7月20日に実施された参議院選挙で与党が敗北し、衆参両院ともに与党の議席数が過半数割れとなった。選挙戦を通じて各種の世論調査では経済政策についての関心は高く、足元の物価高に対して与党の掲げる給付金か、野党各党が主張する消費税減税や所得控除拡大か、といった点が争点となった。与党が敗北したことで、今後物価高対策として、減税や所得控除拡大なども考慮される可能性がある。昨年(2024年)10月の衆議院選挙では、所得控除額を103万円から178万円への引き上げる、いわゆる「103万円の壁」引き上げを掲げた国民民主党が、選挙前の7議席から28議席に大幅に議席を伸ばし、存在感を強めた。しかし、その後の与野党協議の中で、同案は換骨奪胎され、時限的かつ小幅な控除拡大(減税)にとどまった。以上の経緯を踏まえれば、今後の与野党協議の中で、実効性のある実質所得拡大策がとられるかは不透明な状況であるといえよう。さて、物価高対策一色となった参議院選挙であるが、そもそも日本経済の現状に対する評価・分析が抜け落ちたまま、目先の家計への影響緩和策ばかりに焦点が当たった感が否めない。そこで、本レポートでは改めて日本経済の現状を確認した上で、今後、日本経済が持続的・安定的な成長を遂げていくために、企業、家計(労働者)、政府・日銀に求められる打ち手を考えていきたい。
7月3日に連合が公表した春闘の最終集計結果によると、基本給を一律に底上げするベースアップに、定期昇給を加えた賃上げ率の加重平均値は5.25%となった。バブル崩壊直後の5.66%以来となる34年ぶりの高水準となり、2年連続で5%を超えた。以上は民間の動きであるが、公務員の側でも人事院が国家公務員全体の給与決定の際に参照する民間企業の従業員規模を「50人」以上からより賃金の高い「100人」以上に、中央省庁の職員の場合は「500人以上」から「1,000人以上」に引き上げる勧告をした。定期昇給のみにとどまっていた賃金が、官民でベースアップを含む全体的な上昇に転じるという明るい動きが広がっている。図表1・2で企業にとっての国内市場の大きさを示す国内消費額をみていこう。名目消費額は2019年10-12月期の299.2兆円から、2025年に338.7兆円と1割以上(+13.2%)拡大している。企業の経営戦略上、国内消費が1980年代後半1990年代後半からCOVID-19前まで、ほぼ横ばいで推移していたこともあり、「少子高齢化によって国内市場が縮小するので海外へ展開する」という見方が根強い。
直近でも、2024年の出生数は68万6,000人と、統計開始以降初めて70万人を下回り、合計特殊出生率も1.15と過去最低となり、国内市場縮小に対する懸念に拍車をかけている面があろう。しかし、足元では国内市場は拡大している。ただし、物価上昇分を除いた実質GDPは依然としてCOVID-19前の水準を上回っていない点も重要で、現在の物価・物価賃金の上昇の次の課題を示している。
こうした賃金や名目消費増加の背景には、企業の値上げがある。そこで、企業の価格設定行動についてみておこう。図表3で企業(全規模・全産業)の販売価格DI(=「上昇」-「下落」)の推移をみると、1992年頃にマイナスに突入してから、リーマンショック前の2008年頃、COVID‐19前の2018年頃には若干のプラスとなったものの、2020年までほぼゼロ以下、つまり販売価格を引き上げる企業よりも、下落させる企業の方が多い状態で推移してきた。不況(需要不足)が長期化している状態では、企業は販売価格を引き上げると顧客が逃げてしまうため、基本的に販売価格を引き上げるのが困難であったことを示している。
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