{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.text}}
近年、リアルワールドデータ(RWD)を活用した治験設計が、国内外で現実的な選択肢として、急速に位置付けられつつあります。特に希少疾患領域や小児領域では、被験者確保の制約や倫理的観点から、従来型のランダム化比較試験(RCT)の実施が困難なケースが多くあります。
こうした領域では、プラセボ対照の設定そのものが治験参加の障壁となり、結果としてドラッグラグやドラッグロスを助長してきました。これに対し、既存の医療データを外部対照群として活用する試験設計は、患者負担を軽減しつつ科学的妥当性を補完する手法として注目されています。
本レポートでは、RWDを中核に据えた治験エコシステムを「複数のステークホルダーが制度・技術・運用の観点から連携し、持続的にエビデンス創出を行う枠組み」と定義し、その制度的背景、実装事例、今後の実務的論点を整理します。
米国では、2016年の21st Century Cures Actにより、RWD/リアルワールドエビデンス(RWE)の薬事活用が制度上明示されました1。その後、PDUFA VII(2023-2027)において米国食品医薬品局(FDA)はRWE活用を重点施策として位置付け、適用範囲や評価観点を示す複数のガイダンスを公表しています2。
欧州では、European Health Data Space(EHDS)の整備が進められており、臨床試験データを含む広範な医療データの二次利用が制度的に担保されつつあります3。
日本においても、2021年の厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長、厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長によりレジストリ活用の基本的考え方が示されました(承認申請等におけるレジストリの活用に関する基本的考え方〈令和3年3月23日付け薬生薬審発0323第1号・薬生機審発0323第1号〉)4。その後2025年には独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)より「外部対照試験に関する留意事項(Early Consideration)」が発出されました。これにより、外部対照群活用は「検討対象」から「実装を前提とした議論」へと移行しつつあります。
医療データの二次利用は、単なる研究効率化の手段ではなく、将来の医療の質向上を見据えた社会的責任として位置付けられます。診療を通じて蓄積された医療情報を、研究開発や医療政策、薬事評価に活用することで、個々の患者の治療にとどまらない社会的価値が創出されます。
特に希少疾患領域では、電子カルテ単体では把握しきれない疾患特異的情報や長期追跡データを収集するため、専用レジストリの構築が不可欠です。高品質なレジストリは、外部対照群としての利用に加え、自然歴理解やエンドポイント設定の基盤として、治験全体の質を底上げする役割を果たします。
RWDを活用した外部対照群の実装は、米国を中心に先行してきましたが、日本においても具体的な承認事例が蓄積されつつあります。
希少・重篤な神経筋疾患治療薬においては、無作為化対照が困難な状況下で、海外レジストリの自然歴データを外部対照として活用し、背景因子を事前定義した上で比較することで、有効性評価の補強が行われました。この事例では、データ品質管理や評価指標の標準化が重視され、解析計画の透明性が評価されました。
また、がん領域では、単群試験における有効性結果を補強する目的で、国内レジストリから背景因子が類似した症例を外部対照群として選定し、治験群との明確な差を示した事例があります。これらの取り組みは、外部対照群が「代替」ではなく「補強的エビデンス」として機能し得ることを示しています。
2020年、ビルトラルセンは、PMDAによる審査を経て、厚生労働大臣により条件付き早期承認制度の下で承認されました。無作為化対照が困難な中、米国レジストリ自然歴RWD(440例)から年齢・地域・ステロイド使用の状況・遺伝子型などを事前定義して65例を外部対照に選定し、治験施設に合わせた評価標準化でばらつきを抑制しました。交絡や一般化可能性の課題を踏まえつつ、背景因子の整合性、データ品質、透明性の高い解析計画を示した点が評価され、副次評価項目の有効性を補強した事例です。
がん領域では、HER2陽性進行・再発大腸がん患者を対象とした単群試験(TRIUMPH試験)において、トラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法(30例)の有効性が検討され、約30%の奏効率が示されました。有効性の補強として、SCRUM-Japanレジストリから背景因子が類似し、同意取得が確認された6例が外部対照群として選定されました。これらの症例では奏効例は認められず(奏効率0%)、治験群との明確な差が示されました。この結果は補強的エビデンスとして評価され、本併用療法はHER2陽性大腸がんに対する適応拡大が承認されました。
上記2事例ともに課題は残るもののRWDの活用は広がりを見せつつあり、承認件数も年々増加傾向にあります(図表1)。活用されたデータ種は、「文献データ」「レジストリデータ」に次いで、「カルテ・医療記録(電子カルテデータを含む)」情報が多くなっています(図表2)。
図表1:米国・欧州・日本における承認件数推移
出所:各国規制当局(FDA、EMA、PMDA)、製薬企業や医療機関の公式サイト、米国臨床薬理学会(ASCPT)をはじめとする学術論文、日本製薬工業協会などの業界団体、臨床試験データベースなどの複数の事例情報に基づきPwC作成
図表2:RWDを活用した際に用いたデータ種※
※試験単位で集計、1試験で複数のデータ種を用いた場合は重複して集計
出所:各国規制当局(FDA、EMA、PMDA)、製薬企業や医療機関の公式サイト、米国臨床薬理学会(ASCPT)をはじめとする学術論文、日本製薬工業協会などの業界団体、臨床試験データベースなどの複数の事例情報に基づきPwC作成
製薬企業における外部対照群に対する期待は大きいといえます。特に希少疾患領域や小児領域では、被験者確保の困難さや倫理的配慮から、RWD活用による試験実施可能性の向上や開発期間の短縮が強く期待されています。
一方で、電子カルテデータの記載のばらつきやエンドポイント欠損といったデータ品質の課題、RWD解析に精通した人材不足、仮名加工データ利用に伴う運用負荷など、実装上の障壁は依然として大きい状況にあります。多くの企業では、現時点では第Ⅱ相試験以降の補助的利用や、ハイブリッド対照群としての活用が現実的な選択肢と認識されています(図表3)。
希少筋疾患領域におけるRWD活用の代表的な取り組みが、神経筋疾患レジストリ「Remudy」です。
Remudyは、患者の基本情報を広範にカバーする下層登録と、薬事申請や詳細評価に対応する上層登録の二階建て構造を特徴とし、医療現場の負担を軽減しつつ薬事利用に耐え得る質の高いデータ収集を実現しています。
Remudyによるデータは、プレドニゾロンの公知申請支援や新薬承認の補完、さらには医療経済評価などに活用されています。これにより希少疾患領域での薬事承認や治験設計が着実に進展し、患者負担軽減や治療選択肢の拡充に貢献しています。
図表3:製薬会社におけるRWD活用状況および外部対照群に対する認識
出所:PwC作成
PMDAは、希少疾患、小児、がんの一部領域など、倫理的・実務的制約が大きい疾患領域において、RWD活用の余地があるとの理解を示しています。2025年にPMDAが発出した「外部対照試験に関する留意事項」では、特にデータ品質、背景因子の整合性、解析計画の妥当性が重要な評価観点として明示されました。
申請企業には、早期の科学的助言を活用し、試験設計段階から外部対照群利用を織り込んだ透明性の高い資料作成と、交絡リスク管理の明確化が求められています。
国際的な規制整備の進展に伴い、RWDは「後付け活用」から「目的適合型データ設計」へと移行しています。共通エンドポイントを事前定義した前向きレジストリ、フェデレーテッド解析、プライバシー保護型リンケージといった技術が普及しつつあり、GCP要件との両立も現実的になりつつあります。
今後のRWDおよび外部対照群活用を推進する上では、以下の3点を設計段階から統合的に検討することが不可欠です。
第一に、データの「用途適合性」です。エンドポイントと測定プロトコルを事前に設計し、それに基づくデータ収集と品質管理を行う必要があります。
第二に、患者同意・プライバシー保護の「運用可能性」です。eConsentや長期追跡同意を含む同意設計を初期段階から組み込むことが重要となります。
第三に、規制対応の「実装可能性」です。仮名加工、原資料確認、解析計画の整合性を一体として設計することが求められます。
これまで述べてきた内容を踏まえ、RWDを活用した治験の普及・利活用を推進するために以下3点を提言します。
エンドポイント、測定プロトコル、追跡期間を事前に定義し、それに基づいた前向きレジストリやRWD収集を行うことで、解析の妥当性と規制対応力を同時に高める必要があります。後付けでのデータ活用には限界があります。
その前提として、RWDの入力装置である電子カルテへの記載を、医師や医療機関が明確な目的意識をもって行える環境整備が不可欠です。具体的には、RWDの質・標準化・網羅性に資する診療情報入力を評価対象とし、DPC制度における機能評価係数への反映などを通じて、経済的インセンティブを付与する仕組みを国が検討することが重要です。
こうした制度的後押しにより、診療現場における「日常診療としてのRWD蓄積」と、治験・薬事利用を見据えた「用途適合型データ創出」との接続が初めて現実のものとなります。
eConsentや長期追跡同意を前提とした同意設計を初期段階から組み込み、二次利用・外部対照群活用を見据えた運用を構築することが、持続的なエビデンス創出の基盤となります。
仮名加工、原資料確認、交絡管理、解析計画の透明性を個別対応するのではなく、治験全体の運用設計として一体的に構築することが、規制当局との建設的な対話と承認可能性の向上につながります。
RWDと外部対照群を活用した治験エコシステムは、制度整備、技術進展、患者理解の深化を背景に、すでに構想段階を超え、実装を前提とした現実的な選択肢として定着し始めています。今後数年で、希少疾患領域や小児領域、がん領域を中心に、外部対照群活用は例外的な手法ではなく、一定の条件下における標準的な治験設計オプションとして位置付けられていくことが見込まれます。
この動きは、治験の効率化にとどまらず、医薬品開発の在り方そのものを変革する可能性を秘めています。RWDを前提に設計された治験は、患者負担を軽減しながら、より早期に、より実臨床に近いエビデンスを創出することを可能にします。さらに、市販後データとの連続的なエビデンス構築を通じて、開発・承認・実装を一体で捉える新たな治験エコシステムへと進化していきます。
PwCコンサルティング合同会社は、この変革の本質は「技術」や「データ」そのものではなく、データ、同意、規制という三要素を分断せず、実装を起点に統合設計できるかにあると考えています。用途適合性を備えたデータ設計、長期的な活用を前提とした同意・プライバシー運用、そして規制要件を織り込んだ解析・ガバナンス体制を一体として構築することが、治験エコシステムの成熟度を左右する決定的要因となります。
今後、製薬企業、医療機関、患者組織、規制当局がそれぞれの役割を明確にしながら連携し、透明性と再現性を備えたエビデンス創出を継続的に実現していくことが求められます。その先には、ドラッグラグやドラッグロスの構造的解消、患者中心の医薬品開発、そして持続可能な医療システムの構築という、社会的価値創出を伴う治験エコシステムの完成形が見えてきます。
PwCコンサルティングは、制度・技術・運用を横断する視点と実装支援の知見を通じて、こうした治験エコシステムの進化を構想から実行まで一貫して支援していきます。
1 U.S. Food and Drug Administration (FDA) "Proposed FDA Work Plan for 21st Century Cures Act Innovation Account Activities"
https://www.fda.gov/files/Proposed-FDA-Work-Plan-for-21st-Century-Cures-Act-Innovation-Account-Activities-as-Submitted-to-Science-Board.pdf
2 U.S. Food and Drug Administration (FDA) "PDUFA VII: Fiscal Years 2023 – 2027"
https://www.fda.gov/industry/prescription-drug-user-fee-amendments/pdufa-vii-fiscal-years-2023-2027
3 European Health Data Space(EHDS) "European Commission"
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2025/327/oj
4 厚生労働省『承認申請等におけるレジストリの活用に関する基本的考え方』
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5763&dataType=1&pageNo=1
{{item.text}}
{{item.text}}