
「デジタルエコシステムの最前線」コラム 第15回 「孤独戦略」の限界と、エコシステム形成の重要性
エコシステムの持続的な成長と競争優位性の確立に直結する、戦略適合性・実現可能性・協業手法の3つの観点とその評価軸について解説します。
2020-09-23
前編で解説したように、デジタル影響を踏まえると、スマートファクトリー・エコシステム戦略の方向性は、「バリューチェーンの広がり(モノ売り~コト売り)」と「データ利活用の広さ(自社~外部)」の2軸から大きく4つに分けられます。
(バリューチェーンの広がり:モノ売り、データ利活用の広さ:自社)
工場稼働状況をデータとして取得し、予測メンテナンスを行うことで故障を防ぎ設備稼働率を向上させることや、デジタルを活用し、熟練工の暗黙知を形式知化することなどが該当します。
(バリューチェーンの広がり:モノ売り、データ利活用の広さ:外部)
製造から集荷までの工場内データに加え、顧客の使用開始から終了に至るデータを取得し、製品の使用状況データを取得。これらのデータを解析して製造工程の改善や新製品の開発、顧客別のカスタマイズを行うことなどが該当します。
(バリューチェーンの広がり:コト売り、データ利活用の広さ:自社)
IoT対応家電やサブスクリプションモデルなど、既存の製品(モノ)をベースとしてビジネスモデルを変え、新たな付加価値を提供していくことが該当します。
(バリューチェーンの広がり:コト売り、データ利活用の広さ:外部)
エンジンの従量課金モデルなどの自社のモノと顧客データを活用したコト売りや、モノの稼働データと取引実績データを組み合わせて工場機器が将来生み出す利益を算出し融資を行うといった金融サービスを提供するなど、モノと自社内外のデータを基に異業種が連携してサービスを提供することが該当します。
コト売りのエコシステム形成に向けて、オーガナイザーが取り得る戦略の方向は大きく下記の二軸があると考えられます。一つ目は、バリューチェーンを広げ、モノ売りからコト売りへビジネスモデルを変化させることによって新たな付加価値を提供することです。例えばIoT対応家電やサブスクリプションでの製品提供が該当します。二つ目は、蓄積されたノウハウや顧客データの活用による付加価値の向上です。例えば、顧客による製品の使用状況を踏まえた生産工程の改善や新製品開発が該当します。
上記2つの方向のいずれかを経て、オーガナイザーはモノづくり×異業種のデータ活用による「コト売り」の新たなビジネスモデルの構築を行います。このため、オーガナイザーとしてのKSFは、既存の業界や慣習および自社工場のスマートファクトリー化に留まらず、モノを起点としてバリューチェーン上のデータを掛け合わせたコト売りのエコシステムを構想し、他のプレイヤーの参画メリットを訴求できることだと考えられます。
モノ売りからコト売りへのビジネスモデル転換や、異業種との連携を行うためには、顧客とデータに基づいた関係構築を行い、顧客の課題発見を行うことが重要と考えられます。例えば、小売店の店頭でエンドユーザーが商品を購入する際の選び方や他社製品と比較するポイントの把握、購入に至るエンドユーザーとそうでないエンドユーザーの違いをデータで可視化すること、また製品の稼働状況や使用環境に基づいて顧客との接点を増やし、使用方法の提案などを行うことが挙げられます。このため、KSFはデータの収集・蓄積に留まらず、データを活用して顧客とのリレーションを構築すること、課題を発見することが該当すると考えられます。
デジタルプロバイダーは、AI等のテクノロジー企業や、自社で製造を行いながら他社にもデジタルテクノロジーを提供する製造業が該当します。
デジタルプロバイダーは、自社のテクノロジーおよびテクノロジーに紐づくノウハウを提供するため、GAFAなどの大手テック企業に代替されない、“尖り”が必要となります。このことを踏まえると、KSFとしては、大きく二点があると考えられます。第一のKSFは、対象となる製造業の業界特性を踏まえた広範なデータの取得やデータ解析を行うなど、ソリューションの深さがあることを前提として、幅広い企業のシステムと接続可能な汎用性をあわせ持つことと考えられます。第二のKSFは、製造業以外の異業種と連携したエコシステムを形成する際に、製造業以外のデータもあわせた利活用を可能とするケイパビリティを有することです。
製品設計データや研究開発データ、顧客データ等は製造業の競争力の根幹に関わるデータです。またエコシステムとして事業を行う際には、各プレイヤーの保有するデータを活用する機会が増えていきます。このため、データの漏洩を防ぐ、あるいはサイバー攻撃からデータを保護するための、サイバーセキュリティやOT(制御・運用技術)セキュリティが必須となります。これに加え、IoTセンサーによって収集されるリアルタイムデータや、PLM(製品ライフサイクル管理)やMES(製造実行システム)などの多岐に渡るシステムをAPIで連携させて、製造機能のみならず、設計、調達、販売を含むバリューチェーン全体を強化していくことが求められます。これらのことから、システムプラットフォーマーのKSFとしては、セキュリティの堅牢性および他システムとの接続の容易さと考えられます。
スマートファクトリー・エコシステムにおいては、研究・開発・調達・製造・流通・販売など、バリューチェーンの各機能別にアライアンスを締結していくと考えられます。その際には、各機能固有の論点に答えを出すことが必要です。例えば共同で研究・開発を行う際の論点としては、データやテクノロジーなどの経営資源をエコシステムのプレイヤーと共有し有効活用しつつ、いかにそれらを保護していくか、共同研究・開発の成果物の帰属および利用範囲、アライアンス終了時の取り扱いをどうするかといった点が挙げられます。また、製造のアライアンスでは製造物の品質担保の方法や契約終了後のノウハウの取り扱いなどが論点となり得ます。いち早くエコシステムを形成していくためには、アライアンス開始までのスピードが重要となるものの、こうした各機能のアライアンス別に多岐にわたる論点に漏れなく対応していくこともあわせて重要となります。
アライアンスを行う際には、当然ながら企業文化やケイパビリティの異なる企業との連携が必要となります。例えば、デジタルプロバイダーと伝統的な製造業とでは、仕事のスピード感やデジタルケイパビリティなどが大きく異なることが想定されます。このため、オーガナイザーとしてもデジタルを積極的に活用し、各プレイヤーとのデジタル面のケイパビリティギャップを小さくしておくことが必要となります。
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