LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2021年2月1日~15日)

今号では、既存契約の立法的救済策となる欧州ベンチマーク規制の採択、英国財務省が市中協議を開始したシンセティックLIBORの利用にかかるセーフハーバー規定などについて取り上げます。

1.Sterling RFR WGによる債券の推奨フォールバック条項に関する市中協議

英ポンド・リスクフリーレート・ワーキンググループ(Sterling RFR WG)は、既存の債券契約について英ポンドLIBORの後継金利を正式に推奨すべきか、またその場合の後継金利は何であるべきかに関して意見を求める市中協議文書を公表しました。

後継金利が正式に推奨されることで、LIBOR が公表停止した際における既存の債券契約のフォールバックが明確となり、業界団体や市場のコンベンションに沿った代替金利指標の選択(およびスプレッド調整)が確定します。正式な推奨がない場合、発行体や独立アドバイザーが、何が市場コンベンションなのかを判断しなければなりません。Sterling RFR WGは、英ポンド LIBOR の代替金利として通常、ポンド翌日物平均金利(SONIA)を推奨していますが、発行体が代替金利指標を決定することによって法的な課題が浮上する可能性を指摘しています。

またSterling RFR WGは、後継金利に次のいずれかを推奨することを示唆しており、発行体や独立アドバイザーによる独自判断の必要性を合理的に回避できるとしています。

(1)後決め複利SONIA

(2)(フォワードルッキングな)ターム物SONIA

Sterling RFR WGはすでに、後継金利に上乗せされるスプレッド調整に関する推奨を公表しています。今回の市中協議では、後決め複利SONIAまたはターム物SONIAのいずれかを後継金利として選択するために必要な検討事項が提示されています。後決め複利SONIAを選択した場合、他の幅広い商品におけるSONIAの使用に関するコンベンションに合致するうえ、英ポンド市場の大部分が今後は後決め複利 SONIA に基づくものになるというSterling RFR WGおよび規制当局の期待とも一致します。一方、ターム物SONIAを選択した場合は、米ドルLIBORを参照する債券のフォールバックとしてターム物SOFRを推奨する米国代替参照金利委員会(ARRC)の対応とより整合することになります。また、すでに確立されている業務プロセスやシステム機能からの乖離は小さくなるでしょう。

市中協議に対するコメントの提出期限は2021年3月16日です。

PwCの見解

Sterling RFR WGが検討している後継金利の正式な推奨は、前述した特定の契約上のフォールバック条項を含んだ一部の特定の債券発行にのみ適用されるものです。今回の市中協議は、ビジネスローンの契約修正や、タフ・レガシー・エクスポージャーの問題、すなわち、LIBOR の公表停止前に修正することが現実的ではない、あるいは修正することが完全に不可能なフォールバック条項を含む債券に対する推奨を意図したものではありません。

また市場参加者は、後継金利としてターム物SONIAの推奨が検討されていることを受けて、方向性の変更やターム物SONIA の使用範囲の拡大を推奨するものであると誤解しないよう注意すべきです。一方で、ターム物SONIAの推奨は、Sterling RFR WGや英国の規制当局がこれまで明言してきた、英ポンドLIBORの代替としてのターム物SONIAの使用は限定的であるという予想と矛盾しているようにも見えるでしょう。

正式な推奨は、関連業界団体が推奨するフォールバック文言を含む全ての既存の債券契約に対して、同一のスプレッド調整済み代替金利指標を事実上規定するものです。全ての発行体がこのような解決策を選好するかは分かりません。中には、契約構造や原資産、クロスボーダーの関係により最適な代替金利指標が異なる可能性を踏まえ、後継金利を決定する際の柔軟性を保持したいと考える発行体もあるでしょう。

先の道筋を決定する際によくあるように、今後、市場参加者はコストとベネフィットを考慮する必要があります。後継金利が正式に推奨されれば、発行体はそれを自ら決定する必要がなくなり、その決定に対して異議を唱えられる可能性からも解放されるでしょう。 一方で、推奨される代替金利指標が何になっても、発行体はLIBOR公表停止の影響を受ける契約について、その運用や経済価値にかかるコントロールを一定程度手放すことになります。契約を、いつ、どのように代替金利指標に移行するかに対して完全なコントロールを維持する最も確実な方法は、LIBOR公表停止に先立って、可能な限り事前移行することです。

2.欧州における既存契約のための立法的救済策

欧州連合(EU)は、欧州ベンチマーク規制(EU BMR)の改正案採択しました。この改正案は、欧州委員会がLIBORの公表停止に伴い、既存契約においてLIBORに代わる法定代替金利を指定することを可能にするものです。 2021年初めに欧州議会で承認された後、2月初めに欧州理事会で改正案が採択され、施行に向けた道筋が整いました。

この法制の対象は、米国で提案されている法案と同様に、LIBORの恒久的な停止に対処するフォールバック条項がない、あるいは不十分な契約に限定されています。先般ニューヨーク州で提出された法案は、ニューヨーク州法に基づく全ての金融契約に適用されます。EUの法制は、欧州法の対象となる契約だけでなく、EU内に設立された事業体間のあらゆる契約にも適用されるため、米国と比べて範囲はやや広いといえます。実際、2020年7月に公表された当初の草案では、特定の金融商品やEUの監督下にある事業体が締結する契約に対象を限定していましたが、今回の改正ではその範囲が大幅に拡大されました。

また今回の改正案では、第三国の金利指標を継続的に使用するための移行期間が、2023年12月31日まで延長されました。この期限は、第三国の金利指標を利用できないことにより金融の安定が脅かされる場合には、2025 年 12 月 31 日までさらに延長される可能性があります。この延長は、英国のEU離脱によりLIBOR がEU BMRのもとで第三国の金利指標となったために必要となったものであり、新しい期限は、現在英国議会で審議中の英国金融サービス法案において提案されている移行期限の延長とも一致しています。

加えて今回の改正で、金利指標改革のもとで修正された既存契約について、欧州市場インフラ規制(EMIR)の清算・証拠金に関する要件が免除されました。

PwCの見解

既存のLIBORエクスポージャーに関する最初の法制化が実現しました。この法案が欧州の立法機関を通過したスピードには目を見張るものがあり、LIBOR移行への明確な道筋がない多数の契約に関連するリスクの軽減に公的セクターが注力していることが浮き彫りとなりました。

今回の法的な代替金利の指定は、フォールバック条項が不十分な(一部の)既存契約における法的な不確実性に対処するものであり、全ての契約に対する普遍的な救済策を示すものではありません。EU域内の事業体が締結した契約のうち、第三国の法律に基づくもので、それらの法域における立法的救済策の対象となる契約は、EUの救済策から明示的に除外されています。これにより、英国やニューヨーク州で検討されている立法的救済策との衝突はある程度軽減されると考えられますが、組織は契約条項や適用される準拠法、またその結果として生じる既存の契約への影響など複雑な状況でのかじ取りが求められます。

立法的救済策に頼るのではなく、既存のLIBOR 契約を可能な限り事前に移行することが肝要です。これは立法的救済策の落とし穴や不確実性を回避する最も簡単な方法であると同時に、既存契約の移行条件について主導権を維持することも可能にします。

3.シンガポール: SORAへの移行

シンガポールスワップオファーレート(SOR)のシンガポール翌日物金利平均(SORA)への移行のための運営委員会(SC-STS)は、更新した移行ロードマップ公表しました。同委員会は、米ドルLIBORの公表が2023年6月まで継続されればSORもこれに応じて公表を継続できる可能性があるものの(SORの計算は米ドルLIBORのインプットに依存)、2021年4月末までにSOR参照の新規ローンの発行を終了するというガイダンスを発表しました。

今回の発表は、シンガポール金融管理局(MAS)のLeong Sing Chiongマネージングディレクター(市場・開発担当)のスピーチに続いて行われたものです。同氏はスピーチにおいて、シンガポールではSORからSORAへの移行を促進するために、清算機関における対象取引の拡大を通して、SORAカーブの流動性と価格形成機能の構築に焦点を当てると明言しました。

Leong Sing Chiong氏は、米ドル LIBOR の公表継続を受けてSOR の公表が継続された場合、既存のエクスポージャーをなくす、もしくは修正する時間が延長されることになるが、引き続きエクスポージャーの積極的な転換を推進すると発言しました。また、SORとSORAの両カーブが十分な流動性を備え、価格形成が可能になると考えられる2021年6月から2022年初旬の期間が、既存のSOR参照ローンを積極的に転換する「スイートスポット」となる可能性を指摘しました。

SC-STSのガイダンスは、2021年末以降の米ドルLIBORの使用を既存エクスポージャーに限定することを明確にした米国の銀行規制当局のガイダンスを反映しています。

PwCの見解

SOR は、計算のインプットを米ドルLIBORに依存するアジア地域金利の一つです。今回の発表により、SC-STSは、米ドルLIBORで提案されている公表停止時期に倣うことを決めた最初の地域作業部会となりました。タイ銀行は以前、米ドルLIBORをインプットとする金利の一つであるTHBFIXの公表時期を2023年半ばまで延長する可能性を示唆していました。

SORA 市場の流動性がまだ発展途上にあることを考慮すると、今回の目標期日の変更は業界にとって歓迎すべきものといえるでしょう。 SORの公表延長は、既存の契約に対する現実的かつ一般的なアプローチを反映したものですが、これをSORからの積極的な移行に対する期待が緩和したと解釈すべきではありません。スピーチからも SC-STS のロードマップからも、SORA 市場における流動性の進展が引き続き優先事項であることは明らかです。企業は、2021年4月を期限として新たな SOR参照ローンの発行を停止することが期待されていると考えるべきでしょう。

4.米国OCCが移行準備に関する自己評価ツールを公表

米通貨監督庁(OCC)は、LIBORの公表停止に向けた銀行の準備状況を評価するための自己評価ツール発表しました。このツールは、銀行の移行計画とその実行、新規契約のフォールバック条項、既存エクスポージャーの修正戦略、そして監督と報告に関する「はい」「いいえ」で答えられる30問の質問で構成されています。

PwCの見解

OCCのツールに含まれる質問は、例えばOCCが以前行った公表や最近のLIBOR公表停止に関する省庁間声明など、これまでに当局が公表してきたガイダンスと概ね一致しています。このツールには段階的な移行ガイダンスはほとんど含まれていませんが、銀行が自行のプログラムを評価するチェックリストとして有用でしょう。また、OCCが2021年7月という「有効期限」を明記しているのはやや珍しいですが、これは企業が準備を終えるまでに残された時間が限られていることを示唆しているとも言えます。2021年の第3四半期に入ってもまだ準備状況の評価を完了していない市場参加者は、巻き返しをする必要が出てくるでしょう。

OCC は質問票において、これは特定のLIBOR後継金利を銀行に推奨するものではないと改めて言及しています。多くの中小金融機関がSOFRの貸出金利としての妥当性に懸念を示し、ニューヨーク連邦準備銀行のCredit Sensitivity Groupにおいて議論がされる中で、規制当局はLIBORの後継金利の選択だけを理由に企業を批判することはないとしています。しかし、後継金利の自由な選択には多くの注意と責任が伴うことが明らかになってきています。信用感応度の高い金利指標がいくつか登場し始めていますが、銀行が適切なデューデリジェンスを実施せずにそのような金利を採用した場合は、規制当局の監視対象となる可能性があります。OCCの自己評価ツールは、銀行が代替金利指標を特定する過程において、その適合性と継続的な利用可能性、基礎となる市場の流動性に起因する潜在的リスク、顧客の公正な扱いに関連するコンプライアンスやレピュテーションリスクを考慮することを推奨しています。

顧客対応、顧客への働きかけ、コミュニケーション、透明性が検討事項として広まっていることは、LIBOR移行に関連したコンダクトリスクが規制上のアジェンダにしっかりと定着していることを示しています。

5.英国財務省によるセーフハーバー規定に関する市中協議

英国財務省(HMT)は、シンセティックLIBORの発表と使用に関連するセーフハーバー規定の適切な適用範囲を市場参加者に問う市中協議開始しました。英国金融行為規制機構(FCA)がパネル銀行への依存を終わらせるためにLIBORの算出方法の変更を指示した場合、LIBORを参照する既存契約はシンセティックLIBORを参照することになります。HMTは、このような既存契約に関する訴訟リスクを最小限に抑えるための法的なセーフハーバーを提案しています。

今回の市中協議は、シンセティックLIBORを参照する妥当性について契約の当事者が訴訟を起こすのではないかという関係者の懸念を受けて実施されたものです。具体的には、以下の点について成文化するガイダンスを検討しています。

重要な金利指標、すなわち英ポンド LIBORの算出方法の変更は、

  • 契約の解除や、契約の履行を免ずるものではない
  • 一方的に契約履行の解除や延期の権利を与えるものではない
  • 貸手や算定機関に負債をもたらすことはない
  • 契約の違反、無効、修正、変更または更新には当たらない

市中協議では、特に英国国外の企業によって締結された英国法に基づく契約に対してセーフハーバー規定を提供する妥当性、範囲や適用性、影響について意見を求めています。また、訴訟が起きた場合にどのような法的保護を提供すべきかといったその他の検討事項についても提示しています。

PwCの見解

2020年後半、連邦準備制度理事会のRandal Quarles銀行監督副議長は、シンセティックLIBORを用いて米国国内の既存契約に対処することについて、訴訟の枠組みの違いの観点から懸念を示していました。今回の市中協議からは、米国と同じく英国においても訴訟が懸念されていることがうかがえます。

LIBOR公表停止前に実質的に修正を行うことができない既存契約、いわゆるタフレガシー契約に対する完璧な救済方法がないことはすでに明らかです。シンセティックLIBORの限界や適用範囲に対する疑問だけでなく、セーフハーバー規定がどのような種類の契約に対して適応されるのかといった新たな疑問も生まれます。貸付契約の多くには、標準化されていない特別な文言や複雑な規定が含まれており、あらゆる不測の事態をカバーすることをセーフハーバー規定が保証するのは困難と言わざるを得ません。先般EUで可決された既存契約のための立法的救済策と同様に、可能な限り多くの既存契約を事前移行することが、引き続きほぼ全ての市場参加者の取り組みの中心となるでしょう。

HTMのセーフハーバー規定に関する詳細はこちらをご覧ください。: HMT proposes a safe harbour for certain LIBOR referencing contracts

※本コンテンツは、PwCが2021年2月に発刊した「LIBOR Transition Market update: February 1-15, 2021」の一部を抜粋し翻訳したものです。

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}