足元の中国経済は内憂外患の厳しい状況に直面している。中国国内ではゼロコロナ政策解除後に期待された「リベンジ消費」の勢いが持続せず、外需を取り巻く環境も欧米景気の先行き不透明感が払拭されないなか厳しい状況にある。また、過去の経済減速局面では政府による財政出動を背景に経済の牽引役となってきた固定資産投資も鈍い伸びを続けている。
こうしたなか、裾野が広く中国経済全体への影響が大きい不動産市場に対して、政府当局によるテコ入れ策がどのように打ち出されるか、今後の行方が注目されている。ただし、先んじて結論を述べると、中国不動産市場は習近平政権が国内の格差是正を唱えて掲げる「共同富裕1」に象徴される政策上のジレンマに直面している。このため、本格的な市場回復は見込みがたく、政府当局が掲げる2023年のGDP成長率5%前後の実現も危ぶまれる状況にあるとみている。以下では、足元での不動産市場の動向および政府当局が打ち出す政策とその効果・影響を踏まえつつ、今後の中国不動産市場の行方について筆者の見解を述べていく。
歴史を振り返ると、かつて中国の都市住民は国有企業への就業とともに、住宅や学校、病院、商店など全ての社会生活インフラを有する「単位」に身を置き、“生老病死(ゆりかごから墓場まで)”制度の下で従業員とその家族の生活が支えられていた。
その後、1990年代に鄧小平氏により社会主義市場経済が提唱され、市場経済化が推進されることになった。その当時、業績悪化に直面し膨大な債務を抱えていた国有企業の「単位」から住宅や学校、病院などが切り離され、個人による住宅購入が可能となったことで都市部に不動産市場が誕生した。なお、中国において土地は国家が所有しており、住宅の所有者が取り扱っているのは期限付きの土地使用権である。また、農地は集団所有されており、農民には期限付きの耕作権が与えられているが、人民への食糧の安定共有を確保するため、農地の宅地転用は厳しく制限されており、市場取引の対象外である。
中国では経済改革開放政策の下で高度経済成長が数十年に亘って続いたなか、都市部に人口が流入し都市化が進展するに伴い住宅に対する旺盛な実需が顕在化してきた。さらには、中国国内では個人の資産運用の手段が限定的であったことから、利殖の材料として投資もしくは投機の動きも高まった。この結果、上海や北京など主要都市の不動産価格は年間所得の40~50倍に達するなど、一般庶民の手に届かない水準まで高騰した。
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