PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

需要の弱さからくる物価の下押し圧力が強まる(2024年7月)

  • 2024-08-08

I. 2024年7月のまとめ:需要の弱さからくる物価の下押し圧力が強まる

日本経済の足元の動向につき確認していきたい。まず国内消費をみると、5月の家計調査においては、実質消費は前年比-1.8%、前月比-0.3%と減少した。勤労者世帯の実質可処分所得は前年比+5.3%と、2022年9月以来20か月ぶりの前年比増加となった。賃上げやボーナス、定額減税は実収入や可処分所得の伸びにプラスに働くだろう。問題はそれが持続するかである。消費と価格の動きをみると、価格上昇が進む中で必需財等の基礎的支出の消費は減少し、ぜいたく品等の選択的支出は増加が続くものの、これらの財の価格変化は弱まりつつある。つまり物価上昇に家計消費が耐えられなくなっている。一方、6月の商業動態統計では、名目の小売業販売額は前年比では伸びが加速した。また、実質化した小売業販売額は2024年に入り、やや持ち直しの動きがみられる。百貨店が押し上げ、スーパー・コンビは弱めの動きとなっている。次に設備投資動向をみておこう。5月の機械受注統計は、船舶・電力を除く民需(コア民需)は前月比-3.2%となり2か月連続で減少した。また、外需向けは、5月に同+9.1%と2か月連続で増加した。6月の鉱工業生産では、生産が前月比-3.6%と前月の増加をほぼ打ち消した。四半期でみると、1-3月期の生産は自動車の認証不正による減産により前期比-5.2%と大幅に落ち込んだ。4-6月期は反動増が期待されていたものの、同+2.9%と1-3月期の落ち込みを取り戻すには至らなかった。外需に目を転じると、6月の貿易統計では、名目輸出金額は前年比+5.4%となり、7か月連続で増加した。輸出数量は前年比-6.2%となり5か月連続で減少した。また、輸入金額が前年比+3.2%となり、3か月連続で増加した。以上を踏まえ、景気動向をみておこう。6月の日銀短観では業況判断DI(「良い」-「悪い」)は大企業製造業で13と3月から2ポイント改善した。大企業非製造業は33と1ポイント悪化した。また、3月の日銀政策変更後初の短観であるが、貸出金利水準判断DIは6月に全規模製造業で32、同非製造業で34と3月調査から大幅に増加した。先行きも悪化の見込みである。5月の景気動向指数における一致指数は116.5となった。前月(4月)から1.3ポイント上昇し、3か月連続の上昇となった。6月の減産などを踏まえると、今後も一本調子の拡大は見込めないであろう。物価面をみると、6月の企業物価指数では、国内企業物価指数が前年比+2.9%(前月比+0.2%)となった。2022年に入り、水準が切り上がっている。輸出物価・輸入物価も伸びを強めている。企業物価は6か月程度のラグをもって消費者物価を押し上げる。6月の全国消費者物価は、総合で前年比+2.8%(前月+2.8%)となり、前月と横ばいとなった。エネルギー価格の上昇が寄与している。もっとも食料・エネルギーを除く欧米型コアでは前年比+1.9%と2%を割り込んでいる。このように日本経済は、賃上げなどによる所得拡大はみられるものの、価格上昇に消費がついていけていない状況にある。日本銀行は7月の政策決定会合で利上げを実施し、先行きも経済物価動向が見通しに沿って推移する場合には利上げを継続する見通しを示した。足元の利上げ幅は小さくとも、引き締め方向が示されたことで家計や企業の金融環境は悪化し、消費や設備投資はさらに弱含みの動きとなろう。物価の基調を示す欧米型コアは既に2%を下回っている。先行きの内需の冷え込みによって物価が2%を安定的に上回ることは困難になりつつあるといえよう。


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執筆者

伊藤 篤

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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片岡 剛士

チーフエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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薗田 直孝

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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