{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
気候変動への対応が世界的な課題として定着する一方で、自然の喪失もまた、経済社会の持続可能性を左右する重大な論点として、急速に認識されるようになっています。こうした変化は、企業活動やサプライチェーンのみならず、それらを支える金融システムにも広く深い影響を及ぼします。自然との関係性を適切に捉え、金融リスクとして可視化し、意思決定に反映していくことは、いまや金融機関にとって避けて通れない課題となっています。
本稿は、この重要な課題に正面から向き合い、金融ポートフォリオに内在する自然関連リスクをいかに把握し、分析し、管理していくかを示すものです。具体的には、自然関連リスクを定量的に捉える視点を提示するとともに、ポートフォリオ管理やストレステスト、投融資判断への応用可能性を示し、金融実務における新たな指針を提供しています。
自然関連リスクを管理可能な形で把握することは、ポートフォリオの安定的な運用に資するだけでなく、エンゲージメントを通じた投融資先企業の変革を促すことにもつながります。これは、自然にとってポジティブな資金の流れを生み出すとともに、持続可能でレジリエントなポートフォリオの構築を通じた中長期的な成長を支えることにも寄与します。
自然資本の健全性は、経済の基盤そのものです。本稿が、日本における金融機関をはじめ多くの関係者にとって、自然と経済のつながりをより深く理解し、持続可能で強靱な社会の実現に向けて行動するための一助となることを心より願っています。
執筆者:Lynne Baber、Charlotte Boulogne、Lucas Carmody、Eu-Lin Fang
自然の喪失の放置は、何兆ドルもの経済価値の損失につながる可能性があり、金融ポートフォリオは、おそらく金融機関が認識している以上に自然関連リスクにさらされています。というのも、生物多様性の喪失や生態系の劣化を完全にリスク評価とポートフォリオ判断に含めている金融機関はほとんどないからです。これらの要因は、意思決定者がその重要性を理解しつつあるものの、概して貸付・引受モデルの構成科目にはなっていません。
オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、シンガポールの経済を分析した結果、PwCのモデルは、野放しの自然喪失が今後15年以内にもたらす経済損失をGDPの12~17%、海外投資の11~14%、時価総額の12~18%(約11兆米ドル)と推定しています。それぞれの国で分析対象とした20セクターのうち、少なくとも4セクターにおいて、生態系サービスのわずか1つの劣化で経済活動の9%超が損失するリスクにさらされていました。同様の分析を金融ポートフォリオで行うことで、どこにリスクが集中し、どこで条件の価格設定が誤っている可能性があり、どこでクライアントがリスク軽減措置を講じ得るかを特定できます。
自然関連リスクは、他のリスクと同様に、業績と経済活動を阻害する形で金融機関に影響を与えます。例えば、森林、湿地、草原、河川が淡水供給、農作物の維持、洪水防止、大気浄化といった機能を果たせなくなると、これらは投入コストの上昇、生産ダウンタイム、資産毀損という形で企業に跳ね返ってきます。企業業績は悪化し、債務不履行リスクが上昇し、担保の価値が低下します。続いて、資産価格の調整が生じます。保険金支払い対象の損失が積み上がり、引受けの緊張感が高まり、資産が付保不能となった場合には融資可能性の問題に波及します。一方で、企業が活動の拠点を移し、事業モデルを調整することで、リスクが生じます。リスクが集中している部分で流動性が逼迫し、借換えが困難になります。
先見性のある金融機関は、自然関連リスクを信用・引受リスクの測定・管理方法に組み入れることで、これに対応できます。また多くの金融機関は、その事業を適応させ、新たにセクター横断型の提携を結ぶ契機として自然関連リスクを認識するでしょう。結局、自然関連リスクの高まりは、金融機関の顧客が戦略・事業の変更に投資する資金、および専用の新たな形のリスク資本を求めるようになることを意味します。これは、自然喪失やその他のメガトレンドが原動力となり、金融機関がイノベーションで価値を創出できる新たな事例です。
幸いなことに、金融機関は既に重要リスクを特定し、ポートフォリオのストレステストを行うための用語とプロセスを有しています。本稿で用いる手法は、その実務を反映して生態系の劣化に広げることで、自然関連の予想最大損失額(Nature-related Value At Risk:NVAR)を国・セクター別に数値化し、管理できるようにします。
自然関連リスクを管理するには、金融機関はまずポートフォリオ全体のどこにそのリスクが存在するのかを特定しなければなりません。PwCの分析は、直感的に理解でき、厳しい現実を示すセクター別のパターンを明らかにしました。地下水と地表水の利用可能性と水質への脅威は、製造業と卸売・小売業の企業のNVARに顕著に現れています。土壌の質と安定性の低下は、浸食と土砂崩れにつながり、建設業、不動産業、農業に影響を及ぼします。洪水や暴風雨を緩和する湿地帯、マングローブ林などの喪失によって、建物やインフラへの損害はより深刻かつ頻繁になります。大気質の劣化は、山火事の煙でさらに悪化し、サービス業と運送業の労働生産性を低下させます。害虫と病原体により農林業の収穫量は低下します。
セクター別パターンの分析に加え、金融機関は融資先・付保先の事業とバリューチェーン全体のどこでリスクが生じるのかも理解する必要があります。この必要性が生じるのは、4カ国を対象としたPwCの分析(2023年のデータを使用)が示すように、リスク分布が国により大きく異なるためです。
私たちは、金融機関が自然関連リスクは金融リスクであるという考えを次第に受け入れるようになるのを見てきました。中には、企業は自然とそのサービスに依存する場合が多いことを理解している金融機関もあります。しかし、どの程度の経済・金融価値が危険にさらされているのかを数値化する金融機関はまれです。その結果、多くの金融機関は、事業判断に使用できる自然関連リスクの計測値を有していない傾向にあります。
これらの判断に関係する指標を計算するにあたり、PwCの分析では、どの程度の事業価値が経済レベルで自然に依存しているのかを示す数値の計測からスタートします。その数値に、自然関連の具体的なショックの尤度を乗じます(現在の生態系の健全性、そのショックが経済に与える潜在的な影響、そのショックが起こった場合に対応する経済の能力)。得られた数値は、自然喪失による予測最大損失額を表します。この等式は企業群や個別企業に合わせて簡単に調整できます。
銀行のポートフォリオのレベルでは、直接、またはサプライチェーンを経由して間接的に農業に依存するカナダの企業に対し、蜂、蝶、鳥などの花粉を運ぶ生物の減少が与える影響を考慮しました。銀行は、どの顧客が影響を受ける可能性が高いかを国別またはセクター別に評価し、それらの企業が生み出した価値を合算する必要があるでしょう。そこから、銀行経営者は、利回りや利益率の低下、貸し倒れリスクの増加による融資残高の評価減を算定できます。同様の計算で、他の潜在的な自然喪失事象による予測最大損失額を算定できます。
自然関連のNVARは、経済セクターが生み出す価値、そのリスクエクスポージャー、自然現状、損失発生確率から構成されます。NVARは、ある地域経済のあるセクターに影響を及ぼす特定の自然関連リスクについて算出することができます。
算出例:カナダの農業と受粉
| 農業に依存するカナダの企業が創出する価値 | 1,000米ドル |
| 受粉に依存する価値の割合 | 80% |
| 受粉が低下する確率 | 34% |
| 損失発生確率(影響の尤度) | 55% |
NVAR = 1000米ドル × 0.8 × 0.34 × 0.55 = 150米ドル
自然関連リスクは、ポートフォリオ全体で計測して意思決定のプロセスに織り込むことで管理できます。GDPのNVARのセクター別推定値は、複数地域の投入・産出連関と合わせて、金融機関がマクロのシナリオをポートフォリオへの影響につなげるのに役立ちます。最終的に、金融機関は、この分析により個々の融資や他の商品のレベルで自然関連リスクを管理することができます。次のステップは、金融機関が自然関連リスクを考慮するのに役立ちました。
林業に依存するカナダ企業は、最も高い水準のNVARをいくつか抱えており、これはそのサプライヤーの所在地がカナダ国内か国外であるかに関わりません。
図表1:国・セクター関連GDPに対する比率としてのNVAR。100年に1度のシナリオに基づく
カナダでは、自然が持つ洪水調節、暴風雨緩和、地域の気候調整、水流調整の能力が低下しているため、経済価値の大きな割合が危険にさらされています。
図表2:直接的・間接的な事業活動におけるNVAR
執筆者より、本レポートに寄与したAnnabell ChartresとEleanor Gillに感謝申し上げます。
※本コンテンツは、Unearthing the nature risk in financial portfoliosを翻訳したものにPwC Japanグループ独自の内容を追加しております。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
{{item.text}}
{{item.text}}