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今号では、非金融企業を代表する業界団体の要望に対する米国財務省の回答、米国LSTAが公表したSOFRローンのスプレッド調整に関する考慮事項をまとめたペーパーについて解説します。
米国財務省は、2021年初めに、非金融企業を代表する複数の業界団体が送付した書簡に回答しました。これらの団体のメンバーは、貸出人から担保付翌日物調達金利(SOFR)を参照する融資を受けられていないことに懸念を表明していると伝えられています。Yellen長官は、米国連邦準備制度理事会(FRB)のJerome Powell議長、米国証券取引委員会(SEC)のGary Gensler委員長、ニューヨーク連邦準備銀行(FRB NY)のJohn Williams CEO、米国商品先物取引委員会(CFTC)のRostin Behnam 委員長代行とともに、これらの懸念を受け止め、市場参加者に対して引き続き意見や経験を共有して欲しいと呼びかけました。
財務省はこの書簡において、「公的セクターは、銀行とその法人顧客との間で行われる参照金利指標の選択を裁定する立場にない」とし、参照金利指標は「操作(manipulation)の影響を受けない、流動性が高く厚みのある市場の上に構築されるべきである」という公的セクターの立場を改めて表明しました。米ドル LIBORからの移行に残された時間が限られていることを踏まえ、金融機関には「借り手のニーズを満たす」代替参照金利指標に基づく融資をタイムリーに提供することが求められています。
財務省の回答は非金融企業向けのものですが、主要なメッセージは銀行においても慎重に検討されるべきものです。Yellen長官らは、多くの企業が参照金利指標としてSOFRを希望していることを示唆しており、そうした見解を公に支持しています。銀行規制当局が新規取引におけるLIBORの使用を終了する最終目標日まで4カ月を切った今、商業ローン市場における代替金利指標への本格的な移行は、米ドル LIBORからの移行における最後のフロンティアとなっています。
米国代替参照金利委員会(ARRC)によるシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のフォワードルッキングなターム物SOFRの正式推奨から間を置かずに公的セクターがこのような反応を示したことは、全くの偶然とも言えないかもしれません。フォワードルッキングなターム物金利の不在は、以前よりLIBOR移行における障害とされ、いくつかの金融機関が信用感応度の高い金利指標(CSR)の使用を検討する一因になっていました。しかし、ターム物SOFRが利用できるようになった今、LIBOR移行が進まない理由として金融機関が挙げる障害はほぼないといえるでしょう。
米ドル LIBORから脱却するために必要なパズルのピースは、その大半がようやく揃ったようです。頑健な参照金利指標に基づいたフォワードルッキングなターム物SOFRが利用可能となりました。銀行の顧客である事業会社は、まさにこの金利指標を使った商品を求めています。ARRCは、SOFRのローン参照金利指標としての利用について多くのガイダンスを公表しており、また、さまざまな業界団体が、リスクフリーレート(RFR)ベースのローン契約の文書化を支援するテンプレートを公表しています。そしてもう一つ重要な進展として、銀行がリスク管理のために関連するデリバティブ商品を利用できるようになったことがあります。
新規のLIBOR取引に残された時間が少なくなる中、SOFRの利用拡大は、ローンの参照金利指標としてLIBORの使用を終了させるための最も直接的な手段となります。最終的には、米ドルローン市場は複数金利環境へと進化していくでしょう。しかし当面は、SOFRの使いやすさが向上していることに加え、CSRの使用に伴う規制当局の監視や潜在的なコンダクトリスクを考慮すると、SOFRがローンの参照金利指標として最も扱いやすい選択肢であると考えられます。
Loan Syndications and Trading Association(LSTA)は、ARRCが推奨するキャッシュ商品のスプレッド調整値と現時点での市場において観察可能なスプレッドが異なることや、SOFRと米ドル LIBORの市場スプレッドが現時点では著しく低いことを踏まえ、新規SOFRローンの公正なスプレッド調整を合意するために借り手と貸し手が考慮すべき事項一式をまとめたペーパーを発表しました。
本ペーパーでは、Refinitiv社が最近発表したARRCが推奨するキャッシュ商品のフォールバックレートのベータ版を取り上げています。フォールバックのスプレッド調整は、過去5年間に遡るSOFRと米ドル LIBORの差に基づいています。この過去5年間のサンプルの中央値は、主に低金利環境の継続を要因として、現在の市場で観察される差よりもはるかに大きい傾向にあります。2つの基準点(現時点と2023年6月末の米ドル LIBOR公表停止時点)に決定的な差があるため、新規のSOFRベースのローンの価格設定に合意しようとする市場参加者は、公正なスプレッド調整のあり方に関して異なる見解を持つ可能性があります。
LSTAが提案する一つの解決策は、2023年の米ドル LIBORの公表停止時に適用されるARRC推奨のスプレッド調整と現在の低スプレッド値を補間のための道標として使用し、スプレッド調整値を2023年6月に向けて段階的に増加させることです。その結果、LIBORが公表停止されるまでスプレッド調整値は徐々に増加し、公表停止時点でのスプレッド調整値は、ARRC推奨のフォールバックレートに移行するレガシー契約に適用されるスプレッド調整値と同等になります。
現在のLIBOR-SOFRスプレッドと、フォールバックの目的で算出され2021年3月5日に確定・固定化したスプレッド調整との差は、現在の低金利環境における経済的現実を反映しています。新規ローンの価格設定は、今日の市場環境と契約期間中の将来の金利変動に対する期待の両方を考慮する必要があります。通常、過去のスプレッドは副次的に考慮されるものですが、今日の状況はやや特殊なものとなっています。LSTAのペーパーは、主に、2023年6月に既存のLIBOR取引に適用される、現在すでに確定・固定化しているスプレッド調整値と、今後22カ月間の新規SOFR取引に組み込まれる資金調達スプレッド(LIBOR-SOFRスプレッド)との間の比較可能性について生じる得る疑問を取り上げています。
LSTAが提案しているように、今後20カ月以上にわたってSOFRの資金調達スプレッドを補間し、定期的に更新することは、認識されている価格の不一致に対処する一つの方法です。コンセプトとしては比較的シンプルなものであり、事業会社の顧客にも容易に説明することができます。しかし、実際には、このような段階的スケジュールをサポートするシステム能力を持たない企業もあるため、全ての市場参加者にとって運用上魅力的な方法とはならないかもしれません。
代替案としては、取引期間ごとに異なるスプレッド調整を採用することが考えられます。LIBORとSOFRの間のフォールバックスプレッド調整は、異なる経済サイクル(契約期間)における2つのレート間のベーシスリスクを実質的に表しています。その結果、今日のスポットスプレッドは、短期的にSOFR(およびLIBOR)が大幅に上昇する可能性が低いことを反映し、短い期間の取引により適していると考えられます。一方、長期の取引では、ビジネスサイクル全体をカバーするフォールバックスプレッド調整値がより適切となるはずです。このようなアプローチには、現在から2023年6月までの間、変動金利に対するローンのスプレッド調整値を更新する必要がないという利点があります。
金融市場の創造力を考えれば、今後、他の解決策やアプローチが登場してくることはほぼ間違いありません。前述のアプローチやその他の方法による価格設定にかかわらず、企業はカウンターパーティとの透明性の高いコミュニケーションを引き続き重視する必要があります。取引の全ての当事者が、RFRとLIBORの性質の違いを理解し、取引期間中に伴う経済的リスクを認識し、それらのリスクを取引価格に組み込むための公平な方法に合意できるようにすることは、今後も難しい課題となるでしょう。
※本コンテンツは、PwCが2021年9月に発刊した「LIBOR Transition Market update: August 16-31 , 2021」の一部を抜粋し翻訳したものです。
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