ビジネスドメインの再定義

2050年、激変する市場を勝ち抜くために今すべきこと(後編)

  • 2026-02-18

PwCが2024年に行った「第28回世界CEO意識調査」によると、日本のCEOは自社の事業の将来に対して悲観的という様子がうかがえます。同調査で「現在のビジネスのやり方を変えなかった場合、経済的にどの程度の期間存続できるとお考えですか」との問いに「10年未満」と答えた日本のCEOの割合は47%でした。悲観的な回答の割合は年々低下傾向にあるものの、海外企業と比べても高い水準にあり、日本では自社ビジネスの存続に自信を持てない経営者が多いと見られます。

長期的なビジネスを考える上で重要となる視点は何でしょうか。鍵となる「ビジネスドメインの最適化」について、戦略・コーポレートファイナンスを専門とする3名が対談を行いました。

(左から)土田 篤、栗田 亮介、原田 英始

(左から)土田 篤、栗田 亮介、原田 英始

登場者

土田 篤
PwCコンサルティング合同会社 パートナー

栗田 亮介
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター

原田 英始
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー

※法人名、役職などは掲載当時のものです。

考えるべきは事業ポートフォリオの将来デザイン

土田:
これまで企業変革に向けて、自社のビジネスドメインを見直し、事業立地を最適化することについて述べてきましたが、限られた経営資源を有効活用するには、事業の取捨選択を迫られるケースも出てきます。日本企業は伝統的に雇用を守る意識も強く、事業ポートフォリオの入れ替えが進みにくい一方、大胆な事業ポートフォリオ入れ替えにより、持続的な成長を実現し、株式市場から高い評価を受けている企業もあります。

栗田:
ビジネスドメインをシフトした事例として、富士フイルムのヘルスケア事業があります。富士フイルムは2000年代後半以降写真フィルム事業を基盤とした事業からの多角化へと舵を切り、2010年代からはヘルスケア領域へ経営資源を集中させる戦略を採用しました。現在、セグメント別の売上はヘルスケアが連結売上高の30%超となっており事業の大黒柱へと成長を遂げています。株式市場でも同社が積極的に事業ポートフォリオの入れ替えに取り組んだことは評価されています。

原田:
もう一つの例として、日立製作所を挙げることができるでしょう。日立製作所では、利益が出ている事業でも将来のビジョンとの関連が薄い場合は売却し、事業ポートフォリオを刷新してきました。リーマンショックで巨額の損失を計上した後、社会イノベーション事業への集中を決断し、その後約10年で、売上高合計にして約3兆円に相当する事業を売却し、またほぼ同規模の企業の買収を実行するなど、事業環境の変化に対応しています。こうした事業ポートフォリオの入れ替えの決断は、株式市場からの高い評価にもつながっています。

土田:
このような大胆な選択ができたのは骨太の戦略、すなわち将来どのような会社になろうとしているかの明確なビジョンがあったからだと思います。富士フイルム、日立製作所ともに、いずれも経営の危機を認識し、強い危機感を持ってビジネスドメインのシフトに取り組みましたが、平時の経営環境下で大胆な事業ポートフォリオ転換に踏み切ることは難しいのが現状です。

栗田:
この両社のように一度事業ポートフォリオを見直した企業は、事業の売却もオプションの一つであることを理解しており、経営戦略の選択肢が広がっている印象があります。すなわち、事業ポートフォリオの柔軟な入れ替えを成長につなげています。

PwCコンサルティング合同会社 パートナー 土田 篤

原田:
事業が元気なうちに売却して、新たな成長分野に再投資し、いいお金の循環を作っている企業は存在しますし、事業から撤退するにしても判断が早いほど選択肢は増えます。一方で、判断が遅れてしまう企業も目立ちます。赤字になってから売却を考えてもうまくはいきません。変化に対応した者が生き残るという言葉の重みを感じます。

土田:
日本企業のマネジメントの中では、「事業ポートフォリオマネジメント」というと2000年代の業績改善に向けた選択と集中のイメージが根強く、撤退する事業を検討することだと捉えられることが多いと感じます。

栗田:
事業ポートフォリオのバランスを考える上では、成熟した事業から得られるキャッシュを次世代の事業に振り向け、企業価値を最大化するサイクルを経営戦略に埋め込んでいく発想が大事です。要は今の事業の良しあしをスナップショット評価するのではなく、将来の事業ポートフォリオをどうしたいか、どこに経営資源をより投下していくかを考える必要があります。

原田:
資本効率の悪い事業に資金が寝かされていたり、多くの人員が振り分けられたりしているのは、成長シナリオが描けていないことにも起因すると思います。企業経営全体の盤面を見て、中長期で成熟事業、成長事業をどのような時間軸でどういう方向へ動かし、5年・10年後にどういう事業ポートフォリオ構成すべきか、いかに事業ポートフォリオ全体の鮮度を保っていくかを考えることが重要ですね。

土田:
もう1つ、特定の事業に特化した企業では、やめる事業がないから事業ポートフォリオの発想はなじまないと思われるケースもあります。

栗田:
事業ポートフォリオの発想は「事業」という単位にこだわるのではなく、戦略的な位置付けの違いなど、方針が異なるユニットで分けるといいと思います。単一ドメインの企業でも成長領域があり、成熟領域があるということです。例えば、商品ラインナップが限られている食品メーカーにおいても地域ごとに戦略が異なりますし、航空会社においても、航空事業の中で国内線・国際線・LCC(Low Cost Carrier)それぞれで方針が異なります。このように、同じ事業の中にも地域・製品/サービス・顧客などで分けてみる、その上で目指すベクトルが違うものは別々に管理する必要があります。

土田:
事業の方向性が違えばそこに投資する金額や、成長投資・維持更新投資など資金の性質も変わります。それをキャピタルアロケーションに落とし込むことは、戦略を適切に実行する後押しにもなるので重要です。

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 栗田 亮介

将来の企業のあり方を決めることこそ経営者の仕事

土田:
日本の経済発展とともに内需に支えられて成長してきた企業は、市場の成熟が進む中、将来の人口減少に不安を抱えています。昨今求められる「資本効率を意識した経営」の下、効率性を追求することで何とか利益水準や資本効率を保っているのが現状です。海外市場に挑戦する企業も多いですが、海外市場に向き合えるのは一部の企業に限られています。

こうした中、日本企業が海外のコングロマリット企業のように、成長市場や成長する事業への転換に踏み切るにはどうすればいいでしょうか。

栗田:
ビジネスドメインのシフトは非常に大きな意思決定であり、2、3年で答えが出るものではありません。10年後、20年後の社会構造の変化がどのようになっているかを描き、そこから逆算して事業の在り方を検討していく必要があります。例えば、20年後に食肉のための畜産が規制を受けることが予想されるのであれば、10年後には培養肉の量産方法を確立しなければならないという発想です。ビジョナリーに将来を考えて、将来目指すべき世界が描けているとシフトしやすいはずです。

原田:
現在の環境だけ見ても将来の予想はできません。10年後、20年後の社会では何が求められているのかを想像する必要があります。将来の社会における成長領域を見定めて、自社の事業をピボットしていくことが重要です。

こういった議論は、日々の数字に追われがちなミドルマネジメント層では深まりにくいのが現実です。やはり目線を遠くに振って逆算して考えるのは、トップマネジメントの仕事になるかと思います。ビジネスドメインの見直し・事業ポートフォリオ再編による成長ドライブを促すことこそ経営者の仕事であることは認識してほしいところです。

土田:
経営者も各事業部の出身者のことが多く、事業部門の考えを知りすぎているがゆえの難しさもありますが、一線を引いた経営判断が求められますね。

経営者は盤面を俯瞰するだけでなく、歴史の時間軸からも会社を見てほしいと思います。経営者の評価は後世行われます。将来、先輩たちが大きな決断をしてくれたことが今につながっているというような経営判断を今することで、後世に優れた事業を残してほしいと思います。大きな経営判断により、社内の摩擦が起きることもあるかもしれませんが、将来の会社のあり方をデザインし、変革をやり切ることこそが経営者の仕事ではないでしょうか。

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 原田 英始

主要メンバー

土田 篤

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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栗田 亮介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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原田 英始

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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