LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2021年9月16日~9月30日)

今号では、FCAが公表したシンセティックLIBORの広範な使用を提案する市中協議案や、金融規制当局による警戒が続くCSRを巡る議論などについて取り上げます。

1.巨大なパラシュート:シンセティックLIBORの使用範囲に関するFCA協議案

英国金融行為規制機構(FCA)は、シンセティックLIBORの使用範囲に関する市中協議案発表し、清算デリバティブ以外の全ての契約にシンセティックLIBORの使用を認めることを提案しました。また、英ポンドおよび日本円LIBORの関連テナーを「重要なベンチマーク(critical benchmarks)」として指定するのと併せて、それらテナーについてLIBORを複製したベースでの継続的な公表を強制するFCAの決定と、シンセティックLIBORの算出方法とを確定する、要件通知のドラフトを公表しました。

本市中協議案へのコメント提出期限は2021年10月20日となっています。

シンセティックLIBORの公表は、無期限に継続されるわけではありません。FCAはその決定を1年ごとに見直す予定であり、日本円のシンセティックLIBORの公表については、1年を超えて要求するつもりはないことをすでに明らかにしています。また英ポンドのシンセティックLIBORについては、「秩序ある公表停止に向けた業界の進展(industry progress towards an orderly cessation)」を考慮するとしています。例えば、市場参加者が既存エクスポージャーの移行について継続的な努力を怠った場合には、シンセティックLIBORの使用を段階的に制限することもあり得ます。

加えて協議案は、2021年12月31日より後の新規取引において、米ドルLIBORの使用を禁止するFCAの意向を示しています。FCAの方針は、既存エクスポージャーのリスク管理のための限定的な例外を含め、2021年初めに米国の銀行監督当局が発表した省庁間ガイダンスを忠実に踏襲しています。また、2023年6月末の公表停止日より後に米ドルのシンセティックLIBORの公表を要求する可能性については、何ら決定していないことを明示しています。

FCAの協議案と並行して、日本円金利指標に関する検討委員会(CIC)は、日本円のシンセティックLIBORの使用に関する独自の市中協議案を発表しました。本協議案では、既存のローンや債券におけるシンセティックLIBORの参照は、当事者が契約の修正に真摯に取り組んだ場合において、たとえその修正が不成功に終わったとしても、適切であるとの意見を表明しています。なお、デリバティブにおけるシンセティックLIBORの使用方法については言及されていません。

PwCの見解

息をのんで見守っていた市場参加者が一斉に安堵のため息をついたことで、空気が一気に流れだしたようです。多くの市場参加者は、どのような契約がタフレガシー契約として定義され、その結果、シンセティックLIBORを参照することが許されるのか、その範囲がかなり狭く定義されることを懸念していました。シンセティックLIBORの使用がより厳しく制限されていた場合、明確な移行の手立てがない契約が残る可能性が高く、訴訟の発生はほぼ避けられなかったでしょう。

このような懸念は今のところ払拭されています。シンセティックLIBORは、清算デリバティブ以外のあらゆるエクスポージャーに利用可能であるだけでなく、FCAは、その許可に「いかなる制限や条件をも適用しない」と明言しています。中央清算機関(CCP)がLIBORベースの清算デリバティブについて先行して行う転換(preemptive conversion)を完了すれば、事実上、シンセティックLIBORの参照が制限される契約は少数が残るのみとなります。そもそも、このようなシンセティックLIBORの参照にかかる制限や条件をどのようにして監視し、強制することができるのかという疑問は以前からありました。FCAの、将来的に「継続的な許可を徐々に制限することを検討する」という示唆は、それを実現するためのメカニズムについてこれと同様の疑問を生じさせます。

FCAの提案は、市場参加者が2021年末までに全ての既存エクスポージャーの移行を完了することは不可能であり、ましてや、現在可決されている英ポンド・リスクフリーレート・ワーキンググループの目標期日である9月末には到底間に合わないことを暗黙裡に認めています。シンセティックLIBORが広く利用可能になることで、タフレガシー契約にかかる解決策が提供されるだけでなく、市場参加者は、その他のさまざまな理由で移行が完了していない契約を移行するための時間を得られることになります。

また、こうした企業の契約修正にかかる努力が継続されることをFCAが強く期待しているのは明らかです。その一方で、貸し手側の課題としてよく挙げられるのが、FCAの監督下にある金融機関ほどのプレッシャーを感じていない企業の借り手のためのエンゲージメントが不足していることでした。この点について、シンセティックLIBORが利用できるようになったことで時間的余裕ができたものの、法人顧客に対する移行へのエンゲージメントを高めることはますます困難になりました。なぜなら、いかなるキャッシュ商品もシンセティックLIBORの参照が認められると考えられる今となっては、企業の危機感が高まることはないと思われるからです。

このような状況の下、現在行われている契約の修正作業は、2022年中まで続くことが確実視されています。移行作業が進むにつれ、金利計算などのコンベンションや金利指標の選択肢も変化していくものと考えられます。金融機関は、顧客へのアウトリーチや契約修正プロセスを調整するだけでなく、関連するコンダクトリスクを管理して、戦略的な意思決定を行うためのフレームワークや組織態勢を確保する必要があります。その結果、ほとんどのLIBOR移行プログラムは2022年以降も継続すると思われますが、この見解は市場参加者との対話から得られた印象と一致しています。

FCAは、2021年末より後の新規取引における米ドルLIBORの使用を米国の規制当局と同様に制限する方針を以前から表明していました。FCAが全面的に禁止の意向を示し、ニューヨーク連邦準備銀行(FRB NY)が2021年末の期限は「推奨ではなく、明確な監督上のガイダンス」であるとの注意喚起を最近発表したことで、いずれの法域においても、監督企業に対する期待はこれまでにないほど明確になっています。しかし、FCAや米連邦準備制度理事会(FED)の影響力の及ばない金融機関であっても、米ドルLIBORが新規取引に使用できる状態が続くとは思わない方が良いでしょう。これは、金融安定理事会(FSB)が、2021年末より後、米ドルを含むあらゆるLIBORテナーの使用終了への期待を明らかにしていることもあり、米ドルLIBORを参照する新規取引は、法域を問わず、直ちに現地の銀行規制当局の監視を受ける運命にあると考えられるからです。

規制上の期待は国境を越えて容易に広がるように見えますが、立法上の解決策はそうはいきません。米ドルLIBORの既存エクスポージャーに対する連邦法上の解決策が進展していることを踏まえると、米ドルシンセティックLIBORが公表される見通しは明るいとは言えません。仮に、米ドルのシンセティックLIBORが公表されないとすれば、米国法が適用されない米ドル建てLIBOR参照契約を保有する市場参加者は、そのような契約に対して確定的な移行手段を持たないことになります。特に、容易に修正などができない契約については、コンティンジェンシープランを用意する必要があるでしょう。

FCAの市中協議の詳細については最新の「At a Glance:FCA gives green light to synthetic LIBOR use(FCA、シンセティックLIBORの使用にゴーサイン)」をご覧ください。

2.金融監督当局と信用感応度の高い金利指標(CSRs):敵意がむき出しに

FCAの市場・ホールセール政策担当責任者であるEdwin Schooling-Latter氏は、国際スワップデリバティブ協会(ISDA)に対し、同協会の標準文書に含まれているBloomberg Short-Term Bank Yield Index(BSBY)のフォールバック条項が、「ベンチマーク規制(BMR)の強固なフォールバックアレンジメントの要件を満たしているとは思わない」と、書簡で通知しました。ISDAは、市場参加者がデリバティブ取引において、BSBYや、最近米ドルLIBORの代替として検討されている他の信用感応度の高い金利指標(CSR:Credit Sensitive Rates)を参照できるようにするための補足文書(supplement)を発表していました。

問題となっているフォールバック条項は、BSBYが利用できなくなった場合のプロトコルを事実上記述したもので、「FRBとBSBYの管理者の監督者(つまり、FCA)が公式に承認または招集した委員会」が推奨する代替金利指標という選択肢が含まれています。Schooling-Latter氏は、FCAは「BSBYの代替レート、あるいはCSRと呼ばれることもあるその他の類似レートを推奨または指名する目的で、いかなる委員会も承認または招集するつもりはない」と述べています。同氏はISDAに対し、規定から「誤った安心感が得られないように」監督機関への言及を削除するよう求めました。

また、FEDの顧問弁護士であるMark Van Der Weide氏は、別の書簡の中でFCAの要請を繰り返し、ISDAがAMERIBORのために作成した文書の中にある同様の文言についても懸念を抱いていると述べています。FCAと同様に、FEDは、CSRが利用できなくなった場合にそれに代わるレートを承認するための委員会を支持したり、レートの推奨を行ったりするつもりはない、としています。

ISDAは、CSRのフォールバック条項から監督機関への言及を削除すると回答しています。また、FCAが、米ドルLIBORの代替金利指標として推奨されている担保付翌日物調達金利(SOFR)のような特定の金利指標を提供する条項を検討するよう示唆したことを受けて、ISDAは、Loan Syndications and Trading Association(LSTA)と協力し、BSBYを参照しているローンに対して推奨されている条項にISDAフォールバック条項を整合させることを約束しました。市場参加者は、早ければ2021年10月にも最新の文書の発行を期待できるでしょう。

ISDAと銀行監督当局との間で行われたこのやり取りは、同日に開催された米国代替参照金利委員会(ARRC)の第5回SOFRシンポジウムの後に行われたものです。米証券取引委員会(SEC)のGary Gensler委員長は、開会の挨拶の中で、BSBYが強固な金利指標として「IOSCOの2013年の基準」を満たしているとは思えないと述べ、BSBYを引き続き強く批判しました。Gensler委員長および米国・英国の銀行監督当局は、BSBYがLIBORと類似していることについて繰り返し懸念を示しています。

PwCの見解

FCAとFEDの要請は、BSBYを参照レートとして使用することを明示的に禁止するものではありません。しかしこれらの声明は、監督当局が適切な金利指標としてのCSRに対して、完全に否定しているわけではないものの、疑念を抱いていることをさらに強調しています。とはいえ、米ドル市場では、ダイナミック・ファンディング・プレミアム(銀行の信用コスト/プレミアムに関する現行の市場期待を反映した部分で、市場状況により変動する)を組み込んだ貸出金利に対し少なくとも一定の需要があることは明らかであり、その需要がなくなることはなさそうです。ISDAの文書が変更されたからといって、デリバティブでCSRを使用することができなくなるわけではありませんが、今回の出来事によって、規制当局の金利指標に対する意見は市場の需要ではなく、独自の評価に基づくものであることが明らかになりました。規制当局は、SOFRのようなリスクフリーレート(RFR)の採用を妨げる障害物を取り除く行動を一貫して支援ならびに擁護してきましたが、市場参加者は、CSRの使用に関し、これと同様の支援や擁護を期待することはできません。それどころかFCAの要請は、規制当局が適切でないと判断した金利指標の採用を阻止するために、利用できる監督手段と法的権限を行使する力を有していることを改めて認識させるものです。

FCAの場合、これらの権限にはBSBYの管理者に対する監督も含まれています。Schooling-Latter氏は書簡の中で、ISDAのフォールバック条項にある「代表性喪失」トリガーに言及しています。このような規定は、契約上の参照金利指標が測定しようとしている基礎的な市場を代表していないことが判明した場合、たとえ公表が継続していたとしても、その金利指標を交換するきっかけ(トリガー)となります。BSBYの場合、その判断はFCAが行わなければなりません。興味深いことに、ISDAはこのような「代表性喪失」トリガーを含めることを検討するかどうかについてコメントしていません。この問題の最終決定はまだのようです。

3.もうひとつのSOFRファースト:Ford社のシンジケートローン

Ford社は、日次単純SOFRに基づく155億米ドルのリボルビング・クレジット・ラインの延長を発表しました。この融資枠を支えるシンジケートは、60の銀行で構成されていると言われています。

PwCの見解

この数十億米ドル規模のファシリティは、米国の大手金融機関が米国大手企業である借り手のためにアレンジしたもので、LIBOR移行における重要なマイルストーンとなりました。さらに重要なのは、融資取引において単純(平均)SOFRが問題なく使用できるという自信の表れでもあるということです。また、今回の発行規模は広く受け入れられると予想され、より広範に運用準備が整ったことを示しています。もし、投資家がRFRでの取引について大きな懸念があったならば、この取引がこのような形で実現することはなかったでしょう。

業界レポートによれば、SOFR参照ローンの発行はここ数カ月で急激に増加しているとされていますが、そのような取引の詳細は明かされないこともしばしばです。先駆者を追随するファストフォロワーを目指す金融機関にとって、今回の取引の公開は、先進的な金融機関が採用するSOFRのコンベンションについての洞察を与えてくれるものでしょう。

※本コンテンツは、PwCが2021年10月に発刊した「LIBOR Transition Market update: September 16-30 , 2021」の一部を抜粋し翻訳したものです。

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