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今号では、米国におけるタフレガシー契約に対処するための立法的救済策や信用感応度の高い代替金利指標を巡る議論のアップデートのほか、LIBORデリバティブの事前転換にかかる手数料の導入について取り上げます。
米国下院金融サービス委員会(HFSC)の投資家保護・起業家精神・資本市場小委員会は、LIBOR公表停止に関するオンライン公聴会を開催し、連邦準備制度理事会(FRB)、財務省、証券取引委員会(SEC)、通貨監督庁(OCC)、連邦住宅金融庁(FHFA)の代表者が証言を行いました。ここでは、既存のLIBOR参照契約のうちLIBORの恒久的公表停止に際してフォールバック条項が含まれていない契約や、不十分な条項しか含まれていない契約に関連するリスクへの対応が議論の中心となりました。
FRBのJerome Powell議長、Janet Yellen財務長官、米国証券業金融市場協会(SIFMA)およびその他の業界団体は、このような法律を連邦法で制定することに支持を表明しています。HFSCは今回、「2021年変動金利(LIBOR)法(Adjustable Interest Rate(LIBOR) Act of 2021)」と題した法律の草案を公表しました。この法案は、米国代替参照金利委員会(ARRC)がニューヨーク州議会に提出し、先日 Cuomo ニューヨーク州知事によって署名された法案を参考にしています。今回は連邦レベルの立法であることから、当然より多くの契約に影響が及ぶでしょう。また、州単位の救済策に先手を打つことで、課題を抱えた既存のLIBOR参照契約に対する一貫性と明確性のある対応の推進につながると考えられます。
連邦法では、内国歳入法(Internal Revenue Code)や1939年信託証書法(Trust Indenture Act of 1939)など、既存の法律に関連する問題にも対処することになります。今回の公聴会で提示された法案には、これらの法律との齟齬を緩和するための条項が盛り込まれています。
HFSCは、業界団体やその他の利害関係者との連携を模索し、法案をさらに整えることを表明しています。
規制当局による証言や議員による質疑から得られた情報には、LIBOR移行に精通している関係者にとって新たなものがほとんどありませんでした。規制当局はこれまでに何度も繰り返している論点を上げ、LIBOR移行が監督上の優先事項の上位に位置することに改めて言及しました。
今回の公聴会では、修正困難な既存のLIBOR参照契約に対する連邦法による解決策の導入に向けたモメンタムが、超党派の支持を得て、勢いを増していることが明らかになりました。連邦法案には、特に信託証書法との間で発生する可能性のある矛盾に対処できるという明らかなメリットがあります。現時点ではこの法案に反対はないように見られ、業界団体、政府機関および市場参加者は、引き続き強くこれを支持していくものと考えられます。
もちろん、政治は不確かなものです。モメンタムがあろうとなかろうと、市場参加者は立法的解決策を移行戦略のメインシナリオではなく、リスクを軽減する最後の手段として捉えるべきです。法案成立の見込みがあったとしても、可能な限り積極的な移行を行うことで契約の修正や再交渉による経済的な影響に対してコントロールを維持できるという利点は変わりません。さらに、連邦法の適用は広範囲に及ぶとはいえ、米国法に準拠した契約に限定されるため、別法域に準拠する米ドルLIBOR契約の当事者はシートベルト(安全装置)なしで取り残されることになります。
Loan Syndications & Trading Association (LSTA)は、シンジケートローンおよび相対ビジネスローンのハードワイヤードフォールバック条項のオプションとして、信用感応度の高い金利指標へのフォールバックを規定するサンプル条項を提示したマーケットアドバイザリー(会員のみアクセス可能)を発表しました。このサンプル条項では、市場参加者が現時点で検討可能な4種類の信用感応度の高い金利指標、すなわち、AMERIBOR、 ICE Benchmark Administration (IBA)のBank Yield Index(BYI)、Bloomberg Short-Term Bank Yield Index(BSBY)、IHS Markit Credit Rateに関する定義を提示しています。
また、複数の規制当局の代表者が出席した米国下院金融サービス委員会の小委員会におけるLIBOR公表停止に関する公聴会でも、担保付翌日物調達金利(SOFR)に代わる米ドルLIBORの信用感応度の高い金利指標が議論の対象となりました。議員と規制当局の双方は、多くの中小金融機関が、SOFRなどの信用感応度が高くない代替金利指標の使用に懸念を持っていることを認めています。中小金融機関は、特にストレス時において、SOFRが貸出金利として金融機関の資金調達コストを適切に反映していないと示唆しています。規制当局は、市場参加者は米ドルLIBORの代替として、それぞれのニーズに合った金利を自由に選択することができるというスタンスを改めて表明しました。ただしその際には、使用する金利が十分に頑健であること、銀行がそのような金利を選択する際に適切なデューデリジェンスを行い、そうした金利を参照する契約に適切なフォールバック条項を盛り込むことが条件となります。
銀行政策研究所(BPI)は、公聴会で議論された既存のLIBOR参照契約に対する法案について、推奨された代替金利指標(SOFR)に信用感応度の高いスプレッドを付加した金利の使用を認めるべきと提案しています。
銀行の財務担当者にとって、信用感応度の高い金利指標またはアドオン(スプレッド)をSOFRに付加するという考えは引き続き魅力的であり、選択肢は続々と増えてきています。LSTAのマーケットアドバイザリーで言及されている信用感応度の高い金利指標に加えて、Across-the-Curve Credit Spread Index も公表に着々と近づいています。
長期的に見ると、米ドルの貸出市場は、SOFRが信用感応度の高い代替金利指標と共存するマルチレート環境へと発展する運命にあるようです。しかし短期的には、ほとんどの企業がSOFR参照の貸出機能の確立を優先しているように見えます。今後登場する可能性のあるターム物SOFRの場合と同様に、市場参加者には信用感応度の高い金利指標の構築を待っている余裕はありません。LIBORを参照する新商品の発行を停止すべきという規制当局からのプレッシャーを考慮すると、SOFRは、その期待に応えるための最も現実的で直接的な方法というべきでしょう。
企業の借り手がどのようなニーズを持って信用感応度の高い金利指標を用いた契約を締結するかはまだ分かりません。初期の反応から察するに、受け止め方はよくても冷ややかなものになると思われます。英国金融行為規制機構(FCA)の市場・ホールセール政策担当ディレクターであるEdwin Schooling Latter 氏は、最近開催された業界イベントの講演で、経済的なストレス時に、事情に精通した借り手が金利指標の上昇リスクを引き受けることに疑問を呈しました。一部の貸し手は、銀行が適切な金利指標を自由に選択すべきという規制当局の譲歩を、信用感応度の高い金利指標の採用が許可されたものだと考えるでしょう。しかし、そのような金利を採用する上での最大の障害は規制当局の期待ではないことにすぐに気づかされるかもしれません。結局のところ、顧客の意見が一番重要なのです。
ロンドン・クリアリング・ハウス(LCH)は、英ポンド、スイスフラン、日本円、ユーロLIBORを参照する契約の積極的な移行を促す目的で、フォールバックと事前転換(preemptive conversion)にかかる手数料の導入を発表しました。9月以降、LCHは、LIBORを参照する清算契約の残高に対して、月額5ポンドのフォールバック手数料を請求します。加えて、既存のLIBOR清算取引を、新規オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)と同じ特性を持つリスクフリーレート(RFR)ベースのスワップへ事前転換する際の全ての契約に対して、手数料(金額は未定)を賦課します。これは国際スワップデリバティブ協会(ISDA)が開発したフォールバックを使わずに転換することを意図しています。ISDAのフォールバックに基づいてRFRに移行した場合、現在のOISのコンベンションとは異なるコンベンションに基づくスワップに移行することとなり、コンベンションが異なる2種類のスワップが併存することで、運用の複雑さが増す可能性があるためです。事前転換は、スイスフラン、ユーロ、日本円LIBOR参照取引については12月3日に、英ポンドLIBOR参照取引については12月17日に実施される予定です。
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)では、同様の事前転換を、スイスフランと日本円LIBOR参照取引については12月3日に、英ポンドLIBOR参照取引については12月17日に実施すると発表しています。CMEは、5月中に詳細を示した追加資料を公表するとしていますが、現時点で手数料に関する発表はありません。
2021年3月、英国FCAは、LIBOR移行の責任者の報酬は、移行進捗度の影響を受けるべきであるという見解を示しました。今回LCHは、ここに新たな金銭的なインセンティブを追加しました。契約ごとの手数料はすぐに膨らむ可能性があり、しかも転換手数料がいくらになるのかはまだ不明です。CMEの最終提案に、LIBOR公表停止前の積極的な取引移行や転換を促す、同様の経済的インセンティブが含まれるかどうかもまだ分かりません。
最初のフォールバック手数料の請求書(9月分)をきっかけに、企業がLIBORエクスポージャーの積極的な移行を加速しようとしたとしても不思議ではありません。同時に、一部の清算取引は、顧客の活動とその結果を受けたヘッジ需要次第となるでしょう。しかしながら、企業が2021年下半期にLIBOR移行を加速させようとした場合、ヘッジ取引の流動性が影響を受ける可能性があります。市場参加者は、このような流動性の変化に伴うコスト上昇の可能性を注視する必要があるでしょう。
※本コンテンツは、PwCが2021年4月に発刊した「LIBOR Transition Market update: April 1-15, 2021」の一部を抜粋し翻訳したものです。
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