ナレッジのデータ化支援―知識やノウハウをAI-Ready Dataへ

なぜ今、ナレッジのデータ化なのか

生成AIの普及により、誰もが同じ汎用AIを使える時代が訪れました。だからこそ、自社固有の知をどれだけAIが使える形で蓄積できているかが、企業の競争力を左右します。

企業の業務遂行や意思決定に活用できる「知」つまりナレッジは、生かされないままでは失われてしまいます。一方で、そのナレッジをデータ化し、AIと人がともに活用できる状態へと変えられる企業は、その活用を通して組織の成長や変革へとつなげています。

企業のナレッジが直面する2つの危機

差別化の源泉となる企業のナレッジがどこに存在し、どこへ蓄積されていくか――この観点で現状を捉えると、性質の異なる2つの危機が同時に進行していることが見えてきます。個別の知が生かされない「足元の危機」と、組織の知そのものが失われる「構造の危機」です。

足元の危機では、生成AIを導入しても自社固有の知が反映されず出力が一般論にとどまる、PoC(概念実証)は成功しても本番運用や横展開に至らない、業務ノウハウが特定の人に偏在し組織として再現できない、といった状況が生じています。

構造の危機では、退職や世代交代に伴い暗黙知の継続が失われる、部門ごとに知が閉じていて全社で活用できない、そもそも知を蓄積する仕組みが整備されていない、といった事態が想定されます。

2つの危機に対応できている企業は、知を継続的に積み上げ、AI活用の精度と適用範囲を段階的に拡大しています。その一方で対応が遅れる企業は、その差を後から取り戻すことが難しくなります。

図表1:企業のナレッジが直面する2つの危機

企業のナレッジが直面する 2つの危機

ナレッジのAI-Ready Data化

2つの危機は、いずれもナレッジのデータ化によって対応できます。危機と対をなす形で、今ある知を生かす機会とこれからの知を蓄積する機会、2つの機会が存在するのです。そして、ナレッジをデータ化する際に忘れてはならないのが、AIと人がともに活用できるAI-Readyな状態になっているか、つまりナレッジのAI-Ready Data化ができているかという視点です。

ナレッジをAI-Readyな状態にするためには、多様なソースに対して段階的に意味を積み上げる構造が必要です。その構造は、セマンティック・オントロジー・ビジネスコンテキストの3層に分かれます。

セマンティック層では、要素に意味を与えます。構造化データであれば、金額表記は税込か税抜か、通貨単位は何かを明示し、文書や画像には用語・属性を付与、暗黙知については判断基準や勘所を言語化します。オントロジー層では、要素間の関係や概念の階層を体系化し、構造化・非構造化・暗黙知をまたいでエンティティを統合します。例えば、文書中の「調達部」と組織マスタの「購買部」を同一概念として名寄せすることなどが考えられます。ビジネスコンテキスト層では、整備されたデータや概念体系を、営業判断・契約管理・リスク評価といった特定業務の文脈で活用できる形に整えます。

意味を段階的に積み上げることで、ユースケースごとの適応性、複数業務にまたがる再利用性、文脈に即した出力の正確性、非構造化・暗黙知まで取り込む網羅性が得られます。

図表2:AI-Ready Dataの3層構造(セマンティック/オントロジー/ビジネスコンテキスト)

AI-Ready Dataの3層構造 (セマンティック/オントロジー/ビジネスコンテキスト)

3層構造を機能させる3つの要件

3層構造を機能させるには、3つの要件を統合的に満たす必要があります。

第一に、データの構造化・メタデータ整備・セマンティック付与により、AIがデータの意味と関係性を理解できる「AIが読める形」にすることです。第二に、形式知の体系化と暗黙知の形式知化を進め、組織固有の文脈・判断・経験を伴う「AIが使える知」を整えることです。これがなければ、AIの出力は一般論にとどまります。第三に、正確性・鮮度・出典の明示などAI活用に耐える品質基準(DRAI:Data Readiness for AI)を確立し、「AIが信頼できる品質」を保つことです。品質が担保されないナレッジに基づく出力は業務判断に使用できず、組織にリスクをもたらします。

3つの要件は独立ではなく、相互に支え合います。AIが読める形に整っていても組織固有の知が含まれなければ価値を生まず、知がそろっていても品質が伴わなければ使えません。3要件を統合的に満たすことで、初めてAI-Ready Dataが機能します。

図表3:AI-Ready化の3つの要件

AI-Ready化の3つの 要件

ナレッジのデータ化が生み出す価値

ナレッジのデータ化が生み出す価値は、即効的価値・構造的価値・戦略的価値の3層に整理できます。これらは独立した選択肢ではなく、組織が段階的に積み上げていく階層関係にあります。

3層の価値は時間とともに積み上がり、最終的に自社固有の競争優位として結実します。即効的価値は速やかに、構造的価値は中期的に、戦略的価値は長期的に現れます。

図表4:ナレッジのデータ化が生み出す3層の価値(即効的・構造的・戦略的)

ナレッジのデータ化が生み出す3層の価値 (即効的・構造的・戦略的)

どう実現するか――2つの入り口とPwCのサービス

ナレッジのデータ化には、組織の状況と狙いに応じた2つの入り口があります。現場の具体的な課題を起点とする「課題起点型(点)」と、全社のナレッジ資産を起点とする「データ起点型(面)」です。いずれの入り口も、全社のナレッジ戦略を共通の土台に置いた上で、対象とするナレッジに対しセマンティック・オントロジー・ビジネスコンテキストの3層を整え、「AIが読める形」「AIが使える知」「AIが信頼できる品質」の3つの要件を満たすAI-Ready Data化に有効なアプローチであり、組織の現状に応じて選択します。両者は排他的なものではなく、相互に補完しながら進化します。

課題起点型は、特定業務の具体的な課題を起点に、課題解決のためにナレッジをデータ化して即効的価値を優先するアプローチです。現場に明確な課題があり、まず成果を見せたい場合に適しています。ユースケースの選定から着手し、PoCと効果測定を経て横展開へと進みます。その成果は即効的価値から始まり、横展開を通じて構造的価値へとつながります。

データ起点型は、全社のナレッジ資産を起点に、ナレッジを共通基盤化して複数用途に展開するアプローチです。経営がAI活用を戦略的に重視し、中長期の投資が可能な場合に適しています。ナレッジ体系の設計から取り組み、共通基盤を構築して複数領域へ展開します。構造的・戦略的価値に始まり、個々のユースケースで即効的価値にも波及します。

入り口の選定にあたっては、現場の課題と経営戦略における関心の度合いに加え、既存データ資産の成熟度、組織の意思決定スピード、社内のAI・データリテラシー、失敗許容度といった観点が判断材料になります。またいずれの入り口を選んでも、最終的に両者は相互補完しながら、「自社の競争優位の確立」という同じゴールに収斂していきます。

図表5:実現への2つの入り口(課題起点型/データ起点型)と適合性マトリックス

実現への2つの入り口(課題起点型/データ起点型)と 適合性マトリックス

PwCのサービス

PwCは、課題起点・データ起点のいずれの入り口においても、全社ナレッジ戦略の策定を共通の起点に置き、構想から定着・拡大までを一貫して支援します。その過程では、対象ナレッジへの3層構造の付与を通して、ナレッジのデータ化・データのAIフレンドリー化・メタデータ管理の徹底という3つの要件を統合的に満たしたデータを構築。ナレッジを単にデータ化するだけでなく、人とAIがともに活用できるAI-Ready Dataへと整えます。

課題起点型では、全社ナレッジ戦略・推進方針の整理を土台に、対象業務の課題定義・ゴール(KPI)設定から着手します。対象ナレッジの棚卸しをした上でAI-Ready Data化し、セマンティック・ビジネスコンテキストレイヤーの整備とPoC環境の構築・検証をして、KPIに基づき効果を測定します。およそ6カ月後に対象業務における即効的価値をPoCで実証し、横展開に向けた計画と、再利用可能なナレッジ資産の初期蓄積を得ることを到達点とします。価値の実証を最短で示すことに本質があるという考えの下、短期間で業務効果を可視化することで、組織内での次の取り組みへの推進力につなげます。

データ起点型では、同じく全社ナレッジ戦略・推進方針を土台に、全社ナレッジの設計、全体構想の策定から着手します。AI-Ready Data化に向けたアーキテクチャ・基盤方式を設計し、セマンティック・オントロジー・ビジネスコンテキストの整備を含む共通基盤を構築した上で、優先ドメインの業務で動作と有効性を検証します。およそ6カ月で優先ドメインのナレッジ基盤をパイロット構築し、横展開可能なアーキテクチャと再利用可能なナレッジ資産の初期蓄積を得ることで、構造的価値への土台を確立します。再利用可能な土台を築くことを重視し、構築した基盤がその後の継続的なユースケース展開を支える資産となるよう取り組みます。

価値を確認した後は、2つの入り口を並走させながら相互に補完し、好循環へと収斂させます。ここでは、技術・組織/人・プロセスを一体で変革することが鍵となります。個別ソリューションを共通基盤に統合し、共通基盤が新たなユースケースを加速させる技術面の循環、ドメイン知見と基盤理解が組織横断で流動する人材面の循環、ガバナンスやKPIを共通化し継続的改善を仕組み化するプロセス面の循環を通じて、ナレッジのAI-Ready Data化を自社固有の競争優位として結実させます。

PwCは、業務理解・ナレッジ/データマネジメント・AI技術・アーキテクチャ設計という4つのスキルを活用し、一貫したサービスを提供します。これらの統合的な能力と、自ら実践する立場から得た知見の双方を掛け合わせ、最初の一歩から定着・拡大まで、企業の取り組みに伴走します。

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主要メンバー

辻岡 謙一

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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蔡 沂肖

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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