短期集中鼎談 欧州デジタル法規制の新潮流

出荷後も続くセキュリティ責任――CRAと改正PL指令に日本企業はどう備えるか

  • 2026-11-05

EUのデジタル法規制が、転換期を迎えています。複雑化した規制を整理・簡素化する動きがある一方、製品セキュリティやデジタル主権をめぐる新たなルールも動き始めました。こうした動向に、日本企業はどのように対応すべきでしょうか。本短期集中鼎談では、西村あさひ法律事務所・外国法共同事業の石川智也弁護士を迎え、欧州デジタル法規制の現在地と日本企業に求められる対応を、法務と実務の両面から読み解きます。

第2回では、製品のサイバーセキュリティを規律する「サイバーレジリエンス法(CRA)」と、AIシステムを含むソフトウェアまで「製造物」に含める改正PL指令を取り上げます。市場投入前から販売後まで続くセキュリティ義務と、欠陥による損害への賠償責任。二つの法令に挟まれ、日本のメーカーが背負うリスクはどこまで広がるのか。出荷後も続くセキュリティ責任に、経営はどう備えるべきかを探ります。(本文敬称略)

登壇者

石川 智也氏
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業
パートナー/フランクフルト&デュッセルドルフ事務所共同代表

エレドン ビリゲ
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー

司会

林 和洋
PwC Japanグループ
サイバーセキュリティ&デジタルオペレーショナルレジリエンス リーダー
PwCコンサルティング合同会社
上席執行役員 パートナー

(左から)エレドン ビリゲ、石川 智也氏、林 和洋

CRAと改正PL指令は、製品の安全と責任をどう変えるのか

林:
ソフトウェアや通信機能を備え、ネットワークに接続する「デジタル要素を含む製品」が広がる中、製品に求められる「安全性」やメーカーが負う「責任」のあり方も変わりつつあります。こうした状況に対応し、製品のセキュリティと製造物責任のルールを定め直すのが、2026年から27年にかけてEUで相次いで動き出すCRA(※1)と改正PL指令(※2)です。

石川先生に伺います。この二つの法令が整備された背景と、それぞれの全体像を教えてください。

石川:
これらの法令が整備された背景には、製品を取り巻く技術環境の大きな変化が二つあります。一つはデジタル要素を含む製品(※3)やソフトウェアの普及によって、製品のサイバーセキュリティを継続的に確保する必要性が高まったことです。EUではサイバーセキュリティを平時の対応にとどまらず、半ば有事、つまり国家の存亡に関わる課題と捉える見方が強まっています。

もう一つは、AIなどの新技術の発展によって、従来の製造物責任の枠組みでは十分に対応できない課題が生じてきたことです。何を「製造物」と捉えるのか、被害が生じた場合にどう救済するのか。こうした点について、既存の制度では対応が難しい場面が増えてきました。

これらの課題にそれぞれ異なる側面から対応するのが、CRAと改正PL指令です。

図表1:CRAと改正PL指令は、製品の安全と責任をどう変えるのか

CRAと改正PL指令は、製品の安全と責任をどう変えるのか ,

CRAはデジタル要素を含む製品の設計・開発から上市後まで、ライフサイクル全体を通じたサイバーセキュリティの確保を製造者に求めます。一方、改正PL指令が担うのは、製品の欠陥が原因で損害が生じた場合の責任と被害者救済です。AIシステムを含むソフトウェアやデジタル製造ファイル(※4)などデジタル要素を含む製品を「製造物」に含め、ストーブの発火事故のような有形の製品の欠陥を前提としてきた被害救済の枠組みを現代化します。

CRAは2027年12月11日から全面適用されますが、第14条に定める重大インシデントおよび悪用された脆弱性の報告義務は、2026年9月11日から先行して適用されています。この点には注意が必要です。

※1 CRA(Cyber Resilience Act/サイバーレジリエンス法):EU市場で提供されるデジタル要素を含む製品に対し、設計・開発・製造から販売後の脆弱性対応まで、ライフサイクル全体を通じたサイバーセキュリティ要件への適合を求めるEU法。2027年12月11日から全面的に適用される。重大インシデントなどの報告義務は2026年9月11日から先行して適用されている。

※2 改正PL指令(Product Liability Directive/製造物責任指令):欠陥のある製品によって生じた損害について、製造者などの責任を定めるEU指令。2024年に改正され、ソフトウェアやAIシステム、デジタル製造ファイルなども「製造物」に含まれることが明確化された。加盟国は2026年12月までに国内法化し、以降に市場投入される製品に適用される。

※3 デジタル要素を含む製品:ネットワークや他の機器に直接または間接的に接続する機能を持つ製品。CRAでは、こうした接続機能を備えたデジタル要素を含む幅広い製品が規制対象となる。

※4 デジタル製造ファイル(Digital manufacturing file):機械や工具を自動制御し、物理的な製品を製造するために必要な情報を含むデジタルデータ。3Dプリンターで製品を作るための設計ファイルなどが該当し、改正PL指令では「製造物」に含まれる。

※5 CEマーク(CEマーキング):製品が、適用されるEU法令の要求事項に適合していることを製造者が示す表示。対象製品は、必要な適合性評価を経てCEマークを付すことでEU市場に投入できる。

※6 遠隔データ処理ソリューション(Remote data processing solution):製品から離れた場所で行われるデータ処理のうち、その製品の機能を実現するために不可欠なもの。CRAではこうした遠隔処理も製品の一部として規制対象となる。

※7 セキュア・バイ・デザイン(Secure by design):製品やシステムの企画・設計段階からセキュリティを組み込む考え方。CRAでも、製品の設計段階からサイバーセキュリティを考慮することが求められる。

※8 SBOM(Software Bill of Materials/ソフトウェア部品表):ソフトウェアを構成するライブラリやモジュール、その依存関係を一覧化した情報。脆弱性が見つかった際の影響範囲の把握などに活用される。

※9 PSIRT(Product Security Incident Response Team):自社の製品やサービスに関する脆弱性情報を受け付け、調査や修正、情報公開などを担う専門組織。販売後も継続的に製品のセキュリティ対応を行う。

※10 ブリュッセル効果(Brussels effect):EUの規制や基準が、EU市場で事業を行う企業の対応を通じて、事実上のグローバル標準としてEU域外にも広がっていく現象。

執筆者

林 和洋

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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エレドン ビリゲ

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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