{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
日本三大急流の一つ・富士川。甲府盆地の南端から駿河湾口を望む静岡・富士宮との県境に至るこの川沿いの地域は「峡南」(きょうなん)と称され、江戸時代には舟運で栄え、大正期には新たに開通した鉄道に運ばれてきた身延山・久遠寺への参詣客による賑わいを見せるなど、その名を歴史にも刻んできました。しかし時は移ろい、特に峡南南部地域は現在、急激な人口減と高齢化に直面しています。こうした逆境にあっても、住民の暮らしを今後も支えていくための医療のあり方を懸命に模索した結果、2027年4月に南北40kmにおよぶ域内にある公立(組合立)・民間の2病院と2つの町立診療所を、公設民営の1病院・3診療所へと再編する方針が固まりました。
2024年度に「峡南南部医療再編検討支援」として参画し、この方針の原型となる医療体制の将来像の構想や、多様な関係者の意見集約に奔走したPwCコンサルティング合同会社 ヘルスケア・医薬ライフサイエンス事業部の職員2名と、ともに汗を流した当事者である地域医療連携推進法人みなみやまなしの事務局担当者が対談。当時を振り返りつつ、将来に向けた取り組みや、峡南の後に続く全国の自治体・病院へのメッセージを語り合いました。
登場者
地域医療連携推進法人みなみやまなし
事務局長 瀧本 勝彦氏
事務局 穂坂 桂吾氏
同 諏訪 一敏氏
PwCコンサルティング合同会社
マネージャー 金野 楽(医師)
シニアアソシエイト 和﨑 寛人
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
(左から)金野、諏訪氏、穂坂氏、瀧本氏、和﨑
和﨑:
最初に、峡南南部の人口動態について簡単に教えてください。
穂坂:
峡南南部地域を構成する早川町・身延町・南部町は山梨県内でも特に高齢化が著しく、2025年4月の時点で、高齢化率の1位・2位・4位をこの3町が占めています。また、人口については2010年には3町合わせて2.5万人でしたが2020年には1.9万人となり、2050年までに7,000人近くにまで減ると見込まれています(図表1)。
図表1:峡南地域の位置
オレンジ色が峡南、うち色の濃い3町が峡南南部を構成
和﨑:
少子高齢化が急速に進む中で、医療提供体制はどのように影響を受けましたか。
穂坂:
峡南南部の医療体制に関しても、先に述べた理由で①患者減、②医療従事者の減少の2点が顕著となり、医療の現場に大きな影響が出てきました。今回、再編・統合の対象となる2つの病院も、不採算地区に存在する病院としては、かつては経営が安定していたのですが、急速に経営環境が悪化したことから、平成の終わり頃には病院幹部からもそれぞれの町に対して深刻な懸念が示されるようになりました。
金野:
現場の声を受け、行政はどのように動いたのでしょうか。
瀧本:
3町と病院関係者が危機感を共有した結果、コロナ禍の最中でありながら、2022年1月に山梨県も交えた委員会が開催され、今後の方向性を協議しました。同年9月からは峡南南部の医療体制に関する基礎調査が行われ、その報告において機能集約や医療機関同士の連携強化・機能分化の必要性が指摘されました。2023年には検討継続のための協議会が開催され、「地域完結型医療」を目指した基本方針を取りまとめるに至りました。この中で、「地域医療連携推進法人みなみやまなし」を設置して連携強化を推進することが定められ、2024年の法人立ち上げにつながりました。
地域医療連携推進法人みなみやまなし 事務局長 瀧本 勝彦氏
和﨑:
「みなみやまなし」は山梨県内で初めて設立された地域医療連携推進法人とお聞きしていますが、連携強化の手段としてこの法人の形を選んだ背景を教えてください。
穂坂:
2023年に基本方針を検討する中で、一気呵成に再編・統合に進む「ハードランディング」と、当面は連携強化を優先し、連携の成果を住民も医療スタッフも実感した上で再編に着手する「ソフトランディング」の2つの異なる手段が浮上しました。このうち、ハードランディングは2病院の設置者である一部事務組合と民間法人の解散や財産の移譲が前提となることから各法人内での手順を踏んだ協議に年余の時間を要し、この間は医療連携の取り組みが停滞するおそれがありました。これを避けるため、医療機関の将来的な統合を念頭には置きつつも、まずは連携を通じた環境整備によるソフトランディングを目指し、その枠組みとして地域医療連携推進法人を設置することとしたものです。
地域医療連携推進法人みなみやまなし 穂坂 桂吾氏
金野:
公設民営、すなわち公共施設の管理・運営を民間事業者等に委任する指定管理者制度を導入しようとした狙いは何ですか。
瀧本:
やはり定数管理など、地方自治法や地方公務員法等による運用がなされるところについても、指定管理者制度を導入することで経営の自由度が高まると判断したのが最も大きな理由でしょうか。
和﨑:
当初はソフトランディングを志向したとのことですが、その後の展開はいかがでしたか。
穂坂:
実は、相前後して公立病院看護師の退職が続いたため、一時期は有床診療所となるギリギリの20床まで稼働病床の削減を余儀なくされました。その結果、入院患者の減少が病院の財政状況を急激に悪化させたことから、自治体としても前例のない規模の繰り出しに踏み切りました。しかし、この状況が継続すると町の財政自体が傾く可能性が高くなります。また、病院幹部からは「職員が疲弊している」との声も聞かれるようになり、残された時間は少ないとの認識の下、2024年度末にPwCコンサルティングから提示された変革の素案を検討した結果、ハードランディングを選択する方向へ転換することとなりました。
和﨑:
路線変更に伴い、さまざまな困難があったかと思いますが、差し支えのない範囲で教えていただけますか。
PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト 和﨑 寛人
穂坂:
公立と民間、病院と診療所の違いはもとより、やはりそれぞれの施設には長い歴史や地域との関わりを通じて作り上げられた文化があります。併せて経営統合と指定管理者制度の導入、これに伴う現法人の解散や財産の清算、職員の処遇、3町それぞれの立場など、複雑多岐にわたる意見集約にはそれなりの労力が伴いました。
また、当地に限らず一般的なことだとは思いますが、新しい取り組みへの不安も聞かれました。何ごとも関係者100%の同意を得るのは困難ですし、現に地域住民の間からも、これまでどおり受診できるのか不安がる声が上がりましたが、その一方で機能集約を評価する意見も聞かれました。
金野:
私どもは受託事業者として峡南南部の医療再編に関わる機会をいただきましたが、外部の力を活用しようとした動機はどのようなものでしょうか。
穂坂:
大事なことですが、医療再編の絵姿は外部に丸投げするのではなく、あくまでも自治体やその地域の医療関係者が自立して構想すべきです。実際に、峡南南部でもその前提で物事を進めてきました。他方、先に述べたようにさまざまな立場の関係者が交錯する状況にあったことから、構想の叩き台は客観的な立場の専門家に作成を依頼する方が中立性を保つ上で適切と考えたため、2024年7月の公募を経てPwCコンサルティングに委託したのです。
和﨑:
ハードランディングが最終的に決まった後は、どのように進捗していったのでしょうか。
諏訪:
2025年度より法人事務局に私を含む複数の職員が新たに配置され、体制が増強されました。同年6月には、みなみやまなしの社員総会において、①再編統合の時期は2027年4月、②再編統合の形態は1病院・3診療所、③再編統合後の経営は3町による一部事務組合を設置し、公設による指定管理者制度を導入した民営、との3本の柱を医療再編の基本方針とする議案が可決されました。この基本方針に基づき同年9月には新たに3町で構成する一部事務組合が設置され、10月には3町が同時にそれぞれの住民に対する広報を実施しました(図表2)。
図表2:医療再編に関する3町共同の住民向け広報
出所:広報みのぶ10月号(No.253)
https://www.town.minobu.lg.jp/uploaded/attachment/2835.pdf
その後、1病院3診療所体制を前提として指定管理者の公募を行ったところ、現在の診療科は基本的に維持し、希望する職員についても原則雇用するとの有力な提案があったことから、2026年3月に3町で構成する一部事務組合議会において議案が可決され、指定管理者が決定しました。今後は、指定管理者との間で細部を決定しつつ、並行して住民への説明も進めていく予定です。
地域医療連携推進法人みなみやまなし 諏訪 一敏氏
和﨑:
地域によっては、職員の大量離職や住民の反対などによって再編・統合が暗礁に乗り上げてしまう例も耳にします。峡南南部ではこのような目立った動きは見られませんが、その原因をどうご覧になりますか。
瀧本:
やはり、地域住民が医療の持続性に関する課題を認識し、何とかせねばならないとの意識が共有されていたのが大きいのではないでしょうか。共通の理解が土台にあれば、関係者の間に多少の不一致があったとしても、具体論に入れるのだと思います。
金野:
まさに2024年の調査業務報告会の席上で、一人の首長さんが言われていた「大同小異」の精神ですね。少し視点を変えてお聞きしたいのですが、過去を振り返ってみると「あの時、ああしていればもっと良かったのに」という気づきもあろうかと思います。今後、全国の他の地域でも同じように医療機関の再編・統合が加速するでしょうが、先行者として、これらの市町村や医療職、また住民にお伝えできる教訓があればお願いできますでしょうか。
PwCコンサルティング合同会社 マネージャー 金野 楽
穂坂:
実はさかのぼること2008年、北部を含む峡南地域6病院の院長の連名で「地域の医療に関するあり方の提言」が出されていました。その中で、医療再編は不可避であり、今すぐ連携に取り掛かるべきとの指摘があり、これに沿う形で峡南北部については企業団化に着手する一方、峡南南部は各施設の特色を生かした医療を推進してきました。しかし、峡南南部では3つの病院のうち、今回の再編・統合の対象となる病院2つが同規模かつ類似した機能の医療を提供していたことを考えると、医療スタッフや資金などの経営資源に幾分余裕のあるうちにソフトランディングを目指して動き始めるべきだったとは言えるかもしれません。
諏訪:
確かに、病床削減や繰出金の増加などの課題が表面化する前の、比較的余力があるうちに連携に踏み出すのが良かったのでしょう。現実にはなかなか難しいものですが…。
瀧本:
首長や病院幹部がひとたび方針を決めたならば、立場の違いを乗り越え、覚悟を決めて、おのおのの職責に応じ着実に実行していくのが大事ですね。また、県職員やこの地の副町長の任にも当たった身として述べれば、自治体は医療機関の再編・統合にあたり、財源の確保や制度の活用に関して都道府県や国との連携を密にしていくことが求められます。そして何より、可能な限り多くの関係者の納得をいただけるよう努力することが肝要ではないでしょうか。
和﨑:
皆さんのお話を伺い、PwCコンサルティングとしても、医療機関の再編・統合を決めた地域に対し、覚悟をもって二人三脚で支援に当たらねばならないとの決意を新たにしました。本日は誠にありがとうございました。
(左から)和﨑、諏訪氏、穂坂氏、瀧本氏、金野
{{item.text}}
{{item.text}}