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Tech Translated: Neuromorphic Computing ニューロモルフィックコンピューティング(2025年3月)

  • 2025-03-17

※本コンテンツは、Tech Translated: Quantum Cryptographyを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。


ニューロモルフィックコンピューティングとは何か?

ニューロモルフィックコンピュータシステムは、脳の機能を模倣することを目指している。人間の心の能力に匹敵するか、あるいはそれを超えることが最終目標である。これには、ソフトウエアを使用して生物と同じように情報をモデル化して処理することから、メモリスタ(ニューロンのように動作し、記憶する機能も持ったトランジスタ)などの新しいコンポーネントを含む革新的なハードウェアアーキテクチャを使用して、低電力と高性能という脳の(今のところ)無敵の特性に匹敵させる試みまで、幅広く含まれる。

どのようなビジネス上の問題に対処できるか?

「AIのとてつもない可能性が日増しに明らかになる中、この分野における大きな懸念の1つは、私たちが理解するような柔軟なインテリジェンスをバイナリコンピューティングにマッピングさせることが実際には非常に難しく、結果として非効率であるということだ」とPwC米国法人の製品・テクノロジー部門のマネージングディレクターであるDina Brozzettiは説明する。「AIが人間と同じように、事前のプログラミングなしに、低いエネルギーコストで世界を真に学び理解を進化させることができれば、真空管からトランジスタへの移行以来、コンピューティングにおける最も大きな変革をもたらす分岐点となる可能性がある。人間の脳は、スーパーコンピュータでも実行するのが困難な計算を行うために、20ワットの電球と同程度のエネルギーしか消費しないのだ」。ニューロモルフィックコンピューティングは、AIや機械学習への直接的な応用にとどまらず、人間と機械のあらゆる知的コラボレーションに影響を与える。特にデータ分析や研究開発、さらにはモノのインターネット(IoT)、スマートシティ、自律走行車、人間拡張(Human Augmentation)、感覚処理、産業管理といった領域にも及ぶ。この幅広い可能性こそが、2023年にPwC米国法人がニューロモルフィックコンピューティングをエッセンシャルエイト(最も重要な8つのテクノロジー)のひとつに挙げた理由である。

どのように価値を生み出すか?

今日のコンピュータは、内部構成によって制限されている。トランジスタはゲートの両側でのみ接続されている。しかし、ニューロンは同時に何千もの他のニューロンに接続されている。さらに、今日のデジタルシステムのような二項式のオン/オフ方式とは異なり、ニューロンは受信信号の量と持続時間の両方に反応する。そのため、はるかに少ないエネルギー需要で情報処理能力が大幅に向上する。「これにより、ITのオーバーヘッドが大幅に削減されるだけでなく、エネルギー使用量の削減を通じて気候変動に対処するための重要なツールになる」と、PwC 米国法人グローバルAI・イノベーションテクノロジーリーダーのScott Likensは述べている。そこには障害もある。神経科学者は単純な動物の脳でさえ理解しモデル化するのに未だに苦労している。メモリスタはまだ理論の域を出ていない。しかし、ソフトウエアとハードウエアの両方にニューロモルフィックの原理を適用することで、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のSpikeGPTのような目覚ましい進歩がもたらされる。この神経ネットワークの使用エネルギーは、同等のシステムよりも22倍少ない。ニューロモルフィックシステムは、生物と同じように進化を通じて自己改善することができ、多くの研究開発分野で劇的なポジティブフィードバックループを生み出す可能性を秘めている。「スケーラブルなブレイクスルーが実現すれば、ニューロモルフィックプロセッサは、私たちがまだ想像し始めたばかりの目もくらむほど多くの新しいアプリケーションを生み出し、同時にAIを私たちの生活に真に統合するだろう」とLikensは言う。「スマートフォンほどの大きさのデバイスで、現在はスーパーコンピュータを必要とするようなタスクを実行できるようになるかもしれない。また、比較すると今日の生成AIモデルが明らかに遅くて限界があるように見えてしまうような、新しい形態のAIを実現する可能性もある」。

誰が注意を払うべきか?

ニューロモルフィックコンピューティングが普及すれば、今のところニューロン(人間の脳)による情報処理がシリコン(コンピュータのプロセッサ)を上回っている分野に関わる仕事をしている人々は、最終的に影響を受ける可能性がある。一般的なテクノロジーと特に医療テクノロジー、運輸・物流、エンジニアリング・建設、自動車、化学、製薬・ライフサイエンスなどの業界におけるイノベーションに重点を置いたチームは、画期的なブレイクスルーに備えて、常に最新の情報を把握しておく必要がある。デジタル技術が広く普及している現代では、業界全体のCTO、CISO、COOなどのリーダーが、ニューロモルフィックコンピューティングがコンピューティングの機能を根本的に変える可能性について認識しておく必要がある。


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主要メンバー

近藤 芳朗

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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