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本稿執筆時点、つまり国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)開催を控えた前夜、組織や地球の進む方向を定めようとしているリーダーたちは、2つの大きな岐路に直面しています。1つの避けようのない現実は、世界経済の脱炭素化は、途方もなく困難な課題であり、国や産業、企業、個人は、広範にわたる厳しい経済的トレードオフを突き付けられるということです。もう1つの不可避な現実は、環境・社会・ガバナンス(ESG)運動のインパクトが拡大しつつあり、大口投資家やその投資先である企業に対して、従来のビジネスモデルが抱えるリスクと、将来におけるより持続的な価値創造の機会の再考を迫っている、ということです。
2021年9月にPwCが新たに実施した調査からは、これらの岐路がもたらす影響の大きさが見て取れます。本調査は、世界の投資家325人を対象に行われました。回答者の大部分が自らを、長期的なアクティブ投資家とみなしていました。調査に回答した投資家は、投資行動を通じてESG目標を追求し、ESGを投資先企業の優先課題として位置付ける姿勢をさまざまな形で表明しています。その一方で、ほとんどの投資家(81%)は、ESG目標を追求するにしても、投資収益率が1パーセントポイント超削られることに抵抗感を示しています。また、投資先企業のCO2排出量に関する情報など、ESGの優先課題を評価する際に入手できる情報の質について、大きな懸念を抱いていると述べる投資家も多数見られました。
このような岐路に立つリーダーたちにとって、気候変動を背景にした大規模なビジネス変革と、投資家が受託者責任を遂行する中で追求するリターンを両立させるには、どうすればいいのでしょうか。PwCの以前のレポートでは、ESGと価値創造を同時に推進するうえで、企業レポーティングの見直し、戦略の改革、大規模なビジネス変革が互いに密接な関係にあることを取り上げました。PwCの最新調査は、これらの優先課題を改めて裏付けるとともに、このような大変革の主導に必要なリーダーシップ、企業によるESGの「ストーリー」の伝え方、その両方に役立つ報告基準や透明性について、新たな知見を提供しています。
今回の調査で明らかになった重要なポイントは、投資先企業が直面するESGのリスクや機会に対して、投資家が厳しい目を向けるようになり、積極的に行動を起こす姿勢を見せていることです(図表1参照)。ESGを投資判断の重要な要素だと回答した投資家は80%近く、役員報酬の目標にESG要素を取り込むべきと考える投資家は70%弱、ESG課題について十分な措置を講じていない企業からは投資引き揚げも辞さないと表明した投資家はおよそ50%に上りました。この結果は、今回の調査の一環として実施した、より掘り下げたインタビュー調査でも裏付けられています。ある投資会社のESG責任者は、「今は、ESGが主流に変わった転換点です。金融機関で長期的なテーマについて話せば、間違いなくESGの話題が出てきます」と語りました。
図表1:投資家はESGの重要性を理解しつつあり、積極的な行動を取る姿勢を見せている
ESGリスクは投資判断の重要な要素である
79%
企業は短期的な収益性が低下することになっても、ESGの課題に取り組むべきである
75%
ESGパフォーマンスの指標・目標が役員報酬に含まれるべきである
68%
ESG課題に十分な措置を講じようとしない企業からは、投資引き揚げも辞さない
49%
このようにコミットメントのレベルが高まったのは比較的最近であることが、PwCの別の調査から明らかになっています。例えば、つい2016年までは、PwCによる第19回世界CEO意識調査の一環として調査したアセット&ウェルスマネジメント(AWM)業界のCEOのうち、気候変動の脅威に懸念を示したCEOはわずか39%にとどまっていました。それから5年後、2021年3月に発表されたPwCの第24回世界CEO意識調査では、AWMのCEOのほぼ70%が気候に関する懸念を表明しました。
今回の調査でも、地球環境や社会への責任と、顧客に対する受託者責任との間で投資家が葛藤している様子が見て取れます(図表2)。回答を見ると、企業が短期的な収益性を犠牲にしてもESG課題に対処することの価値を認める投資家が大部分(75%)を占めています。一方、前述のように、そうした目標を追求するために許容できる投資収益率の低下は1パーセントポイント以下とした投資家も、同様の割合(81%)を占めていました。そのうちの3分の2近くは、収益率の低下は一切受け入れられないとの回答でした。
図表2:多くの投資家が、ESGの成果と引き換えに投資収益率の低下を受け入れることに抵抗を感じている
34%
そう思う
これは驚くには当たりません。資本はリターンを追い求め、成績が悪ければ退場⸺。投資家は、そのような競争の激しい市場で活動しています。さらに、ある信用格付アナリストが指摘したように、「アセットマネージャーには受託者責任があり、投資収益を差し置いて社会(的問題)を優先するわけにはいかない」という事情もあります。また、投資期間の問題も関わってきます。投資家は、短期的な成果と、投資先企業による価値創造の見込みを脅かす、より長期的でより存続に関わる(同時に、より不確実性の高い)リスクとのバランスを取らなければなりません。PwCグローバル会長のボブ・モリッツ(RobertE. Moritz)が2020年末に指摘したように、世界の資本市場の現状から言えば、社会の最重要課題の解決を資本市場だけに期待するわけにはいきません。
政府、産業界、資本市場、社会の全てが重要な役割を担っています。同様に、非財務情報を含む質の高い情報も欠かせません。
近年、ESGに関する企業の取り組みや行動に投資家が注目するようになった結果、レポーティングが脚光を浴びています。投資家は、企業のサステナビリティレポートを利用し、投資先の選別基準を、CO2排出量から人権、取締役会のダイバーシティまで、さまざまな要素を追跡するベンチマークに基づいて設定するようになっています。
こうしたベンチマークは役に立つ一方、今回の調査から、現行のESGレポーティングにおけるさまざまな欠点も浮き彫りになりました。投資の参考にしているレポーティングの質が概して十分な水準にあるとみなしている投資家の割合は、平均するとわずか3分の1でした。簡単に言えば、投資家は、ESG関連のパフォーマンスに関する企業間の違いを容易に見分けることができないということです。投資家が効果的な判断を下すうえでは、関連性、信頼性、適時性、網羅性、比較可能性を備えた情報が必要ですが、今日のESGレポーティングの大部分からそのような情報を得られるのかどうかに、投資家は疑問を感じています。ある投資会社のエンゲージメント責任者は、「だからこそ信用が極めて大切」としたうえで、「投資家に投資を決断してもらうには、さらに多くが求められます」と話しています。レポーティングが向上すれば、投資家は持続可能なビジネスモデルがどのように長期的な企業存続につながるのか、理解しやすくなります。また、ESG戦略がいかに価値創造に結び付くかを評価し、企業の行動が地球や人間にマイナスの影響を及ぼす可能性があるかどうかを判断することも容易になります。
ESGレポーティングが抱える課題の複雑さが鮮明になるのが、気候問題です。今回の調査で、環境問題に関して入手できる情報の質が十分な水準にあると評価した投資家は、全体の3分の1強にとどまっています。投資家の多くがCO2排出量に関する情報に飢えており、このような情報の入手の難しさは、厄介な問題になりかねません。ESGに関する課題のうち、企業が優先的に対処すべき課題はどれかを尋ねたところ、ほとんどの投資家が他項目に大差をつけて挙げたのは、スコープ1の排出量(企業の事業活動による直接排出量)の削減とスコープ2の排出量(外部から調達または取得した電力・蒸気・熱・冷却の使用に伴う間接排出量)の削減でした(図表3参照)。
図表3:企業のESG優先課題の上位はスコープ1とスコープ2の温室効果ガス排出量の削減
現在、とりわけ困難なのが、スコープ3の排出量(販売した製品・サービスの使用など、自社の直接管理が及ばない活動による排出量)の追跡とレポーティングです。投資家が重視するESG課題の中で、スコープ3の排出量の優先順位が低かったことは、おそらく偶然ではないでしょう。実際、私たちがインタビューしたある投資会社のESG責任者によれば、「アセットマネージャーの多くは、スコープ3の排出量(企業のCO2排出量測定を支援するカーボントラストという団体によると、ほとんどの企業においてCO2排出量全体の65~95%を占めている)に関して入手できるデータを十分に評価するだけの能力を持っていない」ということです。とはいえ、規制の整備が進む中、投資先企業のカーボンフットプリントの監視・レポートを行う投資会社や年金基金、保険会社などの投資家にとって、どのタイプの排出量についてもレポーティングの重要性は高まる一方です。
これまでに取り上げてきた岐路は、投資家と、その投資先である企業の双方にとって厄介ではあるものの、進歩するうえで乗り越えられない障壁というわけではありません。そこで、こうしたトレードオフの関係にうまく対処している企業3社の取り組みをご紹介します。
ここに挙げた事例は、進歩の可能性があることを示唆しています。また多くの場合、より有望で長期的な事業運営モデルの構築と引き換えに、短期的にはキャッシュフローや収益の落ち込みもやむなし、という認識も見て取れます。
今回の調査から、同じようなトレードオフに直面しながら活路を見出そうとしている企業において、リーダーがESGの行動計画を前進させ、投資家などステークホルダーを巻き込んだ取り組みを展開するうえで、ただちに取り得る行動がいくつか浮かび上がりました。
1. 最高経営幹部の力を活かす。今回の調査では、企業がESGを経営戦略に直接組み込むべきとの回答は82%に上りました。投資家はまた、CEOをはじめとする最高経営幹部のリーダーシップも重視しています。最高経営責任者は、ESGへの取り組みに伴う経営資源配分の難しいトレードオフを実行する一方で、顧客や従業員、株主などあらゆるステークホルダーにESGの大切さを特に発信しやすい立場にあります。他の最高経営幹部にも重要な役割があります。今回インタビューしたある信用格付アナリストは、最高経営幹部がESGに「積極的に関与すると、組織の全階層に広がっていく」と言います。そんなことはわざわざ説明されるまでもないと思うかもしれませんが、現実は必ずしもそうではありません。例えば、PwCの直近の世界CEO意識調査によれば、気候変動を戦略的なリスク管理に織り込んでいるとの回答はCEO全体の40%にとどまりました。これでは、コーポレートサステナビリティの行動計画を推進するのはさらに困難になります。
2. 全体的な視点からESGに関するストーリーを考える。今回の調査によれば、投資家が企業のESG課題への取り組みを把握する際に、圧倒的によく利用しているのが、アニュアルレポート、サステナビリティレポート、投資家向け説明会でした。こうした情報源と、それらの情報が伝えるESGに関するストーリーは、自社で自由にコントロールできるものです。ESGレポーティングで扱う課題の広さを考えれば、多様な専門知識をまとまった形で結集させる必要があると言えます。サステナビリティ担当、リスク担当、財務報告担当、IR担当のチーム間の連携は欠かせません。これはさらに、会社が財務報告と同様にESGレポーティングにも本腰を入れて取り組んでおり、ESGレポーティングがますます市場を動かす情報となりつつあると認識していることも示せます。
レポーティングに対する全体的なアプローチは、それ自体を目的とすべきではありません。レポーティングは、投資家との積極的な対話を形作るものであり、企業がESG戦略の推進に関して正しい道を歩んでいるという確信を投資家に与えるのに役立ちます。会社に進歩が見られないと判断した投資家は、役員報酬への関与に始まり、取締役選任や決議事項への反対、さらに極端な場合は投資引き揚げに至るまで、さまざまな行動を検討することを、PwCの調査結果は示しています(図表4)。
図表4:投資家は、必要とあれば行動を取る姿勢を強めている
3. 報告基準の共通化、透明性の強化、信頼性の向上を促進する。共通のESG報告基準があれば投資判断の役に立つ、と回答した投資家は4分の3近くに上りましたが、ESG情報の報告に関して世界的に統一された基準は存在しません。こうした中、企業は、既存の報告基準の中で最良の基準を活用しながら、少なくとも当初は、急務である気候問題に重点を置くべきです。結果だけでなく使用した手法も開示することで、報告基準や測定方法の進化に伴って、ベストプラクティスに関する知識の共有に貢献できます。
具体的には、調査に回答した投資家からは、企業は可能な限り、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)のように、明確で適正な手続きと幅広く意見を募る仕組みを備え、広く認められた団体が公表している基準や枠組みを出発点とすべき、との意見が聞かれました。また、報告基準を適用するときは、その全ての項目を適用することも重要です。投資家は、企業が自社にとって都合のいい情報だけを提供する選択的な報告を警戒しています。あるアナリストは、「ESG課題に関しては、いい材料(達成できたこと)だけでなく、課題として抱えている悪い材料も開示すべきだ」と指摘します。
この取り組みにおいてリーダーは、開示を増やすためだけに投資家が扱い切れないほどの大量のデータを提供したり、現実以上によく見せようとして「グリーンウォッシング」とのそしりを受けたりしないように注意すべきです。投資家がESGレポーティングに求める最大の特徴は、企業のビジネスモデルにとってESGに関する課題がどう関連するか、ということです。質の高い情報開示になっているかどうかを常に自問自答する必要があります。また、投資家が開示情報を読んだときに、企業のESGの取り組みに関して、最終的に目指す姿と、ESG目標達成への進捗状況の両方が、鮮明に見えてくるかどうかも重要です。
PwCの調査に回答した投資家は、明確なメッセージを送っていました。それは、「企業がESGに関して適切な行動を取るのであれば、投資家はそれを支持する。そして、その道のりがどれほど困難であろうと、一緒に進んでいきたい」というものでした。つまり、企業に対し、長期的な価値創造の見通しや、予期せぬリスクを含め、リスクにどう対処するつもりかを率直に伝えてほしい、ということです。戦略の刷新、レポーティングの見直し、事業の改革、新たな成果に向けた積極的な取り組みについて、どのような計画を立てているのかを、投資家をはじめとするステークホルダーに語れば、長期にわたって持続可能な価値を創造しながら信頼を構築することができるのです。
※本コンテンツは、PwCが2021年10月28日に発表した「The economic realities of ESG」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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