
医彩―Leader's insight 第9回 900のアイデアを原動力に――中外製薬が実践する生成AI活用とは【後編】
中外製薬では、全社を挙げて生成AIの業務活用に取り組んでいます。後編では現場にフォーカスを移し、900件を超えるユースケース提案の選定プロセスや生成AI導入時の課題、それらを乗り越えるために採用した「大規模アジャイル」の運営手法について伺いました。
産官学金が連携した地域共創を実現するため、岡山に移住したPwCコンサルティング専務執行役パートナー・安井正樹。中国銀行(2022年10月3日に株式会社ちゅうぎんフィナンシャルグループを設立し、持株会社体制に移行)が新たに立ち上げたコンサルティング会社「Cキューブ・コンサルティング」を代表取締役としてリードするためPwCコンサルティングを退職し、同じく移住することを決断した西原立氏。岡山への郷土愛を共有しながら、それぞれの立場で連携する2人が、地方銀行を中心に地域のプレイヤーを共創に導く「岡山モデル」を事例に、地域共創のカギについて語り合いました。
今回の対談を通じ、「岡山モデル」には全国の自治体や地方銀行、地域に興味がある大手企業にとって有益なナレッジが次々と浮かび上がってきました。対談の議事進行は、PwCコンサルティングの地域共創推進室事務局長として、自らも地域の課題解決に取り組む井村慎が行いました。
対談風景(右からCキューブ・コンサルティング代表取締役社長・西原立氏、PwCコンサルティング専務執行役パートナー・安井正樹、同社地域共創推進室事務局長・井村慎)
安井:
岡山で地域共創に取り組んでいる大きな理由は、まず私や西原さんが岡山出身であり、郷土愛があるからです。「岡山をよくしたい」「岡山を持続的に成長させたい」、そのために、自分たちの力が役に立つのではと考えています。実際、岡山には私たちを頼りにしてくれるニーズがあります。
また、マクロ的な観点からの理由もあります。現在、日本のGDPは東京都・大阪府・愛知県・神奈川県を合わせても全体の4割程度であり、実はそれ以外の地域で6割を占めています。また、2100年に日本の人口は半減するという推計があり、人口ベースで考えると、将来的に日本のGDPの6割を占める地方のGDPは半分になります。人口減少のスピードは地方のほうが速く、地方の生産性を劇的に高めなければ、日本のGDPは縮小していく可能性が高いと言えます。一方、PwCコンサルティングがこれまでに培ってきたケイパビリティを活用すれば、岡山において劇的な生産性の向上を実現できると考えています。
また、地域に着目してビジネスを立ち上げ、日本全国や海外で展開したいという大手企業は増えており、一緒に課題解決に取り組みたいというニーズがあることも理由の一つです。地域共創の取り組みはPwCのパーパスである「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」にも適合した取り組みとして推進しています。
西原:
岡山はさまざまな領域で都道府県ランキングでも中庸な順位になることが多いですが、平均的であるがゆえに、どの地域でも岡山での成果を展開しやすいと考えています。岡山における地域共創の取り組みを「型化」すれば、全国展開するための起点となれる可能性が高く、これからの社会に対して、岡山が果たせる役割は大きいと考えています。
PwCコンサルティングに在籍していたときに訪れた全国各地と比較し、故郷を振り返ったときに「もっと岡山のポテンシャルを引き出したい」「同じく郷土愛を持っている安井さんが切り開いた地域共創の道を自分も歩いていきたい」と思いました。移住して地域に寄り添うことが地域共創にとって重要だと考え、PwCコンサルティングを退職し、ちゅうぎんフィナンシャルグループのコンサルティングファームの社長に就任することを決断しました。
安井:
平均的で展開しやすいこと以外に、大手企業の視点に立って岡山の魅力を考えると、岡山には多様な産業が揃っており、さまざまな課題に関して実証実験できるフィールドがあることも特徴の一つです。また、ちゅうぎんフィナンシャルグループをはじめ、大学・行政・病院・メディアなどのキープレイヤーが比較的つながりやすく、オープンイノベーションを行いやすい素地もあります。そのため、大手企業にとって岡山はオープンイノベーションの実証実験を行い、その成果を東京や全国で展開するためのフィールドと言えるでしょう。
郷土愛に根差した地域共創について語る安井
安井:
PwCコンサルティング流の地域共創の特徴として、(1)産官学金のさまざまなプレイヤーと連携して「共創」していること、(2)どの地域でも再現できるような「型化」を意識していること、(3)私や西原さんのように成果を上げるために移住まで行う地元密着型であること、などが挙げられます。
(1)の共創が必要な理由は、1つのプレイヤーだけでは地域が抱えるマクロの課題は解決できないからです。PwCコンサルティングの特長として、さまざまなキープレイヤーと信頼関係を構築し、非常に多面的に地域共創に取り組んでいることが挙げられます。
「産」に関しては、まずPwCコンサルティングとCキューブ・コンサルティングが郷土愛を共有しながらしっかり連携しています。また、大手企業のクライアントを岡山につなげる取り組みも行っています。
「官」に関しては、私は岡山市のアドバイザーを務めていましたし、西原さんは「地域脱炭素創生・岡山コンソーシアム」の設立に携わっている関係から、行政との関係性も良好です。
「学」の具体例としては、サイバーセキュリティの領域で大学と大手企業をつなげたり、ヘルスケアの領域で大学を中心としたプラットフォームを作ったりと、「学」のポテンシャルを引き上げる取り組みを推進しています。
「金」については、ちゅうぎんフィナンシャルグループが新たにコンサルティングファームを設立しましたが、それこそがCキューブ・コンサルティングです。
(2)の「型化」については、全国の地域に適用可能な「岡山モデル」を作ろうとしています。中国銀行が岡山の企業が抱えている課題やニーズを把握し、PwCコンサルティングが課題解決を支援するというB2B2Xのモデルがそうですが、岡山の課題を持続的に解決し続けるためには、地場のコンサルティングファームであるCキューブ・コンサルティングの存在が不可欠です。同社には責任をもって岡山の課題を解決する、社会の公器としての役割を期待しています。
このように地方銀行と連携したビジネスの在り方や、責任を伴う社会的役割までを「型化」し、全国各地の地域共創にインパクトをもたらすことが、私と西原さんが共有しているビジョンです。
これらが円滑に進んでいる大きな理由が(3)の地元密着型であり、岡山では、私や西原さんが移住したこともあって地域の共創の関係をつなぎ、共創による型化を進めることができていると言えます。
西原:
地方銀行が有しているネットワークや信用力を活用しながら、PwCコンサルティングのようなコンサルティングファームが、地方銀行がノウハウを持たない領域を補うことで、双方や地域にとって良い形で課題解決を行うことができると考えています。
Cキューブ・コンサルティングの代表取締役に就任してから3~4カ月しか経っていませんが、中国銀行経由で話をしてもらうことで、岡山の多くの市長や町長とお会いできています。また、会合の頻度も高く、1週間に2~3つのペースで自治体の首長にお会いできており、地方銀行が持っているネットワークや信用力の高さを実感できる良い例です。
ある程度広域なエリアにおいて、さまざまなプレイヤーの連携によるコレクティブインパクトを出そうとすると、地方銀行のようにネットワークや信用力を持つ「ハブ」としての存在は絶対に必要です。単純に多数の人が集まってもコレクティブインパクトにはつながりません。ハブとなる存在自らもスポークを持っているが、それでも足りないピースがたくさんあるから多様なプレイヤーが集まり、連携するというのがコレクティブインパクトでしょう。
全国の地域における標準的な構造において、地方銀行がハブとしての役割を担うことは適しており、そうしたハブの存在意義を高められるかどうかが、ほとんどの地域にとっての課題なのではないでしょうか。
安井:
ハブ機能が無いがために、地域共創が尻すぼみしてしまうケースは多いと思います。
井村:
デジタル田園都市構想の基本的な方針では、「地域間連携の先駆的なモデルとなり得る事業の推進や好事例の横展開を図るため、国において事業の採択や地域の選定等を行う際に、地域間連携を行う取り組みを評価・支援する」とされています。PwCコンサルティングとしても「岡山モデル」で成果を上げ、それを横展開していけると良いですね。
ちゅうぎんフィナンシャルグループのネットワーク・信用力の重要性を語る西原氏
PwCの地域共創推進室は、地域に寄り添いながら、さまざまな専門人材が組織の枠組みを越えて連携することを促進する横断組織です。地域における共創を実現するためには、地域社会全体にとっての利益を意識し、地域愛を共有しながら、多様なステークホルダーの考え方やリソースを包摂すること、そしてその活動を全体的な観点から最適にファシリテートすることが重要となります。地域共創推進室では専門性の高い知見やスキル、高度な調整力および実行力を活かしながら、地域に関わる当事者の1人として望ましい地域を創っていきたいと考えています。
中外製薬では、全社を挙げて生成AIの業務活用に取り組んでいます。後編では現場にフォーカスを移し、900件を超えるユースケース提案の選定プロセスや生成AI導入時の課題、それらを乗り越えるために採用した「大規模アジャイル」の運営手法について伺いました。
中外製薬では、全社を挙げて生成AIの業務活用に取り組んでおり、現場からの900件を超えるユースケース提案を取りまとめています。前編ではDX戦略の全体像から生成AI推進体制の構築、さらに「アウトカムドリブン」による戦略目標と現場ニーズの両立について伺いました。
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