企業価値向上に向けて。戦略を現場のアクションに落とし込む実践アプローチ

企業が見直すべきマネジメントのあり方

  • 2026-06-09

日本企業はこれまで、長年の低インフレ環境の中で、価格やコストを比較的固定的に捉えてきました。しかし近年、原材料費や物流費、人件費の高騰や為替変動により、従来型のコスト削減だけでは利益の維持・拡大が難しくなっています。一方で、先進的な企業では、価格マネジメントやコストの在り方についてAIなどの新たな技術を活用した抜本的な見直しを行い、成果を上げています。本記事ではPwCコンサルティングの専門家が対談。経営アジェンダとして、全社的な価格マネジメントの仕組みをいかに構築するか、AI活用も含めたコスト構造の再設計にどうアプローチするかの2点について話し合いました。

(左から)PwCコンサルティング合同会社 中村 裕之、石 悦寛

登場者

PwCコンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング パートナー
石 悦寛

PwCコンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング マネージングディレクター
中村 裕之

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

なぜ日本と海外で「稼ぐ力」に差がついたのか。日本と海外の決定的な違い

差込

PwCコンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング パートナー 石 悦寛

中村:
いわゆる「失われた30年」を振り返ると、日本は低インフレ、あるいはデフレに近い状態が長く続いてきました。価格もコストも大きくは動かない前提で経営が成り立っていたと言えます。
一方で、海外、特に米国などは継続的なインフレ環境にあります。消費者物価指数で見ても、過去数十年において数%のインフレが常態化し、コロナ禍では一時的に10%近くまで上昇した局面もありました。しかもそれが複利で積み上がるため、日本と比べると価格水準もコスト構造も大きく変化しています。
重要なのは、この違いは単なる物価差ではなく、「経営モデルの差」に直結しているという点です。多くの日本企業は、前述の大きく動かない前提の下で、シェア拡大による固定費率の低減と業務効率化による変動費の低減によって利益を確保するモデルを築いてきました。一方、先進的な海外企業は、インフレを前提として、価格を柔軟に変化させ利益をマネージするスタイルが主流です。日本においてもパラダイムが変化しインフレが常態化しつつある現在、これら先進企業に学ぶところが多いのではないでしょうか。

石:
そうですね。日本企業は特に、人件費を含めたコスト削減によって利益を維持してきました。いわば「削ることで守る」モデルです。しかし足元では、原材料費・物流費・人件費・光熱費と、企業が負担するコストは全方位で上昇しており、もはや一時的な変化ではなく、経営の前提そのものが変わったと認識すべき局面にあります。
今後求められるのは、「何をやめて、何を残すのか」を明確に選択することです。コスト削減はもはや単なるオペレーション上の改善課題ではなく、ビジネスの在り方・業務プロセス自体を刷新するための戦略・戦術レベルの意思決定として位置づけ、見直す必要があります。

中村:
同じことが価格マネジメントにおいても言えると思います。日本企業は、現場任せで値付けをしているケースが大半であり、経営がほとんど関与しないことも多く見受けられます。しかしながら、自社の価格戦略を決定する、値引きのルールを作り管理する、さらには原材料費や人件費のインフレをどこまで価格転嫁すべきかを決める、というのは事業運営に直結する経営の仕事です。そして、ここで重要となるのは、データに基づいてこれらの活動が行われるという点です。先ほど申し上げたようにパラダイムが変化する中では、個人の主観的な経験・勘ではもはや通用しづらくなっています。新たなよりどころとしての客観的なデータの価値が高まってきていると言えるでしょう。
このような話に対してよく聞かれるのが、「自社にはデータがないので難しい」という声です。しかし、ここで間違えてはならないのは、日本企業にデータが「ない」わけではないという点です。売値のデータ自体は必ず存在していますが、それが分析できる形になっていない、あるいは誰も分析していない、そのため、意思決定に活用されていないのです。言い換えれば、「持っているデータを使いこなせていない」ということです。

従来モデルの限界と企業価値向上の必然。日本企業に今後求められる取り組み

差込

PwCコンサルティング合同会社 ストラテジーコンサルティング マネージングディレクター 中村 裕之

中村:
多くの日本企業でも何らかの形で価格マネジメントの変革に向けた取り組み自体は進められています。しかしながら、必ずしも成果につながっていないケースが多く見られます。典型的なのは、経営陣は「値上げが必要である」という認識を持ちながら、それが現場の具体的なアクションに落とし込まれていないという状況です。方針は示されているものの、現場としては何をどのように進めればよいか分からず、動きが止まってしまいます。その背景には、日本企業が継続的な活動としての価格マネジメントを経験してこなかったという事情があります。単発での値上げはあっても、組織的に価格、ひいては利益をマネージするためのノウハウや経験が蓄積されていないため、必要性は理解していても、実行に踏み出せないのです。
こうした状況を打破するための第一歩は、責任者を明確にすることです。経験や知見のない「価格」について率先して変革に取り組みたがる経営幹部はあまりいません。ただ、責任者がいなければ何も起きないというのは組織の常です。まずは責任の所在を明確にし、価格マネジメントを経営管理の仕組みの中に組み込むことが重要です。例えば、これまで売上高のみで管理していたものを、「価格×数量」に分解してそれぞれに目標値と責任者を設定するといった、ごくシンプルな見直しだけでも、企業のパフォーマンスは大きく変わります。
価格というと、分析手法やアルゴリズムといったテクニカルな側面に注目が集まりがちですが、その土台としてこういったガバナンスが整備されていなければ、実行には至らず利益改善は実現されません。重要なのは、机上の数字遊びではなく、個別の製品・サービスや顧客・商談において具体的なアクションを設定し現場で実行することです。

石:
加えて、コストの観点においても、従来型のアプローチはすでに限界に達しつつあります。これまでは、「今ある枠組みの中でいかに効率化するか」という発想が主流でした。しかし今後求められるのは、その枠組み自体を見直すという視点です。例えば、工場の役割分担の再定義や拠点の集約、購買機能の横断的な統合やサプライチェーン規模での共有など、構造そのものに手を入れていく必要があります。
一拠点・一部門の中での最適化には限界があります。在庫削減一つをとっても、製造側だけで完結する話ではなく、設計開発や販売側との連動が不可欠です。また、同様の製品を複数の工場で生産しているのであれば、拠点を集約することで抜本的な効率化が図れる場合もあります。つまり、従来のように「箱の中を改善する」のではなく、「箱そのものをどう設計し直すか」という上位の視点から全体を見直すことが求められています。
全体を見直すにあたり、AI活用は今や重要な経営アジェンダです。従来のAI導入は既存業務の一部を置き換える程度で、改善レベルにとどまる「AI Ready」でした。しかし今求められているのは、業務プロセスをAI前提でゼロベース再設計する「AI Centric」への抜本的な転換です。よくある失敗として、既存フローのままAIが差し込まれる、PoC(概念実証)止まりで定着しない、導入自体が目的化する、といった共通点があります。一方、成功している企業は、経営課題とAI活用を直結させ、データ基盤やガバナンスを整備し、人は例外対応と意思決定に専念する形へ業務を再構築しています。AIを中心に業務・組織・意思決定を再設計するという経営の意志こそが、真にコスト削減効果を創出します。

数字遊びで終わらせない。実行まで踏み込むストラテジーコンサルティングの価値

差込

(左から)PwCコンサルティング合同会社 石 悦寛、中村 裕之

中村:
私たちの特長は、戦略を現場のアクションにまで落とし込む点にあります。戦略は方向性の提示にとどまりがちですが、私たちはさらに踏み込み、担当者一人一人が何をすべきかというレベルまで具体化します。
例えば価格マネジメントであれば、経営陣と策定した戦略・ルールに基づいて「どの顧客に対して、どの製品を、いくらにするか」「個別の案件についてどの程度まで値引きを許容するか」といった具体的なアクションに変換します。繰り返しになりますが、「値上げを進める」という方針だけでは現場は動きません。「誰が何をいつまでにやるか」を最小単位まで定義し、しっかりと実行管理することが不可欠です。
その実行管理を実装したとしても、現場の行動を変えることは容易ではありません。データやロジックを駆使して、なぜその価格なのか、なぜ値上げしなければいけないかを、丁寧なコミュニケーションを通して現場に理解してもらうことも重要です。いわゆる「腹落ち」の部分ですね。

石:
私たちは現場の方と膝を突き合わせ、データを共有しながら「経営目線としてのゴールは何か」「どこに改善余地があるのか」を一つ一つひもといていきます。その積み重ねが当事者意識を生み、変革を前に進める力になります。同時に、必要な場面では踏み込むことも重要です。社内では言いづらい課題に対して外部の立場から指摘し、意思決定を後押しします。伴走しながらも、変革を実行に移すための推進力となることが私たちの役割です。

中村:
私たちが目指しているのは、企業が本来持つ実力を十分に発揮できる状態をつくることです。日本企業の多くは、本来得られるはずの利益を取り切れていないと考えています。特に価格マネジメントの領域には、大きな改善余地が残されています。
実際に私が支援してきたプロジェクトでは、利益改善が実現しています。それは何か特別な魔法によるものではなく、当たり前のことを当たり前にやることの積み重ねです。そのためには、戦略の策定にとどまらず、現場に入り込み、実行し、成果が定着するまで伴走し続けることが求められます。そこまでを一貫して担えることが、私たちストラテジーコンサルティングの提供価値だと考えています。

主要メンバー

石 悦寛

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

中村 裕之

マネージングディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

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