AIとの対話で創造性を高める

先端事例から読み解く、AIと人間のこれからの関係性

  • 2026-05-21

近年、生成AIが私たちのビジネスや生活に急激に浸透しつつあり、もはや「AIを使うべきか」ではなく、AI活用を前提に「どう使いこなすか」「どんな価値を生み出すか」が問われる時代を迎えています。そこで今回は、クリエイティブ領域におけるAI活用に取り組む博報堂DYホールディングスでCAIO(最高AI責任者)を務める森 正弥氏をお招きし、PwC Japanグループ チーフ・AI・オフィサーの藤川 琢哉と互いの先端事例や調査・研究成果を共有しながら、AIとの共生、AIとの連携による価値創出の方法論などをテーマに意見を交換しました。(本文敬称略)

(左から)PwC Japan グループ チーフ・AI・オフィサー藤川 琢哉、株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員 CAIO 森 正弥氏

登場者

株式会社博報堂DYホールディングス
執行役員 CAIO
Human-Centered AI Institute代表
森 正弥氏

PwC Japan グループ
チーフ・AI・オフィサー
PwCコンサルティング合同会社
パートナー
藤川 琢哉

※所属法人名や肩書き、各自の在籍状況については掲載当時の情報です。

クリエイティブ領域で加速する、「獲得」と「認知」の両面からのAI活用

藤川:
近年、私たちのビジネスにおいてもAI活用が浸透しつつあり、仕事のプロセスや価値創造のあり方が大きく変わってきたと感じています。現在は各業界、各企業がそれぞれ試行錯誤を重ねている状況だと思いますが、博報堂DYグループのようなクリエイティブな業界では、どのような考え方でAIを活用されているのでしょうか。

森:
私たちが担う広告・マーケティングの領域では、戦略策定からプラニング、各種コンテンツ制作などのクリエイティブ、メディアへの落とし込みまで、すべての重要なステップでのAI導入を進めています。

2024年6月には、各領域で個別に扱われていたデータやツールを掛け合わせて、新たな統合マーケティングプラットフォーム「CREATIVITY ENGINE BLOOM(クリエイティビティ・エンジン・ブルーム)」を開発。このプラットフォームは、当社が長年にわたり蓄積してきた生活者データベースとも連携しており、多様なクリエイティブ・マーケティング機能を提供しています(図表1)。

図表1:CREATIVITY ENGINE BLOOMの基本構造

出所:株式会社博報堂DYホールディングス

藤川:
森さんが代表を務める博報堂DYグループのAI研究所「Human-Centered AI Institute」では人間中心のAIを目指しているとのことですが、このプラットフォームでは、その目標をどのように達成されようとしているのでしょう。

森:
広告・マーケティング業界における活動や施策は、大きく獲得系と認知系に二分されています。獲得系はデジタル化が進むパーソナライズ、マッチングなどは顧客獲得のための領域ですが、そもそもどんなブランドを創出するのか、どんな戦略で展開するのかなどを考えるのは認知系の領域です。

どちらの領域でもAI活用は重要ですが、使われ方が異なります。獲得系で問われるのは効率化とスピードであって、AIに期待されるのはタスクを代替すること。一方、認知系ではより本質的なクリエイティブが求められ、AIに期待されるのは思考の拡張です。このように、私たちはAIに求められる機能を、獲得系ではオートメーション、認知系ではオーギュメンテーションと捉え、両者をバランスよく組み合わせることを重視しています。CREATIVITY ENGINE BLOOMでも、両者を掛け合わせて、ある場面では自動化で効率を高めながら、一方では創造性を高めていくという機能を実現しています。

そして、これらを支える仕組みとして、人間中心のAIという考え方を基にアルゴリズムやロジック、UXを構築する独自の発想支援基盤「生活者発想プラットフォーム」を開発しています。企業内の知見やデータを集約し、創造性を高めるプラットフォームとして、生活者と顧客企業をつなぎ、支える存在になっていく、それが私たちの目指す姿です。

「暗黙知」を「組織知」に変え、AI時代に信頼されるプロフェッショナルへ

藤川:
クリエイティブの現場でAIを活用されて、課題に感じていることはありますか。

森:
よく言われるのが同質化の問題です。AI活用が進むことで、コンテンツがどんどん同じようなものになり、競争力を失ってしまうのではという懸念です。実際、クライアントの間でも「コンセプトも表現も他社と似通ってきて、違うのはロゴだけになるのでは」というような懸念も聞かれます。あるクライアントからは「AIを使うと制作物のクオリティは上がるが、表現の幅が狭くなる」「社員が考えなくなる」と言われたこともあります。

藤川:
差異化が求められるクリエイティブの領域において、同質化は大きな課題ですね。いかに効率化と創造性のバランスを取るかが問われるところだと思います。

一方で、私たちプロフェッショナルサービスの領域では、同質化は「底上げ」とも言えます。全社的なサービス品質のレベルを高めるという意味では、非常に価値のあることと捉えています。そうした観点から生まれたのが、2025年10月にリリースした「Knowledge Fusion Platform」です(図表2)。

Knowledge Fusion Platformは、野中郁次郎氏が提唱する「SECIモデル」における4つの変換プロセス「暗黙知→形式知→内面化→共有化」をAIでドライブさせようという発想で開発した、社内知見を全社で共有・融合するためのプラットフォームです。

社内のプロフェッショナル一人一人が培ってきたナレッジをクライアント企業を特定できないように匿名化した上で集約し、それらを学習したAIが要求に応じた形で出力します。これにより、新人でも社内に蓄積された専門的知見を活用して、高いレベルの資料を短期間で作成できるようになります。

図表2:Knowledge Fusion Platformのアプリケーションとアウトプット例

森:
確かに「底上げ」という面では大きな価値があると思いますが、プラットフォームによって資料作成の効率が上がる一方で、プロフェッショナルはこれから何を武器にしていくのかが気になります。

藤川:
AIによる効率化について、「空いた時間が利益を生み出す時間になるのか」という議論があります。単に、コーヒータイムを増やすだけなのではないか、と考える人もいるのです。ただ、実際にKnowledge Fusion Platformを使ってみた結果はまったく異なります。

私たちの仕事は回転数が上がれば上がるほど、無限に品質を高め続けていくもの。資料集めやスライド作成などにかけていた時間を短縮することで、クライアントへの提案の質や量、スピードのいずれにおいても以前とは比較にならないほど高まっています(図表3)。

図表3:Knowledge Fusion Platformによる支援活動サイクル数の向上イメージ

森:
確かに、当社グループのクリエイターも、AIでいろいろなことを短時間で試せるようになったことで、とことんこだわれるようになっていますね。社員教育の観点で見て、どのような影響があるのでしょうか。

藤川:
新人育成について、重視するポイントが変わってきたという印象です。これまではスライド作成のノウハウも求められてきましたが、そこはAIで代替できるようになってきた。これからは、資料を通して何を伝えるべきか、いわば「問いを立てる力」が求められるでしょうし、森さんが話したような「こだわり」、言い換えれば、自分なりの強い意志やビジョンを持って、それらを資料に落とし込んでクライアントに伝える能力が重視されます。

森:
スタンフォード大学のジェレミー・アトリー教授は、創造性を「最初に思いついたこと以上のことをすること」と定義しています。AIが出した答えは「最初に思いついたこと」であって、「それ以上のこと」を実行できて、はじめて創造性があると認められます。

提案の量を増やすだけでなく、そこにプロフェッショナルスタッフの意思やこだわりを込めて「それ以上のこと」にするための、いわば発射台を高めることが重要ですね。

藤川:
おっしゃるとおりです。プロフェッショナルが自身の意思を乗せることで、クライアントとのより深い議論につながります。それによって得られるのは、クライアントからの信頼です。課題解決のご支援はもちろん、これからは「うちのAIがこう言っているけど、どう思う」と相談されるような立場になってくるのではと考えています。

AIが人の創造性を高めるには、インタラクションを誘発するUIが重要

藤川:
創造性を高めるという観点で、CREATIVITY ENGINE BLOOMはどのように設計されているのでしょうか。

森:
「STRATEGY」領域でコンセプトメイクを担うモジュールとして、当社グループ企業のChief Creative Officer(CCO)である細田高広のノウハウを形式知化した、「STRATEGY BLOOM CONCEPT」(通称「細田AI」)があります。その特徴は、クリエイターとインタラクションする仕組みになっていること。AIが「そもそも何が目的なのか」「誰を幸せにしたいのか」などと問い返すことで、クリエイターがしっかり考えないと使えない仕組みになっています。

単にAIに答えてもらうのではなく、「問う・問われる」を繰り返すことで、使う側も自然と多角的に考え、自分の中から新しい発想を引き出していく。いわば、あえて負荷をかけることで創造性を高める仕組みにしています。

株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員 CAIO 森 正弥氏

藤川:
チャット型のAIが普及したことで、こちらの質問にAIが答えてくれるプル型のUIが当たり前になっています。ただ、創造性を高めるためには、AIが自分から会話に入ってきて人間に質問をしてくるようなプッシュ型のUIが求められるということでしょうか。

森:
当社グループのクリエイティブディレクターが「クリエイターの仕事は3つの言葉で表現できる」と言っています。クライアントから依頼を受けたとき、まずは「そもそも」で意図や背景を探り、「例えば」を繰り返して具体化していく、最後に「つまり」で結論づけるというものです。

これはAI活用においても重要なフレームで、「そもそも」と「例えば」はAIで代替できますが、「つまり」だけは人間がやらないといけない。ところが実際のAI活用は、最初から「つまり」を聞いてしまいがちで、そこが問題だと思っていました。

藤川:
AIと対話を重ねて「つまり」を導き出し、ブラッシュアップしていくことで、AIを使う側の創造性が高まるわけですね。そうした「AIと人とのインタラクション」を誘発するために、AIから質問してくるというプッシュ型のUIが生きている。

森:
UIに関しては、弊社の研究活動において、チャット型だと集中力や創造性が下がってしまい、アバター型だと上がるという傾向がみられました。

これを見ても、やはりAIに問うだけのUIだと人間の集中や創造性は下がってしまう。だから逆に、AIに問われるような設計にして、創造的負荷をかけることが大切だと思います。

藤川:
アバター化することで、目の前に人がいる実感が得られて、より対話しやすくなるのでしょうね。

UIについては、PwCコンサルティングでも脳科学の専門性を生かした構想があります。生成AIの利用が人間の脳機能に与える影響を分析し、最適な生成AI活用環境を構築するコンサルティングサービスを2026年4月に開始しました。これは、AI利用時のユーザーの表情から脳が活性化しているかどうかをアセスメントし、最適化や改善を繰り返しながら「人とAIがともに成長する」業務プロセスの構築をするというものです。

このサービスの発展形として、ユーザーの脳の活性化の度合いを数値化し、AI利用中の画面に表示すると面白いのではないかと考えています。これによって、「脳がサボってるな」と気づいたり、ゲーム感覚で「スコア上げよう」と意識しながら、もっと表情豊かに、考えながらAIと対話するような環境が作れるのではないかと考えています。

PwC Japan グループ チーフ・AI・オフィサー藤川 琢哉

森:
それは面白いですね。AIとの対話については、特に若い世代において、情報を調べたり整理したりするよりも、相談相手にしている人が増えているというデータもあります*。従来、マーケティングの世界ではAIDMA(Attention・Interest・Desire・Memory・Action)やAISAS(Attention・Interest・Search・Action・Share)といった行動モデルをいかに短縮するかが問われていましたが、こうしたデータを踏まえて最近ではむしろ、それらの前段にある「相談」の部分をどう価値化するかがより重要ではないかと考えています。

藤川:
AIに相談するというのはかなり高度なAIの使い方だと感じます。ビジネスの領域においては「社内情報を検索するためのAI」「書類の間違いを探すAI」のように、特定のユースケースに絞って正解を出すようなAIの導入から進んでいる印象です。PwCコンサルティングの支援においても、そのようなプロンプトでのAIへの指示出しを前提とした提案を求められる機会が多くあります。もっとラフな会話の中で、自分でも気づいていない考えを引き出していくようなAI活用のありかた、UIを設計することで、AIの価値を高めていかないといけないですね。

AIが人間のネットワークを広げつなげる未来

藤川:
今日はいろいろと未来に向けたヒントになる話が伺えましたが、最後に、森さんや博報堂DYグループが考えるAI活用の未来図があれば、教えていただけますか。

森:
当社グループでは、CREATIVITY ENGINE BLOOMの機能を拡充させつつ、将来的にはグループ内だけでなくクライアントや協力会社にも使ってもらえるプラットフォームとして機能する未来を目指しています。

AIを使って創造性を高めるには1.問うだけでなく問われる、2.インタラクション、3.コラボレーションの3段階があり、最後にはAIを媒介にして人間同士がコラボレーションすることが重要だと考えています。皆がプラットフォーム上でつながることができてはじめて、本当の意味で創造性が高まる基盤が生まれるでしょう。

藤川:
私たちも同じことを構想していて、産業全体で「AIを介した人と人とのつながり」を実現したいと考えています。例えば、社員一人一人にAIの分身を持たせて、AI同士が質問・相談する仕組みを構築するような構想です。AI同士の会話の結果「実際に本人に聞きましょうか」となれば、人間同士のリアルなコミュニケーションに発展していく。まさに、AIが触媒になって人間同士のつながりを生み出してくれると期待しています。

森:
AIが介在することで、人間だけではできなかった広範なネットワークが構築でき、より大規模なコラボレーションが可能になる。まさにその方向ですよね。AI同士のコラボレーションも進んでいくと思うのですが、それだけではなく、AIを介した人間同士のコラボレーションで新たな価値も創出していくことが、理想の形だと思います。

藤川:
そんな未来を作っていけたらいいですよね。今日は本当にありがとうございました。

* 博報堂DYホールディングス Human-Centered AI Institute, 2025.「AIと暮らす未来の生活調査2025」

主要メンバー

藤川 琢哉

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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