欧州サイバーレジリエンス法(EU CRA)――2026年9月から適用開始の製造業の報告義務と実務対応に向けたポイント

  • 2026-07-31

近年、製品セキュリティ規制は大きな転換期を迎えています。従来の規制が「市場に投入する時点での安全性確保」に主軸を置いていたのに対し、欧州のサイバーレジリエンス法(EU Cyber Resilience Act:CRA)では、製品が市場に出たあとの運用段階までを含めた「ライフサイクル全体でのセキュリティ確保」を求めています。

CRAへの対応は企業においても喫緊の重要課題であるといえますが、その中でも特に強いインパクトが予想されるのが、CRA14条に定められた製造業に求められる「積極的に悪用された脆弱性」と重大な製品インシデントの報告義務です。この義務は、CRAの全面適用(2027年12月)に先立ち、2026年9月11日から適用されるため、企業にとって対応の猶予は限られています。報告義務を含め、製造業がCRAの要件に対応する上では、ESOs(欧州標準化機関)が整備を進めているCRAの要件に対応した整合規格やENISA(欧州連合サイバーセキュリティ機関)が公開しているFAQなどが参考となります。しかし、例えば報告義務に対応する上で参考となるCRA附属書IのPart 2で定める脆弱性ハンドリング要件の関連の整合規格EN 40000-1-3(Vulnerability handling requirement)は2026年8月に最終版が公開予定であるなど、情報が出揃うのを待ってからの対応では9月の報告義務適用に間に合わない可能性があります。

製造業には走りながらの対応が求められます。本稿では、現在公開されている整合規格のドラフトやFAQを参照しつつ、CRAにおける報告義務対応のポイントを整理・解説します。

4.規制対応から競争戦略へ

CRAにおける報告義務は、製造業に対して「製品セキュリティの責任範囲」を大きく拡張することを要求しているといえます。これは、設計時だけでなく、上市後の脆弱性およびインシデント発生時における対応・報告が法的な義務として課されることを意味します。

したがって、欧州で製品を上市している企業は、PSIRTを中心とした迅速な脆弱性・インシデント対応および報告のプロセスを、自社組織とサプライチェーンを横断した統合的な運用体制として確立することが求められているといえます。

2026年9月11日の報告義務適用は、製造業にとってCRAへの実務対応力が最初に問われる局面の1つといえます。とりわけ、短時間で当局報告、ユーザー通知、サプライチェーンをまたいだ影響評価を実装できるかどうかは、法令順守にとどまらず、顧客・販売パートナー・当局からの信頼確保にも直結します。その意味で、今後のEU市場における競争力を左右する一つの分岐点といえるでしょう。

1 CRA14条(5)では、報告対象のインシデントを以下のように定義しています。
(仮訳)
5.第3項の目的上、デジタル要素を含む製品のセキュリティに影響を与えるインシデントは、以下の場合に重大であるとみなされる。
(a)デジタル要素を含む製品が、機密データまたは重要なデータもしくは機能の可用性、真正性、完全性、または機密性を保護する能力に悪影響を及ぼす、または悪影響を及ぼす可能性がある場合。
(b)デジタル要素を含む製品、またはデジタル要素を含む製品のユーザーのネットワークおよび情報システムにおいて、悪意のあるコードの導入または実行を招いた、または招く可能性がある。

2 製造業にとっての報告のインターフェースはEU加盟各国が指定するElectronic notification end-point(電子通知エンドポイント)となると想定されます。

3 EUにおける国家CSIRTとは各EU加盟国において国家から公式に任命された国家レベルのサイバーセキュリティインシデント等への対応や調整を目的とした組織であり、CSIRTネットワークとは加盟各国のCSIRTやそれに準ずる組織間の連携のためのネットワークを指しています。

4 法文上具体的な識別子は指定されていないものの、例えばCVE(共通脆弱性識別子)などが想定されます。CVEとは、公開された情報セキュリティの脆弱性に割り当てられる世界共通の識別番号(ID)です。米国の非営利団体MITRE社が管理しています。

執筆者

和栗 直英

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

エレドン ビリゲ

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

上野 浩

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

本ページに関するお問い合わせ