PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

三中全会からうかがえる中国経済の展望-改革のさらなる全面的深化、中国式現代化の推進(2024年8月)

  • 2024-08-27

中国では、7月15~18日に中国共産党の重要会議である三中全会(第20期中央委員会第3回全体会議)が開催された。三中全会では、過去から中長期的な経済政策の運営方針が討議されてきた。このため、足元の中国経済が長引く不動産不況などの影響から減速基調を辿っている中、今回の三中全会で大規模な景気刺激策が打ち出されることを期待する声もあった。ただし、以下に述べるとおり、目先の経済テコ入れとの観点からみれば、総じて具体的な施策に乏しい内容であり、中国共産党として目指すべき原理原則を確認するものとなったように思われる。

今回の三中全会で審議・採択された「改革のさらなる全面的深化、中国式現代化の推進に関する中共中央の決定」(以下、「決定」)をみると、習近平政権が目指している2024年の経済運営のスタンスに止まらず、中長期的な目線を踏まえた政府当局の政策スタンスがうかがえる。以下では、三中全会の「決定」で示された方針の内容や方向性を踏まえつつ、中国経済の今後の展望について筆者の見解を述べていく。

三中全会の位置付け

中国の三中全会は、指導部の中長期的な国家運営の基本方針を決定する重要会議である。中国では、5年に1度開催される共産党大会において、共産党の最高指導機関である中央委員会の委員(委員約200名、候補委員約170名)が選出される。これら委員全員が集まって開催する「全体会議」を、年に1回以上開催することが党規約に定められている。近年は1期5年の間で「全体会議」が7回開催されることが慣例化しており、共産党大会直後に新指導部を選出する「一中全会」から、次期党大会の直前に議題を設定する「七中全会」など、それぞれの会議には概ね役割が定められている。「三中全会」とは、任期中の第3回となる全体会議との位置付けにある。過去の三中全会を振り返ると、1978年には改革・開放路線の導入が決定されたほか、1993年には社会主義市場経済体制の確立が打ち出されるなど、中長期的な経済政策も含め中国の重要な経済改革を決定する場となってきた1。このような経緯もあり、足元の経済環境が厳しい状況に直面している中、3期目に入った現政権が開催する三中全会において、どのような方針が打ち出されるのか注目されていた。

通例では、三中全会は共産党大会から1年後に開催されている。3期目の習近平体制の下では2022年10月に共産党大会が開催されたことから、三中全会は2023年秋頃の開催が見込まれていたが、今回は特段のアナウンスもないまま年を越し、党大会の約2年後となる今年7月に開催された。今回の三中全会の開催が遅れた背景など詳細は不明ながら、足元の厳しい経済環境下にあって、経済構造改革のための施策検討に時間を要したほか、習近平政権が昨年来強力に推進している「反腐敗・反汚職」運動により多数の高級幹部が摘発され、混乱を来たした党指導部の体制作りを進めていたこと等が考えられる。いずれにしろ、こうして明確な説明もないまま開催時期が延期されたことから、中国政府当局の情報開示に対するスタンスを不安視する声を惹起することにもなった。

1 過去の三中全会の内容を振り返ると、1978年:改革・開放路線を決定、1984年:都市を重点とした経済体制改革の基本政策を策定、1988年:価格と賃金の改革プランを承認、1993年:社会主義市場経済体制の確立方針を策定、1998年:農地使用期限の延長など農村経済活性化を議論、2003年:私営など非公有制経済の拡大奨励を決定、2008年:農地使用権の流動化など農村改革を議論、となっている。
2012年の党大会を経て発足した習近平政権では、2013年:幅広い全面深化改革や一人っ子政策緩和を決定、2018年:党に権力を集める党・国家機関改革深化案を採択、となっている。


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執筆者

薗田 直孝

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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