来の「作業者としてのファイナンス」から、「経営の意思決定に伴走」し、「変革そのものを実現するファイナンス」への転換が進むでしょう。
ファイナンス人材の変革を考えるうえでは、次のような論点について各社が向き合う必要があります(図表3)。
図表3:AI時代のファイナンス人材変革における主な論点
AI時代の大きな変化に対応するためには、ファイナンス機能のあり方そのものを問い直し、それを踏まえて組織設計や人材戦略を抜本的に再構築していく視点が欠かせません。前述のとおりファイナンス機能の役割が大きく変わることに加え、労働人口の減少や副業・兼業の一般化など、人材を取り巻く環境も構造的に変化しています。こうした変化により、ファイナンス機能で働く人々の働き方も、組織の在り方も、従来とは大きく異なるものになっていきます。
求められる変革スピードに応えるためには、社内人材の育成だけに頼るのではなく、必要なスキルを持つ人材の採用や、外部専門家の活用なども視野に入れ、組織全体として人材を確保していく発想が必要です。育成には一定の時間がかかるものであり、変革のスピード感に追いつかない場面も少なからず出てくるでしょう。「今いる人をどう育てるか」だけを起点に考えるのではなく、「どこから、どのように人材を確保するか」を組み合わせた人材戦略が必要になります。
既存の延長線上での部分的な修正にとどまらず、将来の変化を見据え、ファイナンス機能の役割の再定義から、組織体制、人材像、その確保・育成・活用のあり方までを一体で見直していくことが、これからの企業にとって重要な取り組みといえます。
AI時代のファイナンス人材に必要なスキルは多岐にわたり、画一的な人材の集団では太刀打ちできません。そのため、一人ひとりに何でもできる人になることを求めるのではなく、組織全体で必要スキルが充足できるように人材ポートフォリオを管理する発想が重要になります。
ファイナンス組織には、会計・税務・財務に関する専門人材だけでなく、データ分析人材、AI活用推進人材、変革推進人材など、異なる強みを持つ人材の組み合わせが必要です。今後AIの発展が進むにつれて、AI監督者などの新たな役割の創出も想定されます。重要なのは、全員を万能型人材に育成することではなく、組織全体で必要な能力をカバーすることです。
このポートフォリオ的な人材戦略を実効性あるものとするうえで最初に着手に着手すべきなのは、「どのようなスキルを持つ人材が、どの程度必要なのか」を明確化することです。求める人材像とその規模を定義して初めて、育成や配置を含めた管理が可能になります。
例えば、「AIを使いこなすスキル」と一口に言っても、その中身はさまざまです。AIに関するテクニカルなスキル、実務においてAIに適切なアウトプットをさせるスキル、AIを業務に活用するにあたりAIガバナンスの観点で業務設計をするスキルなど、必要なスキルは多岐にわたります。中には、組織全体で広く備えるべきスキルもあれば、一部のメンバーだけが習得していればよいスキルもあります。こうした濃淡を見極めたうえで人材構成を設計していくことが、ポートフォリオ管理の出発点となります。
人材育成のあり方を考えるうえで踏まえておきたいのが、若手が模倣可能なキャリアパターンを歩む先達が存在しないという現実です。従来は、身近な先輩や上司のキャリアの軌跡を一つの指針として、自らの将来像を描くことができました。しかし、前述のとおり、ファイナンス人材を取り巻く環境はAIやデジタル技術の進展をはじめとして急速に変化しており、先行する世代がキャリアを積み上げてきた当時の前提と、今の若手が直面する前提はもはや別物となっています。過去の成功パターンをそのまま自らのキャリア設計に当てはめることは、難しくなっているのです。
こうした状況においては、特定の人物のキャリアをなぞるのではなく、自らの強みや志向を起点として、変化する環境に応じて柔軟にキャリアを組み立てていく姿勢が必要となります。組織としても、画一的なキャリアパスを示すのではなく、一人ひとりが自律的にキャリアを描いていけるよう支援する仕組みづくりが求められます。
前述のとおり、AI時代のファイナンス人材には、適切な問いを立てたうえで、複数の知識を組み合わせて最適な結論を導く判断力が求められます。従来は、仕訳の起票、勘定の照合、財務諸表作成といった一連の作業を長年経験するなかで、会計の本質や数字の意味を体得し、判断力の土台を築いてきました。しかし、AIにより基礎的な業務が代替されていくなかで、これまで自然に積み上げられてきた経験知は得られにくくなります。それでもなお「判断」ができる人材を育てなければならず、手を動かす経験に代わる学びの機会をいかに設計するかを検討する必要があります。
こうした判断力は、座学だけで身に付くものではなく、実際の業務やそれに近い場面のなかで試行錯誤し、フィードバックを受け、改善を繰り返すというサイクルを通じてこそ培われていきます。したがって、機会が自然発生しにくいのであれば、組織として意図的に「機会を創る」という発想も必要になります。具体的な打ち手の一例としては、次のような取り組みが考えられます。
多様な現場で多様な判断に触れる「場」を、組織として戦略的に用意していくことが求められます。
ここまで、AI時代のファイナンス人材に求められる要素や、変革における主な論点を述べてきました。実際にこれらの変革を進めていくうえで、押さえておきたい2つのポイントがあります。
人材の変革には時間を要します。組織や制度の変更とは異なり、人の意識や行動が変わり、新たなスキルが定着するまでには相応の年月が必要です。それゆえ、可能な限り早期に検討に着手することが重要となります。
「急速に環境が変化するなかで見通しが立たず、検討に着手しづらい」と感じている企業も少なくないかもしれません。たしかに、AI技術の進化スピードや、それが業務に与える影響の幅は、今後も不確実性を伴って変化していくと考えられます。しかし、進むべき方向性についての議論は、今すぐにでも始められるはずです。全てが見通せるようになるのを待っていては、変化のスピードに対応することができません。完全な答えが見えていなくとも、「変わり始めること」そのものに価値があるといえます。
人材育成に関する議論は、企業ごとに行うことに大きな意味があります。他社事例やベストプラクティスは議論の出発点として有用ですが、それらをそのまま当てはめれば済むというものではありません。実際に取り組んでみると、育成に対する想いや目指す姿は企業ごとに異なるものです。事業特性、組織文化、現有人材の構成、経営の優先順位など、それぞれの企業が抱える文脈は固有のものであり、画一的な解は存在しません。
加えて、同じ企業のなかでも、経営層、人事部門、ファイナンス部門、現場のメンバーそれぞれの想いや視点には違いがあります。各社各様、各人各様の議論を経て、自社にとっての最適解を見出していくプロセスこそが重要です。
AIの進展は、ファイナンス業務の一部を変えるのではなく、ファイナンス人材に求められる役割そのものを再定義しようとしています。求められるスキルやマインド、育成・キャリアの考え方、組織や人材戦略の前提に至るまで、その変化は広範に及びます。こうしたなかで、各社が自社にとっての最適解を見出していくことが、今後ますます重要なテーマとなっていくでしょう。ファイナンス人材の変革は、もはや将来に向けた準備ではなく、企業価値向上に直結する経営課題そのものとなっています。
PwCコンサルティングでは、ファイナンス人材の変革をはじめ、ファイナンス機能の高度化、AI・テクノロジーの活用、組織・ガバナンスの再設計といったさまざまな関連テーマについて、総合的に支援することが可能です。各社固有の状況に寄り添いながら、AI時代におけるファイナンス機能の進化に向け、ともに考え、伴走してまいります。
阿南 泉美
マネージャー, PwCコンサルティング合同会社
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