PwC Intelligence ―― Monthly Economist Report

-人口・就業のスマイル・カーブから描く2%物価目標達成への道のり- (2023年2月)

  • 2023-03-03

1.政府・日銀の共同声明維持で、当面は「凍結経済」解凍の流れが続く見通し

筆者は、Monthly Economist Report『凍結経済の形成・解凍・今後の見通し』(2023年1月)において、日本経済の過去・現在・未来を考えるには、以下のように政府・日本銀行の物価目標の設定が鍵になる、とした。すなわち、

① 1990年代後半以降、日本銀行が実質的にゼロ%を目標とした金融政策運営を実施したことで、過度な円高、緩和した労働市場が継続して総需要不足となり、賃金・物価が凍結する「凍結経済」が形成されたこと、

② 2013年以降、政府・日本銀行が2%の物価目標を掲げて、日本銀行が大規模な金融緩和を実施したことで、過度な円高が是正され、労働市場は逼迫し、総需要がプラスに転じて、賃金・物価が解凍し始めたこと、

③ 今後については、政府・日本銀行がどのような物価目標を設定するかが極めて重要となること、を示した。2月14日、政府は黒田東彦総裁・雨宮正佳副総裁、若田部昌澄副総裁の後任人事として、植田和男東大名誉教授を総裁候補、内田眞一日銀理事、氷見野良三前金融庁長官を副総裁候補とする国会同意人事を衆参両院の議院運営委員会の理事会に提示した。今後、国会が候補者に同意すれば、政府は正式に任命する見通しとなっている。いずれにしても、正式な金融政策の決定は、正式任命後の金融政策決定会合でなされるので、以下の議論は所信聴取での発言等に基づくものであることに留意されたい。

同意人事案の提示を受けて国会で2月24日に所信聴取と質疑が実施された。植田候補は、今後の金融政策運営について、景気と物価の現状と先行きの見通しに基づいて実施していく旨を強調した。現状の消費者物価は、総合で前年比+4%を超える高い物価上昇率となっているものの、主因は輸入物価の上昇によるものであり、需要の強さによるものではない、との見方を示した。このため、今後輸入物価上昇の影響が弱まり、物価は2023年半ばにかけて2%以下へ低下するとの見通しを示した。また、2013年1月の2%の物価目標を含む政府・日銀の共同声明については、物価は2%には届かない見通しではあるものの、基調的な物価の動きには良い動きが出てきているとした上で、現時点で共同声明を変更することには消極的な姿勢を示した。岸田首相は、所信聴取後の24日の記者会見において、物価安定下での持続的な経済成長の実現に向けて取り組みたいとして、所信聴取での新執行部候補者の発言については政府として特に違和感のある内容はなかった、とした。このため、少なくともすぐに共同声明、物価目標を見直す動きが活発化することはないであろう。今後、国会が候補者に同意し、現在の候補者が正式に任命されて、現在の共同声明・物価目標に沿った金融運営が実施されれば、凍結経済の解凍の動きは進展していくとみられる。


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執筆者

伊藤 篤

シニアエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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