PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

米国売りは起きているのか:トランプ関税の見方(2025年4月)

  • 2025-05-09

相互関税により平均関税率は戦前並みの高水準となる

本年(2025年)4月2日、トランプ大統領はホワイトハウスで演説を行い、日本を含む世界各国が米国に対する非関税障壁を設定しているとして、その税率換算の数字を公表した上で、その半分の税率を「相互関税率」として各国からの輸入に課すとした。また、この取り組みは各国との不公平な貿易を是正し、米国にとって「解放の日」になるとした。その税率は、最低税率をほぼ一律に10%課した上で、その上乗せ分との合計で日本が24%、中国が34%、欧州連合(EU)が20%、台湾が32%、インドが26%、韓国が25%、インドネシアが32%、カンボジアが49%、ベトナムが46%、タイが36%、マレーシアが24%などとなっている。4月4日には中国に対してさらに125%まで引き上げるとした。外国からの輸入品に高率の関税が課されると、米国の消費者はこうした国々からの輸入品を避けて、米国内産や別の国からの輸入品を買うようになる。イェール大学によると、仮にこうした行動が起きず、現在の輸入量が維持されたとした場合、先行して関税が引き上げられていたメキシコ、カナダを含めて、米国の消費者は輸入品に対して28.0%の平均関税率(図表 1、点 線の「代替前の関税率」)に直面することとなる。これは実に1901年以来の高水準となる。また、関税率の引き上げを受けて、米国の消費者が米国内産や別の国からの輸入品を買うようになる。こうした消費行動の変化を踏まえた税率は、18.0%まで低下するものの、それでもなお1934年並みの高水準となる。

その後、トランプ大統領は4月9日に10%を上回る部分については90日間停止し、4月11日にはスマートフォン、PC、半導体、太陽電池などの一部商品について対象から除外するとした。米国の一部スマートフォン製造会社は、中国でスマホを組み立てて米国に出荷しているため、中国からの輸入品に高率の関税が課せられ、米国のみでスマホが組み立てた場合には小売り価格が3倍程度に跳ね上がるのではないか、と懸念されていた。現在米国政府は日本を含む各国と関税率に関する交渉を行っているが、10%の一律関税が残るだけでも戦前の1943年並みの水準となる。

図表1:米国の平均関税率の推移

(出所)イェール大学Budget Lab資料よりPwC Intelligence作成

4月2日に公表された関税率は事前に予想されていたよりもはるかに高い税率であり、グローバルの貿易量の縮小による景気下押し、米国の輸入物価上昇を通じたインフレ押し上げなどの懸念が浮上している。今後、具体的な実体経済への影響は、4月以降の経済指標をしっかりと確認することが重要となるが、金融市場では先行きの経済への下押し圧力となるとみて、世界的に株安となった。日経平均株価は、2月から3月にかけて3万7,000円前後で推移していたが、4月7日には3万1,137円まで6,000円程度の大幅下落となった。その後の一部関税引き上げの停止などの米政府の軟化などを受けて4月25日には3万5,705円まで値を戻しているものの、相互関税公表前の水準には戻していない。

関税ショックによる「トリプル安」が発生

経済の下押し圧力となることが起きた場合、通常は株安、債券高(金利低下)、ドル高となる。先行きの景気後退を懸念して株安となり、経済・物価の下押し圧力を防ぐための中央銀行の利下げが予想されて金利が低下し、米国の資産が買われることからドル高となる。しかし、今回の関税引き上げによる経済押し下げ圧力に対して株安は同じであるものの、一時債券安(金利上昇)、ドル安となっていわゆる株式、債券、通貨が同時に下落する「トリプル安」となった。今回は、通常と異なる動きをしていることが注目された。米10年国債利回りは、3月は4.16~4.38%で推移していたものの、相互関税発表後の景気減速懸念を受けて4月4日には4.01%まで低下した。しかし、その後は関税政策の不透明感等から4月11日には4.48%まで上昇した。また、為替についてもドル円は3月には1ドル150円73銭から146円92銭で推移していたものの、4月22日には140円29銭まで円高ドル安が進んだ。2008年の国際金融危機(いわゆるリーマンショック)や、COVID-19のようにグローバル経済に下押し圧力がかかった場合、先行きの経済下押し圧力、企業収益の低下予想により株安となる。一方、投資家は先行きの不透明感からできるだけ売却が容易で、グローバルに取引可能な資産を選好する。従来は米国債が安全資産として選ばれるため、株安・債券高・ドル高の展開となることが多かった。


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執筆者

伊藤 篤

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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