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2024年に寄稿したシリーズ第1回「デジタル地域通貨・共通ポイント事業とそのプレイヤーの類型」では、デジタル地域通貨・共通ポイント事業の普及と多様化、ならびに運営主体・プラットフォーム提供者の変容を、年代推移と類型により整理しました。2025年のシリーズ第2回「デジタル地域通貨・共通ポイント事業に影響を与える技術動向」では、デジタル地域通貨・共通ポイント事業に適用されているさまざまなデジタル技術が、事業自体にどのような影響を与えてきているか概観しました。
今回は、デジタル地域通貨・共通ポイント事業の成功事例を中心に、事業の成立・普及・定着のあり方を考察します。第1回で整理した事業モデル・プレイヤー類型と、第2回で取り上げた発行形態やデータ利活用の変化を踏まえると、現在問われているのは「どう立ち上げるか」だけでなく、「どう普及・定着させ、何の基盤としていくか」という点にあります。
本稿では、事業を成立・運用・持続させる中核プレイヤーとして、自治体、地域金融機関、IT/決済事業者の3者に着目します。これらのプレイヤーは、普及から定着、基盤化へと進む過程で関与の仕方を変化させており、本稿では事業タイプやフェーズ整理に加え、各プレイヤー固有の論点にも焦点を当てて考察します。
※本シリーズで示すケース整理・論点整理は、公開情報をもとにしたPwCによる考察であり、特定の事業者、自治体、プラットフォームを網羅的に評価するものではありません。
第1回で示したとおり、デジタル地域通貨・共通ポイント事業には、「地域内での還流」と「地域外からの還流」という大きな類型があり、近年はそれらを組み合わせたハイブリッド型も見られます。加えて第2回で見たとおり、発行形態のアプリ化や、ポイント付与・行動取得・データ分析機能の高度化によって、事業の設計自由度は大きく拡張しています。そのため、成功事例を読み解くうえでは、単に「地域通貨がある」「アプリがある」といった表層ではなく、少なくとも以下の4つの視点で捉える必要があります。
成功事例は、多くの場合、これら4点の整合性が高い一方で、事業目的と利用導線、あるいは運営構造と継続性の間にずれがある場合、初期の話題性や導入実績があっても、継続利用にはつながりにくいと考えられます。
第1回・第2回の内容を踏まえると、地域通貨事業は、「何を起点に始まるか」と、「最終的に何を目指すか」を分けて捉えることが有効です。実務上は、前者を事業タイプ、後者を事業目的として整理すると、普及と定着の論点が見えやすくなります。
(1)事業タイプ(5モデル)
事業タイプ |
概要 |
主な起点 |
行政施策型 |
給付・商品券・生活支援などを起点とする |
自治体施策 |
地域商業型 |
商店街・地域小売の活性化を起点とする |
来店促進・回遊促進 |
金融連携型 |
口座・決済・金融アプリとの連携を起点とする |
金融サービス |
観光型 |
来訪者向けの消費促進を起点とする |
域外資金流入 |
行動変容型 |
健康・環境・地域参加などを起点とする |
行政ポイント・参加促進 |
(2)事業目的(3モデル)
事業目的 |
概要 |
主な評価軸 |
利用喚起 |
短期間で利用者・加盟店を広げる |
普及速度、利用者数、登録率 |
地域経済循環 |
地域内で継続的に使われる状態をつくる |
再利用率、加盟店利用頻度、回遊 |
地域サービス基盤 |
行政・商業・金融を横断する接点になる |
継続接触、機能統合、データ活用 |
(3)両者モデルの関係
事業タイプ |
利用喚起 |
地域経済循環 |
地域サービス基盤 |
行政施策型 |
◎ |
◯ |
△ |
地域商業型 |
△ |
◎ |
◯ |
金融連携型 |
△ |
◯ |
◎ |
観光型 |
◎ |
◯ |
△ |
行動変容型 |
△ |
◯ |
◎ |
凡例
◎:主たる目的・中核となる位置付け
◯:重要な役割を担うが、主目的ではない
△:補完的・派生的に持ち得る位置付け
重要なのは、多くの成功事例が、単一の目的にとどまっていないことです。例えば、行政施策型で一気に普及した後に、地域商業型や金融連携型の要素を取り込み、地域経済循環や基盤化へと遷移していく構造が見られます。第2回で示したようなアプリ化・データ利活用の進展は、この遷移を可能にする技術的前提になっています。
ここでは、公開情報から読み取れる先行事例の特徴を抽象化し、5つの事業タイプごとに、普及フェーズと定着フェーズの論点が見えるよう整理します。
行政施策型は、最も短期間でスケールしやすいモデルです。給付やプレミアム付与などを通じて、利用者を一気に獲得できるため、普及フェーズでは非常に強い推進力を持ちます。一方で、施策終了後に利用が落ち込む構造を抱えやすく、定着フェーズでは「日常利用へどう接続するか」が最大の論点になります。
観点 |
普及フェーズの論点 |
定着フェーズの論点 |
利用者 |
行政施策と一体で登録・利用を促せるか |
施策終了後も使う理由を残せるか |
加盟店 |
短期間で一定数を確保できるか |
加盟店側の継続参加メリットがあるか |
機能 |
発行・利用・精算が簡便か |
ポイント、クーポン、常設決済へ拡張できるか |
運営 |
予算執行と事業運営が両立するか |
補助金依存から脱却できるか |
このモデルでは、自治体にとっては「配る」設計よりも「施策後も使われ続ける」設計が問われ、IT/決済事業者にとっては行政施策実装力だけでなく、常設運用への転換設計が問われます。地域金融機関が関与する場合には、施策後のチャージ・決済導線をどう受け止めるかが論点になります。
地域商業型は、地域内消費の循環そのものを目的としやすいモデルです。商店街・地域小売・生活サービスを軸に、日常利用に近い導線を確保できれば、定着可能性は高まります。他方で、初期普及時点では行政施策型ほどの拡大力がないため、普及フェーズでは加盟店ネットワークの質と厚みが重要になります。
観点 |
普及フェーズの論点 |
定着フェーズの論点 |
利用者 |
使える場所が十分にあるか |
日常の買い物導線に定着しているか |
加盟店 |
中核店舗・日常利用店舗を押さえられるか |
販促・送客・分析面の価値を返せるか |
機能 |
来店・回遊促進の仕組みがあるか |
リピート来店・横断利用を促せるか |
運営 |
地域事業者の巻き込みができるか |
事務局機能が持続可能か |
このモデルでは、自治体にとっては地域商業施策との接続、地域金融機関にとっては加盟店ネットワーク支援、IT/決済事業者にとってはクーポン・CRM・分析など加盟店向け価値の拡張が論点になります。
金融連携型は、口座、チャージ、送金、決済といった資金接点を基盤にできることが特徴です。第2回で整理したように、アプリ型への発行形態の変化により、銀行口座からの入金やクレジットカードなどとの接続が容易になり、地域通貨は金融サービスの延長線上に設計しやすくなっています。
観点 |
普及フェーズの論点 |
定着フェーズの論点 |
利用者 |
口座保有者・既存顧客に自然に乗せられるか |
決済以外の金融接点と結び付くか |
加盟店 |
決済受入の負荷が低いか |
精算・資金繰り・加盟店金融へ広げられるか |
機能 |
チャージ・支払いが分かりやすいか |
ポイント、送金、B2B支払いへ拡張できるか |
運営 |
金融・非金融の連携体制があるか |
地域経済圏のハブとして位置付けられるか |
このモデルでは、地域金融機関にとっては「決済機能の提供」にとどまらず、地域内資金循環のOSになれるかが中心論点です。自治体にとっては公共施策との接続余地、IT/決済事業者にとっては金融機能との役割分担が重要になります。
観光型は、地域外からの還流を取り込むモデルです。第1回でも、ふるさと納税返礼品や観光クーポンとしてのデジタル通貨発行が整理されており、域外資金を地域内消費に接続する点に大きな意義があります。
観点 |
普及フェーズの論点 |
定着フェーズの論点 |
利用者 |
来訪者がすぐ使い始められるか |
再訪や関係人口化につながるか |
加盟店 |
観光導線上の店舗を押さえられるか |
地域の面的消費に広げられるか |
機能 |
多言語・簡便な導入があるか |
地域体験・会員化・再接点があるか |
運営 |
観光施策と連動しているか |
季節変動を超えて機能するか |
このモデルでは、自治体にとっては観光施策と地域消費循環の接続、地域金融機関にとっては域外流入資金の受け皿、IT/決済事業者にとっては旅行者UXと地域回遊設計が論点になります。
行動変容型は、健康、環境、地域参加などの行動にポイントを付与し、それを地域内消費へつなげるモデルです。第1回・第2回で整理した健康ポイントやアプリ上の行動・体験連携は、このモデルの拡張可能性を示しています。
観点 |
普及フェーズの論点 |
定着フェーズの論点 |
利用者 |
参加ハードルが低いか |
行動が習慣化するか |
加盟店 |
使い先が身近か |
行動変容と消費が循環するか |
機能 |
行動取得・ポイント付与が分かりやすいか |
ミッション、ランキングなどで継続参加できるか |
運営 |
施策評価指標を持てるか |
行政サービス基盤へ発展できるか |
このモデルでは、自治体にとっては政策目標と消費循環をどう両立させるか、地域金融機関にとっては非金融行動をどう経済圏に取り込むか、IT/決済事業者にとっては体験設計と継続UXが論点になります。
以上のケースを横断すると、地域通貨事業の成功要因は、次の5つに整理できます。
成功要因 |
概要 |
普及フェーズの重要論点 |
定着フェーズの重要論点 |
初期普及の設計 |
立ち上がりのスケールを確保する |
施策連動、既存顧客基盤活用 |
初回利用後の継続導線 |
加盟店ネットワーク |
使える場所を面的に作る |
中核店舗確保、導入負荷低減 |
加盟店メリットの可視化 |
日常利用導線 |
日々の行動に組み込む |
生活導線・観光導線への接続 |
習慣化、再利用率向上 |
データ活用 |
利用・行動データで改善する |
取得設計、KPI設計 |
施策最適化、加盟店支援 |
プレイヤー連携 |
官民の役割を整理する |
主体・責任分担の明確化 |
継続運営体制、収益モデル |
このうち、普及フェーズでは「初期普及」と「加盟店ネットワーク」が前面に出やすく、定着フェーズでは「日常利用導線」「データ活用」「プレイヤー連携」が重要になるという構造があります。ここに、自治体・地域金融機関・IT/決済事業者それぞれの強みと弱みが表れます。
普及フェーズ/定着フェーズで何を問うべきか
プレイヤー |
普及フェーズの論点 |
定着フェーズの論点 |
自治体 |
住民接点を生かして一気に利用を広げられるか |
施策終了後も「行政アプリの外」で使われ続けるか |
地域金融機関 |
既存口座顧客・地域企業ネットワークを活用できるか |
決済にとどまらず資金循環・金融接点に昇華できるか |
IT/決済事業者 |
使いやすいUXと導入容易性で広げられるか |
全国最適ではなく地域最適を実現できるか |
自治体は、住民全体への到達力を持つ一方で、継続的なプロダクト改善や民間商流設計は必ずしも得意ではありません。そのため、普及フェーズでは強みを生かして利用を広げられますが、定着フェーズでは民間機能との接続設計が重要になります。
地域金融機関は、資金接点と信頼性を持つ一方で、広範な生活接点や加盟店UXでは他プレイヤーに劣る場合があります。したがって、定着フェーズでは非金融サービスとの接続が重要になります。
IT/決済事業者は、導入しやすさ、UX、データ活用に優れる一方で、地域密着性や公共施策との一体運営では調整コストが高くなりがちです。そのため定着フェーズでは、地域ごとの役割設計とローカライズが問われます。
第1回では、地域通貨・共通ポイント事業の運営主体やプラットフォーム提供者が、自治体だけでなく、商店街や金融機関、地域・自治体DXプラットフォーマーなど多岐にわたることを示しました。
第2回では、アプリ型への移行やデータ利活用の進展によって、こうした多様な主体が同じ基盤上で役割分担し得る技術条件が整ってきたことに触れました。
この延長線上で考えると、今後の地域通貨事業のあり方は、単独主体が完結的に囲い込む構造よりも、以下のような接続設計に向かう可能性が高いと考えられます。
プレイヤー |
主に持つ接点 |
期待される役割 |
自治体 |
住民接点 |
初期普及、施策接続、公共性の担保 |
地域金融機関 |
資金接点 |
チャージ・決済・精算、資金循環の設計 |
IT/決済事業者 |
データ・UX接点 |
利便性、運用高度化、データ活用 |
したがって、事業計画上の問いは、「誰が主導するか」だけではなく、「誰が何を持ち寄ることで、普及から定着へ移行できるか」へと変わっていくべきと考えます。
デジタル地域通貨・共通ポイント事業は、もはや単なるデジタル商品券や地域ポイントではなく、地域における消費・参加・移動・行政サービスをつなぐ接点として位置付け直されつつあります。第1回で見た事業類型とプレイヤーの多様化と、第2回で見た発行形態とデータ利活用の進展は、その前提条件を既に整えています。
成功事例の共通点は、技術の新しさそのものにあるのではなく、普及フェーズで何を押さえ、定着フェーズで何を積み上げるかを、事業タイプごとに設計していることにあります。自治体、地域金融機関、IT/決済事業者のいずれにとっても、今後問われるのは、地域通貨を「単発施策」や「単独機能」として扱うのではなく、地域経済圏のなかでどの役割を果たす基盤として設計するかという視点ではないでしょうか。
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