― 経営・事業・IT戦略と連動した「動的な人材マネジメント」への転換 ―

第2回 パーソルテンプスタッフ:IT・DX部門における人材ポートフォリオ・スキルアセスメントの推進事例

  • 2026-06-12

人材派遣・人材紹介・アウトソーシングなどの総合人材サービスを提供するパーソルテンプスタッフのテクノロジー部門は、PwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)とともに、経営・事業・IT戦略と連動した人材ポートフォリオおよびスキルアセスメントの刷新・運用に取り組んでいます。本対談では、第1回で紹介した「動的な人材ポートフォリオ」の考え方を踏まえ、取り組み開始の背景、運用を通じて得られた変化、そして今後の展望について、現場のキーパーソンに話を伺いました。

※法人名・役職などは対談当時のものです。

(左から)福井 優太、鈴木 美智子氏、本田 央子氏、髙塩 徹

IT・DX部門における動的な人材ポートフォリオの策定に踏み切った背景

福井:
パーソルテンプスタッフでは、以前から人材ポートフォリオやスキルアセスメントに取り組まれていたと伺っています。あらためて本田さんが所属するテクノロジー部門の役割をご紹介いただけますか。

本田氏:
私が所属するテクノロジー部門は、ITと情報セキュリティを統括し、事業に必要なシステムの企画・開発・運用を担う組織です。
安定的な事業推進を支える役割に加え、テクノロジードリブンの方針のもと、新たなプロダクト開発やデータ基盤の構築を推進し、業務価値向上を牽引しています。
今日お話しする人材ポートフォリオは、事業部門ではなくいわゆる間接部門・機能部門にあたるIT部門が対象となります。

福井:
ご説明ありがとうございます。それでは、今回、あらためて「動的な人材ポートフォリオ」の策定に踏み切られた背景を教えていただけますでしょうか。

本田氏:
人材ポートフォリオの策定に至った理由は大きく二つあります。

一つ目は、AIエージェントの登場をはじめとした技術進化のスピードが加速する中で、数年前に定義した職種やスキルが、現在、そして将来の事業戦略やテクノロジー部門に求められる人材像と徐々に合わなくなってきたことです。

二つ目は、人材を見る軸の変化です。従来は「幅広く対応できるゼネラリスト」を育成する方針のもと、人材ポートフォリオにおいても、業務を回せる人数やプロジェクトリーダー数、いわゆる職位といった指標を重視してきました。しかし、生成AIの急速な普及によって専門知識の民主化が進み、「何人いるか」以上に「何ができる組織なのか」、すなわち人材の“質”が問われるようになってきたと感じています。

福井:
技術変化が激しいIT領域では、過去に定義した職種やスキルが、経営・事業戦略と乖離してしまうケースは少なくありません。まさに、その課題を強く実感されたということですね。

パーソルテンプスタッフ株式会社 インフラデザイン部 ゼネラルマネージャー 本田 央子氏

人材ポートフォリオの刷新・運用によって見えてきた効果

福井:
今回、人材ポートフォリオをあらためて整理し、運用を始めてみて、現場や部門全体でどのような変化やインパクトを感じていらっしゃいますか。

本田氏:
最も大きな変化は、人材に関する議論の前提がそろったことだと感じています。
導入前は、各部門がそれぞれの経験や感覚で「この人材が足りない」「ここが弱い」と語っており、部門全体として何を優先すべきかを判断するのが難しい状況でした。

人材ポートフォリオを策定し、将来を見据えた人材の量・質を整理したことで、部門として目指す人材像と現状との差分が明確になりました。

PwCコンサルティングにご支援いただきながら各部門で必要人材を洗い出した結果、部門ごとに見えていた課題が、実は部門全体として共通する構造的な課題であることが分かり、この点は想像以上の成果でした。

福井:
単なる可視化にとどまらず、部門全体としての課題構造が整理された、ということですね。

本田氏:
はい。その結果、採用・育成・配置といった人材マネジメント施策の意思決定が大きく変わりました。
これまでは「直近の課題を解決できる人材を採用する」「個別に育成施策を検討する」といった対応になりがちでしたが、人材ポートフォリオをもとに議論することで、「どの領域に、どのレベルの人材が、どのタイミングで必要なのか」を具体的に整理できるようになりました。

その中でも象徴的だったのが、人材育成計画の策定プロセスの変化です。

これまでも人財育成計画の策定は実施していましたが、関係者間で前提条件をすり合わせるところから始める必要があり、育成計画の策定におおよそ3カ月程度を要していました。

一方で、人材ポートフォリオを活用して議論を進めることで、課題認識が統一化され、素案レベルではあるものの、約1カ月半程度で育成計画を策定できるようになりました。

期間を大幅に短縮できたこと自体も成果ですが、それ以上に、人材施策に関する意思決定をスピーディーに行えるようになった点は、大きな変化だと感じています。

限られた時間の中で、どこに投資すべきかを議論し、次のアクションにつなげられるようになったことは、テクノロジー部門としてのマネジメントの質を高めることにもつながっていると考えています。

福井:
お話を伺っていて印象的だったのは、期間が短縮されたこと以上に、議論の進め方そのものが変わったという点です。

前提条件のすり合わせに時間をかけるのではなく、「次に何を打つか」に早く踏み込めるようになったことは、日々のマネジメントにおいても大きな違いだと思います。

人材ポートフォリオは作って終わりではなく、運用を通じて価値が出てくるものですが、今回のお話は、まさにその点を体現されていると感じました。

図表1:人材ポートフォリオのイメージ

「粒度」と「正確さ」のバランスという難しさ

福井:
一方で、策定から運用に至るまでのプロセスでは、悩まれた点も多かったのではないでしょうか。

本田氏:
特に悩んだのは、人材ポートフォリオを「どこまで細かく、どの程度の正確さで作るべきか」という点でした。

数値の精度を高めようとすればするほど管理工数は増えますし、将来的に大きな組織変更があった際に、かえって使いづらくなるリスクもあります。一方で、あまりに粗いと、意思決定の材料としては十分ではありません。このバランスをどう取るかは非常に難しかったです。

福井:
その点については、いくつかの策定パターンを比較しながら、「戦略判断に使える精度」と「変化に耐えられる粒度」を議論させていただきました。具体的には、最終的なイメージ案を複数設計した上で、それぞれについて「活用目的への適合度」「職種・レベルにおける測定・運用しやすい粒度」「策定・運用にかかる負荷や時間」「将来的な変化への対応力」といった観点から分析・比較を行い、最適な案の導出をご支援しました。

本田氏:
はい。そのプロセスを通じて、「今の戦略判断に必要な精度はどこか」を整理できたのは非常に助かりました。

PwCコンサルティング合同会社 テクノロジー&デジタルコンサルティング
デジタル&AIトランスフォーメーション シニアアソシエイト 福井 優太

「粒度」と「正確さ」を固定化しない、運用を前提とした人材ポートフォリオ

本田氏:
また、今回策定した人材ポートフォリオは、基本的には従来の職種定義をベースに職種名を設定しています。ただ、今後も大きな組織変革や、採用など社外に向けた人材マネジメント施策を進めていくことを考えると、現在の職種名が最適かどうかについては、社内でも議論が出てきています。

より一般的で、かつ幅広く定義されている職種名に見直すべきではないかという意見もあり、現時点でも改善の余地はあると感じています。

髙塩:
ありがとうございます。事業環境や組織の状況が変化すれば、求められる人材像や、適切な職種の粒度・定義も変わっていくため、策定した内容を固定化するのではなく、実際の運用を通じて違和感や課題を捉え、継続的に見直していくことが重要です。

今後も状況に応じて最適な人材ポートフォリオにアップデートしていく取り組みについてご支援できればと思います。

PwCコンサルティング合同会社 テクノロジー&デジタルコンサルティング
デジタル&AIトランスフォーメーション マネージャー 髙塩 徹

スキルアセスメント刷新とツール活用の意義

福井:
ここからは、人材ポートフォリオの策定・運用を支える重要な取り組みの一つである、「現状分析のためのスキルアセスメント」を推進されてきた鈴木さんにお話を伺いたいと思います。

鈴木氏:
よろしくお願いします。

パーソルテンプスタッフ株式会社 ソリューションデザイン部
ゼネラルマネージャー 鈴木 美智子氏

福井:
鈴木さんは、テクノロジー部門のスキルアセスメントを以前から推進されていました。まずは従来のスキルアセスメントについて、経緯を教えていただけますでしょうか。

鈴木氏:
スキルアセスメント自体は、数年前から実施しており、主な目的は、メンバーの組織へのエンゲージメント向上のためでした。

具体的には、テクノロジー部門でどのようなキャリアを描けるのか、どのようなスキルや経験を積むことで、将来的にどの職種・ポジションを目指すことができるのかを理解してもらうことを重視していました。

そのため、職種の定義からスキルアセスメントまでを一連のサイクルとして回し、メンバー自身が現在地を把握できる仕組みとして運用していました。

福井:
まさに、人材を大切にされているパーソルテンプスタッフならではのキャリア施策ですね。実際にこのスキルアセスメントを数年間運用されてきた中で、見えてきた課題はありましたでしょうか。

鈴木氏:
当初はエンゲージメント向上が目的だったため、基本的には「本人が結果を確認でき、MGRとの目標設定で共通理解を深められるツールでよい」という考え方でした。そのため、表計算ソフトを活用したアセスメントツールで十分と判断していました。

しかし、人材ポートフォリオ策定という新たな目的に照らすと、集計や分析に非常に手間がかかり、フォーマットも最適化されていなかったことから、従来のツールでの運用には限界を感じるようになりました。

また、人材ポートフォリオやスキルアセスメントは、IT・DX部門に閉じた取り組みではなく、将来的には全社的に展開していくべき活動だと考えていましたが、表計算ソフトベースの運用では、他部署への横展開も難しいと感じていました。

福井:
自社で独自のアセスメントツールを開発し運用されていたものの、そのことが集計・分析や横展開の観点で課題にもなっていた、ということですね。

図表2:人材ポートフォリオ運用におけるスキルアセスメントの位置づけ

タレントマネジメントツールへの移行とその効果

福井:
こうした課題を踏まえ、今期はどのような取り組みを進められたのでしょうか。

鈴木氏:
今期は、より集計やデータ分析がしやすく、他部署にも展開しやすいタレントマネジメントツール上で、スキルアセスメント機能を開発しました。

すでに人事部門主導で導入されていたツールがあったため、IT資産を有効活用する観点から、そのツール上で追加開発を行っています。

福井:
実際にタレントマネジメントツール上でスキルアセスメント機能を開発・運用してみて、どのような変化や効果を感じていらっしゃいますか。

鈴木氏:
操作性や視認性が向上しただけでなく、集計や分析にかかる工数を大きく削減できた点が大きな変化です。

表計算ソフトでのツール運用時は、回答状況の把握や集計作業に時間がかかり、分析に十分な時間を割くことが難しい状況でしたが、ツール上では誰が回答済みかを即座に把握でき、運用負荷が大きく軽減されました。

その結果、スキルアセスメントの結果を人材ポートフォリオとひもづけて議論することが可能となり、単に現状を把握するだけでなく、「どの領域の人材を、どのレベルまで強化すべきか」といった具体的な施策検討につなげられるようになったと感じています。

福井:
可視化や効率化にとどまらず、人材ポートフォリオの運用そのものを支える仕組みとして機能し始めている、ということですね。

鈴木氏:
はい。今回、PwCコンサルティングにはスキル項目の整理や、人材ポートフォリオ推進の視点から、アセスメント機能・集計機能についてアドバイスをいただきました。

その結果、人材ポートフォリオの運用に耐えうる、実用性の高い仕組みを構築できたと感じています。

スキルアセスメントの今後の展望

福井:
最後に、スキルアセスメントの取り組みについて、今後どのように発展させていきたいとお考えでしょうか。

鈴木氏:
まずはテクノロジー部門をパイロットとして本機能を運用し、運用上のリスクや改善点を把握した上で、全社的な取り組みとしてスキルアセスメントの活用範囲を広げていきたいと考えています。

将来的には、人材ポートフォリオとスキルアセスメントを継続的に連動させることで、採用・育成・配置といった人材マネジメント施策を、よりデータにもとづいて検討できる状態を目指しています。

単年度の施策にとどまらず、中長期的な人材戦略を支える基盤として、スキルアセスメントを活用していきたいですね。

福井:
ありがとうございます。まさに、スキルアセスメントは単独で運用するのではなく、人材ポートフォリオと継続的に連動させながら、経営・事業戦略と人材戦略をつないでいくことに大きな意義があると感じています。今後、テクノロジー部門での運用を通じて得られた知見を全社へ展開しつつ、中長期的に活用し続けられるできる仕組みとして定着させていくうえで、PwCとしても引き続きご支援ができればと思います。

(左から)福井 優太、本田 央子氏、鈴木 美智子氏、髙塩 徹

執筆者

髙塩 徹

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

福井 優太

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

Email

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