PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

欧米インフレ継続/中国回復期待は不発/日本は回復基調(2023年5月)

  • 2023-05-31

I.2023年5月のまとめ:欧米インフレ継続・中国回復期待は不発・日本は回復基調

5月の海外経済の動きを振り返っておこう。米国経済は、累積的な利上げの効果に加え、銀行危機による貸出基準の厳格化による景気の下押しが懸念されているが、堅調さを保っている。2023年1-3月期(Q1)の実質GDP(改定値)は前期比年率+1.3%となった。消費は同+3.8%となり、財・サービス消費ともに伸びた。こうした消費の好調さにより在庫がGDPを大きく押し下げており、見た目以上に良好な結果だったといえよう。また、インフレの要因とされる労働市場の逼迫度は継続している。米国の労働市場では、歴史的に職探しをしている人1人当たり0.6人分の職しかなく、COVID-19前のピークは1.2人分だった。COVID-19後に一時2人分まで上昇し、直近(2023年3月)でも1.7人分となっている(算出方法)。つまり労働市場では、空前の売り手市場(求職者有利)が継続している。逼迫した労働市場がサービス業の賃金・物価を押し上げている。足元のインフレ率のプラス幅縮小で、インフレに対する警戒が和らいでいるが、こうした状況は賃金上昇を通じて物価の押し上げ圧力として継続し、今後の金融引き締めにも影響を与えるであろう。

ユーロ圏については、2023年1-3月期の実質GDPは、前期比年率+0.1%とかろうじてプラス成長を保った。プラス成長を保ったスペイン(同+0.5%)、フランス(同+0.2%)、イタリア(同+0.5%)が牽引した。一方、ドイツは消費や建設投資、政府消費の減少を受けて同-0.3%となった。前期(10-12月期)の-0.5%に続く、2・四半期連続のマイナス成長となり、テクニカル・リセッション入りとなった。インフレによる消費の減少により、ドイツのGDPの水準はCOVID-19前を下回っている。

中国経済は、昨年12月のゼロコロナ政策の緩和以降、急激な回復期待が高まっていたが、今のところ期待を下回っている。4月の財新の製造業のPMIは49.5となり、前月の50から減速した。また、4月の消費者物価は前年比+0.1%となった。1月の同+2.1%からプラス幅の縮小傾向が継続しており、デフレすら視野に入っている。生産者物価も3月に同-3.6%
となった。昨年12月の-0.7%からマイナス幅が拡大している。

日本経済は、5月8日からCOVID-19が感染症法上の5類に分類され、これまで段階的に正常化してきた経済活動を更に後押ししよう。1-3月期の実質GDPは、前期比年率+1.6%となった。経済活動の再開に伴うサービス消費に加えて、供給制約の緩和された自動車などの耐久財消費も堅調であった。賃金上昇が起こりつつある中で、値上げ前に消費をしようという行動が出てきている可能性もある。このように物価と賃金の好循環が生じつつある。さらにインバウンド需要については、非居住者の消費(年率換算)は2023年1-3月期に名目3兆9,515億円(2019年1-3月期比-11.6%)、実質3兆6,759億円(同-16.1%)と急激に回復している。円安でも数量の伸び悩みが指摘される財輸出と異なり、円安がインバウンド消費の増加に寄与している。物価は、エネルギー価格の鈍化による下押しはあるものの、企業の価格転嫁行動の強まりと、経済活動の再開によって、2023年度のコアCPI(生鮮食品を除く総合)は+2%を上回る見通しである。


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執筆者

伊藤 篤

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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片岡 剛士

チーフエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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