ISO/DIS 9001:2025とSDV時代の品質マネジメント

  • 2026-02-02

はじめに

世界で広く用いられている品質マネジメントシステム規格ISO 9001(Quality management systems-Requirements)の改訂が進行しています。2025年8月27日にはISO/DIS 9001:2025(国際規格原案)が発行されました。今後2026年3月にFDIS(最終国際規格案)を経て、2026年9月に正式な改訂版IS(国際規格)の発行が計画されています。

本稿では改訂の背景、維持される考え方、主な変更点を整理した上で、SDV時代の車両品質の確保について考察します。

※本稿の内容は2026年1月執筆時点のISO/DIS 9001:2025に基づくものです。改訂スケジュールおよび改訂内容は今後変更される可能性があります。

ISO 9001:2015の改訂背景

2015年版(ISO 9001:2015)の発行以降、パンデミックや地政学リスクによるサプライチェーンの複雑化、デジタル化の急速な進展、サステナビリティや企業倫理への関心の高まりなど、ビジネス環境は大きく変化しました。2026年の改訂では、基本的な構成を維持しながら、これらの変化に対応して一部の要求事項が強化・明確化される予定です。

ISO 9001:2015から維持される点

ISO/DIS 9001:2025におけるPDCAサイクルの概念図および各要素と関連する箇条番号を図表1に示します。規格の目的や基本構成、Plan・Do・Check・Actionから成るPDCAサイクルの基本概念はISO 9001:2015から引き続き維持されます。

図表1:PDCAサイクルに基づく品質マネジメントシステムの全体像

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ISO/DIS 9001:2025での主な変更点

ISO/DIS 9001:2025の文書構成およびISO 9001:2015からの主な変更点を図表2に示します。具体的な要求事項は箇条4から箇条10に記載されており、主な変更内容を以下にて解説します。

  • 気候変動への影響を考慮(箇条4.1)
    ISO 9001:2015の追補(Amd:2024)で加わった気候変動への対応に関する要求事項が今回の改訂に伴い規格本文に組み込まれます。気候変動の影響を踏まえた品質マネジメントシステムの取り組みが引き続き求められます。
  • 品質文化と倫理的行動の要求(箇条5.1、箇条7.3)
    箇条5.1のトップマネジメントによるリーダーシップおよびコミットメントの要求事項として「品質文化及び倫理的行動の促進」が追加されます。トップマネジメントには「品質文化」と「倫理的行動」の価値観を組織の全従業員に浸透させる為の積極的な対応が求められます。
    箇条7.3においても全従業員が「品質文化及び倫理的行動」の認識をもつことが新たに要求されています。
  • リスク及び機会への取組みの分離(箇条6.1、箇条8.2.1)
    箇条6.1で従来一括りにされていた「リスク及び機会への取組み」に関する要求事項が「リスクへの取組み」と「機会への取組み」に分離されます。この分離により、組織においてはリスクの軽減とビジネス機会の拡大に向けたバランスのとれたアプローチが推奨されます。
    基本的な要求事項は従来通りですが、「リスクへの取組み」においては事業中断時の対応の考慮が新たに明示されており、サプライチェーンの不確実性やサイバーリスクなどの外的要因による脅威への備えが求められます。これに関連し、箇条8.2.1において製品またはサービス中断時の顧客への情報提供が新たに要求されています。
  • 変更管理の強化(箇条6.3)
    箇条6.3の品質マネジメントシステムの計画的な変更に関する従来の要求事項は維持しつつ、変更によって意図通りの結果を得るための有効性評価などの要求が新たに加わります。変更による品質への影響を評価し、計画的かつ記録に基づいて変更を進めることが求められます。
  • 利害関係者のニーズ及び期待の考慮(箇条4.2、箇条9.3.2)
    箇条9.3.2で要求されているトップマネジメントによる定期的な品質マネジメントシステムのレビューにおいて、「利害関係者のニーズ及び期待の変化」をレビューすることが新たに要求されます。これに関連し、箇条4.2においても品質マネジメントシステムの取り組みに対する「利害関係者のニーズ及び期待の理解」の要求が明確化されています。

図表2:文書構成およびISO 9001:2015からの変更点

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SDV時代の品質マネジメント

近年の自動車業界では、車両の市場投入後もソフトウェアを更新することでユーザーに新たな価値や体験を提供し続けるSDV(Software Defined Vehicle)への移行が進んでいます。SDV時代の車両の品質についてソフトウェア更新、サイバーセキュリティ、自動運転の観点から考察します。

  • ソフトウェア更新
    今後SDV化の進展に伴い、無線通信を用いたOTA(Over The Air)による積極的なソフトウェアの更新が見込まれます。一方でソフトウェア更新の対象が増えることにより、品質管理の複雑化が進みます。ISO/DIS 9001:2025には機会への取り組みに関する要求の明確化と変更管理に関する要求の強化が織り込まれており、積極的なソフトウェア更新によるビジネス機会の拡大が推奨されると考えられる一方で、どの車両にどのバージョンのソフトウェアを適用したかのトレーサビリティや、ソフトウェア更新前のユーザー通知方法、ソフトウェア更新前後の不具合状況の管理などがより厳格に求められるとも考えられます。ソフトウェア更新を見据えた車両のライフサイクル全体を管理する仕組みを品質マネジメントシステムに組み込み、ソフトウェアリリース後の品質を確保し続けることが重要となります。
  • サイバーセキュリティ
    SDV化された車両はネットワークへの常時接続によるサービス提供や、OTAによるソフトウェア更新が価値となる反面、ハッカーの標的にもなり得ます。サイバー攻撃による脆弱性対応の失敗は機能停止による安全性低下などの直接的な品質不具合を引き起こします。
    今回のISO/DIS 9001:2025ではリスクへの取り組みの要求が明確化されており、サイバーセキュリティもトップマネジメントの下で品質として保証すべき対象とすることが推奨されます。品質マネジメントシステムの中でサイバーリスクについても車両のライフサイクル全体の品質リスクとして位置づけ、開発段階でのリスク評価や継続的なセキュリティアップデートなどの対応が重要となります。
  • 自動運転
    自動運転ではソフトウェアが運転操作を担うため、最高レベルの安全性および信頼性の確保が求められます。自動運転システムの構成は各メーカーで異なるものの、高精度地図やクラウド上の学習モデルなどを利用するために車両外部との連携が不可欠となりつつあります。そのため、品質リスクとして部品故障や設計不良だけでなく、運転状況の認識の限界や判断ロジックの妥当性不足といったリスクの考慮も必要となります。
    前述の通りISO/DIS 9001:2025ではリスクと機会のそれぞれへの取り組みに関する要求の明確化および変更管理に関する要求が強化されています。自動運転に関連するソフトウェアや学習モデルの更新についても品質マネジメントシステム上の管理対象として扱い、市場投入後に取得したデータも活用しながら継続的な性能改善を通して品質の維持・改善を行うことが重要となります。

まとめ

本稿ではISO/DIS 9001:2025での主な変更点について紹介し、SDVの目線で車両の品質について考察しました。従来の自動車開発では企画・設計・製造・販売・使用・廃棄という直線型の車両ライフサイクルを前提としており、市場投入後の変更も限定的であることから、品質保証は市場投入前の設計検証や製造品質の作り込みに重点が置かれていました。SDV時代の車両ライフサイクルでは、市場投入後もソフトウェア更新による機能追加や使用中に取得したデータを活用して性能改善が継続的に行われるなど、従来の直線型から循環型のライフサイクルへと変化しています。そのため、品質の作り込みは市場投入時点で完了するものではなく、市場投入後の運用を通じて維持・改善するものとして捉えることが肝要です。

2026年改訂予定のISO 9001には、リスクと機会のそれぞれへの取り組みの要求の明確化と変更管理の要求の強化など、ネットワークに接続され継続的にソフトウェアが更新されるSDVと親和性が高い変更内容が含まれる見込みです。各メーカーは品質マネジメントシステムを全体の枠組みとしつつ品質に関連する開発プロセス(ISO 26262やAutomotive SPICE🄬など)や分野別マネジメントシステム(UN-R156 SUMS*1やUN-R155 CSMS*2など)などとの整合を図りながら統合的に管理できる体制を構築していくことが重要となります(図表3)。

*1 SUMS:Software Update Management System
*2 CSMS:Cyber Security Management System

図表3:関連する代表的な法規および標準文書

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執筆者

渡邉 伸一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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糸田 周平

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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小倉 啓輔

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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大谷 勇太

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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