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地政学リスク、テクノロジーの非連続的進化、気候変動、社会構造の変容――これらは相互に複雑な因果関係を有しており、一つのきっかけが連鎖的に多くの前提を覆す時代に入っています。パンデミックの発生や軍事行動による地政学リスクの変化、関税政策の急転換など、地球温暖化のように長い時間軸で進行する変化とは質的に異なり、「ある日突然、世界の前提が変わる」ことが現実に起きていますが、これは一時的な「不確実性の高まり」ではなく、外部環境そのものの構造的性質が変わったと認識するべきです。
多くの日本企業は「外部環境はおおむね安定している」ことを暗黙の前提とし、3年に一度の中期経営計画策定を通じて戦略と外部環境の整合を取るという経営のOS(オペレーティングシステム)で運営されてきました。しかし近年では、外部環境の構造変化が従来とは比較にならないスピードで進み、経営の前提が短期間で覆ることも珍しくありません。こうした環境下では、既存のOSでは企業の持続的成長を担保できない状況です。
経営の前提を覆すほどの複雑な時流を捉えるには、企業はどのように備えるべきでしょうか。そのような時代に必要なのは、AI・テクノロジーを活用して外部環境の変化を常時感知し、戦略や経営基盤の軌道修正の要否を継続的に判断し、必要に応じて迅速にアクションを起こす経営――すなわち「レジリエンス経営」への転換です。
レジリエンス経営とは、不確実性や危機の発生を前提としながら、重要な業務と意思決定を維持し、回復し、さらには変化を成長につなげる経営の在り方です。重要なのは、レジリエンスを危機発生時の「対応力」として捉えないことです。求められるのは個別のリスク対策ではなく、企業が備えるべき「経営能力」と言えます。
レジリエンス経営の必要性が認識されていても、それを実現できている企業は決して多くありません。その理由は、レジリエンス経営が外部環境の大きな構造変化を先読みし、戦略や経営基盤を継続的に見直していくことを求める一方で、それを支える組織やガバナンスの変革も不可欠であるためです。
多くの企業では、外部環境に関する情報収集も、それに基づく判断・意思決定も事業部が中心となっています。その結果として、各事業部のインテリジェンスとケイパビリティに依存した「個別最適」が進み、既存の事業の枠組みを超えた視点からの情報収集や判断が構造的にできない状態にあることが散見されます。特に、複数の事業部にまたがる横断的リスク(地政学リスク、規制変更、サプライチェーン途絶など)への対応については、各事業部門にて情報収集するものの、事業部門を横断した対策の検討が後手に回りやすいようです。
環境変化に対応するためには、変化を捉え、評価し、経営判断につなげる仕組みが必要ですが、多くの企業ではその機能が事業部門ごとに分散しており、全社としての意思決定につながりにくい構造となっています。
図表1:レジリエンス経営到達に向けた課題
出典:PwCセミナー聴講者へのアンケートより(回答者数101)
では、この課題をどのように解決すればよいのでしょうか。
レジリエンス経営を実現するためには、外部環境変化に関する情報を継続的に収集・分析し、その影響を評価した上で経営層へ提言し、必要なアクションにつなげる機能が必要になります。
しかし現実には、こうした活動は経営企画、事業部門、リスク管理部門、調達部門などに分散していることが多く、全社視点での判断や横断的な対応に結び付きにくい状況が見受けられます。
そこで必要になるのが、全社横断で外部環境変化を監視し、経営への提言と対応推進を担う「外部環境変化リスク対応機能」です。
外部環境変化の不確実性に対応するためには、個別に収集した情報を1カ所に集め、部門横断で事業判断を行う必要があります。関連部門の担当者を含めた「外部環境変化リスク対応機能」を担うチームを全社の「司令塔」として設計・配置。以下の3つの役割を担わせることで情報の連携漏れを防ぎ、部門間連携した状態で全社横断的リスクへの対応を検討し、経営層に提言できるようになります。
図表2:外部環境変化リスク対応機能に求められる役割
機能 |
役割 |
| ①外部環境・事業影響の分析 | シナリオベースで自社にとっての重要リスクを特定・モニタリング |
| ②経営層への報告・進言 | リスクの蓋然性と影響度に基づく優先順位付け、アクション提言 |
| ③全社横断での推進・監督 | 経営判断に基づくアクションの指示と進捗管理 |
組織上の役割設計:
司令塔の成否を分けるポイントは、単なるインテリジェンスチームではなく、全社的なリスク対応を推進するチームとして設計することにあります。情報を集めて終わりではなく、経営アクションまで責任を持つことが必要です。これは、経営企画部門の機能に近いと思われますが、その本質は事業部の取りまとめや調整ではなく、取締役会の意思決定を支える「参謀機能」として位置づけることです。
図表3:外部環境変化への対応チームに求められる立て付け・機能
立て付け |
リスク感度やリソースに応じて、コーポレートと事業部の担当者(兼任)や |
| 機能 | 1.外部環境・事業影響の分析(インテリジェンスチーム)
2.経営層への報告・進言(リスク対応チーム)
3.関連部門の監督・指示(リスク対応チーム)
|
リソースの配分:
全ての外部環境変化に対応することは不可能であるため、自社にとっての重要リスクをいくつか抽出し、そこにモニタリングリソースを集中させる設計が必須です。
社外取締役の活用:
社内の従業員だけでは既存ビジネスの成功体験が判断のバイアスとなり、変化の兆候から戦略を見直すという抜本的な判断がしにくくなります。社外取締役にはこの「挑戦的な問い」を投げかける機能を期待すべきであり、取締役会の機能高度化の議論はここに帰結することとなります。
このような組織・ガバナンス体制を整備した上で、次に必要となるのが、実際に外部環境変化を監視し、経営判断につなげる運営プロセスの構築です。
図表4:リスク管理体制の在り方(イメージ)
レジリエンス経営は、一度仕組みを整備して終わるものではありません。外部環境の変化を継続的に捉え、その変化が自社の経営資源や事業に与える影響を評価し、必要に応じて経営判断や戦略の修正をもたらすサイクルを回し続けることが重要です。そのためには、まず自社にとって重要な経営資源を定義し、その資源に影響を与える外部環境変化を特定した上で変化の兆候をモニタリングし、経営判断につなげる一連のプロセスを構築する必要があります。
以下では、その具体的な実装ステップについて説明します。
よくある失敗は、外部環境の変化に関する情報を網羅的に集め、「何をモニタリングすべきか」が定まらないことです。これに対する正しい出発点は、自社にとっての重要な経営資源を見極めることです。
図表5:経営資源の整理例
| カテゴリ | 経営資源の例 |
| 内部資源 | 人材、技術・ノウハウ、設備・インフラ、資金 |
| 外部資源 | 市場における需要、安定したビジネス環境(規制・制度・国際秩序)、 自然の恵み(水・鉱物・エネルギー)、サプライチェーンの安定性 |
自社の重要経営資源を特定した上で、各資源がどのような外部環境の変化にさらされているか、その「接点」を整理し、ベースシナリオを構築します。
シナリオに変化がないかをモニタリングする際は、部門横断組織を構築することを推奨しています。情報共有や対応策の検討、事業判断を横断的に行うことができるよう、事業部門・機能部門の代表者を含めることが大切です。また、平時から外部環境変化のモニタリングを行う中で、ストレステストの要否・方法についても常日頃から議論しておく必要があります。これにより、有事に「ある日突然」状況が急変しても対応できない、という事態を防ぐことが可能となります。
外部環境の急変を想定したストレステストを実施し、結果に基づき経営としてのアクション(戦略変更、投資方針変更、ポートフォリオ見直し、サプライチェーン再構築等)を検討・決定する際は、経営企画部門または「外部環境変化リスク対応機能」を持つ司令塔チームなどによる、アクションの実行を監視し、進捗をモニタリングする機能が必要です。
「外部環境変化リスク対応機能チーム」で変化の兆候となる情報を継続的にモニタリングしつつ、マネジメントにおいて戦略や経営基盤の見直しを継続して議論する場を確保する体制を組成します。
既存の経営会議・取締役会のアジェンダに組み込む、もしくは独立した「モニタリングボード」を設置する、いずれの場合でも、私たちは社外取締役の積極的関与を推奨しています。社内の成功体験バイアスを打破し、「今の戦略を根本から見直す必要があるのではないか」という問いを投げかけられる存在として機能させることが重要です。
レジリエンス経営とは、リスクに備えるためだけの取り組みではありません。変化を先んじて捉え、競争優位に転換するためのものであり、社内で基盤を構築することにより実現が可能となります。またそのためには、インテリジェンスを活用し、外部データ・AI分析・専門家の知見を組み合わせて将来の不確実性を予測し、経営アジェンダに反映していくためのガバナンス機能を持った組織の構築が必要不可欠です。
経営資源を定義した上で、ベースシナリオと急変シナリオを準備・モニタリングし、経営層に報告・進言できる仕組みを構築する――こうした一連のサイクルを繰り返すことにより、将来予測をより確実性の高いものにし、不測の変化に備えることにつなげていきます。
レジリエンス経営の出発点となる「何を守るべきか」を明確化します。企業の重要な経営資源や事業への影響を踏まえ、外部環境変化に起因する重要リスクを特定するとともに、ベースシナリオや急変シナリオを設計し、経営への影響や必要な対応を整理します。
外部環境の変化を継続的に捉え、経営判断につなげるためのインテリジェンス機能を構築します。情報収集対象の定義、分析手法の策定、モニタリング体制の整備を通じて、環境変化の兆候をいち早く把握し、経営に対する示唆を提供できる仕組みを設計します。
「リスク・インテリジェンス・ハブ」の概要はこちらを参照ください。
レジリエンス経営を継続的に機能させるための組織・ガバナンス体制を設計します。経営層、事業部門、リスク管理部門の役割と責任を明確化するとともに、全社横断で環境変化を監視・分析し、経営に提言する組織機能の構築を支援します。
外部環境の変化を継続的に監視し、その結果を迅速な経営判断やアクションにつなげるプロセスを構築します。モニタリング指標の設定の他、報告・エスカレーションルールの整備、意思決定フローの設計にも対応し、平時から有事まで一貫して機能する運営体制の実現を支援します。
「リスク・インテリジェンス・ハブを活用したリスクマネジメント支援」についてはこちらを参照ください。
レジリエンス経営への取り組みは、企業が置かれている環境や成熟度、直面する課題によって大きく異なります。レジリエンス経営の必要性を認識し始めた段階から、重要リスクの特定やシナリオ設計、外部環境変化を捉えるインテリジェンス機能の構築、組織・ガバナンス設計、モニタリングおよび意思決定プロセスの実装まで、各企業の状況を踏まえた対策が必要となります。
PwC Japanグループは、企業ごとの成熟度や経営課題に応じて、構想策定から実装・定着化までを一貫して支援し、変化への適応力を持続的な競争力へと転換する「経営能力」として獲得できるよう伴走します。
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