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ESG革命への備えは万全か

社会からの要請とビジネスチャンスの両面から、企業の戦略立案、パフォーマンス向上、成果のレポーティングに対する変革が求められています。

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最近、役員室において、また経営幹部や実質的に同等のポジションにある人々の間で、環境・社会・ガバナンス(ESG)問題に対する不安と熱意が入り混じった声が聞かれています。「一体自分たちはどのようなリスクを抱えているのか」―ESG情報開示を求める声が高まる中、リーダー(および投資家)は自問しています。「共通基準がないのにどのように測定し、管理したらいいのか。膨大な数の課題が見込まれる中、どれに焦点を当てるべきなのか。」一方で、「自分たちのビジネスを厳しく見直す中で、いかにチャンスを見出し、重要課題の解決や新たな方法による価値創造につなげていくか」という、熱意のこもった問いも聞かれています。これらに対する答えは互いに関連するものであり、そこから生まれるさまざまな取り組み、すなわち、レポーティングの見直し(reimagined reporting)、戦略の再構築(strategic reinvention)、ひいては大規模なビジネス変革(business transformation)もまた、互いに関連しているのです。

こうした動きの背景にある圧力は言うまでもありません。投融資家や格付け機関は、多様な社会・環境リスクに関する理解を深めるべく、これまで以上に広範な非財務指標の可視化を企業に求めています。また、各国政府の野心的かつトップダウンによるCO2排出量削減へのコミットメント(英語)は、新たな規制や課税というかたちで強化されています。このように、企業への要求事項は膨れ上がる一方です。多くのステークホルダーの中でも、いわゆる「物言う株主」は、ネット・ゼロ・ポリシーや、ESG目標達成度をより強く反映した役員報酬パッケージを提案しています。また、社会的関心の高い消費者の間では、ESGの取り組みを判断材料として製品やサービスを購入する傾向が高まっています。こうした行為を通じて、企業に対して自社の製品や存在意義(purpose)を見つめ直すよう求めているのです。これには多様で熱意ある労働者の雇用主としての役割が含まれます。新型コロナウイルスの世界的感染拡大により、変革に向けた新たな機運も大きく高まっています。

こうした背景のなか、ESG成熟度は企業によって大きく異なります。PwCは、最新調査(英語)をもとに、ESG課題に対する認識およびその優先度、自身のコミットメント、ビジネスが社会にポジティブな影響をもたらすとの信念、といった指標に基づいて経営者を分類しました。その結果、大多数の組織のリーダー(約4分の3)が依然としてESGの取り組みにおいて、初期段階にあることがわかりました。その一方で、一部の企業はすでに、成功の尺度として財務上の必達事項だけでなく環境上の持続可能性や従業員エンゲージメント、社外パートナーシップ、より広範な社会へのインパクトを組み込んだ、価値創造エコシステム(英語)へと舵を切り始めています。ESG指標でトップ評価(英語)を獲得し、投資家のリターンも堅調な企業としては、ノルウェー中央銀行などのアセットマネージャー、Adobe、Salesforce、Microsoftなどのハイテク企業、P&GやBest Buyなどの小売・消費財企業などが挙げられます。

どのような地点からESGに関する議論を開始するにせよ、策定されるプロジェクトは、戦略的意思決定、新たな方針の実行、進捗状況と成果のレポーティングなど、ビジネスのあらゆる側面に変化をもたらします(図1参照)。

これらの側面は相互に関連しているだけでなく、それぞれが推進力を生み出し、他の側面を後押しするものです。石油・ガス、消費財、通信、製造、接客・サービスなど、さまざまな業界において、企業はステークホルダーと信頼関係を築き、持続的な成果の達成に努めています。具体的には、以下の必須事項に取り組んでいます。

レポーティングの見直し:多くの場合で最優先となるのは、ESG要素の管理と開示を可能にする、強化される規制要件、リスク認識、データと透明性に対する要請の組み合わせへの対応です。CO2排出量から人種やジェンダーのバランス、調達戦略の持続可能性まで、あらゆる問題に厳しい目が向けられています。投資家、政府、その他のステークホルダーは、企業がESGリスクを特定し、管理しているか、という点の評価に関心を寄せています。企業がどのような社内情報を公にすべきか見直しを図る中で、正式な非財務情報開示が広がり、従来の拘束力がないフレームワークを代替しつつあります。

戦略の再構築:企業がレポーティングの見直しを図る中で、新たな指標に照らして成長していくためにはどの分野でいかに競っていくか、という戦略上の基本課題の再考を迫られるケースもあるでしょう。あるいは、レポーティングをめぐる環境変化に対応する前に、ESGを核とした戦略の再定義に積極的に取り組むケースもあるでしょう。

図1: ESGアジェンダは、レポーティング、戦略、ビジネス変革にまで広がっている

ESG革命の3つの側面

ESG革命の3つの側面
戦略の再構築 Strategic reinvention
ESGへの意志―何をしなければならないのか、何をすべきか、何ができるか―を、どの分野でどのように競争するのかという青写真に落とし込む
レポーティングの見直し Reimagined reporting
CO2排出量、従業員の多様性、サプライチェーンの持続可能性などのESG要素を測定・管理できるようにする
ビジネス変革 Business transformation
ESG戦略およびレポーティングを事業の核として推進し、多くの場合、進捗中のDXに新たな情報を与えて拡張する

経営チームは、CO2排出量(エネルギー系企業やセメントメーカーなどが強く注目)や、健康、人種、ジェンダー、インクルージョンと不平等といったさまざまな社会的懸念事項がもたらす圧力と新たな機会の両方に対応するために、困難な戦略的トレードオフを見直しています。例えば、既存の戦略的優先事項が、持続可能ではない(あるいは容認できない)と見られる結果となっている場合、企業はこうした懸念事項への対応を図るとともに、さまざまな機会を開拓し、最終的には、事業内容だけでなくその手法も見直すための戦略が必要になるでしょう。

ビジネス変革:より幅広い非財務指標に基づくレポーティングに乗り出した企業は、これらの指標を管理する目標を定める必要があること、またその目標を達成するために、変化や変革を推進する必要があることにすぐに気づくでしょう。同様に、戦略的優先事項の持続可能性と意義を確保すべく、優先事項の再定義を迫られている企業は、新たな戦略目標を達成するために、直ちに変革を進めていく必要があります。いずれにしても、企業はESGを戦略に組み込み、それに伴う変化を果たすべく変革を図り、進捗状況と結果をレポートすることで、ESGの成果を積極的に管理していかなければなりません。経営のリーダーたちはこうした変革アジェンダの重要な推進役となります。またこのアジェンダは、継続中のデジタルトランスフォーメーション(DX)と不可分の関係にあります。DXに必要な情報を提供するとともにDXを土台とするものであり、DXのコンテクスト(およびその意義)を再規定するものです。

企業にはそれぞれ異なる事情があり、必要な変化の規模も異なります。戦略の再構築を促す野心的CO2排出量目標、持続可能でない事業からの撤退や事業再構築のディール、野心的なダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)の優先事項、サプライチェーンの見直しなど、いかなる動機であれ、ESGアジェンダには、レポーティング・戦略・ビジネスの変革に向けた取り組みが盛り込まれるでしょう。全てを組み合わせ、新たなビジネスのやり方を模索していくのです。すなわち、社会が直面している課題へのソリューションを見出すことにより価値を創出し、企業としての存在意義と信頼に基づく行動をとることです。

レポーティングの見直し

最近、マネジメントレビューや取締役会への出席機会が多い方は恐らく、ESGの課題や取り組み、トラッキング中の指標などに関する長時間の説明を受けるようになるでしょう。しかし、目標に照らした組織の現状や、全ての要素を大きな野心的目標や価値創出目標へと練り上げる方法はおろか、各取り組みの具体的目標すら明確化されていないケースがほとんどです。その結果、企業がESGを通じてどこに向かいたいのかではなく、どのベンチマークを用いるべきか、といった議論が延々と繰り返されることになります。

ここでの問題のひとつは、ESG評価やリスク評価指標の標準化です。というのも、こうした評価や指標は多くの場合、各機関が独自に設定しているためです。複数の基準設定機関が定めたフレームワークに基づく異なる基準で評価しているために、スコア評価も不透明で比較検討ができません。最近PwCが実施した調査(英語)において、ESGの有効性に関する最大の障壁として経営幹部が「レポーティング基準の欠如」を挙げているのも当然のことと言えるでしょう(図2参照)。

ただし、企業の非財務報告書の保証が義務化されることで、ESG基準も絞られつつあることは確かです。こうした動きは欧州連合(EU)(英語)から始まっています。アセットマネージャーと大企業(英語)の両方を対象として、「欧州グリーンディール」の一環として現在進行中です。

図2: ESG重視の企業でも、相反するビジネス上の優先事項、レポーティング基準、リーダーのコミットメントがESG推進の妨げに

ESG効果の妨げとなる主たる要素(回答者の割合)

全体
ESGリーダー パーセンテージポイントの差 ESG出遅れ企業
ESGと成長目標のバランス
40%
39%
+1
40%
レポーティング基準・規制の欠如/複雑さ
37%
31%
+8
39%
リーダーの関心・サポート不足
33%
30%
+4
34%
規制要件の変動
31%
36%
-6
30%
潜在的なROIを定量化することの難しさ
31%
31%
0
31%

2021年5月、バイデン大統領は気候関連の金融リスクに関する大統領令(英語)に署名しましたが、米SECもこうした動きに追従する(英語)構えです。近い将来、単にDEIやCO2排出量削減などのESG目標を掲げるだけでは不十分で、そうした目標のベンチマーキングや測定、開示、長期的トラッキング、保証が必要になるでしょう。

企業情報開示の指針となる外部レポーティング共通基準の必要性が喫緊の課題となっていますが、これに加えて、各企業は特定の事業に関連性が高い重要ファクターをあきらかにし、管理する必要があります。そのためには、事業にとって必須の指標を特定・理解し、ベースラインを確立するとともに、経営目的のための測定・レポーティングを強化していくための確固たるアプローチが求められます。

基準の確立

そうした確固たるレポーティングの枠組みには、基準が必要です。例えば、企業がオフィスビルやサプライチェーンのカーボンフットプリントのマッピング、洪水や干ばつに対する製造施設や農作物の脆弱性評価などに乗り出すなど、従来の財務目標とは異なる要素に目を向ければ向けるほど、適切な基準を定義することが難しくなります。しかし、適切なデータを収集することで、こうした問題を打開していくことは可能です。

あるエネルギー事業者は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の規制目標を受けて、2030年までにCO2排出量30%削減、という意欲的な中期気候目標を設定しました。最初のステップは、大幅なCO2排出量削減に資する施策を特定することでした。続いて、シニアリーダーの監督の下、目標達成に向けた進捗状況を発信できるようなガバナンス・レポーティング体制を構築しました。同事業者は、今後10年間での目標達成に向けて、一連のマイルストーンを通じて活動の推移を追っていきます。そのために現在、規制当局やステークホルダーが評価できるようなストーリーを策定し、軌道に乗っていることを確認するチェックポイントも設けています。こうしたマイルストーンは、今後の設備投資に関する意思決定、トレーニングへの投資、資本市場へのアプローチにおける自信につながります。

測定の強化

カーボンフットプリントの算定は複雑ではあるものの、地中に埋まっている石炭や石油などの座礁資産(Stranded Assets)に対する評価同様、より一般的になってきています。企業は、セクターを超えて、多くの領域において不透明だった自社のインパクトを測定し、レポートする必要があります。以下のような例を考えてみましょう。

  • ある通信事業者は、自社をはじめクライアント、投資家に対して長期的設備投資の意思決定について情報を提供していくために、今後10年間で過酷な気象変化が事業活動に与える財務上のインパクトの予測とレポーティングを開始しました。
  • ある飲料メーカーは、10代の若者が暴飲の影響についての講義を受けた場合、飲酒や暴飲に対する態度がどの程度変化するかという調査に乗り出しています。この活動の目標は、責任ある飲酒を奨励することで自社ブランドイメージの向上につなげることだけでなく、自社が社会的影響をもたらしかねない危険な振る舞いを抑えるための具体的行動をとっていることを示す、監査可能なデータを収集することにあります。
  • あるエネルギー事業者は、脱化石燃料の一環として洋上風力発電所の建設許可申請を行った際、地元当局や住民から、架空電線の場合と地中電線の場合で環境への影響にどのような違いがあるか調査し定量化するよう求められました。

2019年、S&P500社の90%がサステナビリティレポートを発行。

これらの評価をはじめ、その他多くの評価が非財務報告書に掲載されます。2019年、S&P500社の90%がサステナビリティレポートを発行(英語)し、29%が何らかの保証レビューを受けました。このデータを収集・検証・公表するプロセスには、当然ながら大きな効果があります。格付け機関に情報を提供する企業は、ESG株式銘柄の選定判断にかかわる格付けアルゴリズムに、具体的かつ詳細なデータを提供する必要があります。一方で、10年前には考えられなかった課題に取り組んでいく中で、ステークホルダーの視点の広がりにより、リーダーは自社の戦略と能力の見直しを迫られています。

戦略の再構築

新たな情報開示要件、ステークホルダーの厳しい視線、気候変動リスク、グリーン成長の機会など、きっかけはどのようなものであれ、ESGにかかわる課題を通じて、リーダーは戦略の核となる要素を手にするでしょう。すなわち、どのような領域でいかに競っていくかという青写真であり、自社の将来像、直面する機会と脅威、そしてそこに向けられる自社の能力を映し出すものとなるはずです。実際には、カーボンマッピングや温室効果ガスの削減から、新たな低炭素製品への移行に向けたロードマップの作成に移行していくことを意味します。

戦略的対話は、以下の野心的問いを自らに投げかけることから開始できるでしょう。自分たちは何をしなければならないのか、自分たちは何をすべきか、自分たちは何ができるか。これらの問いから生まれた答えは、企業の戦略的自由度を定めるのに役立つでしょう。また、これらの答えは、短期~長期的に企業が直面するリスクと機会に関する十分な情報を踏まえたものである必要があります。

図3: 正式な脱炭素目標を掲げている企業のCEOは、自社の予測能力に対する自信が高い

今後12カ月間の収益成長に関する組織の予測精度(回答者の割合)
*通常の状況下、すなわちCOVID-19以前

  • 予測精度
  • 確定値 ± 2%
  • 確定値 ± 3~9%
  • 確定値 ± 10%~
  • 分からない
脱炭素化グループ
65%
26%
8%
2%
非脱炭素化対照グループ
50%
28%
16%
6%

ESG戦略において必要となるいくつかの抜本的移行(化石燃料からの移行、サプライチェーンの見直し、アップスキリングへの投資)には長い時間を要します。そこで非常に重要になるのが予測を微調整する能力です。興味深いことに、PwCの第24回世界CEO意識調査 では、世界資源研究所の「科学的根拠に基づく目標(Science Based Targets)」イニシアチブ(SBTi)を通じて正式な脱炭素目標を設定している企業のCEOは、同じ国、産業、企業規模の対照グループに属するCEOと比較して、自社の収益予測能力に対する自信が高いという結果が出ています(図3参照)。

大多数の企業にとって戦略の再構築はまだ始まったばかりですが、ひとつの明確なメッセージはすでに存在します。すなわち、事業環境が急速に変化する中、戦略的な歩みにも同様の変化が必須である、ということです。リーダーには、質の高いデータに裏打ちされた継続的な練り直しプロセスを定めること、戦略的優先課題やマイルストーンの評価、調整、柔軟な変更を行うことで、非常にダイナミックな世界においてレジリエンスと成功を確保することが求められます。こうしたダイナミズムを示すために、ESGを念頭に戦略を見直している化学系メーカーと工業系メーカーの経験を紹介します。

化学系メーカーの製品ポートフォリオ再構築

あるグローバル化学系メーカーは、自社の炭素集約的プロセスおよび化学製品(文字通り何千もの化学成分を含む製品)が、社会に有益であっても非合法とされる、またはクライアントから敬遠される恐れがあることを認識し、この10年間で多くの製品や事業を変更しました(民生品向け生分解性・生物原料パッケージの使用など)。

こうした脅威に直面して戦略を練り直すために、同社は大規模な製品ポートフォリオの見直しを行いました。その目的は、1)環境のどのような側面に悪影響を与えているのか、何を変える必要があるのか明確化すること、2)再設計すべき製品を特定すること、3)最大の価値を付加していく分野とそこでの競争力を維持する方法を特定すること、でした。

より多くの情報に基づく戦略策定を行うために、現在同社はインパクト評価ツールを用いています。このツールは、財務データと業務データを組み合わせてカスタマイズしたもので、製品ポートフォリオの変更などの意思決定による効果(汚染物質やCO2の排出量、労働慣行、社会福祉といったESG基準における効果)を判断するために用いられます。これにより、リーダーが戦略的な意思決定を行い、トレードオフを理解し、機会を特定し、あらゆるステークホルダーに自社のストーリーを伝えるのに役立つ、より詳しい情報が得られます。同ツールを使用することで、研究開発対象や業務の見直し、インセンティブの変更、雇用慣行の進化に向けたロードマップを作成し、定期的な改善を図ることができるようになりました。

工業系メーカーによる炭素戦略の再設定

続いて、より持続可能な方向性を進めていくために、広範囲にわたる対策に乗り出した工業系メーカーの経験を見てみましょう。同社は、大胆な目標を掲げ、変革への意欲を明確化することから開始しました。まず、短期的目標として業務上のCO2排出量の削減を掲げるとともに、2050年までにネットゼロ企業になる、としました。これらの目標を達成するために、組織はサステナビリティを戦略的優先課題に格上げし、マネジメントによる支援のための介入策を定めました。その第一弾として開始したのが、サステナビリティを核とした計画プロセスの刷新です。

十分な情報に基づいて戦略的優先課題を決定するために、同社は風力、太陽光、バッテリー、水素などの新エネルギー技術と、炭素回収などの排出量削減技術について調査を実施しました。調査結果をもとに、従来の事業や電力源をどの程度切り離し、どのくらいのスピード感でよりグリーンな代替策に変える必要があるかを示した2050年までのポートフォリオ戦略を策定しました。そうした代替策を迅速に創出するために、直接投資や他社とのJVを通じて有望技術の発掘や投資が可能なベンチャーファンドを立ち上げました。

続いて、今後の設備投資計画にサステナビリティの視点を導入し始めました。これまで同社は、新たな施設の建設に先立ち、それが資本の最善の活用であるか判断するのに正味現在価値(NPV)など、従来の財務分析を行っていました。この分析では、炭素関連の要因(社内の炭素価格メカニズム)は後回しにされていました。しかしこの方法では、戦略的目標を達成するのに十分ではないことに同社は気づきました。より明確な方法で炭素を検討材料に織り込むようになった同社は、明確にCO2排出量を削減するために、新たな施設の設計・建設方法を変更したのです、この結果、資本の再配分を行いつつ、戦略的コミットメントを進化させています。

ビジネス変革

ESG変革は、新たな戦略、レポーティング要件の変更、あるいはプロセスやデータに基づく意思決定を再構築する継続的な取り組みから発するものです。ESG変革は、近年多くの企業が注力しているDXとは別物ではなく、むしろその延長線上にあるものと言えます。また、ビジネス変革は、企業の枠を超えて、より広範なエコシステムにまで及ぶことがあります。先に紹介した化学や工業系メーカーのESGを活用したエコシステムとDX、そして全社規模の変革における経営幹部の役割について、より詳しく見てみましょう。

Government pictogram

”気候関連の金融リスクについて、正確な情報開示を推進するのが現政権の方針であり、開示ははっきりとわかりやすく首尾一貫したもので、比較可能なものでなければならない”

エコシステムの進化とDX

再構築の取り組みを通じて、より広い視野を獲得した化学系メーカーの話に戻りましょう。一例として、プラスチックの持続可能な使用の推進が挙げられます。これは、リサイクル可能なデザイン、代替原材料の使用、新しい価値のエコシステムにおける新たな製造といった、よりサーキュラー型のビジネスモデルへと変化するための重要な契機となります。

このような取り組みは、プロセスやアウトプットを改善する必要性を踏まえた革新的コラボレーション(英語)に発展する可能性があります。化学系メーカーの場合、自動車メーカーに供給しているポリマーがリサイクルされるようになりました。これら自動車メーカーがサーキュラーの機会を最大化するためには、(製造から10年以上経過する場合もある)自動車のライフサイクルの終わりを把握し、プラスチックを回収する方法を整備しなければなりません。自動車メーカーは、ディーラーやリサイクル業者などのバリューチェーンと連携することでこれを実現しています。

一方、工業系メーカーも、ネットワーク全体でネットゼロを推進するために、サプライヤーとの連携強化を図っています。他の多くの大企業と同様、カーボンフットプリントの大半を占めるのは企業内ではなくサプライチェーンであるため、このステップは非常に重要です。このエコシステムの取り組みを可能にしているのがDXです。最近では、ある部門がサプライチェーン全体をクラウドベースのERPシステムに移行しました。これはサプライヤーがCO2排出量のトラッキング、レポーティングおよび削減を推進する重要な一歩となります。

この企業はすでに、短期的なビジネス活動における排出量目標を予定の1年前倒しで達成しています。これらの成功は、経営幹部、社員その他のステークホルダーに自信をもたらし、次なる進歩とさらに野心的な目標に向けて、意欲も高まっています。これらの目標を経営幹部の間で確固たるものにするために、同社はサステナビリティ関連パフォーマンスに連動した数百万ドルの経営幹部向けインセンティブを設けました。現在、全社員を対象に、同様のインセンティブ制度を設けようとしています。

変革をリードする

ESG変革がもたらす影響は広範囲に及びます。そのため、変革の成功は経営幹部がどれだけ注力するか、どれだけの意欲があるか、という点に大きく左右されます。多くの組織では、求められるリーダーシップがようやく生まれつつある状態です。PwCが最近実施した経営者調査では、ESGの効果を阻む要因として、「リーダーシップの注目やサポートの欠如」が上位に挙げられています。

私たちの経験では、コミットを決意したリーダーは、2つの優先課題に集中することで大きな変化をもたらすことが可能です。まず、リーダーは、ESGの取り組みと、組織全体の方向性を結びつけることが必要です。例えば、ある大手アセットマネージャーは、投資先企業3社の脱炭素化を促進するために、一連のパイロットプロジェクトを実施しています。こうした小規模の試みは、「世界の平均気温上昇を産業革命以前の水準から1.5℃までに抑えるための取り組みを一貫して行っている企業に、自社の全投資ポートフォリオを集中させる」という、同社のより野心的な目標と結びついていなかったら、途中で頓挫したり後回しになってしまったでしょう。つまり、このパイロットは、ポートフォリオ全体にわたりCO2排出量を評価する大規模プログラムと同時進行で実施されているのであって、各企業単位の結果にとどまらない目的を有しているのです。経営チームはこれらの成果を常に注視しており、これがより抜本的な変革へのモチベーションとなっています。

リーダーが集中すべき2つ目の優先事項は、ESGの取り組みと野心的目標に向けて、実際にリソースを投入して支えることです。これは簡単に聞こえますが、実は容易ではありません。ほとんどの組織では予算が限られており、資金や優秀な人材の獲得をめぐる競争は激しく、ESG投資よりも足もとの優先課題を優先しがちです。PwCの調査によると、ESGの有効性を阻む最大の要因は「ESGと成長目標のバランスを取ること」であり、また「潜在的ROIを定量化することの難しさ」を挙げる声も多く聞かれました。しかし、強力なリーダーはこうした議論に変化をもたらす力を持っています。例えば、北米の某電力事業者のCEOとCOOは、石炭やガスを用いる発電所から、風力や太陽光を用いる発電所への移行(コストはかかるが)、というビジョンを表すシンプルなスローガンを作成して繰り返しアピールしました。これは組織の活性化に役立っただけでなく、代替エネルギーの経済性が改善されていく中で、彼らの戦略が財務上の長期的メリットにつながることを投資家コミュニティに理解してもらう取り組みに役立ちました。その結果、必要な資金を投入し続けることが可能になったのです。

リーダーがESGを付加的な取り組みではなく、戦略としっかりと結びつけて十分なリソースを割くことで、ESG変革に向けた真のアジェンダを策定することが可能になります。このアジェンダは、リーダーが、コンプライアンスとESGリーダーシップの間の正しいトレードオフを模索し、ステークホルダーの心を掴み、他の方面でも頻繁に変革に努めている多忙な組織においてESGに注力し続けるために、非常に貴重なものとなるでしょう。

投資家や株主、政府や政策立案者、社員、サプライヤー、クライアント、広く市民全体の要請を受け、企業がESGの課題や機会に対応する必要性は今後も高まり続けるでしょう。特定し管理すべきリスクへの認識が高まると同時に、社会が今直面している変革がもたらす、大きな機会への認識も高まっています。新たなレポーティング要件への対応策として始まったものであれ、トップダウンの戦略刷新に基づくものであれ、皆さんが歩み始めた新たな道は、全社規模の業務、活動、そして特に成果の再評価につながっていくでしょう。そして、価値創造の新たな、そして重要なソースを特定し実現する機会につながっていくでしょう。


Duncan Cox、Will Evison、Paul Leinwand、Frederik Lindblad、Matt Mani、Alan McGill、Gavin Sanderson、Ruirui Zong-Rüheに感謝申し上げたい。

※本コンテンツは、PwCが2021年6月15日に発表した「Are you ready for the ESG revolution?」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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