能動的サイバー防御の導入による基幹インフラ事業者への影響(後編)

  • 2026-03-30

前編はこちら

2025年5月に成立した「サイバー対処能力強化法(通称:能動的サイバー防御法)」について、前編では基幹インフラ事業者に影響する資産届出、インシデント報告、協議会の各制度の詳細を説明しました。

後編では、2026年10月からの施行(制度の開始)と、社会インフラのサイバー攻撃への対処能力向上に向けて、直近で基幹インフラ事業者に推奨される事項について解説します。

1:資産情報の最新化と可視化

資産届出制度、インシデント報告制度のどちらについても、対象は「特定重要電子計算機」となります。この特定重要電子計算機のうち特定重要設備は経済安全保障推進法で規定済みですが、それ以外は今回の法制度によって初めて規定されたものですので、制度対応のためには、最初に自社における特定重要電子計算機を把握することが必要です。特定重要電子計算機の類型は図表2のとおりです。

図表2:特定重要電子計算機の類型

資産届出(特定重要電子計算機の情報の届出)の初回期限は2027年4月1日(想定)と猶予があるものの、インシデント報告制度は2026年10月1日(想定)より開始されることから、それまでに特定重要電子計算機を見極めなければなりません。

特定重要電子計算機の正確な洗い出しを行えるようにするために、まずは資産管理台帳やシステム・ネットワーク構成情報の最新化を推進します。機器の製品名、製造者名、機能、設置場所などの情報を確認し、変更があれば速やかに反映する必要があります。IT・OT環境の別を問わず、クラウドやベンダー資産も含めて全体の見える化が重要です。これによって資産届出対応がしやすくなるだけでなく、インシデント発生時の報告対象の該非判断や、インシデント対応・報告の際に必要な情報が得られます。

OT環境では資産情報の把握がされていないケースも想定され、その場合はまず早期把握から着手することになります(参考:OT環境のスピーディーな資産把握支援)。継続的な制度対応のためには、資産の自動把握ができるツールの導入などにより、業務影響を最小化しつつ精度を高めることが効果的です。

2:インシデント対応体制の確認と整備

インシデント報告の対象である特定重要電子計算機は、インターネットとの接続点から特定重要設備までと範囲が比較的広く、関連する部門や組織も複数にまたがることが想定されます。したがって、インシデント報告にあたっては、検知から報告まで部門・組織間で連携して対応できなければなりません。報告時には業務への影響や攻撃手法などの調査も必要となりますので、インシデント対応体制全体の中で、それらの調査を実施するスキルが確保できていることも重要です。

委託先や関連企業に特定重要電子計算機があると想定される場合は、それらサプライチェーンからの報告フローについても確認し、必要な情報が報告されるように整備を進めておくべきでしょう。

最終的なインシデント報告対応の全体像は以下の図表3のようになるものと想定されます。自社の状況を踏まえて、報告や情報連携が確実に行われる体制になっているかを確認し、不備がある場合は整備を進めることが推奨されます。

図表3:インシデント報告対応の全体像(想定)

3:最新情報を活用可能なセキュリティ対策プロセスの整備

協議会に参加した際は、政府からサイバー脅威や脆弱性などに関する最新の情報が共有されるものと考えられます。基幹インフラ事業者が報告したインシデント情報についても、政府による整理・分析後に共有される想定です。一方で、それらの情報をただ受け取るだけでは意味がありません。最新情報を活用してセキュリティを向上させることは、各社が主体的に推進すべき取り組みと言えます。

そこで、最新の情報をセキュリティ対策やセキュリティ戦略に反映できるよう、プロセスを整備することが推奨されます。具体的には、最新の脅威や攻撃手法などの情報をタイムリーに監視・分析ルールに反映できるような仕組み・運用の導入、危険度の高い脆弱性が発見された場合に早期対応を可能とする体制・プロセスの構築、サイバー攻撃などのトレンドを踏まえたセキュリティ戦略の見直しサイクルの高速化などが考えられます。

執筆者

上杉 謙二

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

木佐森 幸太

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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