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前稿(第6回前編)では、在職者・退職者に対する情報漏えいの禁止および競業避止に関する法的整理を解説しました。本稿(後編)では、その整理を前提として、在職中および退職時に企業が講じるべき実務対応策を整理します。
近年は人材の流動化や働き方の多様化が進み、既存の「規程がある」「契約書がある」だけでは十分とは言えません。ガバナンス・IT・現場運用を横断した実装が、実務上の重要な論点となっています。
情報漏えいおよび競業が生じる要因として、まず、従業員のリテラシー不足が挙げられます。第6回前編で説明したとおり、情報漏えいおよび競業(使用者と競合する業務を行うこと)に関しては、従業員が損害賠償責任を負う可能性があることに加え、「営業秘密」の不正開示については、不正競争防止法上、刑事罰が科される可能性があります。また、情報が漏えいした場合には、企業の競争力やレピュテーションに甚大な悪影響を与える可能性があります。このような可能性を適切に従業員が認識していない場合、情報漏えいおよび競業を引き起こすことに対する心理的なハードルが下がり、これらを招く要因となります。
さらに、以下に記載するような近年の労働環境の変化に伴い、情報漏えいおよび競業が行われるリスクが高まっていると考えられます。
伝統的な終身雇用制度が衰退し、転職がより一般的なものになりつつある中で、情報漏えいおよび競業が行われ得る「機会」が増えていると考えられます。
兼業や副業を認める企業が増えつつあります。その場合、従業員は複数の企業に所属し、業務に従事することとなり、一方の企業に関する情報を他方の企業の業務に利用することによる情報漏えいや競業が生じる可能性が高まることとなります。
リモートワークの導入により、従業員が場所を問わずに業務を遂行できるようになっています。リモートワーク環境では、他人の目が届きにくいため、不正行為に対する心理的なハードルが下がります。また、リモートワークに伴い、BYOD(Bring Your Own Device)が導入される場合には、個人所有のデバイスに会社の情報が保存されるケースが増え、退職後もこれらのデバイス内に情報が残留するリスクがあります。このように、リモートワークにより業務効率が向上する一方、情報漏えいのリスクは高まっています。
出向(出向させる/出向を受け入れる)や派遣など雇用形態の種類によっては、従業員がグループ会社・取引先の複数組織に関与する場合があります。この場合、各組織の情報へのアクセス権限の付与・管理や、出向終了時のアカウント回収・端末/データの返却などが不十分であると、情報が持ち出されるリスクが意図せず高まることとなります。
従業員の在職中に行う対応としては、以下のとおり、実務運用上のアプローチと法的なアプローチに整理することができます。また、それぞれのアプローチについて、在職中における情報漏えいおよび競業を防止するという観点と、退職を見据えた事前策として在職中から対応を講じておくという観点の両面から具体的な対応を検討することが重要であると考えられます。
情報の種類に応じて、閲覧・利用することができる者の範囲を設定し、施錠管理やアクセス制限を設定するほか、従業員の私物のUSBメモリの利用禁止や外部オンラインストレージへのアクセス制限などにより、情報の無断の複製や持ち出しを物理的・技術的に阻止することが考えられます。
また、PCや社内外のネットワークなどの情報システムにおけるログ確認や、マルチコピー機やプリンターなどにおける利用記録の確認ができる環境を整えておくことも重要です。このような環境があることにより、実際に情報漏えいが生じた場合に具体的対応を取ることが可能になることに加え、この環境の存在自体が、従業員に対する心理的な抑止力となることも期待できます。
上記のような対策を講じることと並行して、従業員に対してリテラシーを養うトレーニングを行うことも必要です。
営業秘密が企業の競争力を支える重要な資産であることや、情報漏えいが企業に与える損害や競争優位性を失うリスクについて、具体的な事例を用いて説明します。併せて、情報漏えいや競業により、自身が損害賠償責任や刑事責任を負う可能性があることも明確に説明することが重要です。
このようなトレーニングを繰り返し行うことにより、企業全体の信用や評判を守る上で情報が非常に重要であることを理解させ、従業員一人ひとりが情報を適切に扱う姿勢を持たせることで、従業員の責任感を醸成し、企業文化として定着させることが求められます。
前稿(第6回前編)で解説したとおり、従業員についてその在職中は、特段の合意がなくとも、信義則上、秘密保持義務および競業避止義務を負うと解されてはいます。
もっとも、この義務に関して、明示的に従業員と合意書を作成し、または就業規則に明記しておくことは、従業員の意識を醸成する上で、非常に有用であると考えられます。
一方で従業員の退職後は、信義則上の秘密保持義務および競業避止義務は消滅します。特に退職を決めた従業員との間で新たに合意書を締結することが困難な場合も想定されることから、在職中に、この義務について定めた合意書を締結しておくことも考えられます。
従業員の退職時に行う対応についても、以下のとおり、実務運用上のアプローチと法的なアプローチが考えられます。なお、以下の対応は退職時に限らず、出向終了時や社内異動により従業員が離任する場合においても同様に検討が必要となります。
情報漏えいをできる限り防止する観点から、退職の申し出を受けた後、速やかに、従事している業務内容に応じた秘密情報へのアクセス権を解除することが考えられます。また、退職の申し出があった後のみならず、それ以前のものも含めて、メールや印刷出力などのログを確認することにより、不正な情報の持ち出しに関する兆候の有無を把握することも重要です。
退職時の面談において、後記のとおり、秘密保持義務および競業避止義務を定めた合意書を締結し、その内容や違反時の対応について明確に伝えるとともに、どのような情報が営業秘密に該当するのかについても明示的に説明しておくことが必要です。さらに、退職者の転職先や今後のキャリア計画についてヒアリングを行い、リスクを把握しておくことも重要です。
加えて、退職後もOB/OG会を開催することなどにより、退職者と良好な関係を築くとともに、その動向を把握しておくことも有効な対応策として考えられます。
前稿(第6回前編)で解説したとおり、従業員の退職後は、特段の合意のない限り、その対象者が、秘密保持義務および競業避止義務を負うことはありません。そのため、退職者との間で、秘密保持義務および競業避止義務を定めた合意書を締結することが非常に重要です。
もっとも、競業避止義務については、有効性・公序良俗違反性が問題となるため、その具体的な定め方については、前稿(第6回前編)なども参考に慎重に判断する必要があります。
近年の労働環境の変化に伴い、退職者による情報漏えいや競業リスクは、個別の不正行為の問題にとどまらず、企業のガバナンスやリスク管理の在り方そのものが問われる課題となっています。本稿で観点を整理したとおり、在職中から退職時・退職後を見据えた形で、実務運用上の対応策と法的対応策を組み合わせて講じていくことが不可欠です。
もっとも、これらの対応は、就業規則や合意書の整備といった法的対応に加え、情報システムの設計・運用、従業員の行動や意識に踏み込んだ管理、さらには組織全体としてのガバナンス体制の構築を含む、複合的な取り組みを必要とします。特に、リモートワークやBYOD、さらに昨今の生成AIの活用が進展する状況においては、サイバーセキュリティ、プライバシー保護、営業秘密を含む知的財産の保護、AIの利活用に関するガバナンスのようにさまざまな観点を横断的に捉えることが重要となります。
退職者管理や情報漏えい・競業防止に関する実務対応は、単発の施策ではなく、企業の事業活動やデジタル戦略と整合した形で継続的に見直されるべきものです。各企業において、自社のリスクや実態に即した形で、実効性のある管理体制を構築・運用していくことが求められます。
【PwC弁護士法人】
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