能動的サイバー防御の導入による基幹インフラ事業者への影響(前編)

  • 2026-03-25

近年、サイバー攻撃は高度化・巧妙化を続け、社会インフラに対する脅威は急速に増大しています。この状況を踏まえ、日本では2025年5月に「サイバー対処能力強化法(通称:能動的サイバー防御法)」が成立し、基幹インフラ事業者に対し新たな義務を課す制度として2026年10月1日から施行される想定となっています。

本稿ではサイバー対処能力強化法の概要から、基幹インフラ事業者に影響を与える資産届出、インシデント報告、協議会の各制度の詳細について解説します。後編では、基幹インフラ事業者の実務的な対応策を解説します。

基幹インフラ事業者に関する制度の全体像

サイバー対処能力強化法及び同整備法では、大きく以下の4つの事項が規定されています。

  • 官民連携の強化
  • 通信情報の利用
  • アクセス・無害化措置
  • 組織・体制整備など

このうち、直近で基幹インフラ事業者に影響するのは、サイバー対処能力強化法(以下「強化法」と記載)で定められる「官民連携の強化」のうち、以下3つの制度です。

  • 「特定重要電子計算機」に係る資産届出
  • 「特定重要電子計算機」に係るインシデント報告
  • 情報共有・対策のための協議会設置

図表1:能動的サイバー防御関連法の全体像と基幹インフラ事業者に影響する制度

制度の対象となる基幹インフラ事業者とは、経済安全保障推進法に基づき指定されている15分野の約250社を指します。電力、ガス、電気通信、金融、鉄道など国民生活や経済活動の生命線を担う事業者です。これらの事業者には、特定重要設備の導入・維持管理などの委託時に政府へ事前届出をする義務がありますが、強化法の施行によって新たな義務が課せられることになります。

今回導入される制度は、基幹インフラ事業者自身だけでなく、委託先やグループ会社、さらにはクラウドサービスの提供者にまで影響が及ぶ可能性があります。そのため、企業はサプライチェーン全体の資産把握や情報管理態勢の整備、各関連事業者との協力関係の構築が求められます。

以下、2025年12月に公表された「サイバー対処能力強化法(官民連携)の施行に向けた考え方の案」や政省令案などに基づき、制度の詳細を説明します。

特定重要電子計算機とは

まず、資産届出およびインシデント報告の対象となる「特定重要電子計算機」とは何でしょうか。これは、強化法において、セキュリティ侵害が起こった場合に特定重要設備の機能の停止や低下をもたらすおそれがある機器と定義されています。具体的には、特定重要設備そのものに加えて、インターネットとの接続箇所にあるファイアウォールやVPN装置、認証サーバー、特定重要設備へのアクセスを制御する機器やDMZ、認証情報などの重要データを保存する機器など6つの類型が案として示されており、IT・OT双方にまたがる広範な対象が想定されます(図表2)。

図表2:特定重要電子計算機の類型

ネットワークが物理的に分離している場合や、クラウドサービスが特定重要電子計算機に当たる場合など、システム構成によって範囲が変わり得る点に注意が必要です。また、構成次第で委託先やグループ会社などが保有する機器が特定重要電子計算機に該当する可能性も考えられます。

資産届出制度の概要

基幹インフラ事業者は、特定重要電子計算機の導入時または変更時に、機器やソフトウェアの製品名と製造者名、クラウドサービスのサービス名とベンダー名を届け出ることが義務付けられます。併せて、届け出る特定重要電子計算機・特定重要設備の関係を示す資料も必要です。届出義務に違反した場合、所管大臣からの是正命令が発出され、これに従わなければ最大200万円の罰金が科されることになります。

強化法(官民連携部分)の施行は2026年10月1日(想定)ですが、初回の資産届出の期限はそれからさらに6カ月後の2027年4月1日(想定)で、以降は導入・変更のたびに届出を行うことになります。届け出た特定重要電子計算機については、政府から脆弱性などの情報が提供されると思われます。

委託先やグループ会社などが保有する機器が特定重要電子計算機に該当する場合、基幹インフラ事業者はそれらの機器情報を可能な範囲で収集して届出することになるものと想定されます。この場合、サプライチェーン全体のセキュリティガバナンス強化が必要となるでしょう。

執筆者

上杉 謙二

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

木佐森 幸太

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

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