製造業の未来を切り開くエンジニアリングチェーンのDX 第4回

生成AIとALMによる高速のソフトウェア開発

  • 2026-07-13

ソフトウェア開発の現状と課題

川端:
AIをはじめとする技術革新に伴い、製造現場ではソフトウェア開発のさらなる高速化や効率化が求められるようになりました。はじめに、クライアントの昨今の動向を教えてください。

宮寺:
私たちが支援するモビリティ分野のクライアントでは、限られた業務領域の変革だけではニーズの多様化への対応が難しくなっており、コネクテッドや生成AIといった技術の枠を超え、部門横断でソフトウェア開発のスピード向上、開発プロセスの効率化、各種業務の自動化に取り組む企業が増えています。

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 宮寺 厚志

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 宮寺 厚志

鏡氏:
車載製品の開発現場ではソフトウェアによる価値創出の領域と重要性が拡大し、開発の重心もハードウェアからソフトウェアへと移行しつつあります。SDV(Software Defined Vehicle)はその一例で、車載ソフトウェアを高速で開発し、出荷後にOTA(Over The Air)で製品価値を向上させ続けるコンセプトを実現するためにさまざまな技術が不可欠となっています。

株式会社ゼネテック エンジニアリングバリューチェーン推進部 部長 鏡 匠氏

株式会社ゼネテック エンジニアリングバリューチェーン推進部 部長 鏡 匠氏

馬場氏:
ハードウェアでの差別化が難しくなり、クライアントがソフトウェアを自社開発する流れも加速しています。ただ、その工程管理は複雑で高度な専門知識が必要となるため、IT人材の不足に課題を抱えているクライアントも増えています。

笹本:
人材不足の解消に向けては、設計や開発工程の自動化や、R&Dプロセスやデータ分析の高度化などで生成AIの活用も加速していますね。

鏡氏:
そうですね。ハードウェアにはスケールの限界がありますが、ソフトウェアができることは非常に多く、要求数に比例していくらでも仕様が増えます。仕様を詰め込もうとするほど管理が複雑になり、既存の体制ではいずれ対応できなくなるため、今後は生成AIの活用が必須になると考えています。

川端:
ソフトウェア開発の工程管理ではどのような課題がありますか。

鏡氏:
例えば、トレーサビリティの確立です。車載開発の多くはV字プロセスのウォーターフォール型で行います。その過程では各工程において中間成果物が出力されるのですが、どれとどれが対応しているかわからない、仕様には書いてあるが実装に反映されていない、テストが抜けているといったことが起きています。

馬場氏:
このソフトウェアはサプライヤーに任せる、これは内製するといったように複数の会社や組織に分かれ、縦割りで作られるケースも多いため、それら含めて管理する難しさもあります。

笹本:
企業や組織間の連携では、開発にどこまで期間をかけられるのか、ウォーターフォールのプロセスをどこまでアジャイルにしていくのかといった調整に課題を抱えているケースもあります。

PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 笹本 晃司

PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 笹本 晃司

川端:
そのような課題の解決に向けて、ALMの適用を検討する企業が増え、私たちPwCコンサルティングにもALM関連のご相談やご依頼が増えています。ALM適用によってどのような効果が期待できると考えますか。

鏡氏:
製造コストの低減、部品点数の削減、機能ごとに分散しているECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)を統合するといったニーズに対応しやすくなります。また、ALMによってソフトウェア開発の要件定義、設計、検証、リリース、そして保守までのライフサイクルを統合して管理ができることで、モビリティに求められる安全性や信頼性と、ソフトウェアの高速開発を両立しやすくなります。

川端:
市場動向やニーズを要件に落とし、アプリケーション開発およびプラットフォームに反映して資産化し、効率的に再利用できるようにすること。また、そのサイクルを仕組みとして構築し、複雑な開発工程を一元管理するのがALMの機能の一部だと思っています。ここに生成AIを融合してさらに速度を上げることで、既存製品の品質を高め、製品を市場に出すスピードも速めることができます。

PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 川端 祐樹

PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 川端 祐樹

生成AIがもたらす設計と開発の変革

笹本:
生成AI活用は、設計、モデリング、3Dシミュレーションの自動化などで導入が検討され、すでにその一部が実行されるようになりました。ゼネテックでは、どの業務での生成AI活用を進めていますか。

島田氏:
私たちは、生成AI活用を一部の業務だけにとどめないようにすることを方針に掲げています。例えばソフトウェア開発では、要件定義、設計、実装、テスト、さらにはテスト動画の判定まで生成AIを活用した検討を行い、運用を始めています。

株式会社ゼネテック エンジニアリングバリューチェーン推進部 島田 まどか氏

株式会社ゼネテック エンジニアリングバリューチェーン推進部 島田 まどか氏

川端:
設計や開発の生成AI活用では、具体的にどのような効果が期待できますか。

島田氏:
例えば、下流の成果物の根拠となっている上流成果物を引き出し、要件や設計のトレーサビリティ情報を自動生成することができます。また、ユースケース上の抜けや矛盾の自動チェックを行い、要件定義や設計、テスト仕様のドキュメントフォーマットと品質を平準化することができます。このような効果を通じて、エンジニアは検討や手戻りにかけている手間と時間を減らし、アウトプットの評価や判断といったエンジニアの本質的な業務に集中できるようになります。

宮寺:
トレーサビリティ情報や設計検討の抜け漏れの抽出で、精度を高めていくためにはどのような課題がありますか。

島田氏:
仕様書や設計書の情報をAIが参照できる形式にすること、AI・設計書・ソースコードを横断的にたどれるよう紐づけて蓄積すること、そして要件からテストに関する情報をAIが扱いやすいルールで整理し、管理することなどが課題です。

鏡氏:
これら課題に対しては、AIによるアウトプットにトレーサビリティ情報が含まれるようにして、ALMを使って可視化に結びつける方法が1つ解決策になると思います。仕様書、設計書、テストケース、テスト結果を結び付けることでALMを基盤とした一元管理ができます。

笹本:
AIの可読性という観点では、AIに適した情報整理のルールが、人にも最適であるとは限りません。例えば、人はプレゼンテーションスライドの資料を容易に理解できますがAIには理解しづらいと言われています。AIと人がどちらも読みやすいルール作りは可能なのでしょうか。

鏡氏:
一つの考え方としては、まずはAIが読みやすいルールであらゆる情報をいったん読ませておき、人が読む際は人用に変換させる方法があると思っています。AIは要約が得意ですから、人が読みやすいように並べ直したり、必要な情報を抽出したりすることができます。

宮寺:
要約の過程でAIが余計な情報を作り上げてしまうハルシネーションの問題や、アウトプットの正確性についてはどのような対策ができそうですか。

島田氏:
そこは現在進行形の課題です。人とAIは頭の使い方が違います。人と同じアプローチで品質を保証できるのだろうか、人のプロセスをそのままAIに置き換えるのが本当に正しいのだろうかと考えながら開発を推進しています。

鏡氏:
別のアプローチとして、そもそも人とAIは異なる存在であることを考慮し、トレーサビリティに基づく品質を確保しつつも、人を前提とした工程定義とは異なる、AIに適した工程を採用することで開発の高速化を行うべきだと考えるケースもあります。

笹本:
現状はまだ、インプットの質がアウトプットの質に影響します。しかし、生成AIがさらに高度化した際には、きれいなインプットのデータがなくても全てAIが理解し、設計や開発の工程がさらに高速化し効率化するかもしれませんね。

鏡氏:
はい。ただし、その際の課題は、AIには成果物の責任が取れないということです。AIが高速かつ大量に開発しても、人がチェックして承認したものしか実装されないため、そこがボトルネックになると思います。この課題の解決策としては、例えば、フェーズごとのチェックはこのAI、アウトプットの一次チェックにはこのAIを使うなど、別々の役割や機能を持つ複数のAIを組み合わせる方法があります。その際のポイントは、ALMで要求仕様を明確化し、それに紐づく設計、実装、評価を統合的に管理することになると思います。

生成AIとALMを用いた変革のポイント

川端:
生成AIとALMの活用によって今後のソフトウェア開発はどのように変わっていくと思いますか。

(左から)笹本 晃司、川端 祐樹、宮寺 厚志、馬場 剛氏、鏡 匠氏、島田 まどか氏

(左から)笹本 晃司、川端 祐樹、宮寺 厚志、馬場 剛氏、鏡 匠氏、島田 まどか氏

鏡氏:
開発プロセス全体の管理では、ALMによって複数のステークホルダーへの対応、異なる設計ツールの集約、組織間やインフラ間の連携などが可能になります。これにより発注元のメーカーと委託先のベンダーとの間でデータベースや詳細な情報を共有でき、仕様や設計のギャップが発生しにくくなります。

島田氏:
開発のスピードや品質に関わる部分では、要件定義と開発を並行して進めながら、工程や仕様を変更したときの影響や整合性を生成AIによって可視化して管理できるようになると思います。また、過去のプロジェクト資産やナレッジを生成AIで横断的に活用して、品質基準や標準プロセスに反映した成果物を持続的に生成できるようになります。

宮寺:
開発に生かせる過去のプロジェクト資産にはどのようなものがありますか。

鏡氏:
車載開発を例にすると、車載ソフトウェアはモデルごとに仕様が異なり、個別に開発しなければなりません。しかし、最新のソフトウェアをALMで管理し、AIが解釈できる状態にしておけば、既存のモデルをベースモデルとして生かし次のモデルに載せるソフトウェアを高速で開発できるようになります。

川端:
ALM適用では、ゼネテックではどのような成果に着目していますか。

島田氏:
トレーサビリティに関しては、私たちは設計書やテスト仕様書などの作成を生成AIで自動化し、ALMに登録して差分や型番などを一元管理するところに踏み込んでいます。また、開発工程の手前にあるリスクもトレーサビリティ情報としてALM上で管理して、追跡できるようにしています。製造現場では、機能安全プロセス(ISO26262)やサイバーセキュリティプロセス(ISO21434)に沿った開発ライフサイクル管理をALM上で回せる状態が重要と考えて、そこへの生成AI活用に取り組んでいます。

鏡氏:
車載ソフトウェアは、サイバーセキュリティや機能安全などに関する法的要件が複雑化しています。これらはUXや付加価値に直結するかどうかに関係なくALMなどの仕組みを使って適切に管理する必要があります。

笹本:
そのような変革を生み出していくために、クライアントは何から着手するのが良いのでしょうか。

鏡氏:
AIを使うためのリテラシー教育が重要だと考えています。AIに対してどういう指示が適切なのか、指示した結果をどうやって確認するか、指示内容をトレーサビリティ情報としてどう残すのが良いかなどがテーマになると思います。

2030年に向けた製造業の展望と支援方針

川端:
生成AIとALMの重要性が高まっていく潮流は、モビリティ業界の枠を超えて製造業全体に共通しています。その中で、ゼネテック、PwCコンサルティング、それぞれの立場から提供できる価値と目指したい姿を教えてください。

馬場氏:
製造業の2030年前後を見据えると、単なるモノ売りから体験価値を継続提供するモデルへの進化にあり、サービタイゼーションは製造業のソフトウェア化へも昇華されていくと思います。その流れの中で私たちが持つ強みは3つあります。1つ目は、製品価値を決めるソフトウェアを実装レベルで作り込む力、2つ目は、複雑化するソフトウェア開発を統合・可視化し、制御するALMを導入すること、3つ目は、開発プロセスに生成AIを融合し、品質と速度を同時に引き上げることです。これらを単体で提供するのではなく掛け合わせることにより、製造業各社の競争力を支える存在でありたいと考えています。

株式会社ゼネテック システムインテグレーション事業部 営業部 部長 馬場 剛氏

株式会社ゼネテック システムインテグレーション事業部 営業部 部長 馬場 剛氏

鏡氏:
製造現場では、AIを用いた効率的で迅速なソフトウェア開発と、増大化と複雑化が進むソフトウェアを一元管理するソリューションのニーズがさらに高まってくると考えます。私たちは、製造業のクライアントと培ってきた経験と知見を生かして、組み込みソフトウェアの開発技術とALM中心のプロセス管理の両面からトータルに支援していきたいと考えています。

宮寺:
競争の激しい市場において存在感を発揮していくためには、各企業がソフトウェアを中心とする変革のスピードを速めていくことが重要です。PwCコンサルティングは2025年にスマートモビリティ総合研究所を開設し、モビリティに関わる企業の連携促進や、各企業の発展につながるデータの分析や提供などを行っています。また、研究所内にはエンジニアリングチェーン領域のDXを知り、感じられる体験型施設としてDigital Engineering Labを設け、ゼネテックをはじめとした各社にご協力をいただき生成AIとALMツールを活用した車載開発デモンストレーションなども配置しています。PwCコンサルティングが持つ知見と外部知見とを掛け合わせ、日本の製造業の進化と強化を支援していきたいと考えています。

主要メンバー

宮寺 厚志

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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笹本 晃司

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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川端 祐樹

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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