SDV時代のリコール対応―米国市場でのソフトウェア更新によるリコール対応の現状―

  • 2026-06-02

はじめに

近年の自動車業界は、電動化・コネクティビティ・運転支援の進展により、ソフトウェアへの依存度が年々高まっています。車両販売後もソフトウェア更新によって機能が進化するSDV(Software Defined Vehicle)への移行も進んでおり、無線通信によりソフトウェア更新を行うOTA(Over The Air)機能が搭載された車両が増加しています。こうした搭載技術の変化は車の商品性だけでなく、市場で不具合が発生した際の対応方法にも影響を及ぼしています。本稿では米国NHTSA(National Highway Traffic Safety Administration)が公開している統計データに基づき、2015年から2025年の11年間における米国市場のリコール対応の傾向*1を解説します。

ソフトウェア更新によるリコール対応が増加

米国では2017年以降、ソフトウェア更新でのリコール実施比率が年々増加しています。2024年には19.0%(150件)、2025年には24.3%(190件)となり、1年間で約5ポイント上昇しました。2025年時点では全リコール届出件数の約4分の1がソフトウェア更新で対応されている計算となります(図表1)。

従来、リコール対応の中心は部品交換や現地での点検・修理でした。しかし、近年の車両制御の高度化に伴い、制御ロジック、認識アルゴリズム、表示・警報、通信機能など、ソフトウェアに起因する不具合への対応が増えています。リコール対応の方法としてもソフトウェア更新が担う役割は年々大きくなっており、ハードウェア中心だった市場においてリコール対応のあり方が変化しつつあることが推察されます。

OTAによるリコール対応も拡大

車両のソフトウェア更新方法は大別するとツールを用いた有線接続による更新(USBメディア等による更新を含む)と、無線通信によるOTAの2つが挙げられます。

OTAは車両の通信機能を用いてソフトウェアを遠隔で更新する仕組みです。販売店等への入庫を伴わずにソフトウェア更新を実施できるため、リコール対応の迅速化やユーザーの負担減につながります。

米国では、OTAによるソフトウェア更新でのリコール対応が2020年から確認されていますが、2020年の5件から2025年には36件と7倍以上に拡大しており、ソフトウェア更新によるリコール対応の中でも、OTAを活用した対応が増えてきていることが分かります(図表1)。

図表1:ソフトウェア更新でのリコール対応件数(米国市場)

ソフトウェア更新によるリコール対応割合は日本のOEMと日本以外のOEMで同水準

2021年から2025年までの米国でのリコール内容を確認すると、年ごとの増減はあるものの、2025年における日本OEMと日本以外のOEMのソフトウェア更新によるリコール対応の割合は、いずれも約24%でほぼ同水準となっています。また、両者とも5年間でその割合は約2倍となっています(図表2)。

図表2:リコール届出に占めるソフトウェア更新での対応割合(米国市場)

OTAによるリコール対応割合は日本以外のOEMが先行

一方で、ソフトウェア更新によるリコール対応のうちOTAを活用したものに着目すると、日本以外のOEMが先行している傾向が確認できます。2021年から2025年のデータでは、ソフトウェア更新に対するOTAの割合は日本以外のOEMの方が高く、2025年時点では日本以外のOEMが約20%、日本OEMが約6%となっており、日本以外のOEMが日本のOEMを3倍以上となっています(図表3)。

図表3:リコール届出に占めるソフトウェア更新に対するOTAの割合(米国市場)

OTAによるリコール対応は運転支援装置を中心に広がる

OTAによるソフトウェア更新でのリコール対応の対象部品は、運転支援装置が49件で最も多く、全体の約41%を占めています。HMI・IVIが21件、ボディが20件、シャシーが13件で続いており、上位4部品で全体の約85%を占めています(図表4)。

この結果から、運転支援装置を中心に、HMI・IVIのような人の操作および安全性に関わる電子制御領域では件数が多い傾向がみられます。

OEM別では、日本のOEMにおけるOTAによる対応は運転支援装置4件、シャシー1件が確認された一方、それ以外の部品は日本以外のOEMによるものです。日本のOEMはリコールにおいてはOTAの活用が進んでいないものと考えられます。

図表4:OTAによるリコール対応の対象部品内訳(米国市場)

米国市場と日本市場におけるリコール傾向の比較

米国市場では、リコール件数そのものが多い中で、ソフトウェア更新によるリコール対応の割合が年々増加しており、2025年には全体の約4分の1を占める水準に達しています。また、日本のOEMと日本以外のOEMの間でソフトウェア更新による対応割合はほぼ同水準となっており、ソフトウェア更新がリコール対応の手段として市場全体に広く浸透している状況がうかがえます。さらに自動運転タクシー等のサービス事業者によるソフトウェア更新でのリコール対応も2022年に初めて実施されており、2025年までに累計14件となっています。リコールにおけるOTAの活用は日本以外のOEMでは2020年から確認でき、その後も増加傾向にあります。

一方、日本市場におけるリコールに関するPwCコンサルティングのコラム*2で公開されているデータを見ると、日本市場でのリコール件数は米国市場に比べて約3分の1程度にとどまり、ソフトウェア更新によるリコール対応にも差がみられます。特に日本市場では日本のOEMがリコール対応として初めてOTAを実施したのは2024年であり、米国市場に比べて2年遅れで実施されたことが確認できます。

OTAの対象部品内訳をみると、日本市場においてはHMI・IVIの件数が最も多い一方、米国市場では運転支援装置が最多となっています。米国市場では、日本市場に比べて高度な運転支援機能や自動運転機能を搭載した車両、加えてそれらを実運用するサービス事業者も存在しています。そのため、運転支援機能に起因する不具合がリコールとして顕在化しやすい環境にあると考えられます。また、日本に比べ米国では自動運転を含む運転支援の実装が進んでいることから、運転支援装置に関するOTAによるリコール対応も、比較的多くなっていると推察されます。

まとめ

米国ではソフトウェア更新によるリコール対応の割合が高まっており、OTAの活用も着実に増加しています。OTAは販売店や整備工場等への入庫を伴わずに改善対応を実施できるため、ユーザーにとっては移動や待ち時間の負担を抑えられるのが利点です。一方、OEMにとっても、対面修理に比べて迅速に広範囲へ展開しやすく、工賃や入庫対応の負荷軽減、実施率向上が期待できるため、リコール対応において効果的な方法と言えます。ただしOTAの場合は更新後の動作確認ができないことや、通信環境や車両状態によって更新が完了しない場合がある他、ソフトウェアの構成管理、トレーサビリティ、サイバーセキュリティ対応など運用面の課題も伴います。今後は、ソフトウェア更新の拡大そのものに加え、安全かつ確実にOTAを運用できる体制をどこまで整えられるかが、リコール対応の実効性を左右する重要なポイントになると考えられます。

*1 本稿では乗用車、商用車、サービサーのリコールを集計対象とし、二輪車および部品サプライヤは集計対象外としています

*2 SDV時代のリコール対応 ―日本市場でのソフトウェア更新によるリコール対応の現状―:https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/automotive-research-and-development/software-update-and-recall.html

執筆者

渡邉 伸一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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糸田 周平

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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小倉 啓輔

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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大谷 勇太

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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