製造業の未来を切り開くエンジニアリングチェーンのDX 第3回

AIドリブンによる日本の製造業の真の変革

  • 2026-06-15

PwCコンサルティングは、製造業のDXプロジェクトや、AI活用によるエンジニアリングチェーンや業務の変革を支援しています。企画や開発から、製造や保守・メンテナンスまで幅広いエンジニアリングチェーンの中で、開発分野では株式会社DeMiAと連携し、クライアントの課題解決を後押ししています。
DeMiAは京都大学の学生が中心となり2019年に起業したベンチャー企業です。アプリ開発などを手掛け、AIをはじめとする先端技術の研究開発にも強みを持ちます。製造業におけるDXと、AI活用がもたらす未来について話を聞きました。

※参加者の肩書き、所属法人などは掲載当時のものです。本文中は敬称略。

参加者

株式会社DeMiA
代表取締役
坂本 京也氏

株式会社DeMiA
取締役
林 一成氏

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
渡邉 伸一郎

PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー
宮寺 厚志

PwCコンサルティング合同会社
マネージャー
笹本 晃司

左から、笹本 晃司、渡邉 伸一郎、坂本 京也氏、林 一成氏、宮寺 厚志

日本の製造業が直面するDXの課題

笹本:
日本の製造業におけるDXは、新興国の急速なキャッチアップ、消費者ニーズの極小単位化、グローバルサプライチェーンの不安定化といった大きな変化に対応していく必要があります。また、AIをはじめとする技術の進化も柔軟に取り入れていかなければなりません。そのような課題がある中で、日本のAI活用の現状をどう見ていますか。

林:
多様な案件を手掛けてきた経験から、そもそも前提として、AI導入のための各種条件が「整っていない」ことが多いと感じます。例えば、セキュリティの問題でAIが使えない、製造工程に特化したソフトウェアを使っているためクラウド化やAPI連携ができない、レガシーシステム内のデータがブラックボックス化しているなど、AI活用のステップに至る以前にやらなければならないことが多くあります。

坂本:
DXへの取り組みとして、レガシーシステムに貯めてきた情報資産を企業の集合知として集約する、暗黙知を無くしていくといった試みが弱い企業も多いと感じます。このように前提が欠けていることから、形式が異なるデータが残ったり、保存場所が分からずに活用されなかったりするのです。

宮寺:
AI活用のステップに踏み出すためには、データの正確性、完全性、一貫性が非常に重要になってきます。例えばデータのフォーマットを揃える必要がありますね。

坂本:
そうですね。フォーマットを決めて1つの箱にデータを入れることがファーストステップで、それらの準備がしっかりできると、データやAIを活用したさまざまなアプローチが可能になります。

渡邉:
クライアント側の認識として、システムを導入すればAIが勝手にデータを整理し、アウトプットの質も自然と高くなると考えているケースが多いように思います。実際には、適当な情報を適当な形式で入れても期待する成果は出ないため、データのインプットのやり方が重要です。

坂本:
はい。AI活用においてはアウトプットが注目されがちです。しかし、人を例に考えても分かるように、良い答えを出すためには、必要な情報を得て頭の中を整理しなければなりません。このような課題が残っていることが「整っていない」企業の現状だと認識しています。

株式会社DeMiA 代表取締役 坂本 京也氏

成功しやすいDXプロジェクトのステップ

渡邉:
企業におけるDX推進のレイヤーとして、私たちPwCコンサルティングは各社が業務変革を目指す際のマネジメントレベルでの支援が多く、DeMiAは現場レベルでの課題を深く理解し、実務的な支援ができる点が強みです。現場視点のエンジニアリングチェーン改革ではクライアントからどのような相談内容が多いのですか。

林:
既存業務については効率化に関する相談が多く、一方では、新たな価値創造を目的としたPoC(概念実証)案件の相談も一定数あります。

宮寺:
多様な相談がある中で、成果を出しやすいプロジェクトの特徴はありますか。

坂本:
ソフトウェアとハードウェアに分けると、AI活用はデータからアプローチできるソフトウェア関連のプロジェクトが検証しやすく成果も出しやすいといえます。

笹本:
AI活用に本腰を入れ始めた企業に向けて、DeMiAはソフトウェアテストにおけるテストケース生成や、複雑な図面の読み取りと分類などのAIモデルを構築してきた実績があります。それら成功事例を踏まえて、どのようなステップで進めていくのが良いと言えるでしょうか。

林:
私たちの事例では、レガシーシステム内のデータを分析して整理するデータサイエンティストのアプローチからスタートすることが多いですね。このステップでは、特定のソフトウェアの使い方について数百ページに及ぶマニュアルを提供いただき、現場担当者から使い方を伺いながら地道な作業を進めます。その上で、効率化したい既存の業務についてクライアントと議論を深め、要件定義へと進めていきます。その際のポイントは、「業務を小分けにする」ことです。製造業のエンジニアリングチェーンは長い工程であるため、課題をシンプルにしてから要件定義をするのが良いと思っています。

笹本:
エンジニアリングチェーン全体にAIを導入するような壮大なDXプロジェクトを立ち上げる企業もありますが、取り組み方としては課題ごとにスモールスタートで始め、クイックウィンで成功例を積み上げていく方が結果としてうまくいくのですね。

林:
そう思います。AIを使って社内のドキュメントにアクセスしやすくする、問い合わせ内容を分析してみるといった部分的なAI活用を試していくと、それらが本来の目的である業務改革とは直接的には関連しないとしても、成功例が増えて社内にAIの知見が広がります。AIに詳しくなった担当者が別の課題解決でも効果的なAI活用を考案するなど、社内にAI活用が定着し、連鎖していくといった良い影響も生まれます。

笹本:
そのようなきっかけをエンジニアリングチェーンのあらゆる場所で作りながら、会社全体のDXにしていくことが必要ですね。一方で、個別実装の積み重ねで意図せず脇道にそれてしまわないように、全体の方向性と道筋を整理することも大事だと感じます。

坂本:
ゴール設定は大事です。例えば、DXプロジェクトで「この期間内に70%まで進めよう」と設定した場合、その70%が、業務改革など全社の「コアな課題の解決の70%」となっていなければなりません。

宮寺:
スピードへの対応も重要ですね。特にAI関連のソリューションは、開発してから提供するまでの競争が激しくなっています。

坂本:
スピードの速さは、AIの研究開発とサービス開発の2つに分けて見ることができます。研究開発の速度は、生成AIが広まり始めた頃に急激に加速しました。企業が多額の投資を行うことで、開発や活用のアイデアも増え、精度が爆発的に上がりました。今も研究開発の速度は依然として速いですが、当初と比較すると、少し鈍化していると言えます。一方、AIサービスの開発は引き続きスピード競争が続いています。AIの活用領域が広がり、精度も上がり、さらには活用可能なデータも増えているため、それらを活用したサービスの開発がまさに活況です。

宮寺:
企業はそのスピードにどうやって付いていくのが良いと思いますか。

坂本:
全ての進化に付いていくのは難しく、現実的ではないと思っています。研究領域を例にすると、研究分野の中でサービス内容が細分化しているため、どの研究者もAIの基本的な仕組みと、自分の専門分野の2方向に絞って追いかけているのが実態だと思います。

株式会社DeMiA 取締役 林 一成氏

導入の課題と外部組織の活用

笹本:
AI導入ではどのような課題がありますか。

坂本:
開発におけるツールやモデルの選定では、評価指標の見方が大事です。インターネットや論文など世の中に公開されている情報を追っていくと、どこかの評価で「1位になった」とか「正答率90%」などと評価されているモデルがたくさん見つかります。しかし、そうした指標やデータは網羅的に検証されているわけではないため、一様に比較できない可能性があります。

笹本:
公正に比較しているように見えて、実はそうでないものが含まれているわけですね。数字による評価はユーザーの目に留まりやすいように思います。

林:
そうですね。そこを見誤るとオーバースペックなツールを作ってしまったり、機能がオーバーフィットしたりしてしまいます。

坂本:
私たちも、クライアントが活用するAIの問題について相談を受けたり、利用方法を調整してほしいと依頼を受けたりすることがありますが、その多くはオーバーフィットが原因です。一定の範囲内でしか発生し得ないデータを使う場合に、あえて特定の機能をオーバーフィットさせるのが正しいこともあるのですが、そうではないケースが多いと感じます。

林:
従来のAI活用では特定のアプリだけに連携の範囲が限られていることが多く、例えば、データ転送の指標の1つであるレイテンシーが小さくなった、ユーザー数が伸びたから良い、といった点を見て容易に評価ができました。しかし、最近はあらゆる機能を持つAIを連携させ、システムや業務全体の効率化を目的とすることが多いので、評価が難しくなっている面もあると思います。

宮寺:
そのような見極めも含めてクライアント側にもAIの知見が求められますね。クライアントを巻き込みながら知見を深めていく活動もしているのですか。

林:
クライアントの組織内でAI人材を育成していくことは意識しています。AIの開発や導入はケース・バイ・ケースで要求や課題が異なるものの、共通している概念もあります。それをプロジェクトの中で丁寧に伝えることで、担当者がAIに詳しくなり、最新技術の価値を、専門的な知見に基づいて分かりやすく伝え啓蒙・普及させるエバンジェリストのような役割を果たすことにつながって、クライアント内のリテラシーも高まっていきます。

渡邉:
IT人材の確保や育成は製造業に限らず経営課題です。そのような状況だからこそ私たちPwCコンサルティングやDeMiAのような外部組織の活用が重要ですね。

林:
そうですね。実情として、IT、DX、AIに特化した人材をクライアントの社内で確保するのは難しいはずです。そのため、業務改革の全体像を描く際には信頼できるコンサルティングファームと連携し、課題解決に向けた実践的なAI活用の場面では、適切なモデルを選出し、実装できる技術力を持つパートナー企業を研究所的に持つ、といった複合的な体制をつくるのが良いと思います。

坂本:
AIの専門家とコンサルティングファームが連携することにより、「このモデルはこちらの課題解決にも使えるのではないか」といった活用の広がりも期待できます。

林:
AI開発側としても、各クライアントのドメインを完全に理解するのは難しく、本来であれば、必要十分な知識をインプットしてプロジェクトを進めていくのが理想的です。各業界の業務エキスパートであるクライアントとITシステムのエキスパートであるAI開発企業は業務の担当レイヤーが異なるため、その間をつなぐ役割としてコンサルティングファームが入ることで、効率の良いインプットができ、開発が自由に動きやすくなります。

渡邉:
クライアントの期待や要望を適切にフィルタリングしながら最適なプロセスを設計することにより、DX推進は大きく前進すると思います。必要な情報を必要な分だけ開発側に提供し、クライアントとの橋渡しをすることがとても重要ですね。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 渡邉 伸一郎

林:
さらに先のステップとしては、PoCでうまくいったモデルを既存の生産ラインに導入しなければなりません。現場が常に動いているという製造業の特性により、業務フローへの干渉が導入テストの障害になるケースがあります。

坂本:
そこは現場担当者の気質にも左右されると思います。AI活用や効率化の重要性は理解しつつも、変革に対する警戒心や抵抗感が強いと、「既存の業務を変えたくない」という制約が生まれ、手段が限られてDXが一気に停滞します。

林:
現場でのテストにおいては、DX推進が一部門の取り組みに留まっているためにエンジニアリングチェーン全体に行き渡らなかったり、製造部門と営業部門の壁によって全社横断で推進が必要なプロジェクトであるのに、それが停滞したりするケースもあります。

坂本:
他方で、PoCから本番に移行すると、現場から入ってくるデータの数が段違いに増え、業務効率や精度が飛躍的に向上する可能性があります。つまり、現場で使ってみない限り変革は進まないため、既存の工数が増えるかもしれませんが、業務適用まで見据えた検証領域とプロジェクトの体制をあらかじめ用意する必要があります。

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 宮寺 厚志

2030年に向けた「AI×製造業」の展望

笹本:
今後もAIの進化は続き、製造業はもちろん、消費者にとってもAIがさらに浸透していくと思います。2030年以降に目を向けると、製造業のAI活用はどのような状態に向かうと見ていますか。

林:
個人的な見解ですが、AGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)のように全てのタスクを人が満足する精度で行うことのできる「最強のAI」は、当面は現れないと思っています。一方で、必要最低限の機能を持つモデルを、最新技術を持つ「研究機関以外」で作れるようになる時代は来ています。そのため、全業務をまとめてAIに丸投げするのではなく、プロセスごとに最適化した特化型のAI(AIエージェント)をいくつも組み合わせるアーキテクチャがしばらく続くのではないかと思っています。

坂本:
AGIがいつできるのかは分かりませんが、大事なのは、いつ生まれても良いように準備しておくことだと思います。AGIの登場は、単なる技術進化ではなく、競争ルールそのものを変える「ゲームチェンジ」となり得ます。その変化が迫っていることは確実ですから、今が準備を始め、加速させるラストチャンスになっている可能性があります。

渡邉:
AI活用が当たり前になっていくほど、エンジニアリングチェーン全体においてAI活用をスピーディーに進めた企業が大きく飛躍します。そのような未来を見据えた上で、目的の明確化、データ整理、プロセスの再設計などを進めていくことが重要ですね。

坂本:
データを整理するだけでも、まずは重要な一歩目になります。人手とコストはかかりますが、整理することにリスクはありません。むしろ「やらないリスク」として、ゲームチェンジが起きた時に予想もしないような差を付けられる可能性があります。AGIがいつ生まれるかに関係なく、そもそもデータは整理されていた方が良いはずです。

林:
現場主体の取り組みを進めながら、経営側でも、現場の課題を十分に理解することが重要です。確かに、既存の製造プロセスを刷新することは、一時的な痛みを伴うことが常です。しかし、高品質なものづくりが可能な精密さを強みとする日本製造業の現場の力を存分に発揮することで変革に対応することは十分可能だと思いますし、メイド・イン・ジャパンの誇りを持ってやらなければならないことだと思います。それが製造業各社にとっても日本の製造業全体にとっても、希少な競争優位性になりますね。

坂本:
企業として、業界として、中長期で存続できるかどうかがかかっているからこそ、変革に向けた「覚悟」と「実行力」が大事です。クライアントのDX推進と中長期の成長を支えるパートナーとして、私たちもクライアントと共に継続的に研究開発に取り組む役割を果たし、PwCコンサルティングともさらに連携を深めたいと考えています。

笹本:
AGIをめぐる議論から、現実的なAI活用のあり方まで、示唆に富む貴重なお話を伺うことができました。本日はありがとうございました。

PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 笹本 晃司

主要メンバー

渡邉 伸一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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宮寺 厚志

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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笹本 晃司

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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