LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2021年9月1日~9月15日)

今号では、英国で検討されてきたLIBOR移行に伴う法的紛争リスクを軽減するためのセーフハーバー規定に関する進展、IOSCOのCSRに対する声明、OTCデリバティブでのターム物SOFRの使用などについて解説します。

1.英国のセーフハーバー法案

英国財務省(HMT)がセーフハーバー法案を英国議会に提出しました。この法案は、LIBORからの移行に伴う契約変更にかかる法的紛争のリスクを軽減することを目的としており、HTMが2021年初めにコンサルテーションをしていたものです。今回、一連の説明書も提出されました。

「重要ベンチマーク(参照および管理者責任)法案」は、主に2つの特定分野における訴訟リスクを抑制することを目的としています。第1に、契約の発効時期にかかわらず、LIBORへの参照は、シンセティックLIBORへの参照と同等に扱われるべきであると規定しています。この規定により、シンセティックLIBORに移行する既存のLIBOR参照契約の継続性が確保され、当事者による契約違反や契約不履行、その他の契約上の履行不能や無効の主張を防ぐことが可能となります。なお、この規定は、LIBORを参照する非金融契約にも適用可能なことが明記されています。第2に、本法案により、LIBORの管理者であるICE Benchmark Administration(IBA)は、英国金融行為規制機構(FCA)の直接の指示に基づいて行動する限り、シンセティックLIBORの公表に関連する法的請求から事実上保護されることになります。

本法案は、すでに契約当事者で合意している停止前トリガーやオプト・イン・トリガーを含む契約には適用されず、また、その条項を覆すものではありません。同時に、本法案は、(FCAの指示による)LIBORの(計算)方法の変更、およびそれに続くシンセティックLIBORの公表が、LIBORの停止または入手不能に関連する契約上のフォールバックトリガーを発動させないことを明確にしています。

本法案には、FCAがシンセティックLIBORの使用を特定のレガシー契約に限定することを可能にする条項が含まれています。FCAは、この許容範囲、すなわち、合理的に是正することが困難な「タフレガシー」契約の定義について、第3四半期後半に協議する予定としています。

PwCの見解

英国のセーフハーバー法案により、シンセティックLIBORの使用がより現実的になってきました。英ポンド・リスクフリーレート・ワーキンググループは、これまでの議論において、このような法的保護についてタイムリーに明確にすることが「重要」としていました。

しかし、LIBORからの移行におけるこれまでのさまざまな事象と同様に、いくつかの未解決の問題が残っています。シンセティックLIBORを参照することが予想される既存のエクスポージャーを持つ金融機関は、いくつかの不確実性を回避しなければなりません。その1つは、本法案に関するHMTの当初のコンサルテーションで想定されていた「一般的なセーフハーバー規定」(クレーム(訴訟)からの保護)が含まれていないことです。今回の法案では、契約の継続性は規定されているものの、シンセティックLIBORに頼らざるを得ない企業にとって、訴訟上の保護がないことがどのような意味を持つのか、完全には明らかになっていません。

また、シンセティックLIBORの参照が認められるタフレガシー契約に該当するエクスポージャーとは何かについての最終的な定義は、まだ市場参加者に示されていません。FCAは対象となる契約の範囲について2021年第3四半期後半に協議する予定です。しかし、協議の結果がどうであれ、シンセティックLIBORを参照することができる、あるいはできない商品の区分けをどのように実施し、保護するかについては疑問が残ります。

既存の契約を可能な限り積極的に移行させることが、このような問題への対処、あるいはその回避のための最も直接的な方法であると考えられます。しかし、大半の企業は、容易に移行できない契約を少なくとも複数保有しています。今、明らかなのは、シンセティックLIBORに備えるためにそれらの企業が取らなければならない行動はまだあるということです。金融機関は、残存するレガシーエクスポージャーと関連する契約条項を明確かつ詳細に理解するとともに、あらゆる可能性に対応するための計画を文書化しておく必要があります。

2.IOSCOのCSRに関する批判的コメント

証券監督者国際機構(IOSCO)の理事会は、信用感応度の高い金利指標(CSR)に関する声明の中で、金融ベンチマークに関する原則に一層の注意を払うよう求めています。この声明は、LIBORに代わる追加的な選択肢として最近提案されているCSRの管理者に直接訴えかけるものです。具体的には、ベンチマークは、基礎となる市場の相対的な規模と、その市場を正確かつ信頼性をもって体現する能力に関するIOSCO原則を遵守する必要があることを強調しています。その意味で、IOSCO理事会は担保付翌日物調達金利(SOFR)を「ほとんどの商品に適した頑健なレート」として明確に支持しています。

IOSCO理事会は、「管理者は、IOSCO原則準拠の証明を一度行えば済むわけではないことに留意すべきであり、代替ベンチマークは常にIOSCO原則に準拠していなければならない」としています。原則への準拠は、多くの場合、自己証明によって示されますが、第三者による独立した証明を選択する管理者もいます。IOSCOは声明の中で、「関連するCSRのコンプライアンス評価において、『IOSCOバッジ』がどのように使用されているかを注意深く監視する」と述べています。

米国と英国の銀行規制当局は最近、CSRが十分な頑健性を備えていないのではないかという懸念を表明しています。また、基礎となる取引量が比較的少ないというLIBORとの類似性から、最終的にLIBORの消滅につながったような多くの課題が生じるのではないかと考えています。

PwCの見解

IOSCOの声明には、金融安定理事会(FSB)の公的部門運営グループ(OSSG)の共同議長であるAndrew Baileyイングランド銀行総裁とJohn Williamsニューヨーク連邦準備銀行総裁などによる追加コメントが含まれています。これらは、最近のCSRに対する批判をくんだものです。

IOSCOの声明は、CSRの頑健性に対する規制当局の注目度が高まっていることと相まって、ベンチマーク管理者の自己証明書やIOSCO原則への準拠表明が、今後、より厳しく精査されることを示唆しています。その一方、米ドル市場では(CSRのような)クレジットプレミアムを組み込んだ貸出レートに対して、少なくとも一定の需要があることは明らかです。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の3カ月物BSBY先物の建玉は、取引開始からわずか15日で4,716枚に増加しています。比較対象としては不完全ではあるものの、2018年5月に3カ月物SOFR先物がデビューした際には、同様のレベルに達するまでに1カ月以上かかっていることを踏まえると、やはり一定の需要が見込まれているものと考えられます。

今のところ、需要が下火になる可能性は低いと思われます。特に、基礎となる市場の流動性を評価する確固たる定量的な基準がない中で、何をもって頑健であるとみなすべきかについての議論は今後も続くでしょう。

3.勝つこともあれば、負けることもある:OTCデリバティブで使用可能なターム物SOFR

CMEは、最新のRates Recapにおいて、ターム物SOFRが店頭(OTC)デリバティブで使用できるようになったことを公表しました。またこれにあわせて、FAQ文書ライセンス料テーブルも更新しています。2026年12月までのキャッシュ商品へのライセンス料は無料ですが、デリバティブでの使用にはわずかな手数料が発生します。特定のユースケースにかかわらず、「評価、リスク分析/担保管理などを目的としたシステムでターム物SOFRを使用する」ことを希望するユーザーは、ライセンスが必要となります。

CMEは、米国代替参照金利委員会(ARRC)が最近発表したフォワードルッキングなターム物金利の使用範囲に関するベストプラクティス(および補足FAQ)に基づき、ターム物SOFRの使用を制限しています。具体的には、OTCデリバティブでは、ターム物SOFRは、「同一のCMEターム物SOFRを参照する1つ以上のキャッシュ商品にかかるエクスポージャーをヘッジする」エンドユーザーのみが利用可能です。

PwCの見解

「エンドユーザー」の定義が、キャッシュ商品の取引相手や保証人に限定されていることから、ターム物SOFRに連動するキャッシュ商品のヘッジには、少なからぬコストが発生する可能性があります。ディーラーがインターディーラー市場でターム物SOFRのエクスポージャーを直接ヘッジできないことは、市場動向の方向性が強く出る市場になると予想されるターム物SOFRスワップの流動性と観察可能性に影響を与えると思われます。このような制限は、最大手のディーラーのプライシング方針、リスク管理、(規制)資本コストにも連鎖的な影響を及ぼします。

極端に言えば、大きな価格差(ビッド・アスク)は、変動金利ローンなどをヘッジしたいと考える市場参加者を躊躇させるでしょう。特に、金利計算期間の開始時点で利息支払額を知ることができるかどうかはそれほど大きな関心事ではなく、オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)を用いてより効率的にヘッジできるタイプのSOFR平均を採用する方が魅力的だと考える市場参加者もいます。ヘッジをかけている市場参加者は、実質的に固定金利のシンセティックな債券を保有していることになります。その結果、市場のさまざまなセグメントが、異なる金利コンベンションを模索し続ける可能性があります。SOFRにおいても、複数金利環境は確実にサポートされる必要があります。

市場参加者は、CMEのライセンス要件をよく理解しておかなければなりません。これは、金利指標の直接の利用者、すなわちターム物SOFRを参照する契約の当事者に限ったことではありません。例えば、評価目的のシステムでターム物SOFRを使用しようとする企業も、同様にライセンスが必要となります。

4.ISDAのベンチマーク戦略フォーラム

第3回 ISDAのベンチマーク戦略フォーラムでは、"The Final Countdown"と題して、世界の主要な規制当局者による基調講演と、LIBOR移行に関する最新の話題についてのパネルディスカッションが行われました。ISDAのツイッター(https://twitter.com/ISDA)で紹介されているこのイベントの様子から、登壇者の発言の一部を紹介します。

シンセティックLIBOR

FCA Anne-Laure Condat氏
シンセティックLIBORが使用可能な場合も、それは万全の解決策ではなく、積極的な移行の遂行や、フォールバックを導入する必要性を排除するものではない

新規発行商品におけるLIBORの利用停止

ニューヨーク連邦準備銀行 Michael Held氏
2021年末までに、全ての企業は、全ての新規エクスポージャーに対するLIBORの使用を停止し、強固な代替手段へと安全に移行する必要がある。これは推奨ではなく、明確な監督上のガイダンスである

ゴールドマン・サックス Guillaume Helie氏
SOFRの取引は増加しているが、その大半がインターディーラー市場で行われている。2021年末まで3カ月しかなく、バイサイド企業のSOFR取引開始が早ければ早いほど、より円滑な移行が可能になる

米ドルLIBORの代替金利指標の選択

ニューヨーク連邦準備銀行 Michael Held氏
企業がSOFR以外のレートを使用する場合、その決定が合理的なものであることを示す必要があり、またその決定について問われることになるだろう

FCA Anne-Laure Condat氏
CSRの使用を検討している英国の規制対象者は、リスクを慎重に検討し、FCA監督官に問題を提起すべきである

Federal Home Loan Bank of NY Philip Scott氏
ユーザーは、全てのヘッジニーズをターム物SOFRに託すことが最善であると考えてはならない。翌日物金利であるSOFRで運用できる能力を確保することで、より良い流動性が得られるだろう

※本コンテンツは、PwCが2021年9月に発刊した「LIBOR Transition Market update: September 1-15 , 2021」の一部を抜粋し翻訳したものです。

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