LIBOR移行対応アップデート―ハイライト(2021年1月16日~31日)

今号では、近い将来に予想されるLIBOR公表停止時期の発表や信用感応度の高い金利指標に関する動向について解説します。

1.FCA: LIBOR公表停止の決定を遅らせる理由はない

金融行為規制機構(FCA)の市場・ホールセール政策担当ディレクターであるEdwin Schooling Latter氏は、業界イベントの講演においてLIBORの公表停止に関するICE Benchmark Administration(IBA)の市中協議に触れ、FCAは「市中協議に提出された回答を適切に評価するために必要な時間以上に、決定や発表を遅らせることはない」とコメントしました。

Latter氏は、市場参加者に全通貨のLIBORテナーの公表停止時期を可能な限り早期に明らかにするという英国のベンチマーク規制の条項に言及し、今後の発表で全ての通貨とテナーのペアがカバーされる可能性を改めて示唆しました。このような全般的な発表が行われることで、LIBORとその代替金利との経済的差異を補うISDAフォールバックスプレッドの調整値が確定することになるでしょう。

またLatter氏は、FCAが英国の金融サービス法案により強化された権限を行使してLIBORの算出方法の変更を指示することで、一部のLIBORの公表継続を義務付ける可能性についても言及しています。現在、英国議会で審議中の同法案では、FCAはIBAに対し、パネル銀行の呈示に依存しない計算ベース(シンセティック)のLIBORの公表を指示することが可能です。既存のLIBOR参照契約の中でもとりわけ合理的に内容を修正することが困難な契約については、このようなシンセティックLIBORを参照できるようになります。以前から明言している通り、Latter氏は、最も一般的に使用されている英ポンドLIBORのテナーについては、シンセティックLIBORの継続的な公表が適切であると考えています。加えて、FCA は、米ドルLIBOR および 日本円LIBORの特定のテナーについて、このアプローチの必要性と妥当性を継続的に評価していくとしています。FCAはLIBORの公表停止時期を発表するのではなく、シンセティックLIBORとして公表を継続する意向のテナーについて、その基礎となる資本市場における金利指標としての代表性の喪失を宣言するでしょう。LIBORが代表性を喪失した後、つまり英ポンドLIBORパネルの呈示義務が終了すると予想されている2021年12月31日以降、LIBORは新規契約で利用できなくなると考えられます。

PwCの見解

Latter氏の講演内容に、あまり新しい情報はありませんでした。以前から示している通り、FCAは市場参加者に対し可能な限りリードタイムを与えたいと考えています。IBAかFCAのいずれかによる発表の正確なタイミング、範囲、具体的な内容は、恐らく実際に目にするまでその全容は分からないと思われますが、全ての市場参加者は、以下に備えて準備を進めておく必要があります。

  • 遅かれ早かれ発表はされる:IBAの市中協議が終了した今、いつ発表があっても不思議ではない。
  • 全通貨のLIBORテナーの公表停止時期が一度に公表される: 2021年末に公表停止予定のLIBORだけでなく、2023年まで継続する予定の米ドルLIBORの公表停止時期も発表される。
  • 全ての通貨とテナーのスプレッド調整が確定する:発表が行われれば、ISDAフォールバックプロトコルに基づくデリバティブのスプレッド調整値が確定する。

米国代替参照金利委員会(ARRC)および英ポンド・リスクフリーレート・ワーキンググループ(Sterling RFR WG)は、貸出およびその他の現物商品にかかるフォールバックの推奨スプレッド調整方法について、国際スワップデリバティブ協会(ISDA)のスプレッド調整方法に合わせるとしています。

市場参加者は、このような発表により、既存契約の修正に向けた取り組みが急加速する可能性に備えておくべきでしょう。関連するLIBORの公表停止日と併せてスプレッド調整値が確定することで、契約のフォールバック時における経済的な挙動が明らかとなります。これにより、フォールバックやその他の移行手続きを評価する際に参照するベースラインを得ることができます。

RFR参照商品に対応する外部ベンダーや融資プラットフォームが増加していることもあり、移行作業をさらに遅延させ得る障壁は減りつつあります。

2.LSTA: 通知要件が発生する可能性に注意

Loan Syndications & Trading Association(LSTA)は、ブログ記事において、今後行われるLIBORの公表停止にかかる発表がもたらす影響について注意を促しています。ARRCの推奨するフォールバック条項や、現在の相対ローンやシンジケートローンにかかるその他多くのフォールバック条項下においては、このような発表によって単独融資行やシンジケートローンの管理エージェントが他の取引当事者に対しLIBOR 公表停止の発表を通知するよう要求されるようになる可能性があります。

また、修正アプローチに依存する契約については、LIBORの将来的な公表停止が発表されることで、LIBORが公表停止した場合の代替金利指標の取り決めに関し、貸手および借手が協議を開始することが可能となります。

ローン市場では個別の非標準的な文言による契約が普及しているため、LSTAは市場参加者に対し、発生し得る通知要件や修正プロセスの円滑化の観点から、契約文言を確認し、契約上の具体的な義務を理解しておくことを強く求めています。このような通知を促すことを目的に、LSTAは会員向けに標準的な通知文言を公表しました(会員のみがアクセス可)。

PwCの見解

LSTAによる注意喚起は、LIBOR参照契約に含まれるフォールバック条項だけでなく、その他の関連する要件も十分に理解する重要性を強調しています。LIBOR 公表停止の発表が近い将来に予想される中、既存のLIBOR参照契約の分析を終えていない企業は、早急にその取り組みを加速すべきです。契約書の文言はさまざまであり、また曖昧なものもあるため、管理エージェントや貸手が具体的にどのような義務を負うのか特定するのは必ずしも単純ではなく、解釈に時間がかかる場合があります。

また、エージェントや貸手は、通知要件を、LIBOR移行における広範な顧客アウトリーチやコミュニケーション活動とどのように整合させるのか検討すべきでしょう。契約上の義務の有無にかかわらず、全ての取引先に通知を行う方が運用上容易であると考える関係者が多いと思われます。ビジネスや顧客関係の観点から見ると、契約内容により顧客ごとに異なる対応をするのではなく、全ての顧客に対して同時に今後の変更を伝える方が有効かもしれません。一方で、そのような通知は、契約上の義務に対処するためだけに行われるべきと考える関係者もいるでしょう。

エージェントや貸手がどのようなアプローチを選択するとしても、LIBORの公表停止に関する発表が行われ、借手が貸手の1社からでも通知を受領すれば、問い合わせの電話が鳴り始めることは間違いありません。企業は、顧客に応対するスタッフが、既存の取引の修正への対応や、そのプロセス、戦略、およびタイミングについて明確に回答できるか確認しておく必要があります。

3.信用感応度の高い金利指標

ブルームバーグは、コマーシャルペーパー、譲渡性預金、米ドル預金、銀行債取引のセカンダリーマーケットの約定価格(executed prices)と約定可能な気配値(executable quotes)に基づく信用感応度の高い金利指標である「ブルームバーグ短期銀行利回り指数(BSBY)」の公表開始を発表しました。ブルームバーグは引き続き、米ドルLIBORの推奨代替金利指標として担保付翌日物調達金利(SOFR)の採用を支持していますが、SOFRなどRFRの貸出金利としての適性に疑問を抱いている銀行に対する代替案としてBSBYを位置づけています。

IHS Markitも同様に、2021年第2四半期から、コマーシャルペーパー、譲渡性預金、社債の取引データに基づく米ドルの信用スプレッド調整の日次公表を開始する見込みであると発表しています。

PwCの見解

信用感応度の高い金利を公表さえすれば、すぐ貸出契約に採用されるとは限りません。これらの金利が、監督当局による精査、証券監督者国際機構(IOSCO)原則への準拠、その他のレビュープロセスを通過するには時間を要するでしょう。

デリバティブ市場においても、これらの信用感応度の高い金利を参照する商品のヘッジが可能になるまでには時間がかかると考えられます。また、現行の会計ルールにおいてヘッジ会計で許容される金利としては、常にRFRが想定されており、信用感応度の高い金利指標がヘッジ会計で認められる金利に該当するかどうかは不明です。数年前より公表が始まり、2018年5月に最初のデリバティブ取引が行われたSOFRについて、市場参加者がその採用を拡大するのに要した時間を考えると、実際の貸出契約において信用感応度の高い金利が使用できるようになるまでには、少なくとも数カ月はかかる可能性が高いと考えられます。

ただしこれは、信用感応度の高い金利指標に対する需要がないということではありません。銀行の財務担当者には明らかにメリットがあるものであり、一部の担当者はストレス期の資金調達コストにより適合する金利の登場を渇望していました。しかし、これらの新しい金利指標は、必ずしも個々の銀行の資金調達コストに完全に対応するものではありません。LIBOR自体も信用感応度の高い金利でありながら、市場の変化時に銀行の資金調達コストを適切に反映していないとの批判を受けていました。また、これらの信用感応度の高い金利が使用されるようになると、借手は、市場のストレス時に貸手の資金調達コストの変化(通常は「上昇」)に晒されるか、または若干高い金利となったとしても、ローンの全期間を通して一貫した資金調達コストを支払うか、自身でどちらの「毒」を受け入れるのかを選択する必要が出てくるでしょう。

規制当局が銀行の早急なLIBOR脱却を期待していることは明らかです。最近発表された論説の中で、ARRCのTom Wipf議長は、市場参加者に対し、新商品での米ドルLIBORの使用を 「直ちに」中止するよう呼びかけています。信用感応度の高い金利指標が成熟するのを待ちながら、企業がこの義務を果たすのは難しいと思われます。これらの代替金利指標が急速な成熟を遂げて短期的に意味ある移行手段となることはないかもしれませんが、将来的にLIBOR以外の新しい金利指標を参照する商品の更なるバリエーションを支援するものへと進化する可能性は高いと言えます。

IBORフォールバックプロトコルの遵守状況 (1月31日現在)

ISDAのプレスリリースはこちらです。

※本コンテンツは、PwCが2021年1月に発刊した「LIBOR Transition Market update: January 16-31, 2021」の一部を抜粋し翻訳したものです。

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