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PwCが2024年に行った「第28回世界CEO意識調査」によると、日本のCEOは自社の事業の将来に対して悲観的という様子がうかがえます。同調査で「現在のビジネスのやり方を変えなかった場合、経済的にどの程度の期間存続できるとお考えですか」との問いに「10年未満」と答えた日本のCEOの割合は47%でした。悲観的な回答の割合は年々低下傾向にあるものの、海外企業と比べても高い水準にあり、日本では自社ビジネスの存続に自信を持てない経営者が多いと見られます。
長期的なビジネスを考える上で重要となる視点は何でしょうか。鍵となる「ビジネスドメインの最適化」について、戦略・コーポレートファイナンスを専門とする3名が対談を行いました。
(左から)土田 篤、栗田 亮介、原田 英始
登場者
土田 篤
PwCコンサルティング合同会社 パートナー
栗田 亮介
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
原田 英始
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
土田:
日本の経営者が自社のビジネスの将来に自信が持てないのはなぜでしょうか。経営者のマインドに影響を与えているのは何だと考えますか。
栗田:
日本の経営者の将来に対する自信の少なさは、外部環境の移り変わりの激しさに起因していると思われます。将来の社会がどのように変化するかを予測することの困難さが年々増大し、将来のビジョンをうまく描けない経営者が多いのではないでしょうか。
原田:
国内が人口減少を迎える一方で、生成AIをはじめとしたテクノロジーが急速に進展するなど、外部環境の不確実性を増大させる要因は多くあります。このような環境変化に対応すべく、大型のM&Aを伴うような業界再編、従来は想像もしなかったような異業種の参入など、企業の対応もダイナミックになり、これが環境変化をより複雑化させている印象です。国内M&Aの統計や近年のディール内容からも、異業種間のM&Aはおおむね増加傾向にあり、従来よりも業界の垣根自体が変わりつつあると言えます。
土田:
このような環境下、特に長年にわたり特定の事業を営んできたような企業ほど、変化にどう対応すべきか、頭を悩ませているようにも思えます。自社の事業を時代に合わせてどう変革し、どう次世代に存続させるか、生き残り戦略が必要ですね。
栗田:
競合企業の淘汰を待つだけでは消耗戦に巻き込まれることになります。どのような形で勝ち残る企業になるのか、明確なビジョンが必要です。また、既存事業が元気なうちに将来へ向けて次世代に向けた成長戦略を描いておかなければ、企業の持続的な成長は心もとなくなります。
原田:
将来の見通しを明るくするには、成長領域に自社のビジネスドメインを持つことが不可欠ですね。国内の人口減少に伴い、内需に依存した多くの市場において、事業立地が悪くなっていくことは明白です。新たなビジネスドメインを見いだすのか、既存ビジネスドメインでもまだ成長が見込める海外市場に展開していくのか、選択を求められている企業は多いでしょう。
土田:
資本効率の改善が進み、足元の業績は良くても将来へ向けた成長シナリオを示せないと、株式市場からの評価は上がらない。多くのPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業は、そのような状態に陥っているのではないでしょうか。これを変えていくためには長期的な視点での企業変革が必要ですね。
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 土田 篤
土田:
成長事業を育成することは多くの企業でも意識されていると思いますが、ではそのために企業は何をすべきでしょうか。多くの企業が成長領域の事業育成に苦戦しているようですが、事業育成が進まないのには日本企業が抱える固有の問題があるように思います。
原田:
成長事業が必要であると頭では理解していても、日本企業は長らくデフレ経済下にあったため、今の現役世代には高成長事業をけん引した経験のある人材があまりいません。また、コスト削減や資本効率の改善のような守りの経営で成果を上げてきた方が今のマネジメント層には多く、攻めの経営、つまり大胆な成長戦略を考える経験には恵まれてこなかったように思います。こうした戦略構築には、成熟市場での競争戦略とはまた違った発想が求められます。
土田:
近年では経営管理において資本効率や収益性が重視されますが、成長市場で勝ち抜くには、まず市場を獲得し事業規模を最大化することが大事です。収益性については、規模さえ伴えばその後からでも打ち手があります。最初から利益や資本効率重視の発想が強すぎてしまうと、事業を大きく育てることは難しいでしょう。例えば、全事業に一律にROIC(投下資本利益率)のKPIを課している企業は、結果として事業の成長を阻害しているかもしれません。この辺りの頭の切り替えが重要です。
栗田:
また、日本企業は伝統的に、現場重視の考えが根強く残っています。つまり、事業部門の発言力が強く、コーポレート部門の意見が反映されにくいということです。事業部門は部のスケールで戦略を考えていくので、当然、全社的な視点は持ちにくくなります。M&Aの検討も事業部門に委ねられているケースが多いですが、部門で管理できる水準の企業がターゲットになるので、どうしても小粒の投資になりがちです。
原田:
新規事業の育成に関しても同様なことが言えますね。多くの企業が次世代の柱が必要と考えながらも、小規模な取り組みがなかなかスケールアップせず、結果として売上高が数億円規模の小粒な事業ばかりが増えている印象があります。自社で新規事業を始めたり、CVC(Corporate Venture Capital)を作ってベンチャー投資を進めたりしている企業は多く見られますが、息の長い取り組みになります。
土田:
よりダイナミックに新規事業領域に踏み出す仕掛けとしては、M&Aなどで対応していく方が現実的ですね。オーガニックな新規事業開発やCVCでの取り組みも重要ではありますが、時にはM&Aなどの手法も活用しながら、今の環境変化の時間軸に自社の変革のスピードを合わせていく必要があります。
栗田:
投資額という観点では、海外事業においても同様です。新興市場に対する日本企業の投資額は欧米や韓国の企業と比べて桁が1つ、2つ足りない印象です。海外市場での日本の製造業を見ていると、参入当初は販売子会社設立にとどまり、売上成長が実現したら生産拠点を、そこからさらに開発拠点というように、段階的に投資を拡大していきます。しかし、これは東南アジア市場・中国市場などで有効だった過去の勝ちパターンです。むしろこのスモールスタートが、現在では負けパターンになってしまっています。韓国企業・欧米企業などは、有望な市場には当初から大規模な投資により開発拠点を設立し、製品・サービスのローカライズを徹底しています。開発拠点の設立は競争の適格要件でしかないため、大規模に投資したから勝てるというわけではありませんが、投資に躊躇しているようではスタートラインにも立てないのが現実です。
原田:
最初に投資額をどう示すかは現場の動き方にも影響すると思います。最前線で働く従業員は、毎回稟議を上げて小規模の決裁を仰ぐよりも、使える総額を先に示された方が大胆な発想を生みやすいでしょう。新しいことに取り組むのに「3年単黒、5年累損解消」(事業を立ち上げてから3年で単年度の黒字、5年以内に累積赤字を解消)の発想では、そもそもチャレンジングな投資は困難です。もうかる範囲でやるのではなく、特定の市場にコミットする、この市場で必ず勝つという経営者のメッセージが必要です。この点、日本企業はもっと明確なビジョンを持って、大胆に投資をしていく時期に来ていると思います。
栗田:
成長事業を育成するためにも、事業ポートフォリオ全体の視点から、成長が期待できない事業は売却する、現在はキャッシュを稼いでいる事業であっても全社戦略と適合していない事業は売却する、といった大胆な事業ポートフォリオの入れ替えが必要だと思います。この点も日本企業は伝統的にコーポレート部門が弱いため、意思決定が進みにくいのが現状です。
土田:
1990年代から長らく続いた日本の経済停滞期から、多くの日本企業はリストラクチャリングにより効率性を高め、やがて市場の回復に伴って業績回復を果たしてきました。しかし今、ステージが変わり、いかに成長していくかの競争に変わってきています。限られた経営資源を用いてどのように企業価値を最大化するか、これまでと異なる経営能力が求められていることをよく理解しておく必要がありますね。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 栗田 亮介
土田:
長期的な視点でビジネスのあり方を見直す必要性は多くの企業が感じられている一方、それをどう考えるべきかというとなかなか難しいのが実情かと思います。ビジネスドメインの最適化としてはどのような事例があるでしょうか。
原田:
エレクトロニクス事業からビジネスをスタートしたソニーは、ハードウェア中心のメーカーとして知られていましたが、2000年代は海外メーカーとの競争激化などにより業績が低迷しました。その後事業の見直しを行う過程で、2010年代以降は音楽・映画・ゲームといったコンテンツビジネスに経営資源を集中的に投入し、今では事業の柱と位置付けられています。この事例は「戦う場所を変えたケース」と言えるのではないでしょうか。
栗田:
海外に目を向けてみると、ビジネスドメインを時代に合わせて変化させている企業としてはAmazonがよく知られています。Amazonは当初オンライン書店としてビジネスを開始しました。その後は、ECで取り扱う品目を書籍から家電や日用品といった生活全般へと拡大しています。また2000年代にクラウドコンピューティングのサービスを開始し、同事業は収益の柱へと成長しました。現在ではAIやロボティクス、エンタテイメント分野にまで同社のサービス範囲は拡大し続けています。この事例は「戦う場所を広げたケース」と理解することができるでしょう。
土田:
いずれも時代の変化に合わせて、自社の事業立地を変化させてきた例ですね。
事業立地を変えていくには、どのように考え、検討を進めていけばよいでしょうか。
栗田:
自社の業界を超えて、市場のバリューチェーンを周辺業界まで俯瞰して見るやり方が考えられます。例えば、製造業にとってはこれまで製品の企画・製造・販売が自社のビジネスドメインでしたが、モノが作られれば、それが使われて廃棄されるまでのライフサイクルがあります。モノのライフサイクルに寄り添って、顧客が利便性高く使い続けられるよう、必要であれば顧客に合わせてチューニングしたり、不具合を直したり、消耗品を補充したりすることもメーカーの仕事と捉えることができます。
原田:
自動車メーカーがモビリティーカンパニーになるなど、メーカーがモノ売りからコト売りへと動くのはこの発想ですね。住宅メーカーであれば、本来家を作って売れば終わりですが、家がある限りそこに住む人がいて、生活をより快適に豊かに過ごすというニーズが存在します。そうなると、売った後にも果たすべき役目はあります。
そして、これが顧客との継続的な接点、安定的な収益を生むことになり、フロービジネスからストックビジネスになっていく。人口減少の中、ドメインを広げることで生き残る戦い方です。
栗田:
バリューチェーンを広く俯瞰すれば、自社のビジネスドメインが業界の中でも付加価値の低い領域にとどまっていると気付くことで、より収益性の高い、高付加価値の事業立地へのシフトを志向することもできます。競争以前に事業立地の良しあしの方がビジネスの成否に直結するので、冷静な見極めが必要です。
土田:
この時、もうかりそうだからと単にバリューチェーンを川下のサービス領域に広げるというような発想だと、得られるリターンは限定的になるので注意が必要です。顧客の体験価値や顧客の課題を起点に、バリューチェーン全体の価値を高めるような、ビジネスを大きく捉え直す発想が必要ですね。
栗田:
もう1つ注意が必要なのが、バリューチェーンを広げる際、バリューチェーンのビジネス間でのコンフリクトが生じることです。例えば建設会社がインフラの建設から運営に事業を拡大するようなケースでは、建設事業での利益を最大化しようとすると、運営事業側から見ると初期投資が膨らむことになり、運営事業の収益を圧迫します。全社視点で建設から運営を1つの事業と捉えると、建設は先行投資にあたり、マネタイズポイントは運営です。長年、建設事業での収益最大化に取り組んできた建設業にとって、この発想の転換は非常に難しいのではないでしょうか。
土田:
最終顧客が誰であるかをしっかり捉え、顧客起点での事業を構築すればおのずと答えは出てきます。バリューチェーン全体で顧客への提供価値を高めながら、その中でより良い事業立地を選択し、上流から川下までトータルで稼ぐ観点への転換が必要です。事業を捉え直すには社内の意識改革も伴うということにも注意が必要ですね。
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 原田 英始
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