日本の2023年4-6月期のGDP(2次速報値)は実質1.2%(年率4.8%)、名目2.7%(年率11.4%)となった。設備投資を主因に1次速報から下方修正となった。名目GDPに占める設備投資の割合が、一時1980年代平均の17%を超えたものの、4-6月期には再び17%を下回った。4-6月期の法人企業統計における経常利益は、全産業31兆6,061兆円、製造業11兆2,656億円、非製造業20兆3,405億円となり、全産業・製造業・非製造業の3つ全てで1954年4-6月期以降で最も高い利益水準となった。こうしてねん出された利益は、設備投資や人件費に向けられることが期待される。フリーキャッシュフロー(経常利益/2+減価償却費)がどの程度設備投資に向けられたかをみると、2010年から2019年まで55~60%で推移していた。同比率は、COVID‐19の影響による利益の落ち込みにより、2020年1-3月期から2021年1-3月期に60%を超えて推移していたが、2021年4‐6月期以降は55%以下に落ち込んでいる。設備投資は、半導体などの戦略投資、DX・GX投資など景気循環とは独立した需要が期待されており、利益も過去最高を更新している。しかし、設備投資の先行指標とされる機械受注でのコア受注(船舶・電力を除く民需)は、4-6月期には前の期よりも減少し、7-9月期も減少する見込みである。また、鉱工業生産をみると、生産は7月・8月と減速基調が明確となり、在庫率も前年比で上昇傾向にある。生産は対外関係も影響するが、貿易統計における輸出数量は昨年10月以降、前年比で減少し、足元では減少ペースが拡大している。
30年ぶりの春闘の高さを反映した一人当たり賃金の改善に、就業者数の増加が相まって、総労働所得の改善、消費拡大が期待されている。しかし、所得・消費動向は今のところまだら模様である。足元の企業物価は7月・8月と前月から増加し、4~8月には交易条件の改善が続いている。交易条件による実質所得の改善は、足元の食料・エネルギーを除くプラス幅拡大継続となっている消費者物価の上昇で少なくとも部分的に相殺されている。こうしたインフレによる実質所得の押し下げに加えて、労働市場の先行指標である新規求人数は悪化傾向がみられている。さらに足元の交易条件の改善について、先行きは原油価格の上昇を通じて悪化に転じるリスクがある点にも警戒が必要であろう。消費動向については、販売側の商業動態統計では7月に続き8月も増加が継続している一方、7月の家計調査ではインフレの影響で実質消費に減速の動きがみられる。
前述した企業の生産・設備投資の慎重スタンスは、国内の所得・消費環境の脆弱さに起因していると言える。海外ではインフレ沈静化のための利上げが続いている。国内では食料・エネルギー価格上昇を起因とするインフレへの対応に加えて、1990年代後半以降の賃金・物価が動かないという、岸田首相の言及する「冷温経済」、筆者の主張する「凍結経済」からの脱却、すなわち賃金と物価が上がる経済への移行という2重の対応を迫られている。前者では物価の行き過ぎを抑えて、後者では物価・賃金の押し上げを目指すという板挟みとなっている。インフレによる実質所得・実質消費の減少が広がれば、企業の売上・利益が減少して、せっかく生じた賃上げの機運が盛り下がり、再び賃金・物価の動かない「冷温経済」・「凍結経済」に戻りかねない。このため、10月に取りまとめられる経済対策において、減税による家計サポートが重要である。
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