PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

日本は外需主導で緩やかな回復/ 堅調な米国経済/軟調な欧州・中国(2023年7月)

  • 2023-08-04

I.2023年7月のまとめ:日本は外需主導で緩やかな回復/堅調な米国経済/軟調な欧州・中国

日本経済は、2023年4-6月期のGDPが前期比年率+2.0%(前期比+0.5%)となる見込みである。前期比+0.5%のうち、外需が+0.8%ポイント、内需が-0.3%ポイントと外需主導で緩やかな成長が継続しているとみられる。輸出は、供給制約の緩和した自動車が欧米向け中心に好調だったと見込まれる。インバウンド需要の増加も寄与した。また、輸入については輸入価格が下落に転じ、実質輸入でも減少しGDPの押し上げ要因となった。国内需要をみると、インフレの影響で消費は若干のプラスに留まったとみられる。春闘で30年ぶりの賃上げが実現したものの、毎月勤労統計などの賃金ではまだ実質所得の減少が継続しており、実質消費の押し下げ要因となっている模様。設備投資は、円安などを受けた好調な企業収益を背景にプラスの伸びが継続。仕掛品の減少を中心に在庫が押し下げ要因となったとみられる。

2023年7-9月期以降の日本経済については、足元の食料品などの値上げラッシュは10月までは継続するとみられている。円安・エネルギー価格上昇局面では、企業のコスト増(交易条件悪化)がしきりに報道・注目を集める傾向がある。しかし、4-6月期に輸入価格が下落に転じている。これは、企業のコスト改善・交易条件の改善につながり、今後の設備投資や賃上げ余力になる点も重要だ。消費者物価の上昇は日本経済の下押し圧力となることが懸念されている。しかし、昨年来の物価高が今年の賃上げにつながったように、物価高は悪い面ばかりではない。今年の物価高が来年の賃上げにつながるという面もある点も抑えておきたい。1990年代後半以降は、エネルギー価格の上昇が生じても、国内価格を上げず、企業収益の圧迫・賃金低迷につながってきた。しかし、足元では国内価格への転嫁が進んでいることで、企業が収益を維持しやすくなっている。もっともそれで消費が落ち込まないかは、引き続き焦点となろう。足元の経済状況が改善するほど、将来に過度に楽観的な見方から早期の金融引き締めや増税などの緊縮政策がとられる可能性が高まる。経済政策としては、物価・賃金の好循環の芽が確実に花開くように、緊縮政策をとらないことが重要な局面であろう。

年初は、米国経済が利上げで減速、中国経済がリオープンで回復とみられていたが、そうした見方は逆転している。米国経済は、2023年4-6月期の実質GDPが前期比年率+2.4%となり、利上げがありながらも世界経済の牽引役となっている。ユーロ圏については、2023年4-6月期の実質GDPは、前期比年率+1.1%(前期比+0.3%)となった。輸出・観光増加でフランス(前期比+0.5%)、スペイン(+0.4%)とプラス成長を保ったものの、ドイツは0%と横ばいとなった。イタリアでは-0.3%と減少した。利上げが継続する中で、成長率はゼロ近傍で推移し、リセッション・リスクに直面しているといえよう。中国経済は、2023年4-6月期の実質GDPは、前期比年率+3.2%(前期比+0.8%)となった。1-3月期の前期比年率+8.8%(前期比+2.2%)より大幅に減速した。昨年12月のゼロコロナ政策解禁を受けた急回復が期待されていたものの、早くも成長率が鈍化してきている。中国経済の低迷要因がCOVID‐19ではなく、不動産市況の低迷や過剰債務といった他の要因である可能性が高い。経済低迷がありながらも、債務問題を抱える中での財政支出が問題解決に寄与せず、金融緩和も資本流出・人民元安につながるリスクがある。中国経済は政策対応が難しく、5%の成長目標は達成困難な状況にあるといえよう。


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執筆者

伊藤 篤

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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片岡 剛士

チーフエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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