TOPIX100企業のSASBスタンダードの適用と開示状況に対する調査

投資家はサステナビリティ開示に何を求めるのか ―SSBJ基準で考慮が求められるSASBスタンダード活用の現在地―

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  • 2026-07-02

エグゼクティブサマリー ──規制対応を契機とした投資家ニーズ対応

TOPIX100企業のSASBスタンダードの適用と開示状況に対する調査

日本では2027年3月期から、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の開発したサステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準)に準拠した開示の義務化が段階的に始まります。SSBJ基準がSASBスタンダードを「参照し、その適用可能性を考慮しなければならない」情報源として規定していることを踏まえると、今後、TOPIX100構成銘柄の企業(以下、TOPIX100企業)でSASBスタンダードの重要性は一層高まる見通しです。しかし、私たちの継続的な調査では、TOPIX100企業におけるSASBスタンダードの活用状況は2023年から3年連続で横ばいという結果になっています。

本年度の調査では、企業におけるSASBスタンダードの活用余地の大きい領域と、投資家が開示をより求めるテーマとの重なりが明らかになっています。投資家ニーズの高いテーマは次の4つであり、これらのテーマについて関連するSASBスタンダードを活用することが、投資家ニーズを踏まえたサステナビリティ関連リスクおよび機会の管理と説明につながります。

  1. イノベーションに関する機会の開示
  2. 人的資本に関するリスクと機会の開示
  3. AI活用に関するリスクと機会の開示
  4. サプライチェーンに関するリスクの開示

SSBJ基準への準拠においては、SASBスタンダードを単なるコンプライアンス対応のツールとせず、投資家ニーズに効果的に応えるためのツールとして活用できるかが重要となります。

1. SASBスタンダードの活用状況 ──開示環境が進展する中、活用状況には変化がみられず

TOPIX100企業全体のSASBスタンダードの活用状況に大きな進展はなく、今後の開示環境の変化を念頭に置くと、企業においてSASBスタンダードのさらなる活用が期待されます。

  • 活用企業数は3年連続で横ばい:SASBスタンダードを何らかの形で活用している企業は62社。マテリアリティ分析の情報源としての利用やSASB対照表の開示など、活用形態は多様であるが、活用自体に拡大傾向は見られない(図表1)。
  • SASB対照表の開示企業は37社:2023年から横ばいとなっている(同)。2024年に開示していた企業はほぼ継続して開示している一方、新しい企業による開示は見られない。
  • 投資家が期待する活用:SASB対照表などを使い投資家にとって分かりやすい開示を目指すことに加え、サステナビリティ関連リスクおよび機会の管理や説明を、SASBスタンダードを使って投資家ニーズにより的確に応えていくことが重要。

図表1:TOPIX100企業のSASBスタンダードの活用状況は2023年から横ばい

出所:PwC作成

2. 企業の重要課題と指標 ──データセキュリティや製品設計・ライフサイクル管理のカテゴリーで、継続して活用の余地あり

SASBスタンダードの開示トピックの多くは企業の重要課題として識別されているものの、開示トピックの一部や指標レベルでは活用余地の大きい領域が存在しています。

  • SASBスタンダードの開示トピックの多くは重要課題と識別:SASBスタンダードが定める開示トピックの約8割がTOPIX100企業のマテリアリティ分析で重要課題として識別されており、この水準は直近3年間安定的に推移している。
  • 一部の開示トピックは重要課題として識別されにくい傾向:TOPIX100企業によって重要課題と識別されていない開示トピックは、「データセキュリティ」「材料の調達と効率」のカテゴリーで目立っている。
  • 指標の活用余地が大きい領域が存在:「製品設計とライフサイクル管理」などのカテゴリーで「開示なし」の指標が多数ある。「製品設計とライフサイクル管理」「材料の調達と効率」「従業員エンゲージメント、多様性とインクルージョン」などのカテゴリーでは、開示されている場合でも部分的な開示にとどまるケースが多い。

3. 投資家ニーズへの対応とSASBスタンダードの活用 ──SASBスタンダードの活用が特に期待される領域とは

本年度の調査で新たに実施した5名の投資家へのインタビューの結果、企業におけるSASBスタンダードの活用余地の大きい領域と、投資家ニーズの高いテーマとの間に重なりがあることが明らかになりました。投資家ニーズに企業が応えていくためには、重なりのある領域でSASBスタンダードの活用を進めることが効果的です。本報告書ではこれらの領域に関係するSASBスタンダードの具体的な活用方法を整理しました。

  • SASBスタンダードの活用余地の大きい領域と、投資家ニーズの高い4つのテーマとの間には、対応関係がある(図表2)。
  • 投資家ニーズの高い4つのテーマにおいて、SASBスタンダードを活用し投資家ニーズに応えていく方法は以下のとおり:
  1. イノベーションに関する機会の開示:環境配慮・省エネ型製品の収益比率の指標を活用し、市場創出・シェア拡大の機会を数値で示すことが有効。算定条件や対象範囲などを明確に説明し、投資家が数値を投資判断に活用できるようにしていく。
  2. 人的資本に関するリスクと機会の開示:従業員エンゲージメント・離職率・ダイバーシティの各指標について、単なる人事施策の報告ではなく、必要人材の確保・定着などに関する事業リスク・機会の説明として開示していく。
  3. AI活用に関するリスクと機会の開示:SASBスタンダードにAI固有のトピックはないものの、半導体製品のエネルギー効率の既存指標をAIによる市場変化の文脈で活用するなど、AIと企業価値のつながりに対する投資家の関心に応えていく。
  4. サプライチェーンに関するリスクの開示:重要な原材料の特定とリスク対応方針の開示が求められる。地政学的リスクの高まりを踏まえ、供給地分散化やリサイクル技術・代替材料の開発などで、サプライチェーンの強靭性を説明していく。

図表2:TOPIX100企業におけるSASBスタンダードの活用余地の大きい領域と投資家ニーズの重なり

出所:PwC作成

投資家はサステナビリティ開示に何を求めるのか ―SSBJ基準で考慮が求められるSASBスタンダード活用の現在地―

( PDF 2.17MB )

執筆者

田原 英俊

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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鈴木 邦宜

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

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加福 圭子

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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吉田 憲司

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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船越 美紀

シニアアソシエイト, PwC Japan有限責任監査法人

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