PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

国内金融環境が悪化する中、関税引き上げによる景気下押し懸念が強まる(2025年3月)

  • 2025-04-09

I.2025年3月のまとめ:国内金融環境が悪化する中、関税引き上げによる景気下押し懸念が強まる

日本経済の足元の動向につき確認していこう。まず国内消費をみると、1月の家計調査において、実質消費支出が前年比+0.8%、前月比-4.5%となった。4か月ぶりの減少となり、昨年10月以降の拡大を打ち消した。実質可処分所得(勤労者世帯)は前年比-1.7%と、こちらも4か月ぶりに減少した。実質可処分所得の伸びは強まっているものの、伸びは2024年5月~7月よりは弱く、毎月勤労統計等の比較からは2025年以降は再びマイナスとなる可能性も十分あり得る。引き続き政府は早期に手取り所得を増やす方策を行う必要性が増していると言えよう。一方、2月の商業動態統計では、名目の小売業販売額は前年比+1.4%、前月比+0.5%となった。業態別にみると、百貨店とスーパーは前年比減少、コンビニ・家電大型専門店・ドラッグストア・ホームセンターでは前年比増加となった。また、実質化した小売業販売額はここ数か月若干持ち直しており、この傾向が継続するかに注目であろう。次に設備投資動向をみておこう。1月の機械受注統計は、「船舶・電力を除く民需」(コア受注)は前月比-3.5%と2か月連続で減少した。1月の外需は同+1.9%となり、2か月連続で増加した。2月の鉱工業生産は、前月比+2.5%と4か月ぶりに増加した。もっとも昨年11月から今年1月までの減少の影響が大きく、1-2月生産平均値の対10-12月平均比伸び率では-0.6%と減少が続いている。生産予測調査に基づくと、1-3月期は前期比+0.0%となる見込みとなる。しかし、この数値の下振れ傾向を考えると、1‐3月期の伸びはゼロか減産となる公算が大きい。2月の貿易統計では、名目輸出金額は前年比+11.4%となり、5か月連続で増加した。輸出数量は、前年比+2.9%と4か月ぶりに増加した。以上を踏まえ、景気動向を確認しておこう。4月の日銀短観では業況判断DI(「良い」-「悪い」)は大企業製造業で12と12月から2ポイント悪化した。大企業非製造業は35と2ポイント改善した。また、貸出金利水準判断DI(全産業)は製造業で63、同非製造業で61と1991年以降で最も高い数値となった。借入金利水準判断(全産業)は2024年9月以降大きく上昇しており、3月調査において上昇の動きが加速している。1月の景気動向指数における一致指数は116.2となった。12月から0.1ポイント上昇して2か月連続で上昇した。物価面をみると、2月の企業物価指数では、国内企業物価指数が前月から横ばい(前年比+4.0%)、輸出物価指数は円ベースで前月比-1.3%(前年比+1.7%)、契約通貨ベースで同+0.5%、輸入物価指数は円ベースで前月比-1.7%(前年比-0.7%)、契約通貨ベースで同+0.5%となった。2月の全国消費者物価は、総合で前年比+3.7%、生鮮除く総合で同+3.0%となった。1月よりも生鮮・エネルギー価格の鈍化を受けて伸びが弱まった。食料(酒類除く)及びエネルギー除く総合(欧米型コア指数)は同+1.5%と、2%を下回って推移している。日本ではやや実質消費が上向く兆しがみられる中、企業の金融環境が悪化している。さらに4月3日にはトランプ大統領が日本向け24%、中国向け34%などの相互関税の引き上げを発表した。関税引き上げによる貿易赤字解消や自国産業育成の実現は困難とみられ、むしろ米国経済の悪化、それを通じた日本を含む各国経済への下押し圧力となることが懸念される。経済の押し上げ効果が期待されるトランプ政権の減税政策、これらの動きを受けた各国経済、金融政策、関税政策の影響をしっかりと見定める必要があろう。

II.Daily Macro Economic Insights
1.家計調査(2025年1月)-実質消費は4か月ぶりの減少、拡大を打ち消し-
実質消費は前月比-4.5%と4か月ぶりの減少、昨年10月以降の拡大を打ち消し

総務省から2025年1月の家計調査が公表された。実質消費支出が前年比+0.8%、前月比では-4.5%、名目消費支出が前年比+5.5%、前月比で-3.8%となり、12月から鈍化した。特に前月比では12月の拡大から一転して1月は減少となり、前月比でみた実質消費の減少幅が大きくなっている。実質消費の変化に寄与した品目の内訳をみると、設備修繕・維持といった住居費や授業料等の教育費が大きく増加している。実質可処分所得(勤労者世帯)の動きをみると、1月は前年比-1.7%と4か月ぶりに減少した。勤労者世帯の可処分所得は名目で前年比+2.9%、実質で同-1.7%となり、物価上昇による実質ベースの所得押し下げ効果は-4.6%である。名目実収入は前年比+3.5%と2024年2月以降12か月連続で増加した。伸びはやや低下して、実質実収入は4か月ぶりに前年比マイナス(-1.1%)となった。総務省による、SNAベースの家計最終支出に相当する1月の実質消費支出総額(CTIマクロ)は104.4(2020年=100)となり、12月から0.1ポイント減少した。実質消費支出総額の動きを概観すると、2024年4月から9月までは緩やかな拡大基調にあったが、10月以降は緩やかな拡大の動きが止まり概ね横ばいで推移している。水準でみると、2023年のピーク(3月)にも届かず、消費税増税を行う以前の2019年8月(105.8)の水準を上回るにはまだ時間がかかる模様である。実質可処分所得の伸びはプラスが続くものの、伸びは2024年5月~7月よりは弱く、毎月勤労統計等の比較からは2025年2月以降は再びマイナスが定着する可能性も十分あり得る。引き続き政府は早期に手取り所得を増やす方策を行う必要性が増していると言えよう。


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執筆者

伊藤 篤

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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片岡 剛士

チーフエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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薗田 直孝

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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