データで実現する「異常検知・リモート処置」の最前線

【自動車開発の最新動向】自動車の“見えない危機”を先回りする

  • 2026-02-26

はじめに:なぜ今「異常検知・リモート処置」が注目されるのか

自動車産業は今、ソフトウェア重視の開発に向けて大きく転換しています。

コネクテッド化・電動化・自動運転の進展により、車両は「走るデータセンター」とも言える存在となり、データが車両の性能と安全に大きく寄与する時代が到来してきています。

中でも注目されているのが、「異常検知・リモート処置」の領域です。
車両が自らの状態をリアルタイムに把握し、異常を早期に検知して、必要に応じてクラウド経由でリモート対応を行う―

この技術が普及すれば、「壊れてから直す」から「壊れる前に防ぐ」への転換が進みます。
自動車OEM各社はそれを顧客体験とブランド信頼向上の源泉として位置付けるようになりつつあります。

データ利活用の目的と本コラムの焦点

自動車OEMが推進するデータ利活用は、大きく以下の5つの目的に整理できます(図表1)。

図表1:データ利活用の主な目的

本稿ではこのうち、②異常検知・リモート処置に焦点を当て、その構造と実務的な課題・展望について考察します。

仕組み解説:モニタリング→異常検知→処方判断→リモート処置→フィードバック

異常検知・リモート処置は、モニタリング、異常検知、処方判断、リモート処置、フィードバックのサイクルによって成立します。

そのプロセスは次のように整理できます(図表2)。

図表2:異常検知・リモート処置のサイクル

  1. モニタリング
    車両各部のセンサーからリアルタイムでデータ(温度、電圧、電流、振動、周辺画像、操作履歴など)を取得します。
    一部データについては車載AIがエッジ処理で解析し、異常兆候があればクラウドに送信されます。
  2. 異常検知
    異常検知の方式としては以下の2つがあります。
    • 閾値ベース方式:設計時に定義された安全閾値(例:セル温度●●℃超過など)を超えたら異常と判定する
    • 機械学習ベース方式:正常時データを学習し、パターンから外れた挙動や状態を異常と判定する
      両者を組み合わせることで、既知の異常にも未知の異常にも対応することが可能となります
  3. 処方判断
    次に、異常検知に基づいて処方判断を行います。以下2つの方法があります。
    • ルールベース処方:事前に定義された異常種別ごとの処方判断に従う
    • AIベース処方:過去の処方成功データを学習し、最も改善確率の高い処方を自動選択
  4. 処置実行
    クラウド経由で車両に制御命令を発信します。
    例:バッテリー温度低下させるために冷却制御の強化、回生ブレーキ機能の停止、急速充電の停止、安全地帯へ駐車指示など
  5. フィードバック
    処置結果・再現性・成功率を記録し、AIモデルへ再学習させていきます。
    これにより、異常検知精度と処置精度を継続的に改善していくことが可能です。
    この1から5までのプロセス全体が、異常検知・リモート処置のサイクルを形作っているのです。

モニタリングオペレーターの役割と運用設計

異常検知・リモート処置に関しては完全自動化が理想ではありますが、現状では人の監視と判断および顧客対応が欠かせません。

実際の運用では、AIと人の協調(human-in-the-loop)体制が構築されています(図表3)。

図表3:モニタリングオペレーターの主な役割

例えば、ある自動車OEMでは約5万台に1名程度のオペレーター配置を目安にしていますが、AIの精度向上に伴い将来的にオペレーターの人数は減少していくことが想定されます。

バッテリー高温対処の事例

ここで、これまでお伝えした異常検知・リモート処置の典型的な事例として、BEVバッテリーが異常な高温を検知した場合の冷却制御について紹介します(図表4)。

図表4:バッテリー高温時の対処ステップ

この段階的制御により、熱暴走などの重大な故障は未然に防止され、従来の「故障対応型」から「予兆保全型」へと変革が進んでいきます。

まとめ:自社がこの領域で挑むべき可能性

異常検知・リモート処置は、単なる技術導入ではなく、安全性とブランド信頼性を向上させる経営テーマへと進化しています。

これらをEnd to Endで設計できる企業こそが、次のモビリティ市場で「信頼されるブランド」として認知されるでしょう。

データから新たな価値を提供し信頼性を向上させる、その第一歩が異常検知・リモート処置の高度化なのです。

調査代行サービスについて

PwCコンサルティングでは、自動車開発の最新動向に関する調査を定期的に実施しています。また、個別の依頼に基づくテーラーメイド型の調査も対応可能です。ご関心やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

執筆者

渡邉 伸一郎

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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川添 健太郎

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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