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世界の政策・経済・テクノロジーが激しく揺れ動く中、「構造が複雑」とされてきた日本企業にこそ勝機がある——。PwCコンサルティングのEnterprise Transformation Consulting部門を率いる細川俊輔と、グローバル製造業のプロジェクト最前線に立つアソシエイトM.S.が、日本企業が「信頼」を経済価値に変えるために必要なデータとアーキテクチャの設計思想を語り合いました。
(左から)M.S.、細川 俊輔
登場者
PwCコンサルティング合同会社
Enterprise Transformation Consulting - Enterprise Solution/パートナー
細川 俊輔
PwCコンサルティング合同会社
Enterprise Transformation Consulting - Enterprise Solution/アソシエイト
M.S.
※法人名、役職、インタビュー内容などは掲載当時のものです。
M.S.:
グローバルのテクノロジー・リーダーたちが東京に集まって議論する機会が増えていると聞きます。なぜ今、日本なのでしょうか。
細川:
ひとことでいえば、日本企業が世界でもとりわけ「構造が複雑な企業」だからです。サプライチェーン、組織、業務プロセス、システム、データ、ガバナンス——これらが幾重にも重なり、全体の統制を難しくしています。長年、現場の柔軟性を優先してきた結果です。
しかし今、世界そのものが構造の再設計を迫られています。私たちのグローバルネットワークでも、欧米・中国・アジア各国のプラクティスリーダーが東京に集まる機会が増えていますが、そこで繰り返し議題に上るのが、日本企業が抱えてきた複雑性の問題です。世界中の企業がこれから同じ種類の複雑性に向き合わなければならない中で、日本企業がそこにどう対応してきたのか——その経験から学べることがあるのではないか、という視点で関心が高まっているのだと感じています。
PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation-Enterprise Solution/パートナー 細川 俊輔
M.S.:
PwCが提唱する「Value in Motion」とは、どのような考え方でしょうか。
細川:
「企業価値は常に動いている」という考え方です。関税、補助金、炭素税、データ規制、経済安全保障——こうした変化が、企業の「重力」を月単位・四半期単位で変えてしまいます。PwCの第29回世界CEO意識調査では、今後12カ月の売上成長に強い自信を持つCEOは30%にとどまり、前回の38%、2022年の56%から大きく低下しています。既存の延長線上に対する経営者の危機感が強まっているといえます。
バリューチェーンはもはや静止画ではなく「動画」です。どこで価値を生み、どこで利益を確保し、どのように資本とデータを流すのか。このことを、固定的な設計ではなく、常に見直し続ける「動的な設計」の課題として扱わなければなりません。
M.S.:
その対応は相当ハードルが高いように感じます。どのような企業が力を発揮できるのでしょうか。
細川:
バリューチェーンの設計は流動的に変化させながらも、経営データはしっかり押さえる。その両方ができる企業です。特に、データへの信頼を築き、社内外に訴求できる会社が、次の時代を勝ち抜いていけると考えています。
PwCコンサルティング合同会社 Enterprise Transformation-Enterprise Solution/アソシエイト M.S.
M.S.:
各国における政策の変化は、具体的にどうビジネスに効いてくるのでしょうか。私自身、今まさにグローバル製造業のプロジェクトに入っていますが、原産地証明の問題がリアルタイムで押し寄せてきています。以前は管理業務の一つだったものが、今は対応できるかどうかで関税率が変わるため、PLに直結するようになりました。
細川:
それについては、3つのレイヤーで整理できます。1つ目は「サプライチェーンの政治化」です。調達・生産・供給の判断に安全保障や人権・環境が直接入り込むようになっています。2つ目は「データと証跡への要求の高まり」です。あらゆる面で「こういうデータに基づき、こう管理しています」と示す必要があります。3つ目は「資本とテクノロジーの流れの再設計」です。どの国の技術・クラウド・AIを使えるかということ自体が、政策に制約されるようになっています。
まさに今おっしゃった通り、一部でも特定国を経由した部品があれば関税が跳ね上がるケースも出てきています。かつては「おまけ」だった環境対応やトレーサビリティが、今はお金に直結しているのです。これらはすべて、経営・業務・データ・テクノロジーを貫く「設計の筋道」を持てるかどうかという問いに行き着きます。
M.S.:
日本企業が抱える複雑性は、やはり弱点なのでしょうか。
細川:
私はむしろ「経験」だと捉えています。うまくやってこられたかどうかは別として、日本は「複雑性対応の先進国」ではあるのです。好むと好まざるとにかかわらず、他国よりも先にこの問題と向き合ってきました。
拠点ごとの独自システムやばらばらなマスターデータの背景には、「顧客に迷惑をかけない」「現場で止めない」という、各側面における合理的な判断の積み重ねがあります。あるグローバル製造業のクライアントは、数十カ国の拠点がそれぞれ独自のシステムとプロセスで動いていましたが、紐解くとその一つひとつが現地の商慣習や顧客要求に精緻に応えてきた結果でした。各国の拠点には規制や税制に驚くほど精通した方々がいて、現場レベルで合理的な対応を積み重ねています。
ただし、それが全社として統制された状態かといえば、そうではない。属人的で、暗黙知のままで、グローバルにはつながっていない。そこに日本企業の苦しみがあります。
しかし裏を返せば、この試行錯誤の蓄積こそが資産です。複雑性は「多様性の裏返し」といえます。問題は、その多様性をどう制御するか。「自由」と「統制」を両立させる構造を設計できるかどうか。この問いこそが次の時代の競争力の源泉であり、先に痛みを知った日本企業だからこそ、その答えを出すポテンシャルがあると思っています。
M.S.:
私がプロジェクトで一番悩んでいるのが、データガバナンスのレベルをどこに設定するかという点です。すべてを標準化するのは現実的ではありませんが、どこから手を付けるべきなのか。立派なダッシュボードを作ったのに活用されていないという話も聞きます。
細川:
勝機があるとしたら、データレイヤー(データの質や構造など、データ自体の管理・整備)です。
今、基幹業務をクラウドERPで再構成する「パブリッククラウドシフト」と、業務の一部をAIやエージェントに委ねる「AI/エージェントシフト」が同時に進んでいます。この交差点で、アプリケーション・データ・AIが互いに強化し合う循環が生まれつつあります。その循環の質を決めるのが、データレイヤーです。
重要なのは、すべてのプロセスを一律に標準化することではありません。クラウドERP(統合基幹業務システム)とデータ基盤で共通のデータモデル・マスターデータ・監査可能なトレーサビリティを押さえ、プロセスの多様性はAIエージェントやローコード開発で吸収していくと良いでしょう。
プロセスは現場文化に飲み込まれがちです。一方、データとインテリジェンスの土台はHQ(本社)で制御できます。
ただし、投下資本利益率(ROIC)を頂点にしたKPIツリーをトップダウンで作っても、経営陣の反応は鈍いことも多いのが実情です。そんなときは、切り口を変えると全然違います。「この部品の原産地証明ができないと関税率がこう変わります」——そう言った瞬間に、現場も経営も身を乗り出してきます。
つまり、「直接お金に換わるテーマ」を軸にして、そのデータの信頼性をどう保証するかという視点から入る。そうすると調達から販売まで全部つないで議論せざるを得なくなり、「このデータは標準化しないとまずい」という合意が現場から自然と生まれてくるのです。
上述のPwCの第29回世界CEO意識調査でも、過去1年間にAIで売上増加を実感したCEOは3割(30%)にとどまり、売上・コストの両面で成果を上げた企業は8社に1社(12%)に過ぎません。一方で、AIの安全性や責任あるAIをめぐり、ステークホルダーから信頼に関わる懸念を示されたと答えたCEOは37%に上ります。成果は出はじめていますが、データと信頼の土台が追いついていないのです。プロセスで遅れた日本が、データガバナンスとAIを前提とした「新しい標準化」で先に行ける時代が来ています。
M.S.:
日本企業が再び勝つための条件は何でしょうか。
細川:
「信頼を価値に変えること」です。世界の経営軸は、効率から信頼・品質・透明性へと移行しています。
私がこの世界に入った頃、メーカーは製品の品質に絶対の自信を持っていて、届けた時点で価値を証明しきっていました。「良いものを届ける」ことそのものが信頼の証明だったのです。しかし今は、届けたあとの履歴——環境負荷、原材料のトレーサビリティ、規格適合の継続的な証明——まで求められる時代になっています。信頼の証明に必要な範囲がまるで変わりました。
M.S.:
私はその「届ければ価値が伝わる」時代を知らない世代ですが、だからこそ今のプロジェクトで、データを全部つないで証明するということの難しさを日々痛感しています。
細川:
ある規制産業のクライアントは、含有物質、製造方法、性能、規格適合について、調達から輸出・海外市場までの全データをつないで説明できなければならないといいます。ポイントごとに品質を保つだけでは強みにはなりません。全部つないでトレーサブルにして、はじめて「信頼」が「証明」になるのです。
原産地証明が関税率を変え、環境データが資金調達コストに効き、品質を数字で語れる企業がプレミアム価格を維持できる。信頼は、もはや「姿勢」ではなく「経営指標」といえます。実際、PwCの第29回世界CEO意識調査では、信頼に関わる懸念が最も少ない企業は、最も大きい企業に比べて株主総利回り(TSR)が12カ月間で平均9ポイント高いという結果が出ています。「信頼を説明できる企業」が次のリーダーになるでしょう。
M.S.:
PwC、特にEnterprise Transformation Consultingのチームはどのような価値を発揮できるのでしょうか。テーマ軸でデータの信頼性を設計し、バリューチェーン全体をコーディネートしていく——正直、身が引き締まる思いです。
細川:
PwCの強みは、監査・税務・リスク・ディール・政策という多様な専門家が横断的に連携できることです。それらの知を企業構造に落とし込むために、システムとデータのアーキテクチャという共通言語で翻訳し、統合する。その役割を担うのが、私たちEnterprise Transformation Consultingです。
たとえば移転価格や関税が絡む案件では、税務の専門チームと連携し、「このバリューチェーン構造なら、データモデルはこう設計すべきだ」というところまで踏み込みます。地政学リスクについてもPwCのエコノミストが即座にレポートを出し、クライアントと一緒に戦略に落とし込んでいます。コンセプトを伝えるだけでもなければ、アセスメントするだけでもない。実データの設計まで落とし込んで実装する。その役者が揃っています。
M.S.:
実際にプロジェクトの中で感じるのは、クライアントの社内だけでは税務・規制・テクノロジー・業務設計を横断して判断できる体制を組むのが非常に難しいということです。そこの「つなぎ役」を求められる場面が確実に増えています。
細川:
PwCは監査法人を持つネットワークとして「データの正しさを証明する」ことに制度的な知見と実績があります。メンバーファーム間の連携を通じてそうした知見を活かすことで、経営戦略からテクノロジーアーキテクチャまでを一貫して設計できます。この「信頼の証明」と「構造の設計」を同時にできることが、他のファームにはない本質的な強みだと考えています。
オペレーションを支配するのはプロセス、企業価値を支配するのはデータ、その両方を制御するのがアーキテクチャです。
私たちは、経営・業務・データ・テクノロジー・AIを貫く視点で企業変革を導く「設計者集団」でありたいと考えています。
細川:
日本企業が長年苦労してきた「標準化と統制」の経験は、今、世界が直面している課題の縮図です。次の競争軸は、データの透明性、アーキテクチャの一貫性、そして信頼の再設計。
もし本日の話に共感いただけたなら、最初の一歩として自社のデータアーキテクチャの「現在地」を棚卸しすることをおすすめします。そのときに大事なのは、一般的な経営指標のツリーから入るのではなく、「今、自社にとって直接お金に換わるデータは何か」から入ることです。原産地証明、環境規制対応、品質トレーサビリティ——そこから見えてくる「つながっていなければならないデータ」が設計の起点になります。
PwCコンサルティングのEnterprise Transformation Consultingは、経営・業務・データ・テクノロジー・AIを貫く視点で企業変革を導く「設計者集団」として、その未来をともに描きたいと思っています。
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